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帝国への亡命
第49話 グレンツァート砦 3
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ダートの起爆札の地雷は撤去され、予めユキノのアイテムボックスに保存しておいたマナブの"ストーンランス"×50本とそこらの廃材を上から雨あられと降らした。
支援魔術による強化と、大盾を扱う重騎士が上に盾を構えることでこれも突破された。とはいえ、ここに至るまでに大量の魔力と人員を失った王国軍は戦争においては敗戦と言っても過言ではなかった。
そもそも指揮官であれば、自軍の損耗率が2割切った段階で撤退指示を出すべきなんだ。
8割残ってれば勝てるという考えなら、指揮官は止めた方がいい。ましてや、ここは退けない決戦ではなく、ただの反逆者掃討戦という些事なのだから……。
そしてロイは最後の策である雷撃地獄を敢行した。自慢のスローイングダガーで貯水槽に亀裂を入れて、その水は勢いよく敵へと降り注ぐ。
流れた水は坂を下り、遥か後方の足元まで濡らす結果となった。
「サリナ、その槍を突き立ててくれ」
「わかった」
魔槍ケラウノスだった時は今よりも更に雷撃を帯びていたが、隕石の槍となってAランクにダウンした今でもそこそこ強力な雷撃を有している。
サリナは地面に槍を突き立てた。
蒼い雷撃が瞬く間に水を伝って兵士へと流れる。ほとんどの兵士が膝を着き、意識が刈り取られようとしている。
──と、その時。
通路の壁を走りながら接近する金髪碧眼の少女が、黄金の長剣を携えてこちらへ向かってきた。
「サリナ、あなたじゃまだアレは無理ですわ!ここは任せて頂戴!」
ソフィアが白い専用のドレスを靡かせて金髪碧眼の少女へ向かっていった。槍からレーザーの如く敵へと放つが射線が見切られているのか、顔を傾けて避け、速度を落とすこと無く鍔迫り合いに持ち込まれた。
そしてサリナの方へゆっくりとした足取りで向かう1人の男がいた。
「サリナ……無事だったんだな」
「ハルト、久し振り」
「あの男に何かされなかったか?」
まず第一声がそれであることに少し落胆するが、それが自身の身を案じての事であるだけに最低と評するほどではなかった。
「ううん、何も。ロイはそんなことする人じゃないから……」
「え?……ロイ?なんで仲間みたいな空気なんだ?──脅されて一緒に居ただけ、だよな?」
サリナは首を振って否定する。その間にハルトの後ろに雷撃耐性を有した重騎士がゾロゾロと並んだ。
「ハルト様──反逆者の討伐、ご助力します」
「待ってくれ!……彼女は僕の恋人なんだ」
「しかし、今討たねば敵の増援が来る可能性が高いです。戦力は少しでも──」
「頼む!」ハルトはそう言って重騎士を黙らせた。サリナは先程の言葉についてハルトに問いかけた。
「アタシのこと、まだ恋人だって思ってくれてたんだね」
「当たり前じゃないか!その……した仲だし」
「だけどユキノは生きてるよ?どうするの?」
「……できれば2人とも幸せにしたいんだ。僕には片方を選ぶなんてできない」
ロイがソフィアとユキノを幸せにしたいと言ったら何故かしっくり来るが、ハルトが言うと優柔不断に聞こえるのは何故なのだろうか?
この世界は妻が1人だけなんて法律もない。だからロイがそう考えてもおかしくない、だけどハルトはそうじゃない。
元の世界に帰った時、確実にどちらかが将来捨てられるのが目に見えている。内縁の妻なんて、思ってる以上に厄介だ……遺産問題や世間体、そして何より子供が傷付く可能性だってある。
「ハルト……祝福されない関係って悲しいよ。それに、そっち側にいたらきっと良くないことに巻き込まれるから、アタシ達と一緒に行こ?帰る方法なんて、そこじゃなくても見付かるよ!」
ハルトの脳内にカイロの言葉がフラッシュバックした。それは、ユキノとサリナがロイと関係を持ってるかもしれない、そんな憶測とも言える言葉。
「なぁ、サリナ……なんで髪をポニーテールにしてるんだよ。なんで僕を肯定してくれないんだよ」
「え?」
その変化はハルトにとって受け入れ難いものだった。
元の世界から常に全肯定してくれていたサリナが"何故か"ハルトを否定し、そして諭そうとする。それだけじゃない、そこそこ厚化粧をしていたサリナがこの世界の化粧を使い、更にナチュラルメイクに"何故か"変わっている。
この2つの"何故"に共通するものは何か……アグニの塔でユキノの隣に立っていたあの男しかあり得ない!
ハルトの視界には、ロイが渡した黒い髪紐が風に揺れていた。カイロから聞かされていた影の一族が着る服のデザインと、サリナの髪紐のデザインが酷似している……それを認識したとき、ハルトの中で何かが切れる音がした。
「王国に居た方が……帰りやすいに決まってる!良くないことに巻き込まれる?違うね、僕は王になるからそんな些細なものごと飲み込むさ!」
「ちょ、ちょっとハルト?」
サリナが肩に触れようとした時、ハルトが剣を地面に突き刺した。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
光の奔流がハルトを中心に渦巻き、サリナと騎士共々吹き飛ばした。
「ユキノも、サリナも、僕が王になって治してあげるから!」
暴走しかけているハルトを見てサリナは動揺して動けない。ハルトが威圧感を伴ってザッザッとサリナに近付いていく。
「"神聖魔術・光の牢獄"」
ハルトの指先で光の魔方陣が展開し、術が行使されようとしていた。
──ザンッ!
その魔方陣が発動することはなかった。
「"シャドウエッジ"……遅くなったな。サリナ、説得に失敗したんだろ?パルコとマナブのところへ行け、ここは任せろ」
サリナを拘束せんとしていた魔術は直前でロイの影の剣で斬り裂かれて消失した。
「よぉ、ハルト……貴族やら王族やら大概イライラしてたんだ。更正も兼ねて、面貸せよ!」
「僕の名前を──気安く呼ぶなぁ!」
黒き男は白銀の長剣を構え、白き男は漆黒の長剣を構えた。
矛盾する両者の戦いが、今──幕を開けた。
支援魔術による強化と、大盾を扱う重騎士が上に盾を構えることでこれも突破された。とはいえ、ここに至るまでに大量の魔力と人員を失った王国軍は戦争においては敗戦と言っても過言ではなかった。
そもそも指揮官であれば、自軍の損耗率が2割切った段階で撤退指示を出すべきなんだ。
8割残ってれば勝てるという考えなら、指揮官は止めた方がいい。ましてや、ここは退けない決戦ではなく、ただの反逆者掃討戦という些事なのだから……。
そしてロイは最後の策である雷撃地獄を敢行した。自慢のスローイングダガーで貯水槽に亀裂を入れて、その水は勢いよく敵へと降り注ぐ。
流れた水は坂を下り、遥か後方の足元まで濡らす結果となった。
「サリナ、その槍を突き立ててくれ」
「わかった」
魔槍ケラウノスだった時は今よりも更に雷撃を帯びていたが、隕石の槍となってAランクにダウンした今でもそこそこ強力な雷撃を有している。
サリナは地面に槍を突き立てた。
蒼い雷撃が瞬く間に水を伝って兵士へと流れる。ほとんどの兵士が膝を着き、意識が刈り取られようとしている。
──と、その時。
通路の壁を走りながら接近する金髪碧眼の少女が、黄金の長剣を携えてこちらへ向かってきた。
「サリナ、あなたじゃまだアレは無理ですわ!ここは任せて頂戴!」
ソフィアが白い専用のドレスを靡かせて金髪碧眼の少女へ向かっていった。槍からレーザーの如く敵へと放つが射線が見切られているのか、顔を傾けて避け、速度を落とすこと無く鍔迫り合いに持ち込まれた。
そしてサリナの方へゆっくりとした足取りで向かう1人の男がいた。
「サリナ……無事だったんだな」
「ハルト、久し振り」
「あの男に何かされなかったか?」
まず第一声がそれであることに少し落胆するが、それが自身の身を案じての事であるだけに最低と評するほどではなかった。
「ううん、何も。ロイはそんなことする人じゃないから……」
「え?……ロイ?なんで仲間みたいな空気なんだ?──脅されて一緒に居ただけ、だよな?」
サリナは首を振って否定する。その間にハルトの後ろに雷撃耐性を有した重騎士がゾロゾロと並んだ。
「ハルト様──反逆者の討伐、ご助力します」
「待ってくれ!……彼女は僕の恋人なんだ」
「しかし、今討たねば敵の増援が来る可能性が高いです。戦力は少しでも──」
「頼む!」ハルトはそう言って重騎士を黙らせた。サリナは先程の言葉についてハルトに問いかけた。
「アタシのこと、まだ恋人だって思ってくれてたんだね」
「当たり前じゃないか!その……した仲だし」
「だけどユキノは生きてるよ?どうするの?」
「……できれば2人とも幸せにしたいんだ。僕には片方を選ぶなんてできない」
ロイがソフィアとユキノを幸せにしたいと言ったら何故かしっくり来るが、ハルトが言うと優柔不断に聞こえるのは何故なのだろうか?
この世界は妻が1人だけなんて法律もない。だからロイがそう考えてもおかしくない、だけどハルトはそうじゃない。
元の世界に帰った時、確実にどちらかが将来捨てられるのが目に見えている。内縁の妻なんて、思ってる以上に厄介だ……遺産問題や世間体、そして何より子供が傷付く可能性だってある。
「ハルト……祝福されない関係って悲しいよ。それに、そっち側にいたらきっと良くないことに巻き込まれるから、アタシ達と一緒に行こ?帰る方法なんて、そこじゃなくても見付かるよ!」
ハルトの脳内にカイロの言葉がフラッシュバックした。それは、ユキノとサリナがロイと関係を持ってるかもしれない、そんな憶測とも言える言葉。
「なぁ、サリナ……なんで髪をポニーテールにしてるんだよ。なんで僕を肯定してくれないんだよ」
「え?」
その変化はハルトにとって受け入れ難いものだった。
元の世界から常に全肯定してくれていたサリナが"何故か"ハルトを否定し、そして諭そうとする。それだけじゃない、そこそこ厚化粧をしていたサリナがこの世界の化粧を使い、更にナチュラルメイクに"何故か"変わっている。
この2つの"何故"に共通するものは何か……アグニの塔でユキノの隣に立っていたあの男しかあり得ない!
ハルトの視界には、ロイが渡した黒い髪紐が風に揺れていた。カイロから聞かされていた影の一族が着る服のデザインと、サリナの髪紐のデザインが酷似している……それを認識したとき、ハルトの中で何かが切れる音がした。
「王国に居た方が……帰りやすいに決まってる!良くないことに巻き込まれる?違うね、僕は王になるからそんな些細なものごと飲み込むさ!」
「ちょ、ちょっとハルト?」
サリナが肩に触れようとした時、ハルトが剣を地面に突き刺した。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
光の奔流がハルトを中心に渦巻き、サリナと騎士共々吹き飛ばした。
「ユキノも、サリナも、僕が王になって治してあげるから!」
暴走しかけているハルトを見てサリナは動揺して動けない。ハルトが威圧感を伴ってザッザッとサリナに近付いていく。
「"神聖魔術・光の牢獄"」
ハルトの指先で光の魔方陣が展開し、術が行使されようとしていた。
──ザンッ!
その魔方陣が発動することはなかった。
「"シャドウエッジ"……遅くなったな。サリナ、説得に失敗したんだろ?パルコとマナブのところへ行け、ここは任せろ」
サリナを拘束せんとしていた魔術は直前でロイの影の剣で斬り裂かれて消失した。
「よぉ、ハルト……貴族やら王族やら大概イライラしてたんだ。更正も兼ねて、面貸せよ!」
「僕の名前を──気安く呼ぶなぁ!」
黒き男は白銀の長剣を構え、白き男は漆黒の長剣を構えた。
矛盾する両者の戦いが、今──幕を開けた。
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