精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
57 / 63

57

「佐和ちゃん。」
ゆっくり顔を上げると想像もしていなかったようないたずらな笑顔だった。
感情が追い付かず、視線の預け先すらわからない。
 
「また、考え過ぎてるから。」
「え。」
「また、よくない推測してるでしょ?」
よくない推測・・・。
しかできない。
 
言葉を発しない私にやわらかく笑いながら
「それ、全部違うから。」
全部違う。その言葉が他人事みたいに耳の奥に響く。
 
「ちゃんと色々準備してからしたかったんだけど。」
そう言うと彼は私の手をとって
「僕と結婚してもらえませんか。」
と跪いた。
 
「仕事の事やこれからのこと色々話し合わないといけないことはあると思う。だけど、俺はこれからも佐和ちゃんと一緒にいたい。」
 
噓みたいに。
本当に予想していない言葉だった。
だからうまく呑み込めない。
うまく息できない。
 
「その内そうなるって思っていたけど、まだ佐和ちゃんとそのことちゃんと話したことなかったし。結婚ってなれば、ほら、人生の色んな選択をしていかないといけないでしょ。だから、こういうイレギュラーな出来事で、勢いみたいに決めるのって佐和ちゃん嫌かなって。でも、今伝えさせて。」
そこで言葉を切った三島さんは私を向き合わせ目を合わせて
「僕と結婚してください。」
ほんの何秒か前まで終わるんだと思っていた。
また、選ばれなくて。
 
でも、それでも幸せだったとあなたとの日々はとても幸せだったと。
笑顔の自分を覚えていてほしいなんてエゴイスティックに自分の物差しだけで全部の状況を当てはめて。私って本当に何も成長できていないと反省なるものが頭をよぎっているのに三島さんの言葉が私のすべての感情を持ち去る。
 
気がついたら私は泣いていた。
ボロボロと。
何も答えられないでいる私を覗き込み
「佐和ちゃん?」
優しく笑う。
きっと答えなんてわかっている。
私の考えていることなんて全部お見通しなんだろう。
あまりの幸せと少しの口惜しさで、泣き笑いになりながら何度もうなずく。
「俺と結婚してくれるの?」
「はい。」
「よろしくお願いします。」
涙は全然止まらないし、泣いているのに笑顔をみせたくて、みっともなく泣き笑いになる。
 

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・