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6章 勇者と、魔族と、王女様
ユリウスの後悔
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~ユリウス視点~
獣人国から少し離れた場所にある広い洞窟。
その中に一台の馬車が、周囲から身を隠す様に留められていた。
手入れの行き届いた綺麗で真っ白な馬と、それに引かれる豪勢な装飾の施された車体。
この豪華な造りの馬車は、獣人国へ出発した孝志や穂花が乗っていたモノで間違いない。
そして、馬車の近く……洞窟を少し進んだ先には、魔族が遠方へと行き来する為の【ワープ装置】が設置されており、この場所は魔王軍の活動拠点の一つとなっている。
──そんなワープ装置がたった今起動し、向こうから三人の人影が転移し、この場所に姿を現すのだった。
馬車の入り口で、中に居るブローノと穂花の様子を見張っていた男、十魔衆序列一位【カルマ=カダノバス】。
彼は転移装置から現れた三人の人影を確認すると、ゆっくり彼らの下へ駆け寄った。
「──こんばんは、ユリウスさん。予定通り、本当に邪神様をお連れになられたんですね」
カルマは礼儀正しくユリウスにお辞儀する。
やって来たのはユリウスとフェイルノート、それと影の薄いウインターの三名だ。
そして話掛けられたユリウスは、カルマの問い掛けに答えた。
「ああ、お前の事だから大丈夫だとは思うが……王子と勇者に手出しはしてないよな?」
「ええ、もちろんです。それに怖がらせない様に、馬車の外に出て見張ってましたよ」
「……そうか。すまん、気を使わせて。それと面倒を掛けてしまったな」
「いえいえお気になさらず、我らは協力関係に有るのですから」
「ありがとう……(相変わらず礼儀正しい奴だな)」
これまで、ユリウスはこのカルマとやり取りをし、孝志の転移などの手助けしていた。
アルベルトがビギニングアイズで孝志を発見出来たのも、事前にあの近辺を探索するようカルマから指示を受けていたからである。
簡単に魔王軍へ行ける話になっているのも、彼のお陰であり、また、魔王軍にはカルマ以外の協力者は存在していない。
因みにだが、カルマと出会えたのはゼクス王の紹介によるモノ。
何故、ゼクス王と十魔衆のトップが面識有るのかユリウスには未だ不明だが、カルマのお陰で首尾良く計画が進んでいる。
……もっとも、ラクスール王国の情報を流している訳では無く、単に互いの目的達成による利害が一致し、それの達成に向けての協力関係に過ぎない。
また、ユリウスはテレサの事をカルマに話していない。
彼女が魔王であると知ったのが最近なのと、今話さないのは言っても理解して貰えないと思ってるからだ。
─────────
ユリウスは馬車の入り口の取手に手を掛けるも、開けて中へ入るのを躊躇っていた。
「ふぅ~……」
「大丈夫ですか?ユリウス」
「ああ……」
ユリウスが不安そうに溜息を吐くと、カルマが心配そうに声を掛ける。
馬車の入り口の前で溜息を吐いてたユリウスは、その後、頬を強く叩いた……後者の行動は気合を入れる為だ。
「──よしっ!行くかっ!」
この男が躊躇う理由はただ一つ。
これからブローノと穂花に会うのが気不味いからだ。
その事を察していたフェイルノートは、その情けない姿を目の当たりにし、呆れた様に呟く。
「……お主、案外チキンだのう」
「……うるさいね、君」
ワープ装置でこの場所へ転移する前に目を覚ましていたフェイルノートは、無理矢理眠らされた事については不満に思ったが、命を救われた恩もあるので一応ユリウスに着いて行く事にしている。
因みに孝志に与えられた傷と、アレクセイに注入された毒は既に完治した。
──その後、フェイルノートが何も言わなくなったので、ユリウスは改めて気合を入れ直し、馬車の扉を開け中へと入った。
すると中には膝を抱えて俯く橘穂花と、馬車の窓から洞窟内の真っ暗な景色を眺めるブローノの姿がそこにあった。
二人から発せられるマイナスオーラに、ユリウスは思わず尻込みする。
負のオーラが渦巻く空間だが、ブローノと穂花の仲が悪い訳ではない。
穂花が孝志以外だと人見知りするので、ブローノがそれに気を遣い、出来るだけ雑談を控えていた。
そして二人はユリウスが入って来たことに気が付くと、同時に彼を鋭く睨み付ける。
「……良く僕や橘穂花の前に顔が出せたね」
「……この節は申し訳ありません、ブローノ王子」
「………………」
ブローノは何も答えない。
一言だけ交えた後、ブローノはユリウスから視線を外し、再び何もない外の景色へ目線を移した。
まさに自業自得とは言え、子供の頃からずっと剣術の稽古をつけて来たブローノに憎悪を向けられたユリウスは胸を痛める。
ただ、胸を痛めたのは自分がそういう目で見られたからでは無く、そんな目をブローノにさせてしまった事に対してだ。
「…………」
「…………」
今も、ブローノはユリウスへ対する嫌悪感を隠そうとはしない。
優秀である事は間違いないのだが……この頑固さと、融通の効かない生真面目過ぎる性格が、王国内ではブローノに敵が多い理由でもある。
そして、このやり取りを見ていたのがユリウスに続いて中へ入って来た三名だ。
その内の一人、フェイルノートは『人間とは面倒くさいのう』と呆れ顔を見せた。
ウインターは、周りがとんでもない人物ばかりなので恐れ慄いており、先ほどから気が気でない状況……とてもユリウスの人間関係を気にしている余裕なんて無いのだ。
カルマは馬車の隅で膝を抱えている穂花を警戒する。
まともな感性を持つ十魔衆として、一番に勇者を警戒するのは当然のことだろう。
──そんな穂花は膝を抱えながらも、この状況を作り上げたユリウスを睨み付け恨み言を呟いた。
「……あなた最低ですよ」
「すまない橘穂花……計画が完了すれば無傷で孝志の元へ返すと約束しよう」
「……はぁ?」
ユリウスは安心させるため発した一言だ。
だが今の穂花にとってこの言葉は逆効果の様で、その場から立ち上がり怒った表情でユリウスへと詰め寄った。
「あ、あなたね…!自分がどれだけ孝志さんから信頼されてたと思ってるんですか!」
「……え?孝志が俺の事を信頼していたのか?」
「当たり前じゃないですか!?何を惚けてるんですかあなたはっ!………うぅ……ぐすっ」
「……!?す、すまない橘穂花、ちょ、な、なんで泣いてるの…?」
「あーあ……泣かせおったわ……最低じゃのうお主」
「……いまは、ほんと黙ってて」
空気を読まずに茶々を入れてくるフェイルノートにすかさずツッコミを入れるがキレはイマイチ。
何故、穂花が泣いているのかも解らず、どう慰めて良いのかも解ってない。
今までユリウスの周囲に居た女性陣は、アリアンを筆頭に強靭な精神力を持った女性達しか居なかったからだ。
最悪な状況にどうした物かと焦るユリウスだが、穂花は泣きながらも話を続けた。
「孝志さんは、貴方の事を信頼できる人だって言ってたんですよ…?ユリウスさんみたいな気軽に話せる大人は珍しいから、何か有ると相談とか出来るって……それなのに、孝志さんの気持ちを踏みにじる様な事をして!──安全は保証するからって……だから何ですか……グス……酷い大人です貴方は……」
「…………」
穂花の涙ながらの言葉を聞き、ユリウスは強いショックを受ける。
確かにユリウスは孝志には一目を置いているが、逆に自分がそこまで信頼されているとは思って無かった。
まさか、自身の居ないところで、その様な会話がされていたとは……
その事実をたった今知り、そして穂花の涙も含めてユリウスは急激に罪悪感が増すのであった。
──ここで窓の外を眺めていたブローノの目線は、再びユリウスへと移り変わる。
「……ユリウス……僕は貴方の事を心から信頼して居たし、貴方が酷い仕打ちをした孝志も、君のことを信じてたんだぞ?」
「…………すいません」
そうだ……安全を保証するからと言って、それは孝志と穂花にとっては何の保証にもならない事なんだ……
──二人の少年少女に諭されたユリウスは、ようやく自分の裏切りの非情さと、その残酷さを思い知った。
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