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6章 勇者と、魔族と、王女様
激闘の開幕へ──!
しおりを挟む──周りに居た人達は耳を抑えながら声のする方を見上げた。
そこには遠くまで吹き飛ばした筈のカルマが居る。
あんな大声を張り上げなくても聞こえるのに、どうして叫ぶんだろうね?
それにしてもボロボロの姿で可哀想だ。
でも攻撃したのはテレサだから、俺の事はあまり恨まないでください。
「くっ!なんて殺気なの……!」
「マリア王女……!」
「私達の後ろに……!」
カルマの威圧感に当てられて苦しそうなマリア王女を、ライラとケイトが庇う様に前に立つ……だが、マリア王女を護る二人も彼女程では無いがかなり苦しそうだ。
「ご婦人、私の後ろへ……!」
「……ありがとうございます、リーシャ様……!」
ダイアナさんの事はリーシャさんに任せておけば大丈夫そうだ。
よって流れ的にエミリアちゃんは俺が守る事になる。
抱き付かれてたままなので、取り敢えずこの状態で居れば大丈夫かな?
「エミリアちゃん、少し怖いけど大丈夫だからね」
多分だけど。
「は、はい……い、今だけは甘えて良いんですよね……ライバルいっぱい居ますし、私にチャンスなんて滅多に無いんだから……うん、今だけ我儘になろう」
エミリアは腕にギュッと力を込め、より一層強く孝志に抱き付いた。
下心の方が大きかったが、孝志は心底怖がってると勘違いし、頭を撫でたりセクハラするのは辞めて素直に彼女を受け入れる事にした。
よってエミリアにとって幸せな時間が訪れるのだが、またしても『ソイツ』に邪魔される。
「──ま、ままま、松本……怖がってるようだから、す、少しの間一緒に居てやる……か、感謝しろよ……!」
ガクガク足を震わせながら橘がやって来て、しかも馴れ馴れしく俺の肩に手を乗せて来やがった……へし折ってやろうかその腕?
コイツ確実にビビってんな、マジウケるぜ。
……つーか気安く肩触られてんのムカツクし、驚かせてやるか。
「わああぁぁぁッッッ!!!!!」
「ひぃッッッ!!?」
「……ふっ」
「──!!?」
孝志の叫び声で腰を抜かしその場にヘタレ込む雄星。
それを見下すエミリア。
何故か釣られて驚くカルマ。
そして孝志は周りから冷たい目を向けられるが、それでも雄星の醜態を観れて孝志は大いに満足した。
「何事だぁッ!!!松本ぉぉッッ!!?」
「あ、ごめん気の所為だったわ」
「松本おぉぉぉッッッ!!!!」
き、気持ちいい……橘のあほヅラ見れて超楽しい。
今日は最高の気分で気持ち良く眠れるだろうなぁ。
俺の睡眠薬になってくれてありがとう橘くん。ははは。
「良い度胸だ、勇者よ──まさか此処までナメられるとはね」
「んん?何でアナタがそんな怒ってるの?」
カルマは驚かされた事に腹を立てている。
だがそれを知らない孝志は『さっき負けたからイラついてる器の小さい奴』と、カルマを評価した……実に可哀想なカルマである。
けど良く考えたら橘に煽られてキレたりと、このカルマ、実はそこまで器の大きな男では無かったりする。
──そして文句を垂れながら、カルマは孝志の方へゆっくりと歩いて行く。
人間側は、彼が近付く毎に恐怖心が強まり息を詰まらせていく。
ただ、孝志、アッシュ、アルベルトの三人だけは威圧される事なく、警戒しながらカルマを見ている。
「ふふ、やはり君は手強い……こんなにも君個人を狙って殺気を放ってるというのに、顔色一つ変えないとはね!!」
「ゆ、勇者さま……」
流石のエミリアも限界の様だ。
カルマの狙いが自分だと言うことが解り、一緒に居ると逆に危険だからと、孝志はエミリアを引き離す事にした。
「橘くん」
「な、なな、なんだ……!」
「エミリアちゃんを連れて少し離れてくれないか?」
雄星もだいぶキテル様子だが、ほぼ一般人のエミリアよりはマシだった。全く動けなくなってしまった彼女と違って少しは動ける。
だから一番近くに居た彼に、少女を託す事にした。
「わかった……彼女は連れて行こう……だが一つ約束してくれ……!」
「どうしたん?」
「絶対に死ぬなよ……?──お前に死なれたら僕は目標を失う……そしたらまた昔みたいに退屈な日々を過ごす事になる。そんなのは御免だ……さっきも言ったが負けるなら僕にだぞ……わ、忘れるな」
「わ、わかった」
お願いした通り、橘はエミリアちゃんを連れて離れたて行った。
エミリアちゃんが死ぬほど嫌そうな顔で担がれて行ったのが印象的だったけど……嫌い過ぎじゃね?
いったい彼女に何をしたんだ橘のヤツ。
あと今の橘キモかったな。
──二人が離れたのを観てカルマは語り始める。
「お荷物も消えた事だし……今度は全力勝負といこうか?僕も奥の手をみせるとしよう」
「奥の手だと?」
なんかやばそうな感じがする。
あ、お荷物で思い出した。
一緒に吹き飛ばしたジジイはどうしたんだろう?
まさか衝撃波で殺してないよな……?
「あの……ジジ……いや、明王さんはどうした?」
「爺やは置いて来た……この戦いについて来れそうにないからね」
「わかった、お前の奥の手、気○砲だろ?」
「違うわッッ!!!ふざけるなよッッ!!」
「いや、先にふざけたのそっちじゃん。あまりウケなかったからって、俺が悪いみたいに言わないでくれる!?」
「まるで意味がわからんッッ!!もしかしてお前、橘雄星以上に頭おかしいんじゃないのか!?」
「なんだとぉぉぉッッッ!!?敵同士とはいえ言っていい事と悪い事があるだろッッ!!?」
「それはごめんッッッ!!」
取り敢えず二人とも勢いが凄かった。
カルマはボロボロな上着を破り去り、気合と共に激怒しながら能力の解放を始めた。
そして孝志も雄星以上と言われてキレてる。
「──では行くぞ?禁呪──『ブラックデビル・ダークサイド』」
「(名前ださ)」
カルマがそう呟いた瞬間、場に戦慄が走る。
そして孝志以外の全員の背筋が凍り付いた。
まるで蛇に睨まれたカエルの様に、全員がカルマから垂れ流される禍々しい魔力に恐怖した。
今回に限ってはアルベルトとアッシュも例外ではない。
悪の波動に当てられた耐性のない者達が次々と気絶して行き、貴族達はもちろん、エミリアとダイアナも意識を手放してしまった。
しかしこの場はそれが正解だろう。
気を失いさえすれば圧力で精神を消耗する事はない。
恐怖を与える威圧とは意識がある者に対してこそ効果を発揮するのだから。
現に意識を保ててしまっている雄星、由梨、美咲、マリア、リーシャ、ライラ、ケイトは七人とも表情を歪め苦しそうにしていた。
(な、なんて圧なの……だと言うのに……)
必死に意識を保つマリアは孝志を見て驚愕した。
何故なら彼は普通に立っているからだ。
しかも腰に手を当てて余裕がある……というか、特になんとも感じてない様にしか見えなかった。
(一体どうなってるのかしら……?)
孝志があんなモノを一身に受けてどうして平然と居られるのか、マリアにはまるで意味が解らなかった。
──そんな中、アルベルトに驚きはない。
彼の中の松本孝志とは、あれ位の魔力耐えて当然なのだ。アルベルトの思う孝志はとてつもなくデカい男なのである。
「流石は主人様だ、私でも押される圧に此処まで耐性があるとは……凄いと思わないかアッシュ?!」
「お、おう……」
孝志の【本当】の実力を知ってるアッシュは苦笑い。
しかし、アッシュもアッシュで孝志を過大評価してるので、実力はともかく、孝志にはカルマの圧に屈しない精神的な強さがあると信じていた。
そうでなければ彼を相棒と慕ったりしない。
「アッシュ……そろそろ終わるぞ」
「ああ、そうみてぇだな──それにこの感じは……」
「恐らく、いや、間違いなくカルマは【肉体進化系】の禁呪なのだろうよ」
見た目が変化しているのが二人には見えた。
二人の思った通り、カルマの禁呪とは肉体を変化させる能力なのである。
今の段階でもとんでもない圧を放っているが、今もまだカルマは力を増幅させ続けていた。
完全な変身を遂げるのはこれからなのだ。
渦巻く砂埃でハッキリとした姿は見えない。
だが視界が晴れ、生まれ変わった姿をカルマが現したときこそ、皆が真に恐怖する時間なのだ。
──孝志……大丈夫だろうなぁ?
いざとなったらこのアッシュが助けてやるからよぉ……ヤバくなったら俺に任せてくれよなぁ?(※5連敗中)
…………
…………
次第に逆巻く魔力が治まり、それと同時に煙が晴れる。
そして変容を遂げたカルマが姿を現した。
背中には巨大で真っ黒なコウモリの羽根が生えており、目の色も血のように赤く染まっている。
また、変身前よりひと回りも巨大で、そこに人間らしかった原型は殆どない……今のカルマはどこまでも恐ろしく、魔物のような姿をしていた。
その姿はまるで───
──悪魔そのものだった。
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