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帝国編

第79話 ロイ、理性との戦い! (激戦前のサービス回)

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 ソレイユ砦は大昔にあった長期の吹雪がもう二度と起きないように、そう願って太陽を冠する守り神として名付けられた。

 その機能は名ばかりではなく、通路から牢屋に至るまで小さな溝が走っており、要所に設置された赤い魔石からお湯が流れるようになっている。

 その為か大浴場が砦内に等間隔で設置されてある。ロイ達は慣れないながらも深夜から朝にかけて総出でその機能を復活させていた。

 ヴォルガ王の見立てによれば、吹雪は長くて2日は晴れないそうだ。

「みんなお疲れさん、束の間の休息だが浴場はいつでも解放しておく。東が女性、西が男性で指揮棟は朝が女性で昼から男性専用となる。時間を間違えないようにしろよ、じゃあ解散」

 今ここにいる戦力にねぎらいの言葉をかけたロイは溜め息を吐いて指揮棟に戻る。

 指揮官の部屋はアンデッドと戦った部屋なので遠慮して副官の部屋に泊まることにした。

 部屋に入りベッドに倒れ込む、するとロイの隣が大きく沈む。

「疲れましたね~、もう朝ですし。どうします? 寝ますか?」

 そう言いながらユキノはロイの顔を覗き込む。服はいつの間に着替えたのか、黒のタンクトップに黒のキュロット……最早寝る準備に入っていた。

 前は白とかピンクを着ていたのに、最近は俺に合わせて黒を基調とした寝間着をチョイスしている。

「ロイさ~ん、どうするんですか?」

「そうだな、2日も空くから少し寝るか」

「じゃあ私も寝ます!」

 灯りを消したあとユキノは俺の方を向き、俺は壁を向いて眠る。束の間の休息だが、日常が戻ってきたようで少し安心する。



 どのくらい経っただろうか、ロイは頭上からの吐息で目を覚ました。顔が柔らかいものに包まれている。すぐに理解した、ユキノがロイの頭を抱えるようにして寝ているからだ。

「そろそろしとかないとな……」

 ユキノはロイと浄化の指輪でリンクしているため魔杖テュルソスを隕石の杖にランクダウンすることが出来ていない。

 故に定期的に浄化行為が必要になる。闇の武器を手にした者が穢れを蓄積するとそれぞれ異なった症状が表出し始める。

 ハルトは選択を放棄し、マナブは強気の性格になる。サリナは本人の言葉によると、人から奪う気持ちが強くなったと言っていた。

 ──じゃあ、ユキノは?

 たまに長期に渡り浄化をしない時があったが、それらしい兆候は見られない。そこでサリナに元の世界でのユキノの生活を聞いてようやくわかった。

 ユキノはああ見えて学校で2位の成績を有する才女だったという。そんなユキノが唯一勝てないのが義理の姉であるユキナだった。

 ユキナの影に隠れていつも我慢をしていたユキノは誰にも甘えることが出来なかった。それらの情報から総合するに、ユキノの穢れによる影響は"身近な人に甘えたくなる"という事がわかる。

 浄化をあまりしない時に朝顔を合わせると腕に抱き付いたりする、逆に浄化した次の日の朝は頬を赤くして着替える時も見ないように言われたりする。

 寝ている間にさっさと終わらせよう、ロイはそう考えてホールドを解き、ユキノの心臓がある部分に触れる。

「…………あ、ん…………んんっ!…………」

 ユキノはロイが指を沈ませる度に甘い吐息を漏らしていた。ユキノの武器特性"スキル向上"は感覚を鋭敏化させてより治療に特化するというもの。

 こんな風に心を許した相手の横で寝ている時はその影響が強く出てしまう。それは理解しているのだが、ロイも男なのでそんな声を間近で聞くと激しく理性を揺さぶられてしまう。

 浄化の指輪が発光し、浄化された穢れが経験値となって両者に流れてるのを感じる。そして完了したあともロイは続けてしまった。帝国という慣れない土地で激戦を繰り広げたロイは、本人も気付かないうちにストレスが溜まっていたのだ。

「ぁ…………ンっ!……もっ、と…………」

 決して起きている訳ではなく、ユキノの本能が、女の部分が、そう口にさせた。

 そこでようやくロイは我に返った。

「何やってんだよ、俺……寝てる女子に、しかもパーティメンバーにこんな事するなんて──はぁ、少し頭冷やすか」

 起こさないように廊下に出て、窓から外を眺める。帝国は薄暗いのが昼で真っ暗なのが夜……つまり今は昼と言うことになる。

 窓際で黄昏ながらステータスを開く。

『ステータス』

 ロイ&ユキノ (影魔術師、治癒術師)

 グラム+128
 総合力12300
『聖剣特性強化』

 テュルソス+128
 総合力11600
『スキル向上』

 サリナ ”槍術師”
 隕石の槍(雷)

 マナブ ”土魔術師”
 隕石の魔道書(土)

 ソフィア ”聖騎士”
 聖槍ロンギヌス+155
 総合力15010
魔力増幅オーバーロード

 アンジュ "剣姫"
 セレスティアルブレード

 相変わらず遺物武器エピックウェポンを持っていない人間のステータスは数値化されていないな、やはり一般人は数値化されていないだけで実際は裏で何かしら数値が上がってるのかもしれない。

「ボス! 何してるんすか?」

 マナブがタオルとおけを持ってこちらに向かってきた。

「中途半端に目が覚めてな、少し外の景色を眺めてた」

「そうなんですか。あ、シラサトさん見ませんでしたか? 部屋に行ってもいないみたいで、どこに行っても見当たらないんです」

「……俺の部屋で寝てるぞ」

「え! まだ一緒に寝てたんですか!?」

「安心しろ、お前の思うようなことはないから」

 余計な事を口走る前に先に否定しておく。だがマナブは怪しそうにこちらを見ている。

「てか、ユキノにも部屋があったんだな」

「女子はアンジュさんが振り分けたんですが、意味ないっすね」

「ああ、俺もアイツも諦めてる。形式だけの部屋割りだ」

「ははは……あ、そうだ! 一緒に風呂に行きませんか? 昼からは男子の時間でしたよね?」

「なんか既視感を感じるが……そうだな。やることないし、スッキリするか!」

 "シャドーポケット"から道具を取り出してマナブと指揮棟の浴場へ向かう。念のため男の札を立てて服を脱いだ。

「うわ……ボスは相変わらずキレッキレですね」

「前衛は身体張って戦わないといけないからな、これくらい普通だ。そういうマナブも前より筋肉ついたんじゃないのか?」

「闇武器の時は全部ゴーレムで一撃だったので、ランクダウンした今は走ることも多くなって少しは鍛えられました」

 余分な肉が落ちて後衛としてはすでに十分な身体の出来具合だ。

「よく頑張ったな」

 マッシュルームな髪型をクシャクシャに掻き回す。口では嫌がってもその表情は少しだけ嬉しそうだった。そうしてロイとマナブは浴場を満喫し始めたのだった。

 ☆☆☆

「皆が休んでる間、ワシも見回り頑張らなくてはな!」

 ヴォルガ王はルンルン気分で見回りをしていた。

「ん? 札が入っておるな……はて、昼から男じゃったかの? う~む、思い出せんわい! 取り敢えず昼になったから変えればええじゃろ」

 ヴォルガ王は男の札を引っくり返して女の札に入れ換える。そして自分仕事しました~、という感じにスキップをしながら去っていった。
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