キミのすべては俺のもの

すずかけあおい

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(61)どきどき②

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◇◆◇

新年会シーズンも過ぎて、忙しさも落ち着いてきている。
でも来月にはもう歓送迎会シーズンだから、またバタバタし始めるだろうけど。
それに落ち着いてはいても、お客さんはゼロじゃない。
予約だって繁忙期より少なくてもしっかり入っているし、フリーで来店される方もいる。
いらしてくださる全ての人に楽しい時間を過ごしてもらいたい。

「安藤さん、休憩どうぞ」
「ありがとうございます」

侑大が休憩を回してくれている。
お礼を言って休憩室に入り、椅子に座る。

セッティング中の侑大の“栄養補給”にまだどきどきしてる。
俺はこんなに心臓跳ねさせてるのに、侑大は静かな顔してるのが寂しいし悔しい。
俺も侑大をどきどきさせたい。
でも侑大には全然敵わないんだよな。

マグボトルのお茶を一口飲んで、ふぅっと息を吐く。
侑大ってなんであんなに素敵なんだろう。
俺の欲目なのかな。
いや、誰から見ても絶対すごくかっこよくて可愛い男だと思う。

…抱き締めたいなと思っていたらスマホが震える。

『朝まで帰ってこないで』

ほなみから。
『わかった』とだけ返してスマホとマグをバッグにしまって更衣室に置いてデシャップ前に戻る。
誰もいない。
少しそのまま待機していると侑大が三階から下りてきた。

「黛さん、休憩ありがとうございました」
「いえ。じゃあ俺は店長に休憩に入ってもらってきますね」

そう言ってトレンチを片付けて一階に下りていく。
所作がひとつひとつ綺麗。
階段の向こうに消えていく背中をじっと見つめていると。

「すっごい視線」
「!」

賢斗さんが俺を見て笑ってる。

「相変わらずですね」
「…すみません」
「仲いいのはいい事ですよ。仕事中ですけど」
「はい…気を付けます」

俺の答えに賢斗さんはおかしそうに更に笑う。
そこに引き戸の音がして、賢斗さんは出迎えのために階段を下りて行った。
俺は個室からの呼び出しに対応する。
三階から階段を下りていると。

「お願いしまーす!」

デシャップ担当の人の声がする。
料理がリフトで上がってきたけど待機中のホールがいない。

「はーい!」

返事をして急いでデシャップ前に戻り、出来立ての料理をトレンチに乗せて個室へと運ぶ。
料理を提供して戻るために廊下を歩いていると、別の個室で注文を受けている侑大の姿が目に入った。
やっぱりすごく素敵なんだよな。
この人が俺だけのものだなんて幸せ過ぎる。

◇◆◇

更衣室で着替えて、侑大と賢斗さんと三人で店を出る。

「そういえば、ほなみから『朝まで帰ってこないで』って連絡きたんだけど、どうする?」
佐羽さわさん来てるの?」
「たぶん。聞いてないけど」

俺と侑大が路地を抜けたところで立ち止まると、賢斗さんも歩みを止めた。

「ほなみちゃんもふたりを追い出す事あるんだ?」
「たまにね」

侑大が答えて腕時計を見る。

「どうするか決めてないなら、三人で飲み行かない?」

賢斗さんの誘い。
俺はいいけど、侑大はどうしたいかな。

「侑大、どうする?」
「俺はいいけど、要は?」
「俺も」
「じゃ、行こ行こ」

賢斗さんがまた歩き出すのでついて行く、けど、すぐにまた足が止まる。

「…どこ行こっか?」
「どこでもいいけど」
「俺も特にここって言うのは…」

賢斗さんの問いに俺と侑大が答える。
なんとなく三人で顔を見合わせる。

「駅前の居酒屋?」
「他にある?」
「…あお葉とか?」
「………」

俺と賢斗さんがいつものところでいいかなって顔してると、侑大がぽそっと新しい選択肢を出す。
三人、無言でまた顔を見合わせる。

「いいけどさ、個室あったっけ」
「半個室だね」
「俺は構わないけど、要さんと侑大さんはやっぱ聞かれたくないでしょ?」
「……」

侑大と顔を見合わせてひとつ頷き合う。
どうしよう。
三人で悩んでいたら。

万里まさとさんのとこ行こう」

侑大が決めたって顔して歩き出す。
確かに万里さんのところなら会話を聞かれて困る事はない。
俺が侑大に続くと賢斗さんもついてくる。

「万里さん知ってるの?」

そっか、賢斗さんには言ってなかったっけ。
とりあえず電車に乗って、バーの最寄り駅で降りてから俺と侑大が付き合うきっかけの事を話す。
俺と侑大の話を聞いて、賢斗さんは驚きながらも目を輝かせた。

「やっぱ運命ってあるんだ…俺も早く運命の人、探そ」

そう、ほんとに運命ってあるみたい。
不思議。

「こんばんは、万里さん」
「賢斗、…と要と侑大? どういうメンバー?」

三人でバーのドアを開けると万里さんが不思議そうな顔をした。
寒いのでとりあえず中に入ってから説明する。

「へえ…そんな事ってあるんだ」

万里さんがびっくりしながらも、さっとボトルを出しにカウンターを移動する。

「あ、俺ボトル入れたばっかりだから俺ので飲もう?」

それを聞いた万里さんが賢斗さんのボトルを出してくれて。

「侑大、ウイスキー飲めたっけ」

侑大に聞く。

「……」
「あ、そうなんだ。じゃあ」
「いや、飲める。飲んでみる」
「無理しないほうがいいよ。明日も仕事だし、俺のボトルにしな」

侑大はなにかを決意したような目をしている。
でも俺は心配なのでいつも通り俺のボトルを出してもらうように万里さんにお願いするけど。

「要、心配し過ぎ」

そう言って自分で水割りを作る。
俺と賢斗さんと万里さんが見守る中、一口飲んで。

「………」

固まった。

「ほら。すみません、万里さん、俺のボトルお願いします」
「はーい」

侑大の手からグラスを取り上げる。

「ごめんね、賢斗さん」
「ううん。俺こそ気が付かなくてごめんね」

そう言って賢斗さんが、侑大が口を付けたグラスに口を付けようとして。

「…要さん、嫉妬する?」
「うん、する」

はっきり答えるとおかしそうに笑って俺にそのグラスを差し出す。
その間に万里さんが俺の焼酎のボトルで水割りを作ってくれる。
俺が、侑大が一口飲んだウイスキーの水割りに口を付けると、賢斗さんも万里さんが作ってくれた水割りのグラスに口を付ける。
侑大は焼酎の水割りの入ったグラスを持ったままちょっと落ち込んでる。

「賢斗は店でうまくやってるの?」

万里さんが唐突に振る。
ちょっと心配そうな顔してる。

「はい。仕事もあっと言う間に覚えてくれましたし、すごく助かってます」
「そう…」
「万里さん、心配性だね。大丈夫だよ」

俺が答えると、万里さんがほっとした顔をする。
賢斗さんは恥ずかしそうにグラスを傾ける。
侑大はようやく少し復活してグラスに口を付けた。

「心配もするよ。前の職場にいた時、どんどん生気抜けてくの見てるんだから」
「生気?」

万里さんの言葉に侑大が聞く。

「ほら、前に話した俺の元カレ、実は前の店の上司でね。浮気相手は俺の後輩だったんだ。だから出勤する度に色々とね、突き刺さったの」
「賢斗、要と侑大に話したんだ?」
「うん、すぐ話した」

やっぱりほっとした顔をする万里さん。

「賢斗さん、俺達だけじゃなくて店の他の従業員達ともすごくうまくやってますよ。運命の人は見つからなかったみたいですけど」

侑大、“黛さん”になってる。

「この人が運命の人だったらいいなって人はいたよ?」
「いたんだ?」

賢斗さんが意味ありげに言うと、万里さんが初耳って顔をする。

「うん。でもその人は他の人の運命の人でした。ね、要さん?」
「……」

俺に振られても。
侑大はじっと俺を見てるし。
万里さんは賢斗さんと俺を交互に見てからおかしそうに笑った。

「要はだめだよ。侑大が許さないって」
「そう。だめだったの」

賢斗さんが万里さんに酒を勧める。
万里さんは賢斗さんのウイスキーで水割りを作りながら。

「神が結び合わせたふたりを引き離しちゃいけないの」
「誰かの言葉?」

賢斗さんが聞く。

「イエス・キリスト。聖書に書いてある。いただきます」

水割りを一口飲みながら、微笑む万里さん。
嬉しいな、って思って侑大を見たら目が合った。
俺と侑大だけで思ってるんじゃなくて、周りの誰かが俺達を“神様が結び合わせた”って思ってくれてる事が、すごく嬉しい。
俺達自身も俺達を引き離しちゃいけない。
この繋がりは、神様からのものだから。
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