ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
40 / 1,117
旅立ち~オードゥス出立まで

いざ中層へ

しおりを挟む
いつも起きる時間を少し過ぎ、宿から出て「いざ中層へ」と行きたい所だったが前日に壊したショートソードとダガーを買いに通りを歩いていた時だった。
何かダンジョンの方向が騒がしかったので覗いて見ると30人程の冒険者が並んでいた。


前日のジョーとの会話を思い出す。

(そういえばダンジョン入りは普通だったら昨日辺りからって言ってたっけ…) 

見たとこ数分置きにダンジョンに入っている様なので人数的にもう少し掛かりそうだ。
先に武器屋に行って武器を購入してから食堂に行こくとする。

武器屋に着くとガーラではなく別の職員がいた。
デオの工房にいるんだったな、と<聞き耳>をたてると


<ドゴゴゴゴゴゴ!>

(あれ?鍛治場の音ってこんなだったっけ?)


「凄い音でしょう?デオさんとガーラさんがスキルを総動員して依頼品を作ってるんですよ。今工房内の室温がかなり高いので…ほら、レリーもこちらに避難してきてるんですよ。」

職員が天井の方を指差すと隅の方に『シルクスパイダー』のレリーが虫を食べていた所だ。
目が合った気がしたのでとりあえず手を振る。


「あ、そうだ。ショートソードとダガー、矢を20本買いに来ました。」


「はい。1万2千ガルになります。他に何かご所望の品はありますか?」

「あ、これはこちらで処分して貰っても良いですか?」


と言ってへし折れたショートソードとダガーを職員に手渡す。

「こ、これは…!」

驚く職員だが話すと長くなりそうなのでそそくさと店を出る。



朝から何も食べてないのでとりあえず食堂に向かう。

「おばさーん!開いてますかー?」

「あぁ、開いてるよ。1人ならカウンターでねー!」

カウンターの席に座り近くにある各食事内容が書かれた札を手に取る。
何にしようか考えていると隣から声が掛かる。


「やあ少年。この間は世話になったね。」

渋い感じのおじさんの声がしたので横を見るとこの間より少し大きくなった『歩く茸』が小皿の中に張られた水に脚を突っ込んでいた。


ノアが何とも言えない光景に固まっていると


「すまない。朝の水分補給の時間でね。
君に採取された時は終わったと思ったがここの女主人は良い人だ。今はここでの暮らしの方が楽しいと思えるよ。」


「あ、あぁ、それはどうも…」

「すまない、自己紹介がまだだったね。私はチャールズ。この間より成長して『喋るし歩く茸』に進化したんだ。これからもよろしく。」


するとチャールズは小指の先程しかない小さな手を出す。恐らく握手なのだろう。人差し指を当ててこちらも自己紹介をする。

「僕はノア、つい最近冒険者になった者です。」


「これはご丁寧にどうも。そういえば君は朝ごはんを食べに来たんだったか。であれば『動く茸』のクリームシチューがオススメだよ。」


(そういえばおばさんも『動く茸』を勧めてたっけ。)

「それではこれにします。おばさーん。『動く茸』のクリームシチューで!」

「あいよー!」



暫くチャールズと会話をしているとノアの元にたっぷりの野菜とたっぷりの牛乳を使った香ばしいシチューとパン2つが届く。

「熱い内にお食べなね。」

「うわぁ~良い匂い!頂きまーす。」

ノアは匙を手に取り掬って直ぐ様頬張る。
口の中の野菜がホロリと解れ、噛むまでもなく蕩ける程煮込まれた肉。
パンはシチューに浸し、トロトロになった生地を頬張る。

「んまい。」

感嘆の声を上げたノアが、さぁもう一口と匙を上げると中から茸が出てくる。見た目は小振りな普通の茸だ。

「お、それが『動く茸』だ。…僕の子だよ…。」

(食い辛ぇ…)


本人(?)が見てる前で食べるのは気が引けるが食べない訳にもいかないのでパクリといく。

「お、美味しい。」

(味も普通の茸と…いや噛む度に何か出汁の様なものを感じる。)

「気に入ってくれて良かったよ。これで我が子も…浮かばれる…。」

(次回頼み辛ぇ…)

「そうだ少年。もしまたダンジョンの上層1階に行くなら私の仲間を連れてきて貰えないだろうか?池の近くにいるハズだ。
名前を呼ぶか私の名前を出せば来てくれるだろう。」

「分かりました。因みにお仲間の名前を教えて貰っても良いですか?」

「クリスチャンとレベッカと言う。」

(何でもれなく名前がカッコイイんだろう…)


了承したノアは料理を完食し、席を立ってお代を払う。

「はい、毎度あり!気を付けて行ってらっしゃい。」

手を振ってノアを送り出すおばさんとチャールズ。
腹を満たしたノアはダンジョンの入り口へと向かうと入り口付近には残り3人となっていた。
あともう少しだろうからと列に並ぶ。

各武器、回復玉の確認等を行っていると前の3人から

「あれ?訓練所で見なかったけど冒険者ですか?」

と声が掛かる。
前を見ると剣士、弓、神官(かな?服装的に)の3人が立っていた。全員女性だ。


「ああ、自分は訓練所に行かずそのままダンジョンに潜ってたんだ。
というか訓練所の存在を知ったのは昨日なんだけどね。」

「そうだったんですね。あれ?そういえばパーティの方々は…」

神官(?)の女性が話し掛けて来た。

「自分は1人なんですよ。」

「え!?1人で!?大丈夫なんですか?」

「まぁ今日は戦闘はなるべく回避して中層まで行く予定ですのでそこまで大変な事にはならないでしょう。」


「「「中層!?」」」


3人共驚きの表情を見せる。と同時に彼女らの番が来た様だ。

「気を付けて下さいね。」

そう言い残し3人はダンジョンの中へ、次の番を待つノアに兵士が説明をしてくる。

「おう!坊主か。悪いがこの砂時計の砂が落ちるまで待ってくれ、他のパーティと当たらない為の処置なんだ。」


「人数多かったですものね。」

「ああ、昨日訓練所での講習が終わったから今日からだろうなとは思ってたがね…そういやさっき話が聞こえたが中層まで行くんだって?」

「まぁ極力戦闘はしませんがね。」

「ま、そうは言うがこれまでの実績があるからな。鞄2つ持ってきな。」

(ホントに戦うつもりは無いんだけどな…)


チラっと砂時計を見るとあと少しなので前屈みになるノア。

「ん?どうした坊主。」

兵士の問いかけと砂時計の砂が落ちきるのは同時だった。

「行ってきます。」

ノアは一気に駆け出した。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...