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プロローグ
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病室の窓の外では、雪が降っていた。
白い世界が広がる中、美月は酸素マスク越しにぼんやり天井を見つめている。
体はもう動かない。
病名は進行性の難病。発覚した頃には、すでに手遅れだった。
見舞いに来る人は、ほとんどいない。
両親とは結婚を機に疎遠になり、友人とも連絡を取らなくなった。
そして――
夫も、もう来ない。
最後に会ったのは三週間前。
仕事が忙しい、と言いながら、どこかほっとしたような顔をしていた。
(私の人生って、なんだったんだろう)
大学を卒業し、就職し、恋をして、結婚した。
それで幸せになれると思っていた。
でも、違った。
会話は減り、すれ違い、気づけば家の中で一人きりの時間が増えた。
「結婚すれば幸せになれる」
そんな保証、どこにもなかったのに。
涙が一筋、頬を伝う。
「……やり直せるなら」
もっと、自分を大事にしたかった。
もっと、好きなことをすればよかった。
もっと――
(ちゃんと、誰かに愛されたかった)
意識が遠のく。
心電図の音が遠くなっていく。
そして世界は、暗闇に沈んだ。
「……ん……」
まぶしい。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
体が軽い。
呼吸が楽だ。
(……ここ、どこ?)
ゆっくり体を起こす。
見慣れた部屋。
一人暮らしをしていた大学時代のアパート。
机の上には、就活用の資料。
カレンダーには――
2018年4月12日
(え……?)
震える手でスマホを見る。
ロック画面の日付も同じ。
そして、通知。
『ゼミ飲み会 今日18:30~』
その瞬間、記憶が一気に蘇る。
ここは――
結婚する5年前。
まだ、すべてを選び直せる時間。
「……嘘……」
鏡を見る。
そこに映るのは、病で痩せ細った自分ではない。
健康だった頃の、自分。
頬をつねる。
痛い。
夢じゃない。
「……戻ってる……?」
心臓が激しく鼓動する。
そして次の瞬間、美月は床に崩れ落ちて泣いた。
生きている。
もう一度、生き直せる。
同じ失敗は、しない。
「……今度こそ」
誰かの人生じゃなく、
自分の人生を生きる。
そう決めた朝だった。
白い世界が広がる中、美月は酸素マスク越しにぼんやり天井を見つめている。
体はもう動かない。
病名は進行性の難病。発覚した頃には、すでに手遅れだった。
見舞いに来る人は、ほとんどいない。
両親とは結婚を機に疎遠になり、友人とも連絡を取らなくなった。
そして――
夫も、もう来ない。
最後に会ったのは三週間前。
仕事が忙しい、と言いながら、どこかほっとしたような顔をしていた。
(私の人生って、なんだったんだろう)
大学を卒業し、就職し、恋をして、結婚した。
それで幸せになれると思っていた。
でも、違った。
会話は減り、すれ違い、気づけば家の中で一人きりの時間が増えた。
「結婚すれば幸せになれる」
そんな保証、どこにもなかったのに。
涙が一筋、頬を伝う。
「……やり直せるなら」
もっと、自分を大事にしたかった。
もっと、好きなことをすればよかった。
もっと――
(ちゃんと、誰かに愛されたかった)
意識が遠のく。
心電図の音が遠くなっていく。
そして世界は、暗闇に沈んだ。
「……ん……」
まぶしい。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
体が軽い。
呼吸が楽だ。
(……ここ、どこ?)
ゆっくり体を起こす。
見慣れた部屋。
一人暮らしをしていた大学時代のアパート。
机の上には、就活用の資料。
カレンダーには――
2018年4月12日
(え……?)
震える手でスマホを見る。
ロック画面の日付も同じ。
そして、通知。
『ゼミ飲み会 今日18:30~』
その瞬間、記憶が一気に蘇る。
ここは――
結婚する5年前。
まだ、すべてを選び直せる時間。
「……嘘……」
鏡を見る。
そこに映るのは、病で痩せ細った自分ではない。
健康だった頃の、自分。
頬をつねる。
痛い。
夢じゃない。
「……戻ってる……?」
心臓が激しく鼓動する。
そして次の瞬間、美月は床に崩れ落ちて泣いた。
生きている。
もう一度、生き直せる。
同じ失敗は、しない。
「……今度こそ」
誰かの人生じゃなく、
自分の人生を生きる。
そう決めた朝だった。
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