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帝国編
第71話 帰らない主
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次の日、ソフィアが目を覚ました。
医者の見立てでは1度目を覚ましたあとは、約3日で目を覚ますと言っていた。なのに次の日に起きるとは、それだけ心身共に強かったということなのだろう。
ロイが部屋に入ろうとノックの体勢を取ろうとする。が、中から突如としてソフィアの叫び声が聞こえてきた。
「きゃあああああっ!! う、動いてる!? 誰が触ったの……? 」
三婚の指輪のことだろうな……。
誰かが触ったらわかるように仕掛けしていたとは、迂闊だったか。元々、ソフィアがあの時欲したから触ったのだが、意識が朦朧としてたからなぁ……記憶はないだろうな。
取り敢えず今は知らないフリして、いずれ話しをきちんと聞くとしよう。ロイは頭を切り替えてノックをする。
──コンコン。
「ひゃう! だ、誰?」
「俺だ、目が覚めたと聞いたから顔を見にきた。入っても大丈夫か?」
中からドタバタ音が聞こえたあと「どうぞ」と入室を促された。中にいたソフィアは上半身を起き上がらせて、こちらを向いていた。
さっきまでそこの机の前に居ただろうに……。
ロイの姿を確認したソフィアはぎこちない笑顔で挨拶をした。
「ロイ、おはよう」
「ああ、おはよう。体の方は大丈夫か?」
「ええ、精密診術の結果は良好みたいですわ。妙な細工もきちんと解呪されて、明日から戦えますわ!」
「ソフィア、気持ちはわかるけど今はひたすら待機するしかないんだ。一応少人数で簡単なクエストには行ってるけど、それに参加したいならせめて、あと2日はジッとしていてほしい」
ロイの言葉にソフィアはシュンとして涙目になった。
「負傷したわたくしはもう足手まとい、そう言うことですの?」
普段のソフィアならそんなこと言わない、やはり少しだけメンタルが弱ってるかもしれない。ホントなら1週間は安静にしてほしいところだが、彼女の性格を考えると難しいだろうな……。
「ソフィアは足手まといなんかじゃないさ。今回の事は少し俺が急ぎすぎただけだ。どこかに呼び出して、全員でかかれば誰も傷付かなかったはずなんだ。そう言った意味では俺が悪いんだよ、だからソフィアは悪くない。どうしても出たいなら、そうだな~、──じゃあ、きちんと安静にしてくれたら、マナブの外出回数減らして全部ソフィアに割り振るから、それでどうだ?」
「ロイ……わかりましたわ。その時は一緒にクエスト回りましょう」
なんとかソフィアは納得してくれた……。
本題に入るために、ロイはダークマターをソフィアに見せた。それを見た彼女はこれから話す内容の深刻さを察して、顔を引き締めた。
「今朝方、道具屋の主人がコレを渡しに屋敷まで来た。話しを聞くと、売りに来たのはフードを目深に被ったギルド調査官と言っていたんだ」
「何故ギルド調査官が?」
「ああ、そう言えばソフィアには言ってなかったな。実は──」
ロイはソフィアと別行動を取っていた時の事を説明した。
見送りの際、補佐官のフレドから渡された紙のこと、そしてリディアが行方不明となり何らかの不正で捕縛クエストを受けたこと、それぞれの説明を受けたソフィアは事態の深刻さを理解することとなった。
「リディアの事は知ってるわ、彼女はガナルキンから不遇な扱いを受けていながら、ギルドの試験を懸命に頑張る努力家。みんなから"コネ作りの子"として噂されてたけれど、そんな事はしないとキッパリ言い切ってたから好感を持っていたの。そんな彼女がギルドへの反逆行為をするなんて……」
信じ難い内容にソフィアは頭を抱えていた。
「しかしここの領民は誇り高いな、普通ならギルド調査官が売りに来た品物に疑問なんて抱かない。なのにここまで持ってきてくれるなんて、エイデンはかなり信頼されてるんだな」
「ええ、わたくし自慢の領民ですわ。あ、そのエイデンは帰ってきましたの?」
「いいや、まだだ……」
「待つしかない、そう言うことですわね……」
ロイは動きにくい今の状況に焦りを感じていた。単独でリディアを調査するには情報が少な過ぎて非効率的、かといって屋敷を離れればその間にソフィアが狙われる不安が残る。
今出来ることは斥候に特化したスタークメンバーに情報収集を頼むことと、領民の良識によりダークマター発見後、持ってきてもらうように祈ることだけだった。
☆☆☆
ソフィアが完全に意識を取り戻してから3日程経った。
アンジュ達の提案により自動車は鉄の馬と命名された。アンジュの解説によると、守りと馬を掛け合わせた造語とのこと。
そして"ファン"と称された元近衛騎士達は改めてユニオンナイトと改名されることとなった。
不安が蔓延する中、アンジュなりに気分転換も兼ねた命名会のようにも見えた。まぁ、その会の始まりに開口一番『あなたのネーミング、イケてない!』と言われたのはイラっときたがな。
ソフィアとサリナは同じ槍を使う同士、気が合うのか訓練を行ったりしていた。精神と身体にズレが生じているため、本人も訓練して正解だと言っている。そろそろソフィアもクエストに参加できるレベルに仕上がっていた。
☆☆☆
──朝起きたら目の前にユキノの顔があった。
最近このパターンが毎日だ。特に何かされてる訳でもないが、目を開けるとまずユキノの顔を見ることになる。それが日課になってしまってる……。
「ロイさん、道具屋さんに新しくアクセサリーが並んでたので見に行きませんか?」
「そうだな、閉じ籠っててもアレだし、ちょっと行ってみるか」
ユキノの言葉によってロイは村の道具屋へ向かった。
「ロイ様! わざわざお越しいただきありがとうございます。本日はどのようなご用件で?」
「様は止めてくれよ、貴族でもないし。今日は気分転換も兼ねてアクセサリーを見にきただけだよ」
「そうですか、こちらに新たなショーケースを設置したのでこちらをご覧下さい」
ユキノはキラキラした目でガラスの中にあるネックレスやら指輪やらを眺めている。
「ユキノ、あまり高価な物じゃなければ買ってやるよ」
「本当ですか!? うーん、どれにしよおかな~♪」
ユキノが選んでる間、ロイは道具屋の主人にダークマターについて聞くことにした。
「ダークマターの件、助かったよ。それで、売りに来たリディアというギルド調査官は1人だったか?」
「リディアさんと一緒にいたのは──ダート様でしたね。彼が謀反を企むなんて、今でも信じられませんよ……」
これでダートとリディアは仲間であることが確定した。別々の問題であれば捕縛して浄化すればなんとかなったかもしれない、だがリディアと組んでいるなら内々に処理するのはもう無理だな。
「その2人は何か言ってなかったか?」
「アルスの塔がどうとか言ってましたね」
「わかった。情報助かるよ」
アルスの塔、土属性を司る属性四塔の1つだったな……帰ったらみんなを集めて話し合うか。
「ロイさーん、これなんてどうですか?」
ユキノが持ってきたアクセサリーは赤い宝石が付いたペンダントで、火属性に対して耐性効果のあるものだった。
「良いんじゃないか? 道具屋、これで頼む」
ロイは代金を道具屋に渡したあとペンダントをユキノに渡した。だがユキノはそれを突っ返してきた。
「ロイさん! こういうときは男の人が着けるのが礼儀ですよ?」
「いや、それ聞いたことないんだけど……どうせお前らの世界の常識だろ?」
ユキノからの反論はなく、俯いたまま黙っている。それを見たロイは少しだけため息をついてユキノの前に立つ。
「ほら、着けてやるから、そんな泣きそうな顔するなよ」
首の後ろに手を回し、留め具をカチッとはめた。ロイが離れるとユキノはくるっと回ってスカートの裾を摘まんだ。いわゆる令嬢然とした挨拶だ。
「えへへ、どうですか?」
「今のは新しい服を買ったときにするやつだよな?」
「──あ!」
「でもまぁ、かなり似合ってるよ」
「そ、そんなぁ……世界一似合ってるなんて……」
そんな事は言ってないが、ユキノが満足したのならこちらとしても連れてきた甲斐があったと言うことだ。
こうしてユキノとの買い物を終えたあと、食堂にパーティメンバーを集めることになった。
医者の見立てでは1度目を覚ましたあとは、約3日で目を覚ますと言っていた。なのに次の日に起きるとは、それだけ心身共に強かったということなのだろう。
ロイが部屋に入ろうとノックの体勢を取ろうとする。が、中から突如としてソフィアの叫び声が聞こえてきた。
「きゃあああああっ!! う、動いてる!? 誰が触ったの……? 」
三婚の指輪のことだろうな……。
誰かが触ったらわかるように仕掛けしていたとは、迂闊だったか。元々、ソフィアがあの時欲したから触ったのだが、意識が朦朧としてたからなぁ……記憶はないだろうな。
取り敢えず今は知らないフリして、いずれ話しをきちんと聞くとしよう。ロイは頭を切り替えてノックをする。
──コンコン。
「ひゃう! だ、誰?」
「俺だ、目が覚めたと聞いたから顔を見にきた。入っても大丈夫か?」
中からドタバタ音が聞こえたあと「どうぞ」と入室を促された。中にいたソフィアは上半身を起き上がらせて、こちらを向いていた。
さっきまでそこの机の前に居ただろうに……。
ロイの姿を確認したソフィアはぎこちない笑顔で挨拶をした。
「ロイ、おはよう」
「ああ、おはよう。体の方は大丈夫か?」
「ええ、精密診術の結果は良好みたいですわ。妙な細工もきちんと解呪されて、明日から戦えますわ!」
「ソフィア、気持ちはわかるけど今はひたすら待機するしかないんだ。一応少人数で簡単なクエストには行ってるけど、それに参加したいならせめて、あと2日はジッとしていてほしい」
ロイの言葉にソフィアはシュンとして涙目になった。
「負傷したわたくしはもう足手まとい、そう言うことですの?」
普段のソフィアならそんなこと言わない、やはり少しだけメンタルが弱ってるかもしれない。ホントなら1週間は安静にしてほしいところだが、彼女の性格を考えると難しいだろうな……。
「ソフィアは足手まといなんかじゃないさ。今回の事は少し俺が急ぎすぎただけだ。どこかに呼び出して、全員でかかれば誰も傷付かなかったはずなんだ。そう言った意味では俺が悪いんだよ、だからソフィアは悪くない。どうしても出たいなら、そうだな~、──じゃあ、きちんと安静にしてくれたら、マナブの外出回数減らして全部ソフィアに割り振るから、それでどうだ?」
「ロイ……わかりましたわ。その時は一緒にクエスト回りましょう」
なんとかソフィアは納得してくれた……。
本題に入るために、ロイはダークマターをソフィアに見せた。それを見た彼女はこれから話す内容の深刻さを察して、顔を引き締めた。
「今朝方、道具屋の主人がコレを渡しに屋敷まで来た。話しを聞くと、売りに来たのはフードを目深に被ったギルド調査官と言っていたんだ」
「何故ギルド調査官が?」
「ああ、そう言えばソフィアには言ってなかったな。実は──」
ロイはソフィアと別行動を取っていた時の事を説明した。
見送りの際、補佐官のフレドから渡された紙のこと、そしてリディアが行方不明となり何らかの不正で捕縛クエストを受けたこと、それぞれの説明を受けたソフィアは事態の深刻さを理解することとなった。
「リディアの事は知ってるわ、彼女はガナルキンから不遇な扱いを受けていながら、ギルドの試験を懸命に頑張る努力家。みんなから"コネ作りの子"として噂されてたけれど、そんな事はしないとキッパリ言い切ってたから好感を持っていたの。そんな彼女がギルドへの反逆行為をするなんて……」
信じ難い内容にソフィアは頭を抱えていた。
「しかしここの領民は誇り高いな、普通ならギルド調査官が売りに来た品物に疑問なんて抱かない。なのにここまで持ってきてくれるなんて、エイデンはかなり信頼されてるんだな」
「ええ、わたくし自慢の領民ですわ。あ、そのエイデンは帰ってきましたの?」
「いいや、まだだ……」
「待つしかない、そう言うことですわね……」
ロイは動きにくい今の状況に焦りを感じていた。単独でリディアを調査するには情報が少な過ぎて非効率的、かといって屋敷を離れればその間にソフィアが狙われる不安が残る。
今出来ることは斥候に特化したスタークメンバーに情報収集を頼むことと、領民の良識によりダークマター発見後、持ってきてもらうように祈ることだけだった。
☆☆☆
ソフィアが完全に意識を取り戻してから3日程経った。
アンジュ達の提案により自動車は鉄の馬と命名された。アンジュの解説によると、守りと馬を掛け合わせた造語とのこと。
そして"ファン"と称された元近衛騎士達は改めてユニオンナイトと改名されることとなった。
不安が蔓延する中、アンジュなりに気分転換も兼ねた命名会のようにも見えた。まぁ、その会の始まりに開口一番『あなたのネーミング、イケてない!』と言われたのはイラっときたがな。
ソフィアとサリナは同じ槍を使う同士、気が合うのか訓練を行ったりしていた。精神と身体にズレが生じているため、本人も訓練して正解だと言っている。そろそろソフィアもクエストに参加できるレベルに仕上がっていた。
☆☆☆
──朝起きたら目の前にユキノの顔があった。
最近このパターンが毎日だ。特に何かされてる訳でもないが、目を開けるとまずユキノの顔を見ることになる。それが日課になってしまってる……。
「ロイさん、道具屋さんに新しくアクセサリーが並んでたので見に行きませんか?」
「そうだな、閉じ籠っててもアレだし、ちょっと行ってみるか」
ユキノの言葉によってロイは村の道具屋へ向かった。
「ロイ様! わざわざお越しいただきありがとうございます。本日はどのようなご用件で?」
「様は止めてくれよ、貴族でもないし。今日は気分転換も兼ねてアクセサリーを見にきただけだよ」
「そうですか、こちらに新たなショーケースを設置したのでこちらをご覧下さい」
ユキノはキラキラした目でガラスの中にあるネックレスやら指輪やらを眺めている。
「ユキノ、あまり高価な物じゃなければ買ってやるよ」
「本当ですか!? うーん、どれにしよおかな~♪」
ユキノが選んでる間、ロイは道具屋の主人にダークマターについて聞くことにした。
「ダークマターの件、助かったよ。それで、売りに来たリディアというギルド調査官は1人だったか?」
「リディアさんと一緒にいたのは──ダート様でしたね。彼が謀反を企むなんて、今でも信じられませんよ……」
これでダートとリディアは仲間であることが確定した。別々の問題であれば捕縛して浄化すればなんとかなったかもしれない、だがリディアと組んでいるなら内々に処理するのはもう無理だな。
「その2人は何か言ってなかったか?」
「アルスの塔がどうとか言ってましたね」
「わかった。情報助かるよ」
アルスの塔、土属性を司る属性四塔の1つだったな……帰ったらみんなを集めて話し合うか。
「ロイさーん、これなんてどうですか?」
ユキノが持ってきたアクセサリーは赤い宝石が付いたペンダントで、火属性に対して耐性効果のあるものだった。
「良いんじゃないか? 道具屋、これで頼む」
ロイは代金を道具屋に渡したあとペンダントをユキノに渡した。だがユキノはそれを突っ返してきた。
「ロイさん! こういうときは男の人が着けるのが礼儀ですよ?」
「いや、それ聞いたことないんだけど……どうせお前らの世界の常識だろ?」
ユキノからの反論はなく、俯いたまま黙っている。それを見たロイは少しだけため息をついてユキノの前に立つ。
「ほら、着けてやるから、そんな泣きそうな顔するなよ」
首の後ろに手を回し、留め具をカチッとはめた。ロイが離れるとユキノはくるっと回ってスカートの裾を摘まんだ。いわゆる令嬢然とした挨拶だ。
「えへへ、どうですか?」
「今のは新しい服を買ったときにするやつだよな?」
「──あ!」
「でもまぁ、かなり似合ってるよ」
「そ、そんなぁ……世界一似合ってるなんて……」
そんな事は言ってないが、ユキノが満足したのならこちらとしても連れてきた甲斐があったと言うことだ。
こうしてユキノとの買い物を終えたあと、食堂にパーティメンバーを集めることになった。
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