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新生活編
第117話 傾国酒・ドラゴンブレス
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──あれから1週間が過ぎた。
ロイとサリナが見つけたダンジョンは訓練場へと改修され、リーベにおいて戦闘経験の無い新人の良い腕試しとなっていた。
そして、帝都の執政官であるフレミーが再び来訪してきた。
「ほう、廃坑の脇道に出現したフェイリアダンジョンを新人の腕試しに……ロイ殿はただでは転ばない御仁のようですな」
「利用できる物は利用するだけだ。それよりも、何か用があってきたんじゃないのか?」
「おお、そうでした。では2点ほど──まずはヘルナデスの拠点の1つを見つけました。ですが、我々の到着前に拠点は壊滅しておりました。負傷した騎士を残して使用人は逃げ出し、金品の大半が持ち去られてました。拠点とはいえ、ビショップ貴族の拠点……盗賊風情に落とせるとは思えないのですが……」
キング、クイーン、ルークは王家とそれに連なる家系の位であり、ビショップは一般人がなれる最上位だ。守っている騎士も冒険者ランクB相当であり、外から落とすのは非常に困難を極める。
それをどうやって落としたか、非常に興味深いものだ。
「それは興味深いな。内部から手引きした者がいるか、俺みたいなのがいたか……だな」
「闇人形もプロトタイプは逃げ出し、それなりの数が出荷されている。あの技術が漏洩してないか不安ですね」
ラウンドテーブルの対面に座るフレミーは紅茶を軽く飲んだあと、話を進めた。
「それはさておき、ここからが本題です。ロイ殿とソフィア殿にはこれより帝都へ向かってもらいたいのです。ちなみにですが、今回は暗殺ではありませんよ?」
「暗殺じゃない……しかも何故ソフィアを指名?」
「それはですね────」
☆☆☆
と、言うことで俺はソフィアと共に帝都に来ていた。青の節の帝都は非常に寒く、アルスの塔を攻略していた頃とは段違いだった。
ザクザクと雪を踏み締める音を立てながら、ソフィアと通りを歩く。
「それで、私とあなたはこれから宿で働かないといけないのよね?」
「あくまでも"フリ"だからな。宿の主人にも話しはつけてあるらしいし、難しい仕事はないだろ」
フレミーの依頼とは、宿で働きながらとある物について調査することだった。
調査対象は【ドラゴンブレス】という名の幻のワインだ。
1億Gは余裕で超えるワインで、飲めば胃から火が出るんじゃないかと思うほどの刺激が喉を伝うと言われている。
しかし、このワインには別の異名があった。その名も【傾国酒】──。
このワインを巡って小国同士が争い、共倒れとなった過去がある。そんな傾国酒がこの宿に持ち込まれるという情報を得たフレミーにより、ロイ達へ依頼をすることとなった。
ロイとソフィアは宿に入り、マスターへ挨拶を始めた。
「君達がフレミー様の雇った冒険者・リーベかな?」
「ああ、その通りだ。俺がパーティリーダーのロイ」
「私はパーティメンバーのソフィアです。よろしくお願いします」
ソフィアがお辞儀も交えて丁寧に挨拶すると、宿のマスターは驚きの表情でソフィアを見ていた。
「銀髪にソフィアという名……君はまさか、レーン家の……?」
「はい、元ナイト貴族のソフィア・レーンです」
宿のマスターはソフィアの手を取り、涙を流しながら言った。
「おぉ……やはりソフィア様! あの時の子供が随分と大きくなって……」
「私の事を知ってるのですか?」
「ああ、国家反逆罪で追われる君達を、一晩だけうちの宿で匿ったんだ」
国家反逆罪──その単語が出た瞬間、ソフィアの表情が曇った。
「もしかして、私が気絶していたあの時に?」
「ああ、追っ手の攻撃も凄まじかったらしくてね。君達一家はボロボロになりながら帝都を逃げ回っていたね」
手を貸したとなれば宿のマスターも罪に問われかねないのに、無実を信じて助けてくれた。
そんな献身的な態度に対し、ソフィアは改めて感謝を伝えた。
「両親は……死んでしまいましたが、なんとか私だけは生き延びることが出来ました。本当にありがとうございました」
「……ソフィア様」
「ですが、今の私はソフィア・レーンではなく、ただのソフィアですので、対応もそれ相応で構いませんよ」
「ああ、そうだったね。つい感動して君の立場を忘れていたよ。えーっと、ロイ君だったかな、脱線してすまない」
「いや、構わない。ソフィアにも陰ながら味方が居たんだなって、少し安心したよ」
「はは、それはこちらの台詞でもあるよ。さて、取り敢えずはこの給仕服に着替えてくれないかな。事が済むまでは2階の奥の部屋を使ってくれても構わないから」
宿のマスターが、ロイとソフィアを部屋へと案内した。
「フレミー様が君達なら1部屋でも構わないって話だったんだが……もう1部屋用意した方がいいかな?」
マスターがロイに確認を取る。それに同調してソフィアもロイをじっと見詰めた。非常に答えづらい空気が漂う。
ソフィアからの好意については黒い指輪の一件で何となく気付いていた。だけどそれに乗っかって元気良く頷けるほど図太い精神ではない。
それでも進展させるには頷くほか無い訳で──。
「……なんというか、このままでいい」
ロイが答えると、マスターは肩に手を置いてニヤニヤした顔で言った。
「そうか。あんまり音は立てないでくれよ?」
言外に……そういう行為はしても良いが隣に迷惑かけるなよ、そう言ってるように聞こえた。
パタンとドアが閉まり、ロイとソフィアが部屋に取り残される。ユキノとは自然体でいられるのに、ソフィアに対してはむず痒い空気になってしまう。
5年前にした口約束の婚約。お互いに大人になったし、もしかしたら心変わりしてるかもしれない。
この間見つけた黒い指輪も、単純にアクセサリーとして持っていただけかもしれない。
色んな"かもしれない"によって中々踏み出せないでいた。
ロイとサリナが見つけたダンジョンは訓練場へと改修され、リーベにおいて戦闘経験の無い新人の良い腕試しとなっていた。
そして、帝都の執政官であるフレミーが再び来訪してきた。
「ほう、廃坑の脇道に出現したフェイリアダンジョンを新人の腕試しに……ロイ殿はただでは転ばない御仁のようですな」
「利用できる物は利用するだけだ。それよりも、何か用があってきたんじゃないのか?」
「おお、そうでした。では2点ほど──まずはヘルナデスの拠点の1つを見つけました。ですが、我々の到着前に拠点は壊滅しておりました。負傷した騎士を残して使用人は逃げ出し、金品の大半が持ち去られてました。拠点とはいえ、ビショップ貴族の拠点……盗賊風情に落とせるとは思えないのですが……」
キング、クイーン、ルークは王家とそれに連なる家系の位であり、ビショップは一般人がなれる最上位だ。守っている騎士も冒険者ランクB相当であり、外から落とすのは非常に困難を極める。
それをどうやって落としたか、非常に興味深いものだ。
「それは興味深いな。内部から手引きした者がいるか、俺みたいなのがいたか……だな」
「闇人形もプロトタイプは逃げ出し、それなりの数が出荷されている。あの技術が漏洩してないか不安ですね」
ラウンドテーブルの対面に座るフレミーは紅茶を軽く飲んだあと、話を進めた。
「それはさておき、ここからが本題です。ロイ殿とソフィア殿にはこれより帝都へ向かってもらいたいのです。ちなみにですが、今回は暗殺ではありませんよ?」
「暗殺じゃない……しかも何故ソフィアを指名?」
「それはですね────」
☆☆☆
と、言うことで俺はソフィアと共に帝都に来ていた。青の節の帝都は非常に寒く、アルスの塔を攻略していた頃とは段違いだった。
ザクザクと雪を踏み締める音を立てながら、ソフィアと通りを歩く。
「それで、私とあなたはこれから宿で働かないといけないのよね?」
「あくまでも"フリ"だからな。宿の主人にも話しはつけてあるらしいし、難しい仕事はないだろ」
フレミーの依頼とは、宿で働きながらとある物について調査することだった。
調査対象は【ドラゴンブレス】という名の幻のワインだ。
1億Gは余裕で超えるワインで、飲めば胃から火が出るんじゃないかと思うほどの刺激が喉を伝うと言われている。
しかし、このワインには別の異名があった。その名も【傾国酒】──。
このワインを巡って小国同士が争い、共倒れとなった過去がある。そんな傾国酒がこの宿に持ち込まれるという情報を得たフレミーにより、ロイ達へ依頼をすることとなった。
ロイとソフィアは宿に入り、マスターへ挨拶を始めた。
「君達がフレミー様の雇った冒険者・リーベかな?」
「ああ、その通りだ。俺がパーティリーダーのロイ」
「私はパーティメンバーのソフィアです。よろしくお願いします」
ソフィアがお辞儀も交えて丁寧に挨拶すると、宿のマスターは驚きの表情でソフィアを見ていた。
「銀髪にソフィアという名……君はまさか、レーン家の……?」
「はい、元ナイト貴族のソフィア・レーンです」
宿のマスターはソフィアの手を取り、涙を流しながら言った。
「おぉ……やはりソフィア様! あの時の子供が随分と大きくなって……」
「私の事を知ってるのですか?」
「ああ、国家反逆罪で追われる君達を、一晩だけうちの宿で匿ったんだ」
国家反逆罪──その単語が出た瞬間、ソフィアの表情が曇った。
「もしかして、私が気絶していたあの時に?」
「ああ、追っ手の攻撃も凄まじかったらしくてね。君達一家はボロボロになりながら帝都を逃げ回っていたね」
手を貸したとなれば宿のマスターも罪に問われかねないのに、無実を信じて助けてくれた。
そんな献身的な態度に対し、ソフィアは改めて感謝を伝えた。
「両親は……死んでしまいましたが、なんとか私だけは生き延びることが出来ました。本当にありがとうございました」
「……ソフィア様」
「ですが、今の私はソフィア・レーンではなく、ただのソフィアですので、対応もそれ相応で構いませんよ」
「ああ、そうだったね。つい感動して君の立場を忘れていたよ。えーっと、ロイ君だったかな、脱線してすまない」
「いや、構わない。ソフィアにも陰ながら味方が居たんだなって、少し安心したよ」
「はは、それはこちらの台詞でもあるよ。さて、取り敢えずはこの給仕服に着替えてくれないかな。事が済むまでは2階の奥の部屋を使ってくれても構わないから」
宿のマスターが、ロイとソフィアを部屋へと案内した。
「フレミー様が君達なら1部屋でも構わないって話だったんだが……もう1部屋用意した方がいいかな?」
マスターがロイに確認を取る。それに同調してソフィアもロイをじっと見詰めた。非常に答えづらい空気が漂う。
ソフィアからの好意については黒い指輪の一件で何となく気付いていた。だけどそれに乗っかって元気良く頷けるほど図太い精神ではない。
それでも進展させるには頷くほか無い訳で──。
「……なんというか、このままでいい」
ロイが答えると、マスターは肩に手を置いてニヤニヤした顔で言った。
「そうか。あんまり音は立てないでくれよ?」
言外に……そういう行為はしても良いが隣に迷惑かけるなよ、そう言ってるように聞こえた。
パタンとドアが閉まり、ロイとソフィアが部屋に取り残される。ユキノとは自然体でいられるのに、ソフィアに対してはむず痒い空気になってしまう。
5年前にした口約束の婚約。お互いに大人になったし、もしかしたら心変わりしてるかもしれない。
この間見つけた黒い指輪も、単純にアクセサリーとして持っていただけかもしれない。
色んな"かもしれない"によって中々踏み出せないでいた。
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