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君の想い⑤
芳貴の部屋のインターホンを押すのはもう数えきれない。でも、こんなに緊張するのは初めてだ。出てきた芳貴はメッセージを送っておいたにも関わらず、驚いた顔をしたまま俺を部屋に上げてくれた。俺の顔を見て、カレンダーを見ている。
「そうじゃないよ」
俺の言葉に更に不思議そうな顔をする。そうだな……、俺は都合のいいように芳貴を利用してばかりだったのかもしれない。それでも、ここに来ながら考えた。芳貴はずっとそばにいてくれた、信頼できる大切な幼馴染……芳貴のことを必要としている。あんなに近くにいた琉太を必要とすることはできなかったのに、芳貴のことは自然と求めていた。誰かを必要とすることができるだろうかと考えたけれど、もうしていたじゃないか。
「琉太と別れた」
芳貴が動きを止める。
「……それでうちに来たのはなんで?」
感情を押し殺した静かな声だけれど、芳貴の瞳には期待の色が交じっているのが見て取れる。
「なんでかな」
ずるい答え方をしてしまう。首を小さく横に振ってからまた芳貴を見る。
「芳貴のところに行ったら、大切な人のそばにいられるだけで幸せな理由を教えてもらえるんでしょ?」
「そうだな」
「誰かを好きでいないと自分がわからなくなるから好きでいるとか、必要としてくれるから好きとか、そういうのじゃなくて……ただ相手を求めたり、大切だと思いたい」
芳貴が苦々しい顔になり、それから顔を背ける。
「……本当に俺でいいのか?」
自信のなさそうな言葉にどきりとする。あの日、俺の手を取った芳貴と同一人物とは思えない声が切なくて、心臓がぎゅっとなり抱き締めたいと思う。愛しいとはこういうことなんだろうか。
「だって俺、もうずっと芳貴が必要だし、大切だから……芳貴じゃないとだめだよ」
恐る恐る芳貴の手に触れてみると、少し震えている。その手を軽く握って芳貴の顔を見る。
「必要とされたいってそればかりだった。でもこれからは必要としたい。だけど、俺にはもう必要な人がいる」
「それが……俺?」
「そう。芳貴だよ」
俺が握る手をじっと見た芳貴が、ゆっくり頬に触れてくる。壊れ物を確かめるように、そっと。
「彼氏は、ふたりの彼女とこれからも続くのか?」
「うん……。たぶん、そう。琉太も、自分を特別に必要としてくれる人ならよかったみたいだから」
「似た者同士でくっついてたわけか」
「みたい」
あの後、琉太と少しこれからの話などをしたけれど、やっぱり琉太にとっては自分を必要としてくれる存在が好きな人らしい。俺は誰かを必要としたいと言ったら、「燈路は先を行くんだね」と寂しそうに笑っていた。きっともう、俺達の道は交わらない。
「ずっとそばにいてくれてありがとう。芳貴の想い、受け取る」
「……受け取ってどうするんだ?」
「俺はそれ以上に返す。芳貴が俺を大切にしてくれる以上に、俺は芳貴を大切に――わっ」
いきなり抱き締められてしまい、頬が熱くなる。どきどきするのに落ち着く。抱き締める腕にぎゅっと力がこもり、俺も芳貴の背に腕を回してみる。
「もう充分すぎるくらい……そう思ってくれただけでほんとに充分なくらい、嬉しい」
「うん……。でも充分なんて思わないで。もっと大切にしたい……これからは、もっと芳貴のそばで」
「あー……泣きそう」
俺のほうこそ泣きそうだ。芳貴が可愛く感じて、背中をとんとんと軽く叩いてあげると、笑われた。
「泣くからやめろ」
「泣いていいよ」
「せっかくだから格好つけさせろ」
髪を梳くように撫でられ、とても懐かしくて落ち着く。温もりはいつもそばにあった。
いつでも俺を、見ていてくれた。
おわり
「そうじゃないよ」
俺の言葉に更に不思議そうな顔をする。そうだな……、俺は都合のいいように芳貴を利用してばかりだったのかもしれない。それでも、ここに来ながら考えた。芳貴はずっとそばにいてくれた、信頼できる大切な幼馴染……芳貴のことを必要としている。あんなに近くにいた琉太を必要とすることはできなかったのに、芳貴のことは自然と求めていた。誰かを必要とすることができるだろうかと考えたけれど、もうしていたじゃないか。
「琉太と別れた」
芳貴が動きを止める。
「……それでうちに来たのはなんで?」
感情を押し殺した静かな声だけれど、芳貴の瞳には期待の色が交じっているのが見て取れる。
「なんでかな」
ずるい答え方をしてしまう。首を小さく横に振ってからまた芳貴を見る。
「芳貴のところに行ったら、大切な人のそばにいられるだけで幸せな理由を教えてもらえるんでしょ?」
「そうだな」
「誰かを好きでいないと自分がわからなくなるから好きでいるとか、必要としてくれるから好きとか、そういうのじゃなくて……ただ相手を求めたり、大切だと思いたい」
芳貴が苦々しい顔になり、それから顔を背ける。
「……本当に俺でいいのか?」
自信のなさそうな言葉にどきりとする。あの日、俺の手を取った芳貴と同一人物とは思えない声が切なくて、心臓がぎゅっとなり抱き締めたいと思う。愛しいとはこういうことなんだろうか。
「だって俺、もうずっと芳貴が必要だし、大切だから……芳貴じゃないとだめだよ」
恐る恐る芳貴の手に触れてみると、少し震えている。その手を軽く握って芳貴の顔を見る。
「必要とされたいってそればかりだった。でもこれからは必要としたい。だけど、俺にはもう必要な人がいる」
「それが……俺?」
「そう。芳貴だよ」
俺が握る手をじっと見た芳貴が、ゆっくり頬に触れてくる。壊れ物を確かめるように、そっと。
「彼氏は、ふたりの彼女とこれからも続くのか?」
「うん……。たぶん、そう。琉太も、自分を特別に必要としてくれる人ならよかったみたいだから」
「似た者同士でくっついてたわけか」
「みたい」
あの後、琉太と少しこれからの話などをしたけれど、やっぱり琉太にとっては自分を必要としてくれる存在が好きな人らしい。俺は誰かを必要としたいと言ったら、「燈路は先を行くんだね」と寂しそうに笑っていた。きっともう、俺達の道は交わらない。
「ずっとそばにいてくれてありがとう。芳貴の想い、受け取る」
「……受け取ってどうするんだ?」
「俺はそれ以上に返す。芳貴が俺を大切にしてくれる以上に、俺は芳貴を大切に――わっ」
いきなり抱き締められてしまい、頬が熱くなる。どきどきするのに落ち着く。抱き締める腕にぎゅっと力がこもり、俺も芳貴の背に腕を回してみる。
「もう充分すぎるくらい……そう思ってくれただけでほんとに充分なくらい、嬉しい」
「うん……。でも充分なんて思わないで。もっと大切にしたい……これからは、もっと芳貴のそばで」
「あー……泣きそう」
俺のほうこそ泣きそうだ。芳貴が可愛く感じて、背中をとんとんと軽く叩いてあげると、笑われた。
「泣くからやめろ」
「泣いていいよ」
「せっかくだから格好つけさせろ」
髪を梳くように撫でられ、とても懐かしくて落ち着く。温もりはいつもそばにあった。
いつでも俺を、見ていてくれた。
おわり
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