不器用な吸血鬼と対価の奴隷〜私を……好きにしてください〜

とりうま

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対価には私自身を

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私の、たった一人の家族である弟は馬車にひき逃げされ、左肘と右膝の関節があらぬ方向に曲がって、頭から血を流して倒れている。
「アイン?ねえどうしたの?いつもの元気な顔を見せて?」
いくら問いかけ、肩をゆすっても何を言わず、触れてる肩が冷たくなっていく。
「目を覚ましてよ。アイン!アイン!……お願い、お姉ちゃんを一人にしないで……。お母さんたちに続きあなたまでなくしたら私はどうすればいいの?」
最悪な過去ーーお母さんとお父さんが同じように馬車にはねられ亡くなったことーーを思い出し、”死”と言う文字が脳内を埋め尽くし、視界がぼやけてく。嗚咽が止まらない。
気がつけば弟の……息が止まっていた。
「アイ、ン……お願い……死なないでよ……誰か……誰か助けて!」
私はこないはずの奇跡を願った。
でも、奇跡は現れた。
「あら、そこの人間。メソメソと泣きわめいてどうしたのかしら?」
空から翼を持つ誰かがが降りてきた。
それはーー吸血鬼である。



吸血鬼はこの世界ではもっとも神に近く、巨大な力を持つ種族だ。
でも、私はありえない、幻聴幻視だと、思い込んだ。
4大種族ーー吸血鬼、エルフ、ドワーフ、人間ーーの中で一番力の弱い人間は街の外側に住んでいて他の3種族と特別な人間しか街の中には入れないのだ。
ここでいう特別な人間とはもちろん3種族とタイマンはれる力の強い人間かほぼいないが3種族の愛人やらになった場合のみだ。あとは種族として見られなくなるが奴隷モノになるという手もある。
そして他の3種族は街からほとんど出ない。街から出なくとも他の街に行くことのできる手段はあるし何より、彼らにとって人間とはいようがいまいが関係ない。
そんな種族だからだ。
私たち人間が他の種族を見ることは滅多にない。その中でも吸血鬼は一番ありえないのである。
彼らは太陽の下にはほとんど出ず、地下に住んでいるからだ。
あまり私は知らないが太陽の下に出ると体がだるくなるらしい。




「人間?答えなさい。」
「吸、吸血鬼様?!も、もうしわけありません。」
幻だと思い込んでいたがどうやら本物らしい。
たまらず私は両膝と両掌を地面にくっつけ、ご尊顔を見てしまわないよう頭を下げ、弟のことを答えた。
「実は、弟がーー」
途中、嗚咽しながらも必死に私は説明した。
「お願いします、助けてください。たった一人の家族なんです。」
私は、死者さえも蘇生できるという吸血鬼様に弟の生き返りを願った。
もちろん、こんなことをすれば私の首などたやすく飛ぶだろう。でも今の私にはそんなことはどうでもよかった。
たった一人の家族が死んだこの世界に未練はないからだ。死んでもいいと思っていた。
「仮に、私があなたの弟を助けたとして、あなたの対価は何?」
吸血鬼様は端正なお顔を面白そうに歪めながら聞いてきた。
でも、対価など言われてもわからない。
「……ただの人である私に、吸血鬼様に渡せる対価はわかりません。」
「ならあなたはここで弟を助けないのかしら?」
面白くなさそうに吸血鬼様は言う。
「いいえ、助けます。ですが、弟の未来に釣り合うのは私の未来。私は……私自身を対価に差し出します。」
弟を助けるために、私は私を差し出した。
見合うものがそれ以外に見当たらないのだ。
お金なんかは力の弱い人間はだいたいが貧民で、私もそうだ。
それに、力が一番強い吸血鬼様は皆お金持ち。
「へえ……つまりあなたは私のものになるということね。従順な奴隷になると。」
少し驚いた、見直した。そんな表情をしたあとニヤリとしながら言う。
「はい。」
「……いいわ、あなたのその決意に免じて助けてあげるわ。だたし、一つ言わなくちゃいけないことがあるわ。」
もしかして、対価はこれだけじゃ足りない、とかでしょうか?どうしましょう、差し出せるものはもうありません。
「なんでしょうか?」
「弟の命を救うにはもう一つ、対価がいる。例えば……弟の中にあるあなたに関する記憶、とかね。」
弟の中にある私に関する記憶……?アインは私を忘れてしまうということ?
胸の奥がツンと痛んだ。
「私に関する記憶……つまり、あの子は私を忘れてしまうんですか?!」
「ええそうよ。まあ、忘れるってよりもとからいなかった、っていうことになるけど」
いなかった存在……。忘れられるのは辛いしもう話せなくなるかもしれない、でも、あの子の命に比べたらこれくらいの寂しさは乗り越えなくちゃならない……!
「そう、ですか……たとえ、たとえそうだとしても、私を忘れることであの子が助かるのなら、お願いします。」
「取引成立ね。私はあなたの弟の命を救い、対価として弟の中にあるあなたに関する記憶と、あなたを求める。」
吸血鬼様の顔に笑顔が浮かぶ。
ああ……!よかった……。もう一度生きてるアインを見れる。家族の中で一人置いてかれるわけでわないんだ。
私は吸血鬼様に誠心誠意何を求められてもそれが全て自分であるなら望まれたどうりにやろうと思いました。
「ありがとうございます……!」
「礼には及ばないわ。これは取引。どちらにも得がある話なのです。」
なんと寛大な……!
「それでは蘇生させますわ。【蘇生】。」
そうおっしゃった吸血鬼様はいきなりピカッと光りました。
あまりの眩しさに目を瞑り、次に開けた時には傷一つなく息をしているアインの姿がありました。
「ああ、アイン!よかった……。」
家族の戻りにまた視界が曇ってしまいました。
「蘇生は成功ですわね。それではあなたは今から私のもの。」
そうでした……私は吸血鬼様のものになるんでした。
「はい宜しくお願いします、ご主人様。」
「よろしい。それでは吸血鬼の街に行きますわ。ついてきなさい。」
未だに目を覚まさない弟に今世の別れを告げ歩き出したご主人様の後を追います。

ご主人様のものになるのは不安ですが不思議と怖くはありませんでした。
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