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膨らむ心とは裏腹に彼に会う機会はなかなか訪れず、仕事に摩耗される日々が続いた。
その頃、会社で元カレに頻繁に声をかけられるようになった。
私は、これまであからさまに仕事以外の接触をたってきた。
彼もそれを察してか、仕事以外にはあまり声をかけてこなかった。
なのに、最近仕事にかこつけたり私が一人でいる時などやたらと声をかけてくる。
気になってはいたがこれまで通り極力かかわりをもたないように避けていた。
その日は、トラブルで残業になった。
午後八時、一息いれようと飲み物を買いに自動販売機に行った。
「こんな時間まで残業なんだ。」
後から急に声をかけられて驚いて振り向くと彼がいた。
「お疲れ様です。」
本当は少し休憩をしようとやってきたが、慌てて飲み物を買うと足早にその場を立ち去る。
彼の横を通り過ぎる時、急に腕をつかまれた。
「相田がさぁ。佐和のこと気になるって言ってるんだ。道下なんかも。」
突然言い出され、会話の意図も全くわからない。
私の怪訝な顔を見ても彼は気にせず話を続ける。
「最近俺の周りでもやたら佐和のこと気になるだの誘うだの言う奴が増えてきているんだよね。」
そっぽを向いて不機嫌そうに話す彼になぜそんなことを話すのかがわからなくて、私は答えもせずにその場を去ろうとした。
彼はそんな私の腕をつかみ直すと
「なんかむかつくんだよ。元々、佐和の魅力を見つけたのは俺なのに周りの奴が今さらそんなこと言うのってほんとむかつく。何、急に言ってんだって感じだよな。」
同意を求めるような視線を向けられても、何を言っているのかさっぱりわからなかったしわかりたくもなかった。
相手にすること自体が馬鹿らしく
「手を離してもらえますか。」
そう言って掴まれた腕を引き抜こうとしたけれど、握る手の力は強く離れない。
もがくように大きく腕をふる。
なのに彼はつかむ手の力を強める。
そして強引に自分の方に引き寄せ
「ずっと後悔してるんだ。なんで佐和を手放しちゃったんだろうって。佐和と結婚しとけばよかった。」
思ってもいなかった言葉。
「なにいってるんですか。」
腹が立ちすぎて思わず大きな声がでた。
「俺、あの時カッコいいだの頼りになるだの持ち上げられて、すっかりほだされてつい出来心で。そしたら佐和は俺を好きじゃないだの。いじめられてるだの言われて誤解しちゃって。間違ってたよ。」
何を言っているのだろう。
別れの言葉すら言わずに、けじめもつけず、あらぬ疑いや濡れ衣を着せられていた私を見てみないふりしたくせに、何をどう思ったらそんなことを私に言えるんだろう。
「あいつらなんかより、俺の方がずっと佐和のことわかってるんだ。」
腕をつかむ手にさらに力が入り腕が痛い。
これまでの積もっていた気持ちをぶちまけて、私がどれほど傷ついたか、どんな思いでこの四年ここで働いてきたか言ってしまおうかと思ったけれど、ここは職場。
少なくなったとは言えまだ社員も残っている。
そして、それは今の自分にはもう必要ないことのように思えた。
願わくば、金輪際顔も見たくないしこんな風に声かけたりしないでほしい。
関わり合いになりたくない。
それだけだった。
その頃、会社で元カレに頻繁に声をかけられるようになった。
私は、これまであからさまに仕事以外の接触をたってきた。
彼もそれを察してか、仕事以外にはあまり声をかけてこなかった。
なのに、最近仕事にかこつけたり私が一人でいる時などやたらと声をかけてくる。
気になってはいたがこれまで通り極力かかわりをもたないように避けていた。
その日は、トラブルで残業になった。
午後八時、一息いれようと飲み物を買いに自動販売機に行った。
「こんな時間まで残業なんだ。」
後から急に声をかけられて驚いて振り向くと彼がいた。
「お疲れ様です。」
本当は少し休憩をしようとやってきたが、慌てて飲み物を買うと足早にその場を立ち去る。
彼の横を通り過ぎる時、急に腕をつかまれた。
「相田がさぁ。佐和のこと気になるって言ってるんだ。道下なんかも。」
突然言い出され、会話の意図も全くわからない。
私の怪訝な顔を見ても彼は気にせず話を続ける。
「最近俺の周りでもやたら佐和のこと気になるだの誘うだの言う奴が増えてきているんだよね。」
そっぽを向いて不機嫌そうに話す彼になぜそんなことを話すのかがわからなくて、私は答えもせずにその場を去ろうとした。
彼はそんな私の腕をつかみ直すと
「なんかむかつくんだよ。元々、佐和の魅力を見つけたのは俺なのに周りの奴が今さらそんなこと言うのってほんとむかつく。何、急に言ってんだって感じだよな。」
同意を求めるような視線を向けられても、何を言っているのかさっぱりわからなかったしわかりたくもなかった。
相手にすること自体が馬鹿らしく
「手を離してもらえますか。」
そう言って掴まれた腕を引き抜こうとしたけれど、握る手の力は強く離れない。
もがくように大きく腕をふる。
なのに彼はつかむ手の力を強める。
そして強引に自分の方に引き寄せ
「ずっと後悔してるんだ。なんで佐和を手放しちゃったんだろうって。佐和と結婚しとけばよかった。」
思ってもいなかった言葉。
「なにいってるんですか。」
腹が立ちすぎて思わず大きな声がでた。
「俺、あの時カッコいいだの頼りになるだの持ち上げられて、すっかりほだされてつい出来心で。そしたら佐和は俺を好きじゃないだの。いじめられてるだの言われて誤解しちゃって。間違ってたよ。」
何を言っているのだろう。
別れの言葉すら言わずに、けじめもつけず、あらぬ疑いや濡れ衣を着せられていた私を見てみないふりしたくせに、何をどう思ったらそんなことを私に言えるんだろう。
「あいつらなんかより、俺の方がずっと佐和のことわかってるんだ。」
腕をつかむ手にさらに力が入り腕が痛い。
これまでの積もっていた気持ちをぶちまけて、私がどれほど傷ついたか、どんな思いでこの四年ここで働いてきたか言ってしまおうかと思ったけれど、ここは職場。
少なくなったとは言えまだ社員も残っている。
そして、それは今の自分にはもう必要ないことのように思えた。
願わくば、金輪際顔も見たくないしこんな風に声かけたりしないでほしい。
関わり合いになりたくない。
それだけだった。
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