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うしろの席の野田②
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翌日、昼休みになって購買でパンを買って教室に戻ると、教室中の視線が一か所に向かっている。なんだろう、と見てみると、野田が弁当にいちごジャムをかけていた。
「なにやってんの!?」
思わず声をあげると、野田は中岡をじっと見た。
「てかそのジャムどしたん?」
「学校に来る途中でコンビニで買ってみた」
「ふうん。で、なんで弁当にかけてんの?」
彩り豊かな弁当に満遍なくいちごジャムがかかって真っ赤になっている。うげ、とつい口にしてしまったが、野田は気にしたふうではない。
「昨日、中岡くんからもらったパンがおいしかったから」
「は?」
「だから、ジャムをかけたらお弁当もおいしくなるかなって」
「はあ?」
どうしてそういう発想になるのかわからないが、本人はいちごジャムまみれの弁当を一口食べて満足そうにする。
「おいしい」
「それってどういう味?」
「昨日のパンと同じ味だよ?」
もう一度「うげ」と言ってしまった。ハンバーグやプチトマトにいちごジャムをかけるなんてしたことがないのでどんな味かなんて想像もできないが、とんでもない味だと思う。それなのに野田はおいしそうに弁当を食べている。
「野田。これやるから、せめて明日は焼きそばのせろ」
「え?」
今日の自分の昼食である焼きそばパンを半分ちぎって野田に渡すと、野田は不思議そうな顔をしてパンにかぶりついた。
「おいしい!」
「だろ。明日は焼きそばのせろ。ジャムよりましだ」
「でもジャムのほうがいい。中岡くんが最初にくれたパンと同じだから」
「なんでだよ。他に好きなものねえの?」
どう考えても白いご飯にジャムなんて無理だ。教室内のクラスメイト達はなりゆきを見守っていたようだが飽きたのか、それぞれパンや弁当を食べはじめている。
野田は「他に好きなもの?」と首を傾けてから一つ頷いた。
「僕、わかった。嫌いなものに好きなものをまぜればおいしくなるんだね」
つまりいちごジャムが好きということか。おかしなものを食べさせたつもりはなかったが、結果としてよかったのかどうか悩むところだ。
本人が満足しているならいいのか、と中岡も野田の向かいでパンを食べる。
「栄養のバランス崩れるんじゃね?」
思わず聞くと、野田は「うん」とだけ答えた。母親がうるさいだけで本人はかまわないのかもしれない。
「てかモデルってやめられねえの?」
「え?」
「嫌なこと続けるの、つらいだろ」
きょとんとしている様子を見ると、それは考えたことがないようだ。
「そっか。やめればいいのか」
今気がついたことのように口にするので、中岡は可笑しくなった。こいつは変わり者だ。普通、嫌だったらまずはやめることを考えるだろうに。
野田はいちごジャムまみれの弁当を完食していた。その表情はとても明るい。
弁当を食べ終わって中岡が席を立つと、二人の女子が野田の席に近づいた。やっぱ見た目がいいともてるんだな、とジュースを買いに教室を出ようとしたら、背後から腕を掴まれた。
「野田?」
野田が中岡の腕を掴んで引っ張る。なにごとかとついて行くと、先ほど話しかけていた女子が野田の席にいる。
「なに。紹介してくれんの?」
「嫌いなものには好きなものをまぜればいいってわかったから」
「は?」
その言葉の意味がわからず、女子達と顔を見合わせて三人で首をかしげる。
「僕、中岡くんと話すと楽しい」
「お、おう」
「パンもおいしかった」
「それで?」
だからなんだ、と続きを促すと、野田は天使のような笑顔を見せた。
「中岡くん。僕とずっと一緒にいてください」
野田は中岡の手を取って、手の甲にキスを落とした。
こんな、どこかの王子様みたいな仕草が様になる男は他にいない。思わず野田を凝視すると、顔をあげた男は両手を伸ばして中岡を抱きしめた。
「いちごジャムの他の好きなもの。中岡くんが好き」
これはまさか、愛の告白だろうか。
軽い気持ちであげたジャムパンがとんでもない事態を生んだ、かもしれない。
(終)
「なにやってんの!?」
思わず声をあげると、野田は中岡をじっと見た。
「てかそのジャムどしたん?」
「学校に来る途中でコンビニで買ってみた」
「ふうん。で、なんで弁当にかけてんの?」
彩り豊かな弁当に満遍なくいちごジャムがかかって真っ赤になっている。うげ、とつい口にしてしまったが、野田は気にしたふうではない。
「昨日、中岡くんからもらったパンがおいしかったから」
「は?」
「だから、ジャムをかけたらお弁当もおいしくなるかなって」
「はあ?」
どうしてそういう発想になるのかわからないが、本人はいちごジャムまみれの弁当を一口食べて満足そうにする。
「おいしい」
「それってどういう味?」
「昨日のパンと同じ味だよ?」
もう一度「うげ」と言ってしまった。ハンバーグやプチトマトにいちごジャムをかけるなんてしたことがないのでどんな味かなんて想像もできないが、とんでもない味だと思う。それなのに野田はおいしそうに弁当を食べている。
「野田。これやるから、せめて明日は焼きそばのせろ」
「え?」
今日の自分の昼食である焼きそばパンを半分ちぎって野田に渡すと、野田は不思議そうな顔をしてパンにかぶりついた。
「おいしい!」
「だろ。明日は焼きそばのせろ。ジャムよりましだ」
「でもジャムのほうがいい。中岡くんが最初にくれたパンと同じだから」
「なんでだよ。他に好きなものねえの?」
どう考えても白いご飯にジャムなんて無理だ。教室内のクラスメイト達はなりゆきを見守っていたようだが飽きたのか、それぞれパンや弁当を食べはじめている。
野田は「他に好きなもの?」と首を傾けてから一つ頷いた。
「僕、わかった。嫌いなものに好きなものをまぜればおいしくなるんだね」
つまりいちごジャムが好きということか。おかしなものを食べさせたつもりはなかったが、結果としてよかったのかどうか悩むところだ。
本人が満足しているならいいのか、と中岡も野田の向かいでパンを食べる。
「栄養のバランス崩れるんじゃね?」
思わず聞くと、野田は「うん」とだけ答えた。母親がうるさいだけで本人はかまわないのかもしれない。
「てかモデルってやめられねえの?」
「え?」
「嫌なこと続けるの、つらいだろ」
きょとんとしている様子を見ると、それは考えたことがないようだ。
「そっか。やめればいいのか」
今気がついたことのように口にするので、中岡は可笑しくなった。こいつは変わり者だ。普通、嫌だったらまずはやめることを考えるだろうに。
野田はいちごジャムまみれの弁当を完食していた。その表情はとても明るい。
弁当を食べ終わって中岡が席を立つと、二人の女子が野田の席に近づいた。やっぱ見た目がいいともてるんだな、とジュースを買いに教室を出ようとしたら、背後から腕を掴まれた。
「野田?」
野田が中岡の腕を掴んで引っ張る。なにごとかとついて行くと、先ほど話しかけていた女子が野田の席にいる。
「なに。紹介してくれんの?」
「嫌いなものには好きなものをまぜればいいってわかったから」
「は?」
その言葉の意味がわからず、女子達と顔を見合わせて三人で首をかしげる。
「僕、中岡くんと話すと楽しい」
「お、おう」
「パンもおいしかった」
「それで?」
だからなんだ、と続きを促すと、野田は天使のような笑顔を見せた。
「中岡くん。僕とずっと一緒にいてください」
野田は中岡の手を取って、手の甲にキスを落とした。
こんな、どこかの王子様みたいな仕草が様になる男は他にいない。思わず野田を凝視すると、顔をあげた男は両手を伸ばして中岡を抱きしめた。
「いちごジャムの他の好きなもの。中岡くんが好き」
これはまさか、愛の告白だろうか。
軽い気持ちであげたジャムパンがとんでもない事態を生んだ、かもしれない。
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