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6章 勇者と、魔族と、王女様
孝志VSカルマ
しおりを挟む──どうしよう、つい助けてしまった。
助けた直後にこんな事を言ってしまうのもアレだけど、面倒くさい案件に手を出した気がする。でも仕方なかった……此処で助けないと俺の栄誉に関わって来る。
俺はムカツク貴族達を睨み付けながら、奴らの中の誰かが雄星に対して放った言葉を思い出していた──
「今回の勇者はみんなハズレじゃない?」
──そんな酷いこと普通言う?それになんで連帯責任なの?風評被害にも程があるんだけど?
まぁ確かに能力的には俺ってハズレだけども、魔王堕としたし、何ならアッシュとかアルベルトを仲間にしたし……めっちゃ貢献してるんだが?まだ転移して一週間位しか経ってないのに魔王倒してんだぞ?普通に凄くないか?
……なのに何なんだよアイツら腹立つな。
それに一番頭に来たのが別にある。
橘を庇う訳では断じて、決して、微塵も無いけど、橘もさっき野次られた中岸さんも勝手に呼び出された被害者なのに、何で加害者の連中にあんな事言われきゃいけないんだよ。
俺達は転移する直前まで普通に暮らしてたんだ。
五人とも平凡な学園生活を送ってたし、俺に関しては上手く立ち回って生きてたから、人間関係も悪くなく過ごして来た。先生には媚びてたので内心も非常に良かった。
そんな頑張りを一瞬の内に壊されて……それなのに……あんな言われ方をされて……
……橘なんぞよりアイツらの方がムカツクわ!!
成金共がっ!言っとくけどおばあちゃん居るし、俺の方が金持ちだからあんま調子に乗んなよっ!
それに貴族ってアレじゃん?先祖の功績か何かで贅沢な暮らし出来てるだけなんだろ?よくもまぁ自分で稼いだお金でも無いのに調子に乗れるよな!!(※特大ブーメラン※)
「──決闘の邪魔しないで貰おうか?」
「ん?」
「ひぃっ!?」
今の孝志はカルマにとって戦いを邪魔しに来ただけの存在に過ぎない。そんな孝志を大人しくさせようと、カルマは自身の魔力を増幅させ圧力を掛けた。
しかし精神力が異常に高いお陰か、それとも別の因果か、孝志には精神的に負荷を与える系のスキルや魔法は一切通用しない。
後ろの雄星は怯えているが、メインターゲットの孝志は無反応なのである……此処だけ観ればマジもんの強者だ。
よってカルマは孝志へ対する警戒心をより一層強めた。
「……やはりお前は一筋縄とはいかないみたいだ」
「まぁな」
これ見よがしにイキる孝志へカルマは剣を構えた。
雄星を相手にしていた時は怒りに支配されており上手く自分を制御出来なかったが、今のカルマは違う。さっきとは打って変わりクリアな気持ちだ。好敵手を相手にする時の様に神経を極限まで研ぎ澄ませている。
(──だが、まずは相手の出方を伺うとしよう)
カルマは相手の出方を伺う為、孝志が動き出すのを待つ事にした。一緒に居る明王も仕掛けるつもりは無いようだ。
二人して様子見の姿勢を貫く。
そんな二人に孝志は対応を詰まらせる……相手が冷静だとやり難いからだ。
それにテレサの実力も孝志にとっては未知数。直ぐに仕掛けるべきか迷っていた。
「(テレサ、あの人倒せそうですかね?)」
『どうして敬語なの?──て、良く見たらカルマだ』
「(今気付いたんかい)」
『ご、ごめん、あんまり仲良く無かったし』
──カルマは魔王軍のトップじゃなかったか?流石に可哀想だから直ぐに気付いてあげようぜ……?
側近中の側近じゃないのかよ……
いや、というよりテレサって本当にカルマに勝てるんだろうか?俺って相手からなんにも感じないから、テレサの強さとかあんまり解らないし。
テレサは元魔王だから部下のカルマより強いのは間違い無いと思うけど、俺の身体を通してじゃないと攻撃出来ないという意味不明なハンデもあるし……その辺どうだろうか?
因みに俺の鍛え抜かれた見識眼だと、テレサはフェイルノートと同じ位の強さだと推測される。俺そういうの見抜くの得意だからまず間違いない。
「(しかしどうやって仕掛ける?向こうはこっちが向かって行くまで動かないと思うけど?)」
『そうだな……う~ん………じゃあ取り敢えず、掌をカルマに突き出して貰える?』
「(ん?ああオーケー、はいこんな感──)」
──────
────
──それは俺にとって何気ない動作に過ぎなかった。
ただ言われたから、言われたとお~り、掌を広げてそれをカルマに向けただけの仕草。
しかし、たったこれだけの動作こそが、カルマに強烈な一撃を叩き込む為の合図だったのだ。
「──なにぃ!!?……ぐわあぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!」
「なんじゃとぉぉぉッッッッ!!!??」
「え、あ、あれ?」
突如、テレサから孝志を通し、恐ろしく強大な力の衝撃破が放たれた。
その衝撃破はカルマを一瞬で壁際まで押しやるどころか、壁さえも簡単に突き破り、一緒に居た明王をついでに巻き込みながら、カルマを遥か彼方へと浮き飛ばす。
もちろん戦いを見届けて居た者達は、孝志が手を翳した瞬間に起こった出来事なのだから、孝志が攻撃を行ったとしか考えられない。
このフロアで意識がある者達は皆、あんぐりと大きく口を開けながら大きな穴を空け崩壊した壁を見詰めている。
「……ぬぇ?」
『あ、ご、ごめん!やり過ぎちゃった!やっぱり遠距離からの攻撃は制限が難しくって、手加減出来なかったや。カ、カルマと明王さん大丈夫かな?』
「い、いや、こんな…………えぇ~」
あの孝志が言葉も上手く発せられない位に驚いていた……念話で話すのを忘れてしまう程に。
「ま、まま、松本っ!?お、おま、お前、いつの間にそんな強くなってたんだ!?!」
「いや、何というか……」
「ずるいぞっ!どうやってそこまで強くなったか教えろっ!」
「ちょ、待って急に……!」
橘、ずるいって何だよ。
まず俺に教えを乞う前に、お前の場合強くなりたいなら修行しろ。後良く考えてみたら確かにずるいな。
俺が少し罪悪感に悩んでいると、遠くからリーシャさんが駆け寄って来る。
「ゆ、勇者孝志ッ!?あ、あなた、あ、あな……え?嘘でしょ?」
「いや、まぁ色々ありまして……」
「そ、そう?でもお陰様で助かったわ、あはは」
「どう致しまして……あの、急に壁を感じるの何でですかね?」
いや気持ちは凄く分かるよ。
多分、リーシャさんは俺が強すぎて引いてる。実際には全部テレサなんだけど、側からみたら超強いのは俺。
同じ立場ならリーシャさんみたいに低姿勢になるわ。
改めて衝撃破が放たれた場所を見てみる。
地面はかなり広範囲で破壊され、壁には巨大な隕石が直撃したかのように大きな穴ぼこが空いてる。
これが俺の手からあんな簡単に放たれたと思われてるんだ……そりゃビビるって。
いつの間にか奥本も来ていたみたいだ。
「な、何よ……」
「いや、別に」
目が合うと完全に怯えられてしまう。
さっき揉めたから酷い目に自分も遭わされるかもとか考えてるのか?そんなつもりは無いけど、敢えて訂正しないでおこう。そしたらもう絡んで来ないだろう。
「貴方……松本孝志様……ですね?」
そうこうしてる内に貴族連中までやって来た。二十人程居た中から代表と思しき一人の初老の男性が声を掛けて来る。あまり話たくない相手だけど揉めたく無いから答えるか。
「……はい、そうですけど」
俺から返答を貰うと、男性は卑しい笑を浮かべながら話始めた。
「おおっ!いやはや素晴らしいですぞ!私はベルラン・ラヤルツェスと申します!家は伯爵です!それにしても流石は異世界から来た勇者ですぞ!孝志くん!」
呼び方が孝志くんに変わりやがった図々しい。
でもこの人は中岸さんと橘を野次っていたな、確か。
離れて貰う為にこの件を利用しない手は無いだろう。
「そうか!でもベルランさんから見たら橘くんと中岸さんはダメみたいですね。同郷の勇者の縁がありますので、少し残念ですよ」
「そ、それは……」
「それは違いますわ!松本孝志様!」
「…!ま、マリスタ公爵令嬢!」
今度は見た目が実に可愛いらしい、金髪縦ロールで、いかにも貴族っぽい年下の女の人が話に加わる。
公爵の方が爵位が上なのでベルランのおっちゃんは慌てて身を引いた。
そして彼女が現れた瞬間、リーシャさんと縦ロールさんは互いに因縁があるのか睨み合う──だがそれも1秒足らずの事で、マリスタと呼ばれた女性は俺に擦り寄って来た。
「うふふ、お顔もまぁまぁ悪く無いですし、良かったら私と一緒になりません?」
(まぁまぁだと?)
余程見た目に自信があるのか、マリスタは堂々とした物言い。断られるなんて少しも思ってない。
そんな彼女を観て橘が声を荒げた。
「マリスタ。君、散々僕の周りをうろちょろしていた癖に、変わりようが凄いね」
「ふん、私の方こそ見下げ果てましたわ。幾ら顔が良くても鼻血を垂れながら蹲ってしまう男に魅力なんて感じませんもの……とっとと血だらけの顔を拭いたらどう?唯一取り柄のお顔が台無しですわ!」
「な、なんだとぉ!?この僕に向かってなんて事を言うんだ君は!」
「うふふ、こんな殿方ほっておきましょ?ね?孝志様?」
ウゼェ。
確かにこの人可愛いけど、散々可愛い女性観てきたからな……アルマスとかテレサとか穂花ちゃんとか他にも色々。見た目で優劣決めるのは良くないけど、彼女達に比べると大した事ないな。
そのままの流れでマリスタさんが腕を組んでこようとするが、念話越しのテレサが不機嫌な感じなので勿体無いけど受け入れない。
その手を振り払い、もっともらしい理由で彼女を拒絶した。
「そんな言い方ないでしょう」
「え?別に気にする必要はないわ。優秀な人間が贔屓されるのは当然ですわよ?」
「いえ、仲間を馬鹿にされるのは嫌なんですよ。そんな人と仲良くするつもりは有りません……離れて頂けませんか?さもないと──」
「な、なにッ!?ぼ、暴力はッッ!!」
「………アリアンさんに言付けますよ?」
「ごめんなさい、私が悪かったわ」
マリスタさんは一瞬で俺の前から姿を消した。
大丈夫かアリアンさん、悪名轟いでるじゃないか。
「仲間……松本、お前って奴は……」
「え?なんでそんなに嬉しそうなの橘くん?」
嘘で言っただけだからね?
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~カルマ視点~
──随分遠くまで飛ばされたようだ。
「ぼ、坊ちゃん……このまま逃げましょうぞ!」
僕は飛行スキルを有している。
しかし爺やは覚えてないので途中から担いだ。
「爺や、今おかしな事を言わなかったか?」
「おかしくないですぞい!死んでしまっては元も子もないですじゃ!」
僕は首を振って爺やの言葉を否定する。
元も子もない……?それは逃げ出した場合の話だ。
魔王軍を手中に収めるまで後一歩のところまで来た……此処さえ……あの勇者さえ倒せば、魔王軍を支配する為の障害は消えて無くなるッッ!!
アイツさえ、アイツさえ、アイツさえアイツさえアイツさえぇぇッッッッ!!!!
………
………
「爺や…………禁呪を使用する」
「……!?い、いかん!坊ちゃんの禁呪はっ!!」
「アレを使えば、僕は自分を見失う、だけど、逃げ出すよりはずっといいっ!」
「………止めても無駄じゃな?」
「………」
僕は黙って頷いた。
禁呪に巻き込む訳にはいかないので、爺やを適当な場所へ下ろし、一人でラクスール城へ向かう。
最強の敵と渡り合う為に、僕は自分の心を犠牲にする事にした。
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