根雪の証

宮内

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「雪乃。聞いているのか。」

兄の強い口調に我に帰る。

「すみません。学校へは、学年末で退職することを申し出て了承をいただいております。この家も三月末で退去すると大家さんにお伝えしております。」

兄はほとほと呆れたと言うよう何かを言いたい様な言葉を選んでいるように息をつき

「何と言う事だ。お前は少しも変わっていないな。なぜ思い込みだけで動こうとする。きちんと状況を見極めるべきだろう。お前はもう十分に大人と言って良い年だ。人を教える立場でありながら、そのようなことで良いのか心配になるぞ。」

「申し訳ありません。」

兄との会話は、今の私には全く頭に入ってこず、これからどうしたらいいんだろう。
何をすべきなのだろう。
何が本当のことなのだろう。
そんな果てしない疑問ばかりが浮かんだ。

「とりあえず学校や家主に撤回ができるかを確認してみると良い。私が一緒に行こうか?」

そこで初めて兄が今回のことを非常に心配しているのだと言うことがわかった。

「ありがとうございます。でも大丈夫です。自分でなんとかいたします。」

「何とかと言うが大丈夫そうなのか?それを申してたのはいつぐらいだ?」

「一カ月ほど前でございます。」

「そうか。住まいのほうはわからないが、学校のほうは難しいだろうな。もし撤回が叶わなかった場合、あてはあるのか?」

愚かしい話なのだろうがそのような事態になると思っても見なかった。
想像すらしていなかった。

「ありません。」

「家に帰ってきても良いのだぞ。父上には、私が話をつける。大丈夫だ。もう今はお前の盾になってやれる位の力をつけたつもりだ。」

「お兄様。」

以前もそうだった。
私が気がついていなかっただけで、兄はいつも私を気にかけてくれていた。

以前、『今はお前の盾になってはやれないが』と言ったあの日の言葉が思い出された。

「大丈夫です。私、啓介さんに会いに行ってみます。」

「雪乃。」

「お兄様が聞かれた噂は社交界のお話でございましょう。啓介様とその方を結婚させたい方が流された話かもしれません。啓介さんに会って確かめて参ります。」

「雪乃。この話は、父上が富山様から聞いた話だ。まず間違いは無い。」

「啓介様に直接会って聞いてみます。」
 
「雪乃。」

兄の声は、まるで私に諦めろと現実を見ろと言っているようだった。
うつむいているだけの私に

「わかった。では、これから私も一緒に行こう。表に車がある。そのほうが早かろう。」

「今からでございますか?どこにおられるかもわかりません。」

兄が立ち上がろうと浮かした腰を息を飲むのと同時に下ろした。
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