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オーパーツ奪還作戦
第24話 アグニの塔 End chapter
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半開きの扉から音をたてないように中に入り込み、すぐに物陰へと移動する。ロイの後を同じようにユキノとマナブが着いてくる。
『聖剣特性強化』
マナブの穢れをロイが浄化した際に得た能力、これを活用する事にした。
ロイがフロアの中央を覗き込むと、ボスと交戦を始めたハルト一行を確認することができた。
準火竜種の大火球をハルトが光の剣で薙ぎ払い、サリナが雷を纏った槍で攻撃しているが鱗を貫く事が出来ていない。そして鱗に弾かれたサリナはサラマンドラの尻尾で叩かれ吹き飛んだ。攻撃は芳しくなかったが、吹き飛んだサリナをハルトが受け止め、神官の女が回復を施す……カバーは完璧だった。恐らく、戦い方を神官の女から学んだのだろう。
「ハルト、私がいた頃より連携が取れてる……」
隣で呟くユキノ、息の合った二人のコンビネーションがその親密さを表しており、それを見た彼女は心なしか寂しそうな表情を浮かべていた。
「ああっと……その、なんだ。そう言うのにはなれねえけどさ。俺が……いるだろ?それに、ほら、マナブもいるじゃねえか」
「───え?」
ユキノは頬を染め、目尻にほんの少しだけ涙を浮かべて答える。
「ロイさん!…………ありがと」
「うっ」そんなロイの声が一瞬出たあと、隣でニヤニヤしてるマナブを一瞥したロイは頭にチョップをかまして戦闘観戦へと戻る。
☆☆☆
ハルトは聖剣に極光を付与、サリナは魔槍に紫雷を付与して戦っている。
準火竜種は火蜥蜴同様、四つん這いで外皮を覆う鱗が硬い事で有名だ。初心者から一人前へと至る登竜門として知られるアグニの塔は、ボスの攻略法が一般常識として知れ渡っている。
1:水属性を扱う魔術師を連れて攻撃する
この方法なら鱗の硬度を支えている火の魔力を消し去る事が出来るので難易度が格段に下がる。
2:土魔術でひっくり返して腹を攻撃する
実は腹の部分は鱗で覆われていないので隆起系土魔術でひっくり返すと割りと楽に倒せる。ロイ達はハルト無力化後、この方法を取る予定。
※隆起系上級土魔術の場合、そのまま串刺しに出来るがそのレベルの使い手はそもそもここには来ない
ピシッ
サリナの攻撃”ライトニングスピア”によって準火竜種の額に亀裂が入った。貫通力の高い雷属性であること、それに加えて同じ箇所を攻撃し続けたが故に成し得た結果である。(脳筋法)
サリナが着地後、バックステップで距離を取ると腰を落として長めの攻撃体勢に移った。
「ハルト!もう少し時間稼ぎお願い!」
「わかった!守りは任せてくれ!”敵視集中”」
ハルトの剣が光で明滅し敵の注意を集め、続けて剣を地面に突き立て聖騎士系スキルを発動する。
「”鉄壁”」
カンッ!カンッカンッ!
準火竜種の爪や尻尾、果ては大火球による攻撃すらハルトに対して有効な攻撃とはならなかった。
よし、サリナの”竜槍”まで時間を稼げばこちらの勝ちだ!ハルトはそう確信していたが次の瞬間、背後から悲鳴が聞こえてきた。振り返るとサリナの首に短剣を突き付けた黒髪の男が立っていた。
遅れてフードを目深に被った小柄な人間と、別行動を取ってるはずのマナブが合流してきた。
「マナブ、これはどういうこと……だッ!」
ガンッ!
敵視集中を使ったのが仇となり、絶え間無い攻撃に会話も難しい。この状況を打開出来るであろう神官の女は更に後方で気絶している。鉄壁のスキルも効果時間が迫っている……ハルトの脳裏に絶体絶命の文字が浮かび上がった。
☆☆☆
サリナの魔力が臨海に達する直前、ロイは全力で地を駆け”シャドーウィップ”を槍に巻き付けてサリナの腹部に掌底を放ち、続けてマナブが上空に放った”ストーンランス”を聖剣射出により破壊、瓦礫が神官に降り注ぎ防御魔術も虚しく気絶した。
起き上がったサリナの背後に回って短剣を当てたところでハルトがこちらに気付いた。
「マナブ、これはどういうこと……だッ!」
ハルトは聖騎士系のスキルにより今も攻撃を受けている。例え解除してもあの位置じゃ結局攻撃を受けるだろう。ハルトの体の表面に緑色のオーラが見えると言うことは防御スキルも合わせて使っている事がわかる。
ロイは今のうちにサリナの穢れを浄化することにした。
「サリナ、今からお前の穢れを浄化する。動くなよ?」
「は?あんた何言って──きゃあああっ!」
ロイは───サリナの胸に触れた。マナブの時と同じく黒い靄が吸い込まれる。少し様子を見るがサリナの性格が戻った様には感じない。
なんだ?マナブの時みたいに変わらないのか?何故だ?いや、マナブは男だから薄い、サリナは女だから厚い……きっとその差だろう。ロイはさらに続ける。
ムニュ、モニュ、ムニュ……。
「──っ!ハルトの前でッ!……クッ、殺せ!」
「サリナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ハルトの慟哭が木霊する。……何だ、これでは俺が悪者じゃないか。女性経験の無いロイはそこで疑問を口にした。
「俺がいつも浄化するときは変な声を上げるのにコイツは微塵も声が出なかったぞ?」
その問いにマナブが答える。
「ああ、それはシラサトさんが──ムグッ!」
が、ユキノがマナブの首を魔杖で絞めた為に答える事が出来なかった。さすがに悪いと思ったロイは手を離し、ステータスを確認する。
グラム+60↑
総合力5690
『聖剣特性強化』
テュルソス+60↑
総合力5130
『スキル向上』
上がっている。だが、追加項目は増えていない……毎回増える訳じゃないのか。っと思案に耽っているとハルトが叫び声を上げた。
「要求を言え!!サリナを解放しろ!」
「要求か、武器を捨てろ……は無理か。その状況で武器を捨てれば死ぬもんな、一応お前らのような奴にも生きててほしいって思ってる人がいるからさ。じゃあオーパーツを返してもらおうか?」
「これは世界を救う鍵……僕は世界を救わなきゃいけないんだ」
「サリナに傷が付いてもいいのか?治癒魔術も時間が経ち過ぎたら跡が残るぞ?」
ロイの言葉にハルトが銀の球体をネックレスごと引きちぎろうとしたその時、ロイの後ろからブンブンと空気を裂きながら物体が接近してきた。咄嗟にロイはサリナごと横に飛んで避けた。
その物体はそのまま火竜種の額をぶち抜き、火竜種は粒子となって消えた。カランカランと落ちたその物体は黒色の手斧だった。すぐにロイが叫ぶ。
「マナブ!」
「はい、ボス!」
マナブがユキノを連れて手斧を投げたであろう人物から距離を取った。
「あ~あ、惜しかったな~。バレちゃ仕方ねえか、いつまでも女装なんかしてられねえからなぁ」
その言葉を皮切りに女神官の像が揺らぎ始め、次第に真の姿へと変わっていった。それは黒い甲冑だった。今まで武威を抑えていたのか場の空気が一気に重くなる。
「あなたは……黒騎士カイロ……さん。どうしてここへ?」
「そりゃあ、お前の監視に決まってるだろ?折角王さまから貴重な武器を頂いたってのに、ユキノちゃんは生き埋めになるわマナブ君は別行動取るわ、お前らどうなってんの?しかも、俺様が魔道具で女装してまで戦術指南してもその様かい……ほら、呆けてねえでさっさとその男を殺せ」
「いや、しかし……サリナが……」
「……はぁ。甘いな~、世界を救うんだろ?色恋してる場合じゃねえぞっと!」
黒騎士カイロはサリナを人質に取っているにも関わらず再度手斧を投げてきた。
「”祝福盾”!!」
ガヒンッ!
スキルで守ったユキノのフードが衝撃波で捲れ上がる。それを見たハルトは口をパクパクさせながらその名を呼ぶ。
「ユキノ……?」
「……ごめん、ハルト。私、生きてる。でもあなたとサリナの事も……全部、知ってる」
今まで”シャドーウィップ”から逃れようと抵抗していたサリナが膝を折って座り込み、泣き始めた。ここで全てが暴露され折角手に入れたハルトを奪われると、それで泣いているのだろう。
ハルトが近付こうとする。
「来ないでッ!……私のところには来ないで。あなたが誤解してるって知ってる。でも、それでも選んだのはあなた、過去よりも今を大事にして?幼馴染みとしての……お願いです」
「そんな、僕は……どうすれば……?うああああああああああ!」
ハルトの叫びを聞いた黒騎士はズシズシと音を立てながらハルトの方へ歩み寄る。
「プッ、ハハハハハハ!ユキノちゃんが生きてたのは驚いたが、よりにもよって……寝取られてやがる……クッ、ハハハハハハ」
「わ、私は……そういうことはまだしてません!!」
黒騎士はハルトを気絶させて肩に担ぎ、奥のフロアへと歩いていく。「逃がすかッ!」ロイが背中を斬りつけようと走り出した瞬間、黒い炎がロイを焼いた。
「ぐあああああッ!」
「ロイさん!?」
そして倒れ込むロイに手斧が追撃をかける──がそれは突如弾かれた。その者は白いマント、白いドレスを着ており、白い手袋には獅子の紋章の刺繍が施されていた。何より一際目を引くのは手にしている白銀の槍だった。
「ほら、手伝いなさい。ロイをここで失う訳にはいかないでしょ?」
「は、はい!」
ロイをユキノとマナブで担ぐ。セミロングの銀髪をなびかせた白き人は黒炎の壁へと向き直る。
「なんだよ……帝国が介入するってのか?」
「いいえ、ワタクシはすでに貴族でも帝国の人間でもありません」
「そりゃ詭弁だろ。お前には負ける気がしねえが、俺様の手斧をスキル無しで弾いたって事はそこそこやるってことだ。捨て身覚悟で勇者とオーパーツをマグマに落とされちゃあ大目玉だ。いいぜ、見逃してやる」
「理解が早くて助かりますわ、それではごきげんよう」
黒騎士は解放の祭壇へと進んでいく、そしてロイの一行が塔を脱出したとき、天を貫く光の柱が現れた。その日から世界に火の魔素の大量発生が各地で確認された。
事情を知ってる各国の上層部は「愚かな」と語り、自国の鍛冶職人へと武具の発注を始める。事情を知らない民衆は救いの光として崇める。
ワタクシはあなたが生きてくれるなら戦乱に巻き込まれようと構わない。だからロイ、生きてね。
※アグニの塔攻略により冒険者ランクがE→Dへと昇格しました。
『聖剣特性強化』
マナブの穢れをロイが浄化した際に得た能力、これを活用する事にした。
ロイがフロアの中央を覗き込むと、ボスと交戦を始めたハルト一行を確認することができた。
準火竜種の大火球をハルトが光の剣で薙ぎ払い、サリナが雷を纏った槍で攻撃しているが鱗を貫く事が出来ていない。そして鱗に弾かれたサリナはサラマンドラの尻尾で叩かれ吹き飛んだ。攻撃は芳しくなかったが、吹き飛んだサリナをハルトが受け止め、神官の女が回復を施す……カバーは完璧だった。恐らく、戦い方を神官の女から学んだのだろう。
「ハルト、私がいた頃より連携が取れてる……」
隣で呟くユキノ、息の合った二人のコンビネーションがその親密さを表しており、それを見た彼女は心なしか寂しそうな表情を浮かべていた。
「ああっと……その、なんだ。そう言うのにはなれねえけどさ。俺が……いるだろ?それに、ほら、マナブもいるじゃねえか」
「───え?」
ユキノは頬を染め、目尻にほんの少しだけ涙を浮かべて答える。
「ロイさん!…………ありがと」
「うっ」そんなロイの声が一瞬出たあと、隣でニヤニヤしてるマナブを一瞥したロイは頭にチョップをかまして戦闘観戦へと戻る。
☆☆☆
ハルトは聖剣に極光を付与、サリナは魔槍に紫雷を付与して戦っている。
準火竜種は火蜥蜴同様、四つん這いで外皮を覆う鱗が硬い事で有名だ。初心者から一人前へと至る登竜門として知られるアグニの塔は、ボスの攻略法が一般常識として知れ渡っている。
1:水属性を扱う魔術師を連れて攻撃する
この方法なら鱗の硬度を支えている火の魔力を消し去る事が出来るので難易度が格段に下がる。
2:土魔術でひっくり返して腹を攻撃する
実は腹の部分は鱗で覆われていないので隆起系土魔術でひっくり返すと割りと楽に倒せる。ロイ達はハルト無力化後、この方法を取る予定。
※隆起系上級土魔術の場合、そのまま串刺しに出来るがそのレベルの使い手はそもそもここには来ない
ピシッ
サリナの攻撃”ライトニングスピア”によって準火竜種の額に亀裂が入った。貫通力の高い雷属性であること、それに加えて同じ箇所を攻撃し続けたが故に成し得た結果である。(脳筋法)
サリナが着地後、バックステップで距離を取ると腰を落として長めの攻撃体勢に移った。
「ハルト!もう少し時間稼ぎお願い!」
「わかった!守りは任せてくれ!”敵視集中”」
ハルトの剣が光で明滅し敵の注意を集め、続けて剣を地面に突き立て聖騎士系スキルを発動する。
「”鉄壁”」
カンッ!カンッカンッ!
準火竜種の爪や尻尾、果ては大火球による攻撃すらハルトに対して有効な攻撃とはならなかった。
よし、サリナの”竜槍”まで時間を稼げばこちらの勝ちだ!ハルトはそう確信していたが次の瞬間、背後から悲鳴が聞こえてきた。振り返るとサリナの首に短剣を突き付けた黒髪の男が立っていた。
遅れてフードを目深に被った小柄な人間と、別行動を取ってるはずのマナブが合流してきた。
「マナブ、これはどういうこと……だッ!」
ガンッ!
敵視集中を使ったのが仇となり、絶え間無い攻撃に会話も難しい。この状況を打開出来るであろう神官の女は更に後方で気絶している。鉄壁のスキルも効果時間が迫っている……ハルトの脳裏に絶体絶命の文字が浮かび上がった。
☆☆☆
サリナの魔力が臨海に達する直前、ロイは全力で地を駆け”シャドーウィップ”を槍に巻き付けてサリナの腹部に掌底を放ち、続けてマナブが上空に放った”ストーンランス”を聖剣射出により破壊、瓦礫が神官に降り注ぎ防御魔術も虚しく気絶した。
起き上がったサリナの背後に回って短剣を当てたところでハルトがこちらに気付いた。
「マナブ、これはどういうこと……だッ!」
ハルトは聖騎士系のスキルにより今も攻撃を受けている。例え解除してもあの位置じゃ結局攻撃を受けるだろう。ハルトの体の表面に緑色のオーラが見えると言うことは防御スキルも合わせて使っている事がわかる。
ロイは今のうちにサリナの穢れを浄化することにした。
「サリナ、今からお前の穢れを浄化する。動くなよ?」
「は?あんた何言って──きゃあああっ!」
ロイは───サリナの胸に触れた。マナブの時と同じく黒い靄が吸い込まれる。少し様子を見るがサリナの性格が戻った様には感じない。
なんだ?マナブの時みたいに変わらないのか?何故だ?いや、マナブは男だから薄い、サリナは女だから厚い……きっとその差だろう。ロイはさらに続ける。
ムニュ、モニュ、ムニュ……。
「──っ!ハルトの前でッ!……クッ、殺せ!」
「サリナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ハルトの慟哭が木霊する。……何だ、これでは俺が悪者じゃないか。女性経験の無いロイはそこで疑問を口にした。
「俺がいつも浄化するときは変な声を上げるのにコイツは微塵も声が出なかったぞ?」
その問いにマナブが答える。
「ああ、それはシラサトさんが──ムグッ!」
が、ユキノがマナブの首を魔杖で絞めた為に答える事が出来なかった。さすがに悪いと思ったロイは手を離し、ステータスを確認する。
グラム+60↑
総合力5690
『聖剣特性強化』
テュルソス+60↑
総合力5130
『スキル向上』
上がっている。だが、追加項目は増えていない……毎回増える訳じゃないのか。っと思案に耽っているとハルトが叫び声を上げた。
「要求を言え!!サリナを解放しろ!」
「要求か、武器を捨てろ……は無理か。その状況で武器を捨てれば死ぬもんな、一応お前らのような奴にも生きててほしいって思ってる人がいるからさ。じゃあオーパーツを返してもらおうか?」
「これは世界を救う鍵……僕は世界を救わなきゃいけないんだ」
「サリナに傷が付いてもいいのか?治癒魔術も時間が経ち過ぎたら跡が残るぞ?」
ロイの言葉にハルトが銀の球体をネックレスごと引きちぎろうとしたその時、ロイの後ろからブンブンと空気を裂きながら物体が接近してきた。咄嗟にロイはサリナごと横に飛んで避けた。
その物体はそのまま火竜種の額をぶち抜き、火竜種は粒子となって消えた。カランカランと落ちたその物体は黒色の手斧だった。すぐにロイが叫ぶ。
「マナブ!」
「はい、ボス!」
マナブがユキノを連れて手斧を投げたであろう人物から距離を取った。
「あ~あ、惜しかったな~。バレちゃ仕方ねえか、いつまでも女装なんかしてられねえからなぁ」
その言葉を皮切りに女神官の像が揺らぎ始め、次第に真の姿へと変わっていった。それは黒い甲冑だった。今まで武威を抑えていたのか場の空気が一気に重くなる。
「あなたは……黒騎士カイロ……さん。どうしてここへ?」
「そりゃあ、お前の監視に決まってるだろ?折角王さまから貴重な武器を頂いたってのに、ユキノちゃんは生き埋めになるわマナブ君は別行動取るわ、お前らどうなってんの?しかも、俺様が魔道具で女装してまで戦術指南してもその様かい……ほら、呆けてねえでさっさとその男を殺せ」
「いや、しかし……サリナが……」
「……はぁ。甘いな~、世界を救うんだろ?色恋してる場合じゃねえぞっと!」
黒騎士カイロはサリナを人質に取っているにも関わらず再度手斧を投げてきた。
「”祝福盾”!!」
ガヒンッ!
スキルで守ったユキノのフードが衝撃波で捲れ上がる。それを見たハルトは口をパクパクさせながらその名を呼ぶ。
「ユキノ……?」
「……ごめん、ハルト。私、生きてる。でもあなたとサリナの事も……全部、知ってる」
今まで”シャドーウィップ”から逃れようと抵抗していたサリナが膝を折って座り込み、泣き始めた。ここで全てが暴露され折角手に入れたハルトを奪われると、それで泣いているのだろう。
ハルトが近付こうとする。
「来ないでッ!……私のところには来ないで。あなたが誤解してるって知ってる。でも、それでも選んだのはあなた、過去よりも今を大事にして?幼馴染みとしての……お願いです」
「そんな、僕は……どうすれば……?うああああああああああ!」
ハルトの叫びを聞いた黒騎士はズシズシと音を立てながらハルトの方へ歩み寄る。
「プッ、ハハハハハハ!ユキノちゃんが生きてたのは驚いたが、よりにもよって……寝取られてやがる……クッ、ハハハハハハ」
「わ、私は……そういうことはまだしてません!!」
黒騎士はハルトを気絶させて肩に担ぎ、奥のフロアへと歩いていく。「逃がすかッ!」ロイが背中を斬りつけようと走り出した瞬間、黒い炎がロイを焼いた。
「ぐあああああッ!」
「ロイさん!?」
そして倒れ込むロイに手斧が追撃をかける──がそれは突如弾かれた。その者は白いマント、白いドレスを着ており、白い手袋には獅子の紋章の刺繍が施されていた。何より一際目を引くのは手にしている白銀の槍だった。
「ほら、手伝いなさい。ロイをここで失う訳にはいかないでしょ?」
「は、はい!」
ロイをユキノとマナブで担ぐ。セミロングの銀髪をなびかせた白き人は黒炎の壁へと向き直る。
「なんだよ……帝国が介入するってのか?」
「いいえ、ワタクシはすでに貴族でも帝国の人間でもありません」
「そりゃ詭弁だろ。お前には負ける気がしねえが、俺様の手斧をスキル無しで弾いたって事はそこそこやるってことだ。捨て身覚悟で勇者とオーパーツをマグマに落とされちゃあ大目玉だ。いいぜ、見逃してやる」
「理解が早くて助かりますわ、それではごきげんよう」
黒騎士は解放の祭壇へと進んでいく、そしてロイの一行が塔を脱出したとき、天を貫く光の柱が現れた。その日から世界に火の魔素の大量発生が各地で確認された。
事情を知ってる各国の上層部は「愚かな」と語り、自国の鍛冶職人へと武具の発注を始める。事情を知らない民衆は救いの光として崇める。
ワタクシはあなたが生きてくれるなら戦乱に巻き込まれようと構わない。だからロイ、生きてね。
※アグニの塔攻略により冒険者ランクがE→Dへと昇格しました。
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