がんばれタイガー アメリカ相撲の襲来

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相撲アクション


舞台は、今から十年後くらいで、アメリカにも相撲協会が有る事になっています。また十年後は政府の無策により貧富の差が拡大しており、インフラもガタガタという設定です。


朝のワイドショー。生中継。
「こちらが今度、横綱、朝天……いえいえ、グランドチャンピオンヒグママスクの寄付によって建てられた孤児院です。」
ヒグマのマスクをつけた朝天龍がニコニコで子どもたちにランドセルなどをプレゼントしている。肩に担ぎ上げられて子どもたちは大喜び。が、やがて、ＣＭにはいると彼は急に不機嫌になり、子どもを放り出し、今、やってきた虎のマスクをつけた八白山を「遅いっ！！」と言ってぶん殴る。怖がる子どもたち。キャスターやマスコミ関係者がいてもＣＭ中なら平気の悪態ぶり。中継が再開されると途端にニコニコになる。最近、朝天龍の付け人になった斉藤はこれは酷いと思いつつ見ていると不意にまたＣＭには入り「あんだよ。」と朝天龍に睨まれる。ビビリまくる斉藤。八白山は「と、ところで・・・ご、御用は・・・？」と恐る恐る尋ねる。「御用は今日の取り組みのことに決まってるだろう！光速連発張り手でいくから、お前はぶっ飛んで土俵下に落ちろ。」と、言葉通りビンタ連発して八白山をドブに突き落とす。巻き込まれて子どもも一人、ドブに嵌る。朝天龍は中継が終了すると挨拶もしないで去っていく。転がっていたランドセルを蹴飛ばす。残ったマスコミ関係者や孤児院のマネージャーの祐子は朝天龍に腹を立てつつ、泥まみれになった八白山に同情する。もちろん子どもたちも。

藤の江部屋
同部屋の大関、大乃海と稽古している八白山。その様子がおっかなびっくりなのでイライラしている藤の江親方。（こいつはオヤジそっくりで小心者だ。でも、一回だけ俺が負けたことがある。あんときゃ強かった・・・この八白山も動きだとか足腰の筋肉をみていると本当はとてつもなく強いような・・・気がするんだがなぁ・・・）

喜多の海親方（理事長）のところにアメリカ相撲協会から連絡がある。
アメリカ相撲協会との興行はショー的な意味合いが強かった。アメリカ相撲は力士全員がマスクをつけており、それが子どもたちに大変、人気だったので日本の力士もそれにならってマスクをつけて土俵に上がるようになった。もちろん、どのマスクが誰なのかはみんなが知っているのだが、そんなのは問題なかった。そして興行は例年、誰が優勝するか決まっている出来レースだった。
が、今回はなぜかガチンコ勝負をしたいと言ってきた。それを聞いてビックリする朝天龍。だが、すぐ気を取り直す「なーに、八百長のギャラをもう少し上げろって意味さ。その内に、あの孤児院を売っちまって埋め合わせりゃあいい。」

喜多の海親方が藤の江部屋にやってくる。
アメリカ横綱のライオンマスクにはウチの朝天龍でも勝ち目はない。ガチンコ勝負だと日本相撲協会の権威が失われる。・・・と言う喜多の海。藤の江もウーンと唸る。・・・と、外から子どもたちの声。八白山が子供たちとベーゴマをして遊んでいる。気の強い女のコ（茜）に「おまえ、わざと負けただろ！」とか言われている。柔和な男の子（大知）に「俺ん時は本気でやってね。」と言われている。八白山「じ、じゃぁ・・・」八白山が本気でこまをまわすフォームは実に美しい。こまは物凄い勢いで回転する。子どもたちが歓声を上げる。その様子を親方たちが見ている。「なんで、部屋に子どもが・・？」「いや、例の孤児院の子ども達が八白山を気になついて遊びに来てしまったんですよ。」話が八白山の父親の話になる。「あんときゃバカに強かった。」「いや、実はアレにはカラクリがあって・・・あんた知らなかったのかい？」

ライオンマスクとテレビ電話で交渉している朝天龍。
ライオンマスクは片言の日本語を喋っている。テレビ電話なのにライオンのマスクを付けている。ライオンマスク「金？また金か！！お前等の体質にはもうウンザリだ。どっちが強いかはっきりさせてやる。ガチンコでやらないと八百長のこととか全部証拠があるし、バラしたるぞっ！！」
青くなる朝天龍。

ライオンマスクの邸宅。
の地下室にもう一人のライオンマスクがいる。彼の名はティラノ。ライオンマスクはティラノを地下室から出し、打ち合わせを確認する。
アメリカ相撲ドーム。
ライオンマスクに成りすまして土俵に上がるティラノ。
ティラノはライオンマスクのパーツ用に作られたコピー人間だった。ライオンマスクは胎児のときに重要な病気に掛かっていることが発覚した。親は彼を救うために遺伝子工学を使ってコピー人間を作ったのだ。ティラノは肝臓などのパーツをライオンマスクに提供するためだけにこの世に産み落とされた戸籍のない可愛そうな人間なのだった。
ティラノは自分の運命を半ば諦めつつも納得のいかない部分もあった。ライオンマスクは彼に同情してときどき自分の代わりに土俵に上げてやっていた。ティラノは自分もライオンマスクのように強いと思い込んでいる。が、実際はライオンマスクが相手に金を渡して勝たせてやっていたのだった。ティラノは覚せい剤に手を出しており頭が少しおかしくなりかけていて、ライオンマスクがいくら止めろと言ってもドーピングによる筋力強化を続けていた。
アメリカ相撲。土俵上。
ライオンマスクを付けたティラノ。勝って雄たけびを上げる。

日本の国技館。
孤児院の子どもたちやマネージャーの祐子が応援に来ている。表向きは朝天龍の応援だが本当は八白山を応援している。
朝天龍ととりまきの関取たちの会話。
・ ・・アメ公が八百長の情報を握ってるみたいだから今場所はガチンコでいこう・・・
・ 今日はライオンマスクはじめアメリカ相撲協会の数人が土俵下にきている。この場所が終わるとつづけてアメリカ相撲との十五日が始まる。

控え室。八白山と親方の藤の江。
藤の江「実は・・・オッホン。・・・今日はワシが朝天竜や喜多の海親方と話を付けてある。つまり、お前が勝つ事になっている。（小声で）金はたっぷり払ってある。（大きい声で）思い切っていって来い！」
土俵上。
朝天龍と八白山。この取り組みが八百長だと信じきっている八白山はいつもと違って自信満々に朝天龍を睨みつけている。八百長なんだからこれくらいの演技は必要だと思っている。朝天龍のほうは、気の弱い八白山が本気で睨んできていると思い込んで目を白黒させて不思議がっている。塩をまいた後、両者、もう一回仕切る。思いっきり睨む朝天龍。それが演技だと思い込んでいて更に睨み返す八白山。なにおっ！とばかり更に睨み返す朝天龍。
立会い。
両者譲らぬ激しい攻防の末、八白山が朝天龍をブン投げる。思わず歓声を上げる祐子と子どもたち。
土俵下で見ていたライオンマスク「（独白）つ、強い・・・。」

夜。小料理屋かどこか。
で祝杯を挙げる。同部屋の面々や親方やなぜか祐子もいる。八百長で勝ったと思い込んでいる八白山はいまいちノれない。

次の日。
稽古場。藤の江親方は昨日のは実はガチンコだったと言おうかどうしようかと迷っている。八白山が大の海に睨まれてビビッているのを見て
「喜べ、八白。今日もお前が勝つように話が付けてある・・・」と言ってしまう。

国技館。土俵上。
八白山の今日の相手は大関。
立会い。
八白山は大関を一秒で押し出す。面白くない朝天龍。さらに朝天龍は八白山が祐子と仲良くなっているのを目にする。目にして激怒する。「あの女なんかに興味はないが憎たらしいので奪ってやる。」

ティラノが暴走をはじめたとライオンマスクに連絡が入る。
慌ててアメリカへ帰るライオンマスク。ティラノは手が付けられなくなっていた。ライオンマスクは全てを公表して自分がティラノの面倒を見て余生を過さすべきではと考えたりする。が、名誉欲や物欲も有る。ティラノを葬ってしまおうかとか迷っているうちにティラノが地下室から脱走して街で暴れる。ライオンマスクは金をばら撒いて騒乱を表ざたにしないように奔走する。その挙句、ティラノは射殺される。死ぬ寸前、ティラノは狂った頭で、ライオンマスクが日本の横綱に勝って名誉を勝ち取ることを信じていると言う。「す、すまんかった・・・俺はあいつに勝ってみせるぞ！！・・・そして勝ったら全てを公表して引退する。」
しかし、この件の揉みつぶしに手間取り、日本相撲とのガチンコ勝負は来年に見送られる。

一年後。
八白山は横綱になっている。そしてアメリカ相撲とのガチンコの十五日間が始まっている。虎マスクの八白山はここまで全勝で十一勝。祐子とは恋人同士のような関係になっている。そして未だに藤の江親方は「相手には金を払ってある。」と嘘をつき続けている。
十二日。
八白山は勝って全勝を守る。裕子に祝福されるたびに良心が咎める。八白山が親方から「明日の相手にも金を払ってある。」と小声で言っている。のを地獄耳の朝天龍が聞きとめる。朝天龍は八白山が自分では八百長をやっていると信じているのを利用して上手いこと追い詰めてしまおうと企む。それでまず、記者にあいつは八百長だとリークする。
マスコミに疑惑が報じられて祐子や子どもたちにも疑惑の目で見られる八白山
。
十三日目。
八白山は今日はガチンコだと言われビビリまくってアメリカの弱い力士に負けてしまう。そうするとますます、子どもたちの不信感は大きくなり、彼と口を利いてくれない子どもまで現れる。
十四日目。
藤の江親方は事実を話し「お前は八百長横綱じゃない。」と励ますが八白山は信じない。朝天龍は祐子に急接近している。今日の相手は昨日、朝天龍を倒した実力者のタイガーマンだ。八白山は土俵に上がる寸前、祐子に「八百長横綱だったのね・・・」と言われてしまう。国技館全体からブーイングが起こる。ガーンとなって頭がくらくらしながら仕切りをする八白山。客席では八白山を信じる茜組と信じない大知組が言い争っている。最後の仕切りをする八白山の耳にあかね達の声援が聞こえてくる。
「と、とにかく精一杯、やろう。」
立会い。
最初、つっぱりで押されて慌てる八白山。が、回しを掴んでがっぷりになると落ち着いてくる。「もしかして、俺って本当に強い・・・？」とか思ってる間にタイガーマンをブン投げている。ワーッと歓声が沸く。「え？か、勝った？いつの間に・・お、おれはもしかして八百長横綱じゃなかった？・・・お、おれは・・・や、八百長じゃなかった！！」藤の江親方が現れる。「そうだ、わかったか！お前は本物だ。相手に金を払っていたなんて嘘だ。むかし、お前の親父が俺に勝ったときと同じ方便を俺も使ってみただけだ！！」と藤の江親方に言われる。自分が八百長横綱じゃなかったと知って泣いて喜ぶ八白山。

祐子に自分は八百長じゃなかったと言う八白山。だが、朝天佑は巧妙に手を回してあった。（作者はここのところの手口はまだ考えてない。要はでっちあげの証拠みたいなもので）明日、八白山がライオンマスクに勝たないと全てが八百長だったという事になっている。朝天龍は祐子の腰を手を回してはなさない。
十五日目。
子どもたちに、自分が八百長横綱なんてのは嘘だと言っている八白山。子どもたちからは、あんな弱いのに負けたのが八百長の証拠だとまで言われてしまう。もはや、茜にまで睨まれている。愕然とする八白山。しかし、勝てば・・・。ライオンマスクが八白山を最終目標にして並々ならぬ闘志を燃やしていることは日本中が知っている。
八白山は今日、勝つしかない。
「しょ、勝負に賭けるしかない。」
勝って実力を証明しようと決心したとき、そこはちょうどトイレだった。用を済まし、決意に目を潤ませてブツをしまうと、何者かが待ち伏せている。覆面をつけた大男が六人。険悪な雰囲気。逃げ道はない。六人の男たち、八白山見襲い掛かかる。戦う八白山だが多勢に無勢。半殺しにされる。
土俵。八白山が時間になっても現れないのでざわついている。やっと現れる八白山。虎のマスクは引き裂かれ、全身傷はだらけ、痣だらけ。
仕切り。
観客たちは、八白山のボロボロの体を見て驚きつつも
「どうせ酒場で殴られたんだろう。」
くらいの野次を飛ばしている。
八白山は黙々と仕切りを続けている。一方、ライオンマスクは勝って引退を決意している。八白山の体の傷など眼中にない。勝負に集中している。
子どもたちの周りで大人たちが「絶対、八白山が負ける。」「八百長だから。」と噂している。茜が小声で「そんなことないや。」とつぶやく。
立会い。
の瞬間「タイガーッ！！ガンバレーっ！！」と、子どもたちの声援が飛んでくる。八白山とライオンマスク、激しいツッパリの応酬の末、がっぷり四つになる。押しつ押されつの凄い相撲になる。途中、大声援と大拍手が何度も起こる。そしてライオンマスクが勝つ。国技館、どよめく。ここぞとばかり朝天龍が証拠の物件を示して「八白山は八百長横綱だ。」とアナウンスする。だが、相撲ファンの誰もが、もはやそれを信じなかった。付け人の斉藤が勇気を出して「それはでっちあげだ。八白山の体の傷はさっき朝天龍たちが襲ったものだ。もうそのビデオはユーチューブにアップしたっ！！」とビデオカメラを突き上げると大歓声が上がる。

かくして一件は落着した。「俺は引退するが来年からはずうっとガチンコで頼む。」ライオンマスクは片言の日本語で言うと、八白山と握手をしてアメリカへと帰っていく。祐子を取り返して子どもたちに囲まれながらライオン丸を見送る八白山。その顔に未だ臆病そうながら自信にも満ちた微笑が浮かんでいる。



おわり。