2 / 12
Que.Prologue?
→11_step!_Re:「セイヴァークエスト!~勇者と魔王と希望への道~」
しおりを挟む
暗い闇の中、シドの意識は無かった。だが、強制的に脳内に情報が流し込まれる。未知への恐怖で叫びたいのに何故か無理やり心の平穏を保たれる。
そしてシドの視界に広がったのは教会の中の様な、白すぎる空間だった。
Now Loading…
Now Loading……
◇
おお マスターよ!
しんでしまうとは なにごとですか!
しかたのない ひとですね。
マスターに もう いちど
きかいを あたえましょう!
たたかいで キズついたときは
すぐに わたしを たよって
キズをかいふくさせるのです。
ふたたび このようなことが
おこらないことを
シャルドは いのっています!
あいことば セイバーロード
ぼうけんを さいかいする?
YES ←
YES
Now Loading…
◇
──シドの意識が戻った先は、シスターに殺される前の燃え盛る小屋だった。シドは死から覚醒した後、そんなありえない状況に驚く。
「──ぁ、ぇッッ?!……ウグッ、おォえッ!!」
熱さに加え、異常な気持ち悪さ。シドは死を経験した。常人では一度しか経験出来ないはずの『死』を、シドは経験してしまった。
「死んだ……シスターにまた、殺された……はず、なのになんで!?……まだ、生きてる……!? さっきのは夢……? いや違う……確かに経験したはず……!!」
シドは困惑する。確かに死から来る痛みも寒さも、死ぬ間際の意識が遠のく感覚も全て、この身で感じたはずなのだ。
もう一人分の『死』を十分に堪能したはずなのだが、目の前のテーブルには、先程食したはずの同じフルコースが並ばれていた。
「あ、さっきの……この子は、一体……?」
頭痛で頭を抱えた後、目の前の存在に気づいた。
その存在とは倒れている少女。それは先程と全く同じシチュエーションだった。
そして、理由は分からないが、その少女は何かメッセージを示している様だった。
だが、『何故分かったのか?』に対する根拠は何も無い。それは突然、シドの脳内に語りかけたのだ。
それは一つの意味不明な単語。
「……セイバー、ロード」
ふと、その単語が口に出た。シドはそれによって戻って来た事を思い出す。すると目の前に倒れている少女が、その言葉に反応する様にビクッと動いた。
「……──はっ、マスター!?……逃げ、ましょう!」
「え!? 何!? う、動いた!!?」
少女が目覚めて、焦った様に立ち上がる。黒髪はその勢いで揺れ、グレーの瞳からは真剣さが伝わった。
シドは驚いて尻餅をつくが、少女はシドに右手を差し伸べた。その右手の甲には仄かに黄金に光る、タトゥーとはまた違う人工的な痣があった。
「あ、ありがとう……」
「ええ! 構いませんよ!」と少女は優しく微笑んだ。
そうしてシドは立ち上がる過程で、もう一度、グレーの瞳を見た。瞳の奥には真剣ながらも、どこか優しく、何か特別な感情を感じた。
それはまるで、シドと何度も会って、シドと共に苦難や修羅場を何度も潜り抜けた様な表情と、妙な説得力を作り上げていた。
「君が誰かなのかは分かんないけどっ!!……確かに、この状況は……!! でも、どうやって?!」
先程と、ほぼ同じ状況。
本当にこの窮地を脱する事が出来るのか?
またあの狂気のシスターと神父に殺される?
そんな不安が先程の感覚をまた思い出させてしまい、吐き気が再度、シドを襲う。
「マスター!大丈夫ですか?!」
「ぅぅ……あぁ、うん、大丈夫……君は一体……?」
「私の名前はシャルドです!そんな事より早く!!」
シャルドと名乗る少女はどうやら一方的に、シドを知っている様だった。
「……──分かった……!」
先程から「逃げましょう!」と言う為、シドは素直に従い、立ち上がった後に、小屋の外に出る。するとドアの前に立っていたシスターと鉢合わせ、そして刺される。
「あ、!?」
「おいおい何モンだ?このガキ……」
言葉にならない程の痛みがシドを襲う。そして願った。──「これは夢だ」と。
「っ、マスター!!?」
「お前がゆーしゃかァ!!……いーぜ導ーてやるよォ……『オーダー』ァァッ!!!!……動くンじゃねー!!」
失血多量で薄れ行く意識、薄れ行く視界で、『シャルド』の首が吹っ飛ぶのが見えた。狂人はただ突っ立っているだけ。
しかし、何も出来ず無力。視界はそのまま、黒く落ちる。
──シドはまた殺されてしまった!
◇
Now Loading…
Now Loading……
「──はぁ、マスター……流石に死に過ぎです、是? まるでシャルドを縛る足枷じゃねーですか……」
「──否、3つしか覚えられない中マスターは『文字通り』必死に頑張っているんです!あなたは黙ってて下さい!!」
シャルドと同じ声が二つ、白すぎる空間で響き渡った。そして脳内に『前回までのループ』に関する全ての情報が流し込まれる。その空間、及び教会でシドは全てを思い出した。
「あっ!……ああそうか、僕はまた……無力、だった」
「おー、マスターが思い出しやがりました!」
その声の主は、選択を迫られた時に脳内に出現する天使と悪魔の様な2人。
少し強気な態度を取り、シドを『マスター』と呼んで『ですます口調』に『是』という絶対に相容れない、違和感まみれで取って付けた様な語尾の黒い出で立ちのシャルド。
普通のシャルドより言動に少しトゲがある為、シドは彼女を『黒シャルド』と呼んでいる。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『悪魔』なのが彼女だ。
「否、マスター!今度の『死罰』はどれにしますか?! 次のループで覚えておきたい事を3つだけ言って下さい!」
そしてシドに明るく優しく話しかけるのは、『否』が口癖の白い出で立ちのシャルド。
普通のシャルドよりもシドを全肯定してくれるので、シドは『白シャルド』と呼んでいるのが彼女だ。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『天使』なのが彼女だ。
「んで、どうするんですかマスター!?行くなら早く行ってくださいよ!そしてもうココには来ねぇでください!」
まるで『シャルドの心情を表した天使と悪魔』の様な2人はこの白い教会、シャルドのPSYである『転生』の管理者兼、能力を使用する人を案内するアシスタントだ。
「ちょっ、ちょっと待って!一旦整理したい!」
だが思い出したとは言え、まだ心の整理が着いていない。そして一体どうすればこの『死のループ』から抜け出せるのかが分からない。
「セーブポイントは、何故か前回で変更されたから……、クソっ! 僕の記憶が……ラト姉とベルとの大切な記憶が……どうして……っ!!」
「可哀想なマスター……、しかもその『事実』を死ぬ度に言い渡されるなんて……シャルド、見てられません……!!」
白シャルドはトラウマを思い出したシドを優しく労る。しかし黒シャルドは不機嫌そうな顔をした。
「まぁ、マスターも可哀想ですが、シャルドも充分可哀想です、是? 無能なマスターのせいで、どんなに助けようとしても殺されるんです、是。 しかもマスターと違って『死罰』のペナルティがねぇです。つまり死んだ時の記憶を失うこと無く共有しています、是」
黒シャルドがシドを『無能』と言った瞬間、白シャルドの表情の雰囲気が変わる。
シドはいつも優しい白シャルドが初めて見せた怒り、威圧的かつ圧倒的に強い魔素を纏ったオーラに驚いた。
「否、今すぐ、撤回して下さい……!! マスターは必死に頑張っているんです!! 『死のループ』を完全に記憶しているシャルド達を救おうとして!!」
白シャルドがシドを擁護した。そしてシドはしばらく俯き、沈黙した。
「……いいんだ白シャルド、僕は確かに『無能』だ……。でも!そうだったとしても!! 理由は分からないけど、自分の命を犠牲にしてでも、僕を必死に助けようとしてくれているシャルドを!! 僕は……助けたいんだ!!」
何度目かのループを重ね、決意した思いはとても強かった。しかし、この『転生』には『死罰』という『死亡したら次のループでは3つの事柄しか覚えられない』というデメリットがある為、次のループではこの決意すら忘れてしまう。
「マスター、その決意は認めてやります、是。しかし、どうやってループ直後のリスポーンキル。初っ端から窮地ってのにあの状況を打開するんです? もう『策』なんてどうせねぇですよね? だってもう"10186回"も死んでんだ是」
「……──え?10186回……って、言った?」
黒シャルドから告げられたのは、シドの『死亡回数』。それはシドが産まれて過ごした唯一の日常の背景で、『自身が見知らぬ死を遂げている』という事実を意味していた。
その事実は『シド』という存在の全てを否定しており、彼の心を二つに折った。
「……ぁあ、僕の記憶は偽りで……! 僕が生きてきた1週間さえも……死ぬ為に生きてきた……!?」
辛い。悲しい。絶望に満ちている。だが、この状況に向き合わなければ、希望は見えない。
そして、シャルドを助ける為には、それは必要な事。
「……策はもう尽きてる。逃げようとしても、村に放たれた炎が邪魔をして、どうしてもアイツらに遭遇してしまう。シャルドと一緒に戦おうとしても、勝てなかった……あのシスターが強すぎる」
思い返せば様々な死に方をした。シャルドを守ろうとして刺され、炎に焼かれ、心臓を貫かれ、首は吹っ飛び、逃げても見つかり、炎が逃げ道を阻み、追いつかれ、そして殺される。
「というか、あの状況で『策』なんて思い浮かぶ訳が無い。僕は主人公でも何でもないんだ。今『策』を考えたとしても『どうやって死んだか』『殺された相手』『自分に影の様な謎のPSYがある』この3つの重要な死罰にリソースを割いているから、上手くいくか分からない『策』なんていう不確定要素にリソースを今更割けない……!」
そして出た、シドの結論は──、
「戦う、しか……ない……っ」
「正気でいやがりますか!?」
「本気ですか!?」
策も何も無い事に、2人のシャルドは「とうとう死に過ぎて私達のマスターがおかしくなった」と言う様に、同時に驚いた。
だが2人のシャルドの驚きは間違ってはいない。全ての『死』と『記憶』をこの空間に来たことによって思い出したシドは、既に度重なる死と出来事によりイカれていた。
「ちょっ、その本心を聞かせてくれないです、是?!」
「まず……僕は、無力だ」
シドがこの結論に至った要因。1つはシドの頭ではこの空間でどれだけ時間を使っても結局『策』なんて思い付かない。
「……あと、僕の影の能力」
そして2つ目は、シドが記憶喪失で忘れていた『謎のPSY』。『謎の影を操る』という能力という事は幾度かのループで判明したが、まだ沢山の性質がありそうだった。なのでこれがどういった能力なのかは、正確には分からない。だが、期待値は高い。
「……僕が弱いなら、シャルドを頼ればいい」
そして3つ目、『シャルドの戦闘力』。シドがループを繰り返していく中で、思い出した事があった。
それは『シャルドはものすごく強い』という事。シドが見た限りでは、本来は1人1個の筈のPSYを、シャルドは複数のPSYで、どのループでもシスターと神父に善戦していた。しかも一人で、だ。
「あとは試行回数を稼ぐ、だけ……その結果が、『10186回』……か、……ッ!!どうすればいい!! シャルドを助けるには!?」
『あとは試行回数を稼ぐだけ』と思ったシドだったが、ここに来て『10186回』という事実が決意の邪魔をする。
「ぁ──ラト姉だったら、どうしているんだろうか?」
ふと、自身が目指す『理想』の姿が頭に浮かぶ。偽りの記憶だったとしても、その記憶の中で見た憧れの背中、姉に対するシドの思いは真実だった。
「っ……ラト姉っ……!! 会いたいよぉ……!!」
「子供っぽく泣かねぇで下さいマスター、これからマスターは戦うんです、是?」
「否、マスター。シャルド達が付いてます!どんなに死んでも励ましてあげますよ!」
その白シャルドのシドへの励ましに黒シャルドは「それはねぇ是……」と言った感じで、もうシドには死んで欲しくない様子だった。
「……ラト姉だったら、こんな時は──」
シドの決意は確固たるモノへ──。
「笑って立ち向かってるハズ!!」
「その意気です、是マスター!!」
「否、頑張ってください!」
現在、シドの心情はグチャグチャだった。突如、トラウマが再度フラッシュバックして、胃液が込み上げるが、飲み込む。
「ッ……はぁ、こんな事言ったけどやっぱり辛いよ…………──でも、生きてる。……まぁいっぱい死んでるんだけどね……。でも『命以外』は大丈夫、精神とかは折れてないし、死んでない。ラト姉のおかげだ!!」
それを中学生が背負っている。何故か、背負い切れている、だが本当はもう限界なのかもしれない。
コレを『セカイを恨んだ最弱の少年が、無限の死を遂げ最強となる。もしくはセカイの美しさを知る』そんな内容の……、タイトルをつけるならば『シャドウ+ワールド』だろう。そんな小説として出版したら、きっとベストセラー間違いなしだろう。
「よーし!一か八か!それを『無限』に繰り返せば、どんなに『最弱』でも、『最強』だよね!」
ぼうけんを さいかいする?
YES ←
YES
Now Loading…
そうして少年は、少女と共に、10186回の『セイバーロード』を再度、歩き出した。
---
そしてシドの視界に広がったのは教会の中の様な、白すぎる空間だった。
Now Loading…
Now Loading……
◇
おお マスターよ!
しんでしまうとは なにごとですか!
しかたのない ひとですね。
マスターに もう いちど
きかいを あたえましょう!
たたかいで キズついたときは
すぐに わたしを たよって
キズをかいふくさせるのです。
ふたたび このようなことが
おこらないことを
シャルドは いのっています!
あいことば セイバーロード
ぼうけんを さいかいする?
YES ←
YES
Now Loading…
◇
──シドの意識が戻った先は、シスターに殺される前の燃え盛る小屋だった。シドは死から覚醒した後、そんなありえない状況に驚く。
「──ぁ、ぇッッ?!……ウグッ、おォえッ!!」
熱さに加え、異常な気持ち悪さ。シドは死を経験した。常人では一度しか経験出来ないはずの『死』を、シドは経験してしまった。
「死んだ……シスターにまた、殺された……はず、なのになんで!?……まだ、生きてる……!? さっきのは夢……? いや違う……確かに経験したはず……!!」
シドは困惑する。確かに死から来る痛みも寒さも、死ぬ間際の意識が遠のく感覚も全て、この身で感じたはずなのだ。
もう一人分の『死』を十分に堪能したはずなのだが、目の前のテーブルには、先程食したはずの同じフルコースが並ばれていた。
「あ、さっきの……この子は、一体……?」
頭痛で頭を抱えた後、目の前の存在に気づいた。
その存在とは倒れている少女。それは先程と全く同じシチュエーションだった。
そして、理由は分からないが、その少女は何かメッセージを示している様だった。
だが、『何故分かったのか?』に対する根拠は何も無い。それは突然、シドの脳内に語りかけたのだ。
それは一つの意味不明な単語。
「……セイバー、ロード」
ふと、その単語が口に出た。シドはそれによって戻って来た事を思い出す。すると目の前に倒れている少女が、その言葉に反応する様にビクッと動いた。
「……──はっ、マスター!?……逃げ、ましょう!」
「え!? 何!? う、動いた!!?」
少女が目覚めて、焦った様に立ち上がる。黒髪はその勢いで揺れ、グレーの瞳からは真剣さが伝わった。
シドは驚いて尻餅をつくが、少女はシドに右手を差し伸べた。その右手の甲には仄かに黄金に光る、タトゥーとはまた違う人工的な痣があった。
「あ、ありがとう……」
「ええ! 構いませんよ!」と少女は優しく微笑んだ。
そうしてシドは立ち上がる過程で、もう一度、グレーの瞳を見た。瞳の奥には真剣ながらも、どこか優しく、何か特別な感情を感じた。
それはまるで、シドと何度も会って、シドと共に苦難や修羅場を何度も潜り抜けた様な表情と、妙な説得力を作り上げていた。
「君が誰かなのかは分かんないけどっ!!……確かに、この状況は……!! でも、どうやって?!」
先程と、ほぼ同じ状況。
本当にこの窮地を脱する事が出来るのか?
またあの狂気のシスターと神父に殺される?
そんな不安が先程の感覚をまた思い出させてしまい、吐き気が再度、シドを襲う。
「マスター!大丈夫ですか?!」
「ぅぅ……あぁ、うん、大丈夫……君は一体……?」
「私の名前はシャルドです!そんな事より早く!!」
シャルドと名乗る少女はどうやら一方的に、シドを知っている様だった。
「……──分かった……!」
先程から「逃げましょう!」と言う為、シドは素直に従い、立ち上がった後に、小屋の外に出る。するとドアの前に立っていたシスターと鉢合わせ、そして刺される。
「あ、!?」
「おいおい何モンだ?このガキ……」
言葉にならない程の痛みがシドを襲う。そして願った。──「これは夢だ」と。
「っ、マスター!!?」
「お前がゆーしゃかァ!!……いーぜ導ーてやるよォ……『オーダー』ァァッ!!!!……動くンじゃねー!!」
失血多量で薄れ行く意識、薄れ行く視界で、『シャルド』の首が吹っ飛ぶのが見えた。狂人はただ突っ立っているだけ。
しかし、何も出来ず無力。視界はそのまま、黒く落ちる。
──シドはまた殺されてしまった!
◇
Now Loading…
Now Loading……
「──はぁ、マスター……流石に死に過ぎです、是? まるでシャルドを縛る足枷じゃねーですか……」
「──否、3つしか覚えられない中マスターは『文字通り』必死に頑張っているんです!あなたは黙ってて下さい!!」
シャルドと同じ声が二つ、白すぎる空間で響き渡った。そして脳内に『前回までのループ』に関する全ての情報が流し込まれる。その空間、及び教会でシドは全てを思い出した。
「あっ!……ああそうか、僕はまた……無力、だった」
「おー、マスターが思い出しやがりました!」
その声の主は、選択を迫られた時に脳内に出現する天使と悪魔の様な2人。
少し強気な態度を取り、シドを『マスター』と呼んで『ですます口調』に『是』という絶対に相容れない、違和感まみれで取って付けた様な語尾の黒い出で立ちのシャルド。
普通のシャルドより言動に少しトゲがある為、シドは彼女を『黒シャルド』と呼んでいる。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『悪魔』なのが彼女だ。
「否、マスター!今度の『死罰』はどれにしますか?! 次のループで覚えておきたい事を3つだけ言って下さい!」
そしてシドに明るく優しく話しかけるのは、『否』が口癖の白い出で立ちのシャルド。
普通のシャルドよりもシドを全肯定してくれるので、シドは『白シャルド』と呼んでいるのが彼女だ。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『天使』なのが彼女だ。
「んで、どうするんですかマスター!?行くなら早く行ってくださいよ!そしてもうココには来ねぇでください!」
まるで『シャルドの心情を表した天使と悪魔』の様な2人はこの白い教会、シャルドのPSYである『転生』の管理者兼、能力を使用する人を案内するアシスタントだ。
「ちょっ、ちょっと待って!一旦整理したい!」
だが思い出したとは言え、まだ心の整理が着いていない。そして一体どうすればこの『死のループ』から抜け出せるのかが分からない。
「セーブポイントは、何故か前回で変更されたから……、クソっ! 僕の記憶が……ラト姉とベルとの大切な記憶が……どうして……っ!!」
「可哀想なマスター……、しかもその『事実』を死ぬ度に言い渡されるなんて……シャルド、見てられません……!!」
白シャルドはトラウマを思い出したシドを優しく労る。しかし黒シャルドは不機嫌そうな顔をした。
「まぁ、マスターも可哀想ですが、シャルドも充分可哀想です、是? 無能なマスターのせいで、どんなに助けようとしても殺されるんです、是。 しかもマスターと違って『死罰』のペナルティがねぇです。つまり死んだ時の記憶を失うこと無く共有しています、是」
黒シャルドがシドを『無能』と言った瞬間、白シャルドの表情の雰囲気が変わる。
シドはいつも優しい白シャルドが初めて見せた怒り、威圧的かつ圧倒的に強い魔素を纏ったオーラに驚いた。
「否、今すぐ、撤回して下さい……!! マスターは必死に頑張っているんです!! 『死のループ』を完全に記憶しているシャルド達を救おうとして!!」
白シャルドがシドを擁護した。そしてシドはしばらく俯き、沈黙した。
「……いいんだ白シャルド、僕は確かに『無能』だ……。でも!そうだったとしても!! 理由は分からないけど、自分の命を犠牲にしてでも、僕を必死に助けようとしてくれているシャルドを!! 僕は……助けたいんだ!!」
何度目かのループを重ね、決意した思いはとても強かった。しかし、この『転生』には『死罰』という『死亡したら次のループでは3つの事柄しか覚えられない』というデメリットがある為、次のループではこの決意すら忘れてしまう。
「マスター、その決意は認めてやります、是。しかし、どうやってループ直後のリスポーンキル。初っ端から窮地ってのにあの状況を打開するんです? もう『策』なんてどうせねぇですよね? だってもう"10186回"も死んでんだ是」
「……──え?10186回……って、言った?」
黒シャルドから告げられたのは、シドの『死亡回数』。それはシドが産まれて過ごした唯一の日常の背景で、『自身が見知らぬ死を遂げている』という事実を意味していた。
その事実は『シド』という存在の全てを否定しており、彼の心を二つに折った。
「……ぁあ、僕の記憶は偽りで……! 僕が生きてきた1週間さえも……死ぬ為に生きてきた……!?」
辛い。悲しい。絶望に満ちている。だが、この状況に向き合わなければ、希望は見えない。
そして、シャルドを助ける為には、それは必要な事。
「……策はもう尽きてる。逃げようとしても、村に放たれた炎が邪魔をして、どうしてもアイツらに遭遇してしまう。シャルドと一緒に戦おうとしても、勝てなかった……あのシスターが強すぎる」
思い返せば様々な死に方をした。シャルドを守ろうとして刺され、炎に焼かれ、心臓を貫かれ、首は吹っ飛び、逃げても見つかり、炎が逃げ道を阻み、追いつかれ、そして殺される。
「というか、あの状況で『策』なんて思い浮かぶ訳が無い。僕は主人公でも何でもないんだ。今『策』を考えたとしても『どうやって死んだか』『殺された相手』『自分に影の様な謎のPSYがある』この3つの重要な死罰にリソースを割いているから、上手くいくか分からない『策』なんていう不確定要素にリソースを今更割けない……!」
そして出た、シドの結論は──、
「戦う、しか……ない……っ」
「正気でいやがりますか!?」
「本気ですか!?」
策も何も無い事に、2人のシャルドは「とうとう死に過ぎて私達のマスターがおかしくなった」と言う様に、同時に驚いた。
だが2人のシャルドの驚きは間違ってはいない。全ての『死』と『記憶』をこの空間に来たことによって思い出したシドは、既に度重なる死と出来事によりイカれていた。
「ちょっ、その本心を聞かせてくれないです、是?!」
「まず……僕は、無力だ」
シドがこの結論に至った要因。1つはシドの頭ではこの空間でどれだけ時間を使っても結局『策』なんて思い付かない。
「……あと、僕の影の能力」
そして2つ目は、シドが記憶喪失で忘れていた『謎のPSY』。『謎の影を操る』という能力という事は幾度かのループで判明したが、まだ沢山の性質がありそうだった。なのでこれがどういった能力なのかは、正確には分からない。だが、期待値は高い。
「……僕が弱いなら、シャルドを頼ればいい」
そして3つ目、『シャルドの戦闘力』。シドがループを繰り返していく中で、思い出した事があった。
それは『シャルドはものすごく強い』という事。シドが見た限りでは、本来は1人1個の筈のPSYを、シャルドは複数のPSYで、どのループでもシスターと神父に善戦していた。しかも一人で、だ。
「あとは試行回数を稼ぐ、だけ……その結果が、『10186回』……か、……ッ!!どうすればいい!! シャルドを助けるには!?」
『あとは試行回数を稼ぐだけ』と思ったシドだったが、ここに来て『10186回』という事実が決意の邪魔をする。
「ぁ──ラト姉だったら、どうしているんだろうか?」
ふと、自身が目指す『理想』の姿が頭に浮かぶ。偽りの記憶だったとしても、その記憶の中で見た憧れの背中、姉に対するシドの思いは真実だった。
「っ……ラト姉っ……!! 会いたいよぉ……!!」
「子供っぽく泣かねぇで下さいマスター、これからマスターは戦うんです、是?」
「否、マスター。シャルド達が付いてます!どんなに死んでも励ましてあげますよ!」
その白シャルドのシドへの励ましに黒シャルドは「それはねぇ是……」と言った感じで、もうシドには死んで欲しくない様子だった。
「……ラト姉だったら、こんな時は──」
シドの決意は確固たるモノへ──。
「笑って立ち向かってるハズ!!」
「その意気です、是マスター!!」
「否、頑張ってください!」
現在、シドの心情はグチャグチャだった。突如、トラウマが再度フラッシュバックして、胃液が込み上げるが、飲み込む。
「ッ……はぁ、こんな事言ったけどやっぱり辛いよ…………──でも、生きてる。……まぁいっぱい死んでるんだけどね……。でも『命以外』は大丈夫、精神とかは折れてないし、死んでない。ラト姉のおかげだ!!」
それを中学生が背負っている。何故か、背負い切れている、だが本当はもう限界なのかもしれない。
コレを『セカイを恨んだ最弱の少年が、無限の死を遂げ最強となる。もしくはセカイの美しさを知る』そんな内容の……、タイトルをつけるならば『シャドウ+ワールド』だろう。そんな小説として出版したら、きっとベストセラー間違いなしだろう。
「よーし!一か八か!それを『無限』に繰り返せば、どんなに『最弱』でも、『最強』だよね!」
ぼうけんを さいかいする?
YES ←
YES
Now Loading…
そうして少年は、少女と共に、10186回の『セイバーロード』を再度、歩き出した。
---
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる