精一杯のエゴイスト

宮内

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三島修二の第一印象はとにかく涼しい顔をした男だった。
隣県にいくつかの支店がある地方都市の中小企業。そこが私の職場だ。大学を卒業して十年ずっと同じ会社に勤めている。多少の不満はあるものの、自分の実力を鑑みれば今の仕事に十分満足している。
職場は実家から通える距離なのだが、二年前三十歳になった時に実家を出て一人暮らしを始めた。
実家は天国だった。どんなに疲れて帰っても暖かい食事が用意され、清潔な衣類や寝具。最高だった。でも、家を出た。理由は簡単。「一人は寂しい。」「一人は不安。」「結婚こそが正義。」の親やご近所の過干渉に耐えられなくなったのだ。疲れ切った週末に家事に時間をとられるのは、たいして家庭的でもない私にとって憂鬱ではあるが、それでも、
「遅かったわね。どうしていたの?」
「仕事ばかりして、先のことは考えているの?」
「子供を産むのはリミットがあるのよ。」
「まだ、一人なの?」
「いい人はできた?」
そんなことをこちらの機嫌も都合も関係なしに振りかざされるわずらわしさに比べればずっとましだった。蒸し暑さが増した六月の第三金曜日のお昼休み、大学時代の友人から急な夕食の誘いが入った。私が通っていた大学は職場から電車で一時間ほどの距離にある。卒業旅行も一緒にいった友人の牧田和泉は、出身は大分だったが卒業後も大学のあるその街でアパートだけを変え働いている。
「急だな。」
と少しためらいはしたが、帰っても待っている相手も御飯もない。それに明日は休みだと思い直し了承の返事をして、手短に場所と時間だけ打ち合わせた。そうと決まれば、今日は定時で上がりたい。昼食に買ったコンビニのサンドイッチをほおばりながら午後からの仕事の段取りを考えた。
結局定時では終われなかったが、約束の時間には十分に間に合う時間に仕事を終えて駅へと急いだ。急だったのでいつもの仕事着のままだ。三十歳を超えてから少し意識しないと普通にしていても夕方頃には疲れたのかと言われんばかりの見た目になってしまう。幸い座れた急行の列車の中でボーナスも入ったし、来週は少し奮発した夏物でも買いに行こうかなと考えた。久しぶりに会う友達には、年をとったとかくたびれているとか思われたくない。これは女の見栄かプライドか。なぜだか、久しぶりに会う男友達より女友達には思われたくないのだ。待ち合わせの駅前のカフェに入ろうとしたとき和泉からメッセージが入った。
「ごめん。十五分遅れる。」
呼び出しておいて遅刻かと思ったがそこは社会人。予定通りに終わらないことだってそりゃある。私は逆に少し早く着いた。和泉が付くまで三十分。もちろんカフェで待てない時間ではないけれど、ふと思い立って、駅ビルに入った。何年か振りで入ったそこはすっかり私の仕事着には若いだろうと思うようなブランドラインが並んでいた。まだ、着られるはず。でも、及び腰になってしまう。無理して頑張っていたくなるのだけは絶対にごめんだ。私は臆病なのだ。いつもシンプルで無難なものばかり選んでしまう。四年前恋をしていた時は、少しはましだった。でも、もうあんな思いはしたくないから。苦い思い出が頭をよぎりそれを振り払うように、自分でも着られそうなラインのショップに入った。そこには、明るいペパーミントグリーンのミドル丈のスカートが飾ってあり、思わず手に取った。似合うかどうかよりも好みの美しい色で心が弾んだ。仕事帰りの服装には見えなかったが、華やぐ気持ちで思わず購入し、そのまま履いていくことにした。履いてきたグレーのタイトスカートは、小さくたたんでカバンの奥にしまった。気が付くと待ち合わせ時間は迫っており、足早に急いだ。歩くたびにはためく肌触りのよいサテンの新しいスカートは思った以上に私の気分を高揚させた。待ち合わせにカフェに入る前、タイミングよく和泉に会えた。
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