精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
48 / 63

48

なんて諦めが悪いんだろう。
諦めたふりをして彼の気を引こうとしている惨めな女だ。
そう考えが至って口に出そうとした言葉を飲み込んだ。重ねられた手を払いのけることもせず、私は窓の外に視線を投げだし、零れ落ちそうな涙を気が付かれないようにした。

晩秋の静かな朝は車も少なく、どこに向かっているのかわからない私は流れる景色をまるで目に焼き付けるように見続けた。
「ちょっと寄り道してもいいかなぁ。」
彼は見えてきた看板に何かを持ったのかウィンカーを出す。

それはゆっくり山道のほうに行き高台にある展望台の駐車場で車を停める。
「降りよう。」
開けられたドアから手を引かれて車を降りて三島さんについて歩く。

まだ朝早い時間のせいか人はおらず私たちの前にまだモヤのかかった空が広がる。
彼は私の手を握りながらその高台で立ち止まりゆっくり振り返る。

「多分初めて会った時から君に惹かれていた。駅で偶然会えた時、俺に風が吹いてるって思ったんだ。一緒に映画を見に行って一緒に食事をしてどんどん惹かれていった。三十も過ぎてこんなに人のこと好きになったり欲しいって思ったりするんだなって。高校生みたいだよな。でも抑えきれなくて言葉が足りないなんて気づいてもなかった。伝わってるって思ってたんだ。大事な子や特別じゃない子にあんなことしないよ。」
向き直って彼が言う。

「佐和ちゃん。好きだよ。会った時からずっと君が欲しくてしようがない。そばにいて欲しいんだ。」
ずっと欲しかった言葉が溢れ出るように彼から聞けて私は思わず息をすることを忘れそうになる。

彼はぐっと私を抱き寄せて
「不安にさせないように努力する。もっと言葉を尽くすように努力するだから僕のそばにいて欲しい。」

「ごめんなさい。私、自分の自信のなさを三島さんを疑うことで軽くしようとしていました。三島さんみたいな人に自分が選ばれるわけないって、そう思った方がいろんなことが納得できて。」
ボロボロと泣く私の頬をそっと指の腹で押さえながら
「僕は好きじゃない子のことを追いかけて駅で待ち伏せしたりしないよ。正直マメな方でもないし、メッセージのやりとりなんて苦手なんだけど。でも、気がついたら時間がどんどん過ぎて。佐和ちゃん一緒にいてくれる。俺と付き合ってほしい。」
見上げると彼が私の方を見つめていた。
幸せ過ぎて涙が止まらないのに笑っていた。
「めんどくさい女ですよ。」
「そこもかわいいと思ってる。」
三島さんは私を強く抱きしめた。

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・