早く大人になりたいな

すずかけあおい

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小話

バレンタイン小話

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Xとぷらいべったーに掲載していた小話、『早く大人になりたいな』の後、『子ども以上大人未満』の前です。


*****


 萬里さんの部屋にお泊まり。気合いが入ってしまうのはそれだけが理由ではない。明日、二月十四日はバレンタインだ。平日にお泊まりはなかなか頷いてくれなかったけど、どうしてもと粘り続けたらオーケーをもらえた。
 高校卒業まであと一か月。一か月くらい誤差じゃない? と言ったらいつものように眉間に皺を寄せて「だめだ」と返されたけど、バレンタインには張り切ったっていいだろう。
「圭一、どうしてキッチンで服を脱ごうとしてるんだ?」
「どうしてって……」
「チョコを作りたいと言ってなかったか?」
「裸エプロンで甘いチョコ作り」
 語尾にハートをつけてこてんと首を横に傾けてみる。ちょっとかわいく言えたかな。と思ったら萬里さんは渋い顔をして寝室に入ってしまった。寝室ってもしかして……と期待したら、ガウンを二枚持ってきて俺にかぶせる。襟元をぎゅうぎゅう合わされて、びっくりしているとため息をつかれた。
「あと一か月だろう」
「誤差」
「だめだと前に言った」
 そんなことを言われたって、共通テストは終わったし、自己採点では合格ラインをしっかり超えていた。学校だって登校日だけの登校だし、もう卒業したようなものじゃないかな。
「圭一」
「はいっ」
「俺が言いたいことはわかるな?」
「……うん」
 わかりたくないけど。きちんと卒業するまでだめだということだ。
「でも裸エプロンはいいじゃん」
「風邪ひいたらどうする」
「暖房つけてるし」
「目の毒だ」
「えっ」
 そんなふうには思ってくれるんだ! やっぱり脱ごう。ガウンを肩から落とそうとしたらまた襟元をぎゅっと合わされた。
「だめだ」
「……意地悪」
「今の状況では圭一のほうがはるかに意地悪だ」
 しょうがない、裸エプロンは諦めるか。ガウンを二枚着たままもそもそチョコを袋から出すと、萬里さんがほっとしたような表情をしてガウンを脱がせてくれた。
「諦めたか」
「うん。萬里さんが俺の裸エプロンで興奮してくれることはわかったから」
 そうじゃなきゃ今の状況を意地悪だなんて言わないだろう。都合よく解釈しすぎかな。ちらりと顔を見上げると、ぽんと頭を撫でられた。
「わかったならいい」
 やっぱり俺の裸エプロンに萬里さんは興奮するらしい。一つ新しいことを知ることができて嬉しい。ついでに、キスならいいかな、と背伸びをして萬里さんの首に手を回したら萬里さんがぐんっと顔をうしろに思いきり引く。
「圭一」
「……ごめんなさい」
 硬い口調で名前を呼ばれ、しゅんと素直に謝る。やっぱりだめか。
「これならいい」
 ぎゅっと抱きしめられ、心臓が大きく跳ねる。萬里さんに背後から抱きしめられた状態でチョコを刻むけど、手が震えてしまう。
「手が震えてるな。代わりにやってやろうか」
「だ、だめ……俺から萬里さんへのチョコだから」
 吐息を耳元に感じてどきどきがさらに加速していく。もう無理、とぎゅっと目を閉じたら頬になにか柔らかいものが触れた。まさかキス? とぱっと目を開ける。でもさっきと同じ体勢。気のせいだろうか。
「今キスした?」
「いや?」
「そう……」
 やっぱり気のせい? でも。
「キスしなかった?」
「してない」
 きっぱり言い切るけど、さっきのはやっぱりキスだと思う。
「したよね?」
「圭一の卒業までしないと言っただろう」
 おかしいな。首を傾げると、俺の頬に萬里さんが頬をすり寄せる。さっきと似たような感覚。もしかしたらさっきも頬をくっつけたのかもしれない。
「これ、ちょっとだけ当たるとキスみたいに感じる。勘違いしちゃった」
「じゃあこれがキスでいいんじゃないか」
「やだよ、キスしたい」
 包丁を置いて振り返ろうとしたら肩を掴まれて身体を固定された。
「包丁使ってるときに目を離すな」
「今離したよ……」
「もし圭一が怪我をしたら俺が寝込む」
 そんなこと言ってくれちゃうんだ……。嬉しくて口元が緩んでしまう俺を、圭一さんはずっと抱きしめてくれた。びっくりするくらい甘いチョコができあがりそう。
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