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夢じゃない②
とある日曜日の昼過ぎ、タブレットで漫画を読んでいたら、空室の隣の部屋からガタガタと物音が聞こえてきた。新しく人が入ったのかなとぼんやり考えるけれど、ご近所付き合いのあるアパートでもないので特に深く気にしない。それより漫画の続きが気になるから、そちらに集中した。
夕方になり、インターホンが鳴った。誰だろうとモニターで確認するけれど、相手はカメラに近付きすぎていて姿が見えない。
『隣に越してきた者です』
お隣さんか…。
わざわざ挨拶にくるなんて丁寧な人だな、と思いながら玄関に向かう。ドアを開けて、そこにいたのは、なぜか見覚えのある顔。
「あれ…泰斗?」
「え…」
この声も聞き覚えがある。この笑顔も……。
「………航希?」
「うん。まさかお隣さんが泰斗だなんて、びっくり。久しぶりだね」
驚きに固まる俺に、同じように驚きながらも、にこやかに話しかけてくる航希。でも、ちょっと違和感。航希の驚きが取ってつけたようなものだから。疑問符を浮かべる俺を気にせず、航希は穏やかに微笑む。
「……泰斗、卒業式の日のこと、本当にごめん」
「あ…」
「ずっと謝りたかった。あれから後悔し続けた」
「…うん、俺も。ごめん、航希」
「ごめん」の一言がこんなに大きいとは思わなかった。心が急にすっと楽になった。それだけ心に重く圧し掛かって、引っ掛かっていたんだろう。
「本当にごめんね、泰斗…それじゃ」
「ま、待って!」
帰ろうとする航希を慌てて引き留める。これはチャンスだ。
「え?」
振り返る航希に笑いかける。
「あの、引っ越し祝いに晩御飯奢るよ。おいしい定食屋さんが近くにあるんだ。行かない?」
「……いいの?」
「うん」
どきどきする。航希は喜んでオーケーしてくれた。ふたりでアパートを出て、徒歩二分のところにある小さな定食屋さんに向かう。
さりげなく車道側を歩いてくれる航希。そういう優しさに胸が高鳴る。一言多いけど優しいことをよく知っている。
「こんな偶然あるんだね。泰斗、元気だった?」
「うん。航希も元気でいた?」
五年ぶりの航希は、穏やかになっているように感じられる。でも話してみるとやっぱり航希だ。俺がずっと好きな航希。心が疼いて脈が速くなる。
「メニューたくさんあるんだ。迷うな…なにがおすすめ?」
「どれもおいしい。ハズレないから」
真剣にメニューを選んでいる姿に口元が緩む。こういうところ、変わらない。
「決めた。梅ササミフライ定食にする。泰斗は?」
「俺は白身魚フライにする」
注文を済ませると、航希が俺を見る。
「高校卒業から、どうしてた?」
「どうって? 特にたいした話はないよ」
俺のことは本当にたいした話はないけれど、航希のことは知りたい。でも素直に言えない。どうしたらいいんだろうと、お冷のグラスの縁をすりすりと親指の腹で撫でると、航希が深呼吸をした。
「……ずっと、泰斗に会いたかった」
どくん、と心臓が大きく脈打った。それってどういうことだろう。
「……そう」
都合のいいように捉えそうになってしまう自分にストップをかける。まさか…そんなはずない。そんなわけない。でも、まさか…。
―――やり直しができるのだろうか。
―――やっぱりまた素直になれないかもしれない。
期待と不安が入り混じって心で渦巻く。
心があの卒業式の日に戻ったような気分。まだケンカ別れをする前、大学が別々でも航希とは繋がりがあると信じて疑わなかった。
航希を見る。
やり直せる、だろうか。そして燻る想いに決着をつけられるだろうか。もしかしたら燻る想いが花として開けるかもしれない。
「おいしい!」
「だろ?」
「うん。また一緒にこよう」
「そのときは航希の奢りな」
「もちろん」
航希との会話は楽しくて、あっという間に食事を終えてしまった。まだ話し足りないと俺の部屋に誘い、お茶を飲みながら色々な話をした。ああ、航希だな…と感じる。このしっくりくる感覚。大学でも仲良くなった友人はいるけれど、やっぱりちょっと違う。
…航希はいつもモテていたっけ。こんなにかっこよくなっていたら、付き合っている人いるんだろうな。胸が痛い。
「……航希は彼女いるの?」
つい、聞いてしまった。すぐに後悔した。「いる」と答えられたら一週間は寝込む。
「いない。できたことない」
即答された。航希の顔をまじまじと見ると、「なに?」と言われた。嘘を吐いているようには見えない。本当にいないんだ…。心底ほっとする。
「泰斗は?」
「え?」
「まさか、付き合ってる人いないよね?」
「………」
“まさか”ってどういう意味だ? “まさか”自分にいないのに俺にいるなんて、そんなわけないよな、って意味か…?
「…はあ?」
カチンときた。なんか覚えのある感覚。
「え? いるの?」
「いるし!」
あ。
航希が帰った後、自分の言ったことに後悔し続ける。
「…またやっちゃった…」
なんで素直になれないんだ。どん底まで落ち込む。これじゃ、やり直しなんてできないじゃないか。それに航希が「彼女に会わせて」と言ってきたらどうしよう。せっかくの再会をぐちゃぐちゃにしてしまった……。
夕方になり、インターホンが鳴った。誰だろうとモニターで確認するけれど、相手はカメラに近付きすぎていて姿が見えない。
『隣に越してきた者です』
お隣さんか…。
わざわざ挨拶にくるなんて丁寧な人だな、と思いながら玄関に向かう。ドアを開けて、そこにいたのは、なぜか見覚えのある顔。
「あれ…泰斗?」
「え…」
この声も聞き覚えがある。この笑顔も……。
「………航希?」
「うん。まさかお隣さんが泰斗だなんて、びっくり。久しぶりだね」
驚きに固まる俺に、同じように驚きながらも、にこやかに話しかけてくる航希。でも、ちょっと違和感。航希の驚きが取ってつけたようなものだから。疑問符を浮かべる俺を気にせず、航希は穏やかに微笑む。
「……泰斗、卒業式の日のこと、本当にごめん」
「あ…」
「ずっと謝りたかった。あれから後悔し続けた」
「…うん、俺も。ごめん、航希」
「ごめん」の一言がこんなに大きいとは思わなかった。心が急にすっと楽になった。それだけ心に重く圧し掛かって、引っ掛かっていたんだろう。
「本当にごめんね、泰斗…それじゃ」
「ま、待って!」
帰ろうとする航希を慌てて引き留める。これはチャンスだ。
「え?」
振り返る航希に笑いかける。
「あの、引っ越し祝いに晩御飯奢るよ。おいしい定食屋さんが近くにあるんだ。行かない?」
「……いいの?」
「うん」
どきどきする。航希は喜んでオーケーしてくれた。ふたりでアパートを出て、徒歩二分のところにある小さな定食屋さんに向かう。
さりげなく車道側を歩いてくれる航希。そういう優しさに胸が高鳴る。一言多いけど優しいことをよく知っている。
「こんな偶然あるんだね。泰斗、元気だった?」
「うん。航希も元気でいた?」
五年ぶりの航希は、穏やかになっているように感じられる。でも話してみるとやっぱり航希だ。俺がずっと好きな航希。心が疼いて脈が速くなる。
「メニューたくさんあるんだ。迷うな…なにがおすすめ?」
「どれもおいしい。ハズレないから」
真剣にメニューを選んでいる姿に口元が緩む。こういうところ、変わらない。
「決めた。梅ササミフライ定食にする。泰斗は?」
「俺は白身魚フライにする」
注文を済ませると、航希が俺を見る。
「高校卒業から、どうしてた?」
「どうって? 特にたいした話はないよ」
俺のことは本当にたいした話はないけれど、航希のことは知りたい。でも素直に言えない。どうしたらいいんだろうと、お冷のグラスの縁をすりすりと親指の腹で撫でると、航希が深呼吸をした。
「……ずっと、泰斗に会いたかった」
どくん、と心臓が大きく脈打った。それってどういうことだろう。
「……そう」
都合のいいように捉えそうになってしまう自分にストップをかける。まさか…そんなはずない。そんなわけない。でも、まさか…。
―――やり直しができるのだろうか。
―――やっぱりまた素直になれないかもしれない。
期待と不安が入り混じって心で渦巻く。
心があの卒業式の日に戻ったような気分。まだケンカ別れをする前、大学が別々でも航希とは繋がりがあると信じて疑わなかった。
航希を見る。
やり直せる、だろうか。そして燻る想いに決着をつけられるだろうか。もしかしたら燻る想いが花として開けるかもしれない。
「おいしい!」
「だろ?」
「うん。また一緒にこよう」
「そのときは航希の奢りな」
「もちろん」
航希との会話は楽しくて、あっという間に食事を終えてしまった。まだ話し足りないと俺の部屋に誘い、お茶を飲みながら色々な話をした。ああ、航希だな…と感じる。このしっくりくる感覚。大学でも仲良くなった友人はいるけれど、やっぱりちょっと違う。
…航希はいつもモテていたっけ。こんなにかっこよくなっていたら、付き合っている人いるんだろうな。胸が痛い。
「……航希は彼女いるの?」
つい、聞いてしまった。すぐに後悔した。「いる」と答えられたら一週間は寝込む。
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即答された。航希の顔をまじまじと見ると、「なに?」と言われた。嘘を吐いているようには見えない。本当にいないんだ…。心底ほっとする。
「泰斗は?」
「え?」
「まさか、付き合ってる人いないよね?」
「………」
“まさか”ってどういう意味だ? “まさか”自分にいないのに俺にいるなんて、そんなわけないよな、って意味か…?
「…はあ?」
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「え? いるの?」
「いるし!」
あ。
航希が帰った後、自分の言ったことに後悔し続ける。
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