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宝物④
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◇◆◇
翌日、土曜日。
年間で数日、授業のある土曜日のうちの一日で、やっぱり孝則は俺を避ける。
でも俺は昨日までのぐじぐじした感じがなくて、妙に気分がよかった。
授業も淡々と進み、休み時間はやっぱり孝則の様子を見てしまうけれど、遊園地前日ということもあり、女子の接近具合がすごい。
ホームルームが終わった後も孝則の席を女子と男子が数人囲んでる。
俺は他の友人達と学校を出た。
「牧瀬、明日誕生日じゃん」
「うん」
「おめでとー」
「ありがとー」
そうだ、誕生日だ。
ちょっと憂鬱な誕生日。
電車の方向が反対だから、改札を入ったところで別れる。
帰宅すると、姉ふたりがリビングでソファに座って、ひとつのスマホを見ていた。
「なにしてるの?」
「俊くん、おかえり」
「ちょうどよかった。俊季はどれがいいと思う?」
俺を“俊くん”と呼ぶのが四つ上の姉、夏梨。
“俊季”と呼ぶのが二つ上の姉、実秋。
ふたりとも大学生だけど実家暮らしを満喫している。
秋姉が手招きするので近寄ると、スマホの画面を見せられた。
「水着?」
「うん。夏に向けて」
「秋ちゃんと、彼氏とか友達と海に行ったりしたいねって話してて、それなら水着買わなくちゃってなったから選んでたの」
「海…」
そうか。
そうだよな…もうそんな時期だ。
「やっぱ可愛いのがいいと思う? ねえ、俊季」
「え? あ…うーん……」
「でも、大人っぽいのもいいと思わない? 俊くんとか、男の子の目から見るとどうかな? 張り切り過ぎに見える?」
「……うーん…?」
どうなんだろう。
ていうかそんなの考えたこともない…興味なかった。
女の人の水着?
「俺の意見でいいの?」
「「うん」」
そんな期待に満ちた目で見られても。
スマホを見せてもらって、画像を見ていくと色々なデザインの水着がある。
首を捻りながらスワイプしていく。
可愛いの?
大人っぽい?
張り切り過ぎ?
「あのさ、夏姉」
「なに?」
「張り切り過ぎってだめなの?」
スマホから姉達に視線を移動させる。
姉ふたりは顔を見合わせた後、ちょっと固まった。
なにか変なこと言ったかな。
「夏梨さん、実秋さん、俊季に変なもの見せないでください」
と、突然背後から手にしていたスマホをすっと取り上げられた。
振り返るとなぜか孝則がいる。
「??」
「「えっ!?」」
なんで孝則がうちにいるの?
俺以上に夏姉と秋姉が驚いてる。
「ただいま。帰ってくる途中で孝則くんと会ったから一緒に帰ってきた」
「お母さん!」
「孝則くん連れてくるなら先に連絡しといてよ!」
「だって俊季に会いに来たって言うし。夏梨と実秋じゃないわよ」
「「それでも先に言って!!」」
夏姉も秋姉も慌てて髪を整えたり、だらっと座っていた姿勢を正している。
今更遅いだろう。
ていうか、海に一緒に行く彼氏はどうしたんだ、姉達。
「孝則…?」
「……」
孝則はスマホをすいすい操作して水着画像を見てる。
もやっとするな…。
「俺は、大人っぽい水着にあえてフリルとか使ってるのが好きです」
へー…そうなんだ。
孝則が夏姉にスマホを渡して、夏姉が秋姉の手に戻す。
「俊季、行こう」
「え?」
手を引かれて孝則とふたりでリビングを後にして階段を上がる。
俺の家なのに、孝則が先導してて変なの。
孝則が俺に入っていいか確認もせずに俺の部屋のドアを開けて中に入るので、ちょっとどきっとしてしまう。
見られて困るものなんてないけど、こういう行動…なんか特別みたいじゃん。
「で?」
「え?」
「女の水着画像見て、変な気になったりしてないよな?」
「!?」
変な気ってなに!?
「ならないよ!」
「ならいいけど。座れよ」
「…うん」
俺の部屋だけど。
先に座ってる孝則の向かいに、なんとなく正座する。
「なんで正座?」
「……深い理由はない」
「足痺れるから崩せば?」
「……」
確かにそのとおりなので足を崩す。
孝則の表情を伺うと、ちょっとだけ機嫌が悪そう。
でもほんとにちょっとだけに見える。
しばらくそのまま向かい合う。
「そうだ。俊季、着替え用意して」
「え?」
「今夜、うちに泊まり。俊季のお母さんには許可もらってる」
「え? え?」
「早く」
「あ、うん…はい」
疑問符がふわふわしてる状態でバッグに着替えを入れる。
「あの…制服、着替えたいんだけど」
「着替えれば?」
「……」
孝則の見てる前で着替えろと?
女の人の水着じゃなんとも思わないけど、孝則に着替えを見られるのは変な気になりそうだ。
「恥ずかしいから外に出てて」
「体育の時は一緒に着替えてんじゃん」
それは他のクラスメイトもいるから着替えられるんであって、ふたりきりでいる状態で服を脱ぐってめちゃくちゃ恥ずかしい。
でも孝則はなにを言っても聞いてくれなくて、仕方なく孝則の前で制服を脱ぐ。
身体がガチガチ音を立ててる気がする。
緊張でシャツのボタンがうまく外せないし、早く着替えを終えたいのに全然進まない。
「俊季って着痩せするな」
「えっ!? 俺、太ってる!?」
「いや、そうじゃなくて。服の上から見るよりも腕とか肩とかしっかりしてるなって」
「……あんまり見ないで」
着替えにこんなに緊張するのは初めてだ。
顔が熱い。
なんとか着替えを終えると、孝則はすぐ立ち上がった。
「おじゃましました」
靴を履いていると夏姉と秋姉がリビングから移動してきた。
いつの間にかふたりも着替えてる。
「孝則くん、帰っちゃうの?」
「おいしいお菓子出すからもうちょっといてよ」
「いえ、またゆっくり遊びにきます。夏梨さんも実秋さんも、今後俊季にああいうの見せないでくださいね」
「「はーい」」
可愛い声出してる…ふたりとも、ほんとに孝則大好きなんだから。
翌日、土曜日。
年間で数日、授業のある土曜日のうちの一日で、やっぱり孝則は俺を避ける。
でも俺は昨日までのぐじぐじした感じがなくて、妙に気分がよかった。
授業も淡々と進み、休み時間はやっぱり孝則の様子を見てしまうけれど、遊園地前日ということもあり、女子の接近具合がすごい。
ホームルームが終わった後も孝則の席を女子と男子が数人囲んでる。
俺は他の友人達と学校を出た。
「牧瀬、明日誕生日じゃん」
「うん」
「おめでとー」
「ありがとー」
そうだ、誕生日だ。
ちょっと憂鬱な誕生日。
電車の方向が反対だから、改札を入ったところで別れる。
帰宅すると、姉ふたりがリビングでソファに座って、ひとつのスマホを見ていた。
「なにしてるの?」
「俊くん、おかえり」
「ちょうどよかった。俊季はどれがいいと思う?」
俺を“俊くん”と呼ぶのが四つ上の姉、夏梨。
“俊季”と呼ぶのが二つ上の姉、実秋。
ふたりとも大学生だけど実家暮らしを満喫している。
秋姉が手招きするので近寄ると、スマホの画面を見せられた。
「水着?」
「うん。夏に向けて」
「秋ちゃんと、彼氏とか友達と海に行ったりしたいねって話してて、それなら水着買わなくちゃってなったから選んでたの」
「海…」
そうか。
そうだよな…もうそんな時期だ。
「やっぱ可愛いのがいいと思う? ねえ、俊季」
「え? あ…うーん……」
「でも、大人っぽいのもいいと思わない? 俊くんとか、男の子の目から見るとどうかな? 張り切り過ぎに見える?」
「……うーん…?」
どうなんだろう。
ていうかそんなの考えたこともない…興味なかった。
女の人の水着?
「俺の意見でいいの?」
「「うん」」
そんな期待に満ちた目で見られても。
スマホを見せてもらって、画像を見ていくと色々なデザインの水着がある。
首を捻りながらスワイプしていく。
可愛いの?
大人っぽい?
張り切り過ぎ?
「あのさ、夏姉」
「なに?」
「張り切り過ぎってだめなの?」
スマホから姉達に視線を移動させる。
姉ふたりは顔を見合わせた後、ちょっと固まった。
なにか変なこと言ったかな。
「夏梨さん、実秋さん、俊季に変なもの見せないでください」
と、突然背後から手にしていたスマホをすっと取り上げられた。
振り返るとなぜか孝則がいる。
「??」
「「えっ!?」」
なんで孝則がうちにいるの?
俺以上に夏姉と秋姉が驚いてる。
「ただいま。帰ってくる途中で孝則くんと会ったから一緒に帰ってきた」
「お母さん!」
「孝則くん連れてくるなら先に連絡しといてよ!」
「だって俊季に会いに来たって言うし。夏梨と実秋じゃないわよ」
「「それでも先に言って!!」」
夏姉も秋姉も慌てて髪を整えたり、だらっと座っていた姿勢を正している。
今更遅いだろう。
ていうか、海に一緒に行く彼氏はどうしたんだ、姉達。
「孝則…?」
「……」
孝則はスマホをすいすい操作して水着画像を見てる。
もやっとするな…。
「俺は、大人っぽい水着にあえてフリルとか使ってるのが好きです」
へー…そうなんだ。
孝則が夏姉にスマホを渡して、夏姉が秋姉の手に戻す。
「俊季、行こう」
「え?」
手を引かれて孝則とふたりでリビングを後にして階段を上がる。
俺の家なのに、孝則が先導してて変なの。
孝則が俺に入っていいか確認もせずに俺の部屋のドアを開けて中に入るので、ちょっとどきっとしてしまう。
見られて困るものなんてないけど、こういう行動…なんか特別みたいじゃん。
「で?」
「え?」
「女の水着画像見て、変な気になったりしてないよな?」
「!?」
変な気ってなに!?
「ならないよ!」
「ならいいけど。座れよ」
「…うん」
俺の部屋だけど。
先に座ってる孝則の向かいに、なんとなく正座する。
「なんで正座?」
「……深い理由はない」
「足痺れるから崩せば?」
「……」
確かにそのとおりなので足を崩す。
孝則の表情を伺うと、ちょっとだけ機嫌が悪そう。
でもほんとにちょっとだけに見える。
しばらくそのまま向かい合う。
「そうだ。俊季、着替え用意して」
「え?」
「今夜、うちに泊まり。俊季のお母さんには許可もらってる」
「え? え?」
「早く」
「あ、うん…はい」
疑問符がふわふわしてる状態でバッグに着替えを入れる。
「あの…制服、着替えたいんだけど」
「着替えれば?」
「……」
孝則の見てる前で着替えろと?
女の人の水着じゃなんとも思わないけど、孝則に着替えを見られるのは変な気になりそうだ。
「恥ずかしいから外に出てて」
「体育の時は一緒に着替えてんじゃん」
それは他のクラスメイトもいるから着替えられるんであって、ふたりきりでいる状態で服を脱ぐってめちゃくちゃ恥ずかしい。
でも孝則はなにを言っても聞いてくれなくて、仕方なく孝則の前で制服を脱ぐ。
身体がガチガチ音を立ててる気がする。
緊張でシャツのボタンがうまく外せないし、早く着替えを終えたいのに全然進まない。
「俊季って着痩せするな」
「えっ!? 俺、太ってる!?」
「いや、そうじゃなくて。服の上から見るよりも腕とか肩とかしっかりしてるなって」
「……あんまり見ないで」
着替えにこんなに緊張するのは初めてだ。
顔が熱い。
なんとか着替えを終えると、孝則はすぐ立ち上がった。
「おじゃましました」
靴を履いていると夏姉と秋姉がリビングから移動してきた。
いつの間にかふたりも着替えてる。
「孝則くん、帰っちゃうの?」
「おいしいお菓子出すからもうちょっといてよ」
「いえ、またゆっくり遊びにきます。夏梨さんも実秋さんも、今後俊季にああいうの見せないでくださいね」
「「はーい」」
可愛い声出してる…ふたりとも、ほんとに孝則大好きなんだから。
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