精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
29 / 63

29

 膨らむ心とは裏腹に彼に会う機会はなかなか訪れず、仕事に摩耗される日々が続いた。
その頃、会社で元カレに頻繁に声をかけられるようになった。

私は、これまであからさまに仕事以外の接触をたってきた。
彼もそれを察してか、仕事以外にはあまり声をかけてこなかった。
なのに、最近仕事にかこつけたり私が一人でいる時などやたらと声をかけてくる。
気になってはいたがこれまで通り極力かかわりをもたないように避けていた。
 

その日は、トラブルで残業になった。
午後八時、一息いれようと飲み物を買いに自動販売機に行った。
「こんな時間まで残業なんだ。」
後から急に声をかけられて驚いて振り向くと彼がいた。

「お疲れ様です。」
本当は少し休憩をしようとやってきたが、慌てて飲み物を買うと足早にその場を立ち去る。
彼の横を通り過ぎる時、急に腕をつかまれた。

「相田がさぁ。佐和のこと気になるって言ってるんだ。道下なんかも。」
突然言い出され、会話の意図も全くわからない。
私の怪訝な顔を見ても彼は気にせず話を続ける。

「最近俺の周りでもやたら佐和のこと気になるだの誘うだの言う奴が増えてきているんだよね。」
そっぽを向いて不機嫌そうに話す彼になぜそんなことを話すのかがわからなくて、私は答えもせずにその場を去ろうとした。

彼はそんな私の腕をつかみ直すと
「なんかむかつくんだよ。元々、佐和の魅力を見つけたのは俺なのに周りの奴が今さらそんなこと言うのってほんとむかつく。何、急に言ってんだって感じだよな。」
同意を求めるような視線を向けられても、何を言っているのかさっぱりわからなかったしわかりたくもなかった。
相手にすること自体が馬鹿らしく
「手を離してもらえますか。」
そう言って掴まれた腕を引き抜こうとしたけれど、握る手の力は強く離れない。
もがくように大きく腕をふる。
なのに彼はつかむ手の力を強める。
そして強引に自分の方に引き寄せ
「ずっと後悔してるんだ。なんで佐和を手放しちゃったんだろうって。佐和と結婚しとけばよかった。」
思ってもいなかった言葉。

「なにいってるんですか。」
腹が立ちすぎて思わず大きな声がでた。
「俺、あの時カッコいいだの頼りになるだの持ち上げられて、すっかりほだされてつい出来心で。そしたら佐和は俺を好きじゃないだの。いじめられてるだの言われて誤解しちゃって。間違ってたよ。」

何を言っているのだろう。
別れの言葉すら言わずに、けじめもつけず、あらぬ疑いや濡れ衣を着せられていた私を見てみないふりしたくせに、何をどう思ったらそんなことを私に言えるんだろう。

「あいつらなんかより、俺の方がずっと佐和のことわかってるんだ。」
腕をつかむ手にさらに力が入り腕が痛い。
これまでの積もっていた気持ちをぶちまけて、私がどれほど傷ついたか、どんな思いでこの四年ここで働いてきたか言ってしまおうかと思ったけれど、ここは職場。
少なくなったとは言えまだ社員も残っている。

そして、それは今の自分にはもう必要ないことのように思えた。
願わくば、金輪際顔も見たくないしこんな風に声かけたりしないでほしい。
関わり合いになりたくない。
それだけだった。

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・