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6章 勇者と、魔族と、王女様
優しい勇者
しおりを挟む「──もう暗いな」
戦いが終わり安心した俺は、消えた天井から外の景色を観てそう思った。
そういえば転移して直接城に乗り込んだので、ずっと外を見ていなかったけど、夕陽が沈んでもう直ぐ夜になる時間帯だな。
後処理をちゃっちゃと終わらせて、早くおばあちゃんの城に帰ってゆっくりしたいぜ……
指一本も動かせないほど負傷したカルマの直ぐ近くに、俺はいま立っている。
そんな状態にも関わらず、カルマは仰向けの状態で俺を睨みつけ敵意を隠そうともしない。
だからといって、身動き取れない無抵抗な奴へのトドメをテレサにお願いするのは幾ら何でも気が引ける。
「……こ、ころ……せ……」
「…………」
そうは言ってもなぁ。
以前、俺はフェイルノートを手に掛けようとした。
その時はテレサが居なかった事もあり、それしか自分が生き残る術がなかったんだ。
もしあの時、実際に彼女を殺してしまっていたら、俺はその事を一生引き摺っていたと今は思う。
邪魔してくれたユリウスさんには感謝している。
裏切った事は一生許さないけど。
だからあくまでも自分の為に殺したくはない。
今はあの時と違ってテレサも居るのだから、何とか穏便に事を運びたいところだけど……
「……ごほぉッッ!!……はぁはぁ……」
『孝志、このままほっといたら死んじゃうよ?』
「(……そうだな……取り敢えず、治してあげて)」
『いいの?』
「(うん。でも襲って来たら助けてよね?)」
『もちろんだよ』
このやり取りのあと直ぐカルマに変化が訪れた。
テレサの回復魔法で、彼の傷付いた体が徐々に回復し始めたのだ。
そして他の者から観れば、孝志が何らかの方法で治療を行っている様にしか見えないので周囲は驚いていたが、一番驚いたのは他でもない……カルマ自身だ。
少し時間が経過し、ある程度回復したカルマは起き上がり、その場に座りながら孝志に顔を向ける。
「……なぜ、俺を助けた?」
「ん?特に殺す必要を感じなかったからかな?」
「ふざけるなぁ!!」
孝志に殺す必要が無くても、カルマには死ぬ必要があったのだ。負けて生き恥を晒すだけで済むならまだしも、醜い怪物となってまでカルマは生きながらえたくは無かった。
敗北した醜い怪物を誰が迎え入れてくれるだろうか?
勇者に負けた時点で、カルマは今の自分に居場所など存在しないんだと諦めているのだ。
「……殺してくれ。俺は醜い姿に変身してまでお前を倒そうとしたんだ。全てを賭けてお前に挑んだんだ……それを失敗した以上、これから俺に希望なんてない」
「……ん?」
「……なんだ?その不思議そうな顔は?」
「……いや、醜いって……俺から観たら普通にカッコいいぞ?」
カルマは孝志を睨み付けた。
どう考えても嘘だと思ったからだ。
「勝利しておきながら言葉でも侮辱するつもりか!?」
「え?なんで怒られてるの?──いや普通にマジでカッコイイぞ?」
「それは……嘘だ……」
孝志は小さく首を振って答えた。
「いやマジマジ。体の模様もそうだけど、翼なんかもカッコいいぜ?──ダークヒーローって言ったら良いんかな?俺はそういう系統の話大好きだから、一眼見た瞬間にすげぇ良いなって思ったぞ?」
「──な、何を言ってるんだ!?ふ、ふざけてるのかッ!?それにダークヒーローってなんだっ!!」
「あ、そうか知らないよな……ダークヒーローってのはそうだなぁ……皆んなが憧れる存在……的な?」
「憧れる………本気で言ってるのか?」
カルマにとっては信じられない言葉だが、ジッと顔を見ても、孝志が嘘を付いてる様に思えなかった。
「まぁ……てかどうした?ずっと見てるけど?」
「い、いや、嘘を言ってる感じには見えないから」
「まぁ本当に思ってる事しか言ってないし」
「お、お前から観たら俺はカッコいいのか?」
「まぁな」
そうか……こいつもテレサと同じで、変身した後の見た目にコンプレックスを抱いてんだな。
だったらこの話もしとくか。
「因みにだけどな、皆んながキモがってる魔王テレサも俺から観たら究極の美少女だぜ?」
「んな馬鹿な!!!!??」
「驚き過ぎじゃね?テレサ可哀想だよ?」
『究極の美少女♫きゃっ』
ノーダメージかよ……やべぇなテレサ。
でも今はそういう空気じゃないんだよ。
「(テレサ、ちょっと真面目にいきたいから静かにして貰えるか?)」
『はい』
「(いい返事にも程があるだろ)」
──まぁいい、話を戻すか。
失礼な事にカルマは大きく目を見開き、口を金魚のようにパクつかせている。
そんなリアクションになるほどテレサの可愛いさを理解出来ないとは、勿体無いぜ……他のヤツらも全員同じことが言えるけどな。
「だから俺がおかしいだけかも知れないけど、全員が全員、お前を観て嫌な印象を抱く訳じゃないと思うぞ?」
「そう……みたいだな……」
カルマは目を閉じて俯いた。
彼が何を思ってるのか孝志には分からない。
それでもカルマから敵意が無くなったのは明らかで、孝志は一安心する。
そして次第に顔を上げたカルマは孝志にある事を尋ねた。
「………名前を……聞かせてくれないか?」
「ああ、そう言えば名乗って無かったな──俺は松本孝志……至って普通の勇者だ」
「……普通……ね」
普通な筈がない。
きっと彼は俺の事をからかってるんだろうな。
でも構わない……それに彼ならこれくらいの冗談は言ってもなんら不思議じゃない。場を和ませる事が出来る素晴らしいモノを、彼は持っているんだろうからね。
そして、こんな風に思えてしまったらもう、俺は本当に彼を敵として見る事は出来無いだろう。
「完敗だよ……力に屈服する訳じゃない……僕は君という人間に敗北した、心の底からね」
「そうか……じゃあもう死ぬなんて言うなよな?」
「はは、解った──なんか貴方と話していたら死ぬのが勿体なく思えて来たよ」
「いや、俺と話さなくても死ぬのは勿体ないから」
「………貴方が言うならそうですね」
さっきから口調変じゃね?貴方って急にどうした?
丁寧な喋り方がなんか怖いなんだけど……騙し打ちとか狙ってないよな?
話をしている内にどうやらテレサの治療が完了したらしく、カルマはその場からゆっくりと立ち上がった。
騙し打ちを一瞬だけ警戒してしまったが、やっぱり敵意を全く感じなかったので直ぐに警戒するのを止める。
いや俺が構えた所で勝てる訳ないんだけどさ。
「……それじゃ、俺……僕を助けたと言うことは、見逃してくれるって事で良いんだよね?」
意外にちゃっかりしてるな、この悪魔野郎。
でもこのまま見逃すのはマズイ気がする……一つ、条件を突き付けてみるか。
「別に良いけど、一つ条件がある」
「条件?」
「ああ──もう人間に悪さしないと言うんなら、このまま飛んで行っても良いぞ」
これを断られると流石に無視出来なくなるぞ?
どうする?
──しかし孝志の心配を他所に、カルマはハッキリとこう口にした。
「わかった。貴方がそう言うのなら約束しよう。僕は今後人間には手を出さない」
「……信じるぞ?」
所詮はただの口約束。
なんの保証もない約束だけど、俺には解る……スキルを使うまでもなく今のカルマなら、今交わした約束を破る事なんてしないと思う。
それにさっきから勝手にいろいろ決めてるけど、誰も口出しする気配がない。
超イエスマンのアルベルトはともかく、他のみんなもそうなのが意外だった……マリア王女辺りは立場的に『勝手するな』と言っても良いと思うけど、戦いを終わらせた俺に全てを任せるみたいだな。
「……信じて貰えて有難い。期待を裏切らない様にするよ──ただ一つ、こちらからもお願いが有るんだけど、良いだろうか?」
「……話によるけど?」
「貴方に限っては大丈夫だと思うけど……もし、貴方が追い詰められる様な事になった時……助けに来ても良いだろうか?」
自分側に一方的なメリットしかない願いに少し驚いた孝志だったが、茶化すような場面でも無いので素直に頷く。
「う、うん」
「──ありがとう!!その時がもし訪れたら、是非、手助けをさせてくれっ!!」
カルマは翼をはためかせながら大空へと飛び立った。
そしてこのまま飛び去るものかと思いきや、空中で静止し、一度孝志の方を振り向いた。
「──松本孝志!!貴方が僕に言ってくれた言葉は絶対に忘れない!!敗北してしまった以上、もう魔王軍に戻るつもりは無いけど、別の場所で居場所を見つけようと思うよ!貴方のように僕を受け入れてくれる居場所を!!──だから貴方もどうか元気でッ!!」
ずっと無表情だった男はここで初めて笑顔をみせた。
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