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帝国編
第70話 ソフィアと黒き指輪
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ロイはソフィアの私室でベッドに眠るソフィアを眺めていた。ベッドの中の彼女はとても苦しそうで、顔がとても赤い……。
「う、うぅ……ロ、イ……」
先程からうなされるように自身の名を呼ぶソフィア、その姿を見たロイは自分の選択を酷く後悔していた。
「ソフィア、お前一人をダートのところに向かわせたこと、本当にすまないと思ってる。お願いでもなんでも聞いてやるから……目を覚ましてくれ……」
ロイはソフィアの手を握ってひたすらそれだけを思っていた。
医者に看てもらった結果、ソフィアは初級闇魔術による攻撃を受けたことがわかった。帝国特有の魔術で王国にはあまり浸透していない魔術、その効果は基本的に精神面に作用するものが多く、誓約魔術もその系譜により太古に創られたのだという。
反面、帝国には直接攻撃系の魔術は少なく、ガナルキンとの攻防では直属の騎士は弓が主力であり、攻撃魔術は他国籍の傭兵が使用していた。
初級とはいえ、背後から精神体攻撃を受けたソフィアは精神に大きなダメージを負ってしまった。しかも、医者の見立てでは少しだけ改良が加えられた魔術とのことだった。
ユキノ達に聞いたダートとのやり取りを総合的に判断するに、ダートの目的はソフィアであり、そのために低級闇精霊を潜ませ、意識を奪うことで誘拐するつもりだったようだ。
そして改良部分を解析した結果、精神体攻撃《アストラルアタック》後にどうやら精神系魔術を受けやすくする改良が成されていたことがわかった。医者の話しによれば”隷属化”が目的だった可能性が高いとのこと。
だが、予想外にユキノが現れた為に劣勢に立たされ、ダートは足止め目的で策を消費する他なかったようだ。不幸中の幸いだったのは、ロイがコレクションしていた短剣の中に聖属性の短剣があり、事前にユキノの”アイテムボックス”に半分ほど移されていたことだった。
そのおかげでユキノは聖属性の短剣を使うことができ、完全に侵食される前に闇精霊を切り離すことに成功したのだった。
とはいえロイは自責の念に苛まれており、もう半日以上ソフィアの看護につきっきりだった。
──そんなロイの祈りが通じたのか、ソフィアが目を覚ました。
「ん……あ、れ? ……ロイ?」
顔を横に向けてロイの姿を認めたソフィアは手をロイに向けて伸ばそうとするが、ロイによって固く握られてるため動かなかった。
「ソフィア!?」
「あ……う……」
ソフィアの瞳は虚ろでロイの事を認識してはいても、意識は未だはっきりしないままだった。それでもロイはソフィアに語りかけた。
「ソフィア、すまない……あのとき俺が止めていれば……」
ソフィアの意識は依然として定まっておらず、会話は成り立たない。そんな彼女は朦朧とした意識の中で、ロイを夢の存在と認識し始めていた。
「ロイとユキノにあげなくちゃ……それに、わたくしも……」
「俺にあげる? 何を?」
ソフィアはロイの質問に答えることはできず、視線を漂わせて近くの机に手を伸ばし始めた。
「待て、俺が取るから。安静にしていろ」
ソフィアはロイの言葉を聞いて再度眠りについた。ロイは医者の言葉を思い出す。
精神体攻撃を受けた者は一定期間、自己の中で決着したはずの問題や忘れたい過去が表出しやすくなる。それ故に誰かが常に見守る必要がある、と。
机の引き出し開けるとそこにあったのは、小さな袋だった。ロイはそれを手に取って渡そうとするが袋の紐が緩く、誤って中身を外に出してしまった。
「これは……”黒い指輪”? しかも”三婚の儀”に使うやつじゃねえか。ソフィア、いつの間にそんな相手が──」
と、言いかけてロイは直前の言葉を思い出した。
──『ロイとユキノにあげなくちゃ……それに、わたくしも……』
意味に気付いたロイは顔を真っ赤にして、どうすればいいかわからなくなり、頭を抱えた。と、その時──。
コンコンッ!
──唐突にドアがノックされた。
「……ソフィアさん、目を覚ましましたか? ってあれ? 何かあったんですか?」
ロイは扉が開く前に机の中にソレを突っ込んで所定の位置に戻った。だが、ホンの少しだけ高速移動を見られたために、ユキノが不審に思ってしまったようだ。
「むぅ、意識がないのをいいことに、イタズラしたりは──」
「してねえよっ! ソ、ソフィアが声をあげたから驚いただけだ。それよりも、リディアの居場所はわかったのか?」
ユキノはジト目を向けながらロイの隣に椅子を置いて座った。
「いえ……あの日以来、ギルドにも出勤していないらしくて、ギルドからは捕縛クエストが出されてるみたいです」
ギルドは基本的に公正であることを誇りとしている。なので、3日とかからずに捕縛クエストが発行されるということは、すでになにかしらの不正を行っていたということだ。捕まればガナルキンと同等かそれ以上の刑罰を受けることになるだろう。
ユキノはソフィアの毛布をかけ直しながらロイに真意を聞く。
「その……追うんですか?」
「ダートは諦めないって言ったんだよな? だとしたら今後も狙われる可能性もありえる。降りかかる火の粉は払うべきだし、ダートとリディアはそれぞれ別々の目的で協力してると俺は思ってる」
「はい、それに……エイデンさんの帰りが遅いのも気になりますよね……」
「そっちに関しては寄り道してる可能性もあるし、どちらにせよ今は動くべきじゃないな」
方針を決めた後、ロイとユキノは看病を続けた。
1度目覚ましたこともあってか、ソフィアの精神体は回復傾向にあり、3日もあれば全快すると診断を受けた。
ロイとユキノは安心し、アンジュとサリナと交代して自室にて倒れるように眠りについた。
「う、うぅ……ロ、イ……」
先程からうなされるように自身の名を呼ぶソフィア、その姿を見たロイは自分の選択を酷く後悔していた。
「ソフィア、お前一人をダートのところに向かわせたこと、本当にすまないと思ってる。お願いでもなんでも聞いてやるから……目を覚ましてくれ……」
ロイはソフィアの手を握ってひたすらそれだけを思っていた。
医者に看てもらった結果、ソフィアは初級闇魔術による攻撃を受けたことがわかった。帝国特有の魔術で王国にはあまり浸透していない魔術、その効果は基本的に精神面に作用するものが多く、誓約魔術もその系譜により太古に創られたのだという。
反面、帝国には直接攻撃系の魔術は少なく、ガナルキンとの攻防では直属の騎士は弓が主力であり、攻撃魔術は他国籍の傭兵が使用していた。
初級とはいえ、背後から精神体攻撃を受けたソフィアは精神に大きなダメージを負ってしまった。しかも、医者の見立てでは少しだけ改良が加えられた魔術とのことだった。
ユキノ達に聞いたダートとのやり取りを総合的に判断するに、ダートの目的はソフィアであり、そのために低級闇精霊を潜ませ、意識を奪うことで誘拐するつもりだったようだ。
そして改良部分を解析した結果、精神体攻撃《アストラルアタック》後にどうやら精神系魔術を受けやすくする改良が成されていたことがわかった。医者の話しによれば”隷属化”が目的だった可能性が高いとのこと。
だが、予想外にユキノが現れた為に劣勢に立たされ、ダートは足止め目的で策を消費する他なかったようだ。不幸中の幸いだったのは、ロイがコレクションしていた短剣の中に聖属性の短剣があり、事前にユキノの”アイテムボックス”に半分ほど移されていたことだった。
そのおかげでユキノは聖属性の短剣を使うことができ、完全に侵食される前に闇精霊を切り離すことに成功したのだった。
とはいえロイは自責の念に苛まれており、もう半日以上ソフィアの看護につきっきりだった。
──そんなロイの祈りが通じたのか、ソフィアが目を覚ました。
「ん……あ、れ? ……ロイ?」
顔を横に向けてロイの姿を認めたソフィアは手をロイに向けて伸ばそうとするが、ロイによって固く握られてるため動かなかった。
「ソフィア!?」
「あ……う……」
ソフィアの瞳は虚ろでロイの事を認識してはいても、意識は未だはっきりしないままだった。それでもロイはソフィアに語りかけた。
「ソフィア、すまない……あのとき俺が止めていれば……」
ソフィアの意識は依然として定まっておらず、会話は成り立たない。そんな彼女は朦朧とした意識の中で、ロイを夢の存在と認識し始めていた。
「ロイとユキノにあげなくちゃ……それに、わたくしも……」
「俺にあげる? 何を?」
ソフィアはロイの質問に答えることはできず、視線を漂わせて近くの机に手を伸ばし始めた。
「待て、俺が取るから。安静にしていろ」
ソフィアはロイの言葉を聞いて再度眠りについた。ロイは医者の言葉を思い出す。
精神体攻撃を受けた者は一定期間、自己の中で決着したはずの問題や忘れたい過去が表出しやすくなる。それ故に誰かが常に見守る必要がある、と。
机の引き出し開けるとそこにあったのは、小さな袋だった。ロイはそれを手に取って渡そうとするが袋の紐が緩く、誤って中身を外に出してしまった。
「これは……”黒い指輪”? しかも”三婚の儀”に使うやつじゃねえか。ソフィア、いつの間にそんな相手が──」
と、言いかけてロイは直前の言葉を思い出した。
──『ロイとユキノにあげなくちゃ……それに、わたくしも……』
意味に気付いたロイは顔を真っ赤にして、どうすればいいかわからなくなり、頭を抱えた。と、その時──。
コンコンッ!
──唐突にドアがノックされた。
「……ソフィアさん、目を覚ましましたか? ってあれ? 何かあったんですか?」
ロイは扉が開く前に机の中にソレを突っ込んで所定の位置に戻った。だが、ホンの少しだけ高速移動を見られたために、ユキノが不審に思ってしまったようだ。
「むぅ、意識がないのをいいことに、イタズラしたりは──」
「してねえよっ! ソ、ソフィアが声をあげたから驚いただけだ。それよりも、リディアの居場所はわかったのか?」
ユキノはジト目を向けながらロイの隣に椅子を置いて座った。
「いえ……あの日以来、ギルドにも出勤していないらしくて、ギルドからは捕縛クエストが出されてるみたいです」
ギルドは基本的に公正であることを誇りとしている。なので、3日とかからずに捕縛クエストが発行されるということは、すでになにかしらの不正を行っていたということだ。捕まればガナルキンと同等かそれ以上の刑罰を受けることになるだろう。
ユキノはソフィアの毛布をかけ直しながらロイに真意を聞く。
「その……追うんですか?」
「ダートは諦めないって言ったんだよな? だとしたら今後も狙われる可能性もありえる。降りかかる火の粉は払うべきだし、ダートとリディアはそれぞれ別々の目的で協力してると俺は思ってる」
「はい、それに……エイデンさんの帰りが遅いのも気になりますよね……」
「そっちに関しては寄り道してる可能性もあるし、どちらにせよ今は動くべきじゃないな」
方針を決めた後、ロイとユキノは看病を続けた。
1度目覚ましたこともあってか、ソフィアの精神体は回復傾向にあり、3日もあれば全快すると診断を受けた。
ロイとユキノは安心し、アンジュとサリナと交代して自室にて倒れるように眠りについた。
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