となりの笑顔

すずかけあおい

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となりの笑顔⑤

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 よく漫画やアニメで、告白されたあとに授業中も落ちついていられない登場人物の気持ちがはじめてわかった。まさか自分がそんな立場になるなんて想像してみたこともないから、本当にどうしたらいいかわからない。
 うわの空で授業を受けつつ空井のことを考える。いったい宇野のどこが好きなのだろう。守ってもらったり優しくしてもらったり、なにかをしてもらうばかりだ。空井が宇野を好きになるような要素がない。
(冗談って感じでもなかったし)
 そもそも冗談だったらあんなふうにみんなの前で言ったり、宇野に向かってきちんと言い直したりしないだろう。それに空井はいたずらに誰かをもてあそぶような人ではない。つまり本気なのだ、と思う。
 どうしても信じられないのは、宇野自身が自分のどこにも魅力を感じられないからだ。平々凡々、すべてが並で平均。ぱっと見て目に留まるような部分もないし、よく知ったらこんな素敵なところを見つけたというような隠し持ったものもない。なにもない。
(本当に、なんで僕……?)
 考えても考えてもわからない。こんな調子では期末テストも集中できないかもしれない。それはまずい。空井の席は窓際一番うしろだから、振り返って様子を窺うこともできず、悶々としながら授業を流し聞いた。

「こら」
 机のすみをコンッと長い指が叩く。はっとして顔をあげると、空井が渋い顔をして立っていた。いつの間にか休み時間になっている。
「授業、ちゃんと聞いてなかっただろ」
「う……」
 わざと怖い顔を作って注意され、縮こまる。そのとおりなので反論できないし、言いわけなんてもっとできない。つい俯いた視線の先にノートが差し出された。
「ほら」
「え?」
「期末前になにやってんだ」
 ノートを見せてくれるらしい。お礼を言って受け取り、ぱらぱらとページをめくる。空井はきちんと授業を受けていたとわかる。宇野だけが落ちつかなくてぼんやりとしていた。それもなんだか悔しい。
 空井と話していると、教室のあちらこちらから視線を感じる。当たり前だ。みんな朝の公開告白を聞いているのだから、気になるだろう。注目されることに慣れていない宇野は、ますます縮こまった。なんだか、視線で攻撃されているように感じる。空井のような素敵な人の想い人が、魅力をなにも持っていない同性なんて、特に女子は気に入らないのではないか。
「なに小さくなってんだ」
「空井は気にならないの? みんな見てるよ」
 宇野が周囲を気にすると、空井は胸を張った。
「俺の宇野への気持ちは恥ずかしいものじゃないってはっきり言えるから、全然なにも感じない」
 腹から出たよく通る声に、教室内がしんとする。朝の光景を彷彿とさせる言葉に、落ちつかなさがよみがえった。はっきりと言いきれる空井がやはり恰好よくて、ついじっと見てしまう。顔をあげたままの宇野の額を指で弾いたのは、その空井だ。
「間抜け顔」
「ひどいし痛いよ」
「手加減した」
 額を手でさする宇野を見て、空井が目もとを緩める。手加減してくれたのはわかっている。額よりも、どきどきしすぎる胸が痛い。意地悪だけれど、いつもどおりにしてくれることがありがたい。
「ノート、ありがとう」
「おう」
 席に戻っていく空井の背を見送り、ノートをもう一度ぱらぱらとめくる。宇野が授業に集中できないのをわかっていたように、ポイントが細かく書き込まれている。優しいのか意地悪なのかわからない、変な男だ。よくしてもらうばかりでいいのか、悩んでしまう。
「返事ってどうしたらいいんだろう」
 いい返事を期待しているようなことも言われたから、空井は宇野とつき合いたいのだと思う。でも宇野の正直な気持ちとしては、急に恋愛感情を持って見られるかと聞かれたら、なんとも言えない。空井は頼りになる友達としか思っていなかった。
「空井」
 小さく呼んだだけなのに、空井が振り返った。目が合い、微笑を浮かべた空井は宇野の席に戻ってきた。
「どうした?」
「あの、さ、返事って」
「気持ちが決まってるなら今聞くけど、いい返事以外は聞きたくないのが俺の本音だな」
「プレッシャーかけるね」
 むむ、と口をへの字に曲げると、椅子に座った宇野の目線に合わせて空井が背をかがめた。
「宇野のそのままの気持ちだと、俺ってどんな感じ?」
「……友達。でもすごく好きだよ」
 どちらも本心だ。空井のことは友達だと思っていたし、大好きだ。曖昧な答えに、空井は複雑そうに眉を寄せる。
 わかっている。空井がほしい答えがそれではないと。でも混乱する気持ちのままで適当な返事をしたくない。空井が大切だからこそ、それは嫌だ。
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