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魔法のない僕①
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――あなたに魔法を授ける。
直也がはっと目を覚ますと、見慣れた自分の部屋だった。
今のは――考えてわかる。魔法が授けられたのだ。飛びあがるようにベッドから起きて鏡を見る。なにも変わっていない。だが、魔法が使えるようになった。
「カーテンよ、開け」
どきどきと言ってみるが開かない。もう一度繰り返してみるが開かない。仕方なく自分で開ける。おかしい。魔法が使えるようになったのに。
デスクに本を立てる。
「倒れろ」
倒れない。本当におかしい。魔法が使えるようになっている、はず。首をかしげる。
きっとまだ身体が魔法に慣れていないからうまくいかないのだ、と結論づけて、わくわくと部屋の中を歩きまわった。
魔法があるなんて信じたことはないけれど、自分は与えられた。こつがわからなくてうまく使えていないだけで、魔法が使えるようになっているに違いない。
身体の内で自信がみなぎってくるのを感じた。
気持ちが急いて早めに家を出た。当然いつもより早い電車で、若干空いてはいるが座席は全部埋まっている。座りたいな、空かないかな、と頭の中で「座席が空きますように」と唱えてみる。先ほどは命令口調だったのが悪かったのかもしれない、と考え、願いを乞う形にしてみた。
次の大きな駅でたくさんの人が降りて本当に座れた。やはり魔法が使える、と確信した。
魔法が使えるならば、と学校についたらまっすぐに本校舎二階にいく。
一年生は第二校舎で、本校舎の三階が二年生、二階が三年生の教室になっている。一年の直也は別校舎だし、勇気がなくて本校舎には特別教室の利用以外では近づけない。
だが、もう違う。自分には魔法があるから怖いものなどない。目当ての教室にいくと、その人はいた。
「は、早瀬先輩!」
生徒に囲まれている早瀬琥太郎を呼ぶ。琥太郎は見知らぬ一年生に訝るような表情をしながら、直也のところにきてくれた。
「一年の島村直也といいます。お話があるので、少しお時間いただけませんか?」
「いいけど」
ふたりでひと気のない中庭のすみに移動する。誰もいないのを確認して、琥太郎に向かい合った。
「ずっと早瀬先輩が好きでした。つきあってください!」
なんとなく用件は感じ取っていたのかもしれないが、それでも琥太郎は驚きを隠さなかった。ブラウンの髪が風にふわりと揺れる。同じ色の瞳が直也を見て、直也もこげ茶の瞳で見つめ返す。一六七センチの直也より十センチ以上高い琥太郎に顔を向けると、どきどきと脈が速まった。
今まで、男同士だからと隠れて見ているだけだったが、魔法が使えるならば勇気が出せる。
「つきあってください!」
答えがほしくて、もう一度繰り返した。それから、「早瀬先輩に好きになってもらえますように」と何度も唱える。
驚いた様子だった琥太郎は、最初は固い表情をしていたのに、直也が願いを何度も唱えていると笑い出した。
「島村くんだっけ。きみ可笑しいな」
笑われてしまった、と恥ずかしいが、悪い手応えではない。緊張しながら返事を待つと、琥太郎は笑いすぎて目尻に溜まった涙を手で拭い、頷いた。
「いいよ。つきあおう。きみに興味がある」
「……!」
こんな地味な直也が憧れの琥太郎とつきあえるなんて、やはり魔法が使えるようになっている。確信した直也はぎゅっと手を握り込んだ。
「よろしく。直也」
「は、早瀬先輩が僕の名前を……」
「直也は名前で呼んでくれないの?」
名前で呼ぶなんて恐れ多いが、勇気を出した。
「こ、……琥太郎先輩」
「うん」
柔らかい笑顔が眩しすぎてくらりとする。
魔法があれば奇跡も起こせる。いつも周りと比べてしまう自分から脱却できる。
差し出された琥太郎の手を、緊張しながら握った。
直也がはっと目を覚ますと、見慣れた自分の部屋だった。
今のは――考えてわかる。魔法が授けられたのだ。飛びあがるようにベッドから起きて鏡を見る。なにも変わっていない。だが、魔法が使えるようになった。
「カーテンよ、開け」
どきどきと言ってみるが開かない。もう一度繰り返してみるが開かない。仕方なく自分で開ける。おかしい。魔法が使えるようになったのに。
デスクに本を立てる。
「倒れろ」
倒れない。本当におかしい。魔法が使えるようになっている、はず。首をかしげる。
きっとまだ身体が魔法に慣れていないからうまくいかないのだ、と結論づけて、わくわくと部屋の中を歩きまわった。
魔法があるなんて信じたことはないけれど、自分は与えられた。こつがわからなくてうまく使えていないだけで、魔法が使えるようになっているに違いない。
身体の内で自信がみなぎってくるのを感じた。
気持ちが急いて早めに家を出た。当然いつもより早い電車で、若干空いてはいるが座席は全部埋まっている。座りたいな、空かないかな、と頭の中で「座席が空きますように」と唱えてみる。先ほどは命令口調だったのが悪かったのかもしれない、と考え、願いを乞う形にしてみた。
次の大きな駅でたくさんの人が降りて本当に座れた。やはり魔法が使える、と確信した。
魔法が使えるならば、と学校についたらまっすぐに本校舎二階にいく。
一年生は第二校舎で、本校舎の三階が二年生、二階が三年生の教室になっている。一年の直也は別校舎だし、勇気がなくて本校舎には特別教室の利用以外では近づけない。
だが、もう違う。自分には魔法があるから怖いものなどない。目当ての教室にいくと、その人はいた。
「は、早瀬先輩!」
生徒に囲まれている早瀬琥太郎を呼ぶ。琥太郎は見知らぬ一年生に訝るような表情をしながら、直也のところにきてくれた。
「一年の島村直也といいます。お話があるので、少しお時間いただけませんか?」
「いいけど」
ふたりでひと気のない中庭のすみに移動する。誰もいないのを確認して、琥太郎に向かい合った。
「ずっと早瀬先輩が好きでした。つきあってください!」
なんとなく用件は感じ取っていたのかもしれないが、それでも琥太郎は驚きを隠さなかった。ブラウンの髪が風にふわりと揺れる。同じ色の瞳が直也を見て、直也もこげ茶の瞳で見つめ返す。一六七センチの直也より十センチ以上高い琥太郎に顔を向けると、どきどきと脈が速まった。
今まで、男同士だからと隠れて見ているだけだったが、魔法が使えるならば勇気が出せる。
「つきあってください!」
答えがほしくて、もう一度繰り返した。それから、「早瀬先輩に好きになってもらえますように」と何度も唱える。
驚いた様子だった琥太郎は、最初は固い表情をしていたのに、直也が願いを何度も唱えていると笑い出した。
「島村くんだっけ。きみ可笑しいな」
笑われてしまった、と恥ずかしいが、悪い手応えではない。緊張しながら返事を待つと、琥太郎は笑いすぎて目尻に溜まった涙を手で拭い、頷いた。
「いいよ。つきあおう。きみに興味がある」
「……!」
こんな地味な直也が憧れの琥太郎とつきあえるなんて、やはり魔法が使えるようになっている。確信した直也はぎゅっと手を握り込んだ。
「よろしく。直也」
「は、早瀬先輩が僕の名前を……」
「直也は名前で呼んでくれないの?」
名前で呼ぶなんて恐れ多いが、勇気を出した。
「こ、……琥太郎先輩」
「うん」
柔らかい笑顔が眩しすぎてくらりとする。
魔法があれば奇跡も起こせる。いつも周りと比べてしまう自分から脱却できる。
差し出された琥太郎の手を、緊張しながら握った。
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