ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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旅立ち~オードゥス出立まで

生きた心地

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ジェイルパーティは生きた心地がしない状況が続いていた。

強烈な殺気に耐えながらどうにか中層1階に辿り着いたジェイルパーティ一行は逃げつつも相談を始める。


「どう考えても俺達が街に着くよりもあちらがこのパーティに到達する方が早いだろう。
皆は先に行っててくれ、俺がこの場に残って奴の注「ジェイル!」」


ジェイルの発言を止めたのはロゼだった。


「ちょーっとジェイル!相談も無しになーに勝手に決めちゃってくれてんの!?」


ロゼは剣の柄をジェイルの頬にぐりぐり押し付けて言う。


「ロ、ロデ…ほれは真面目にいっへんだが…」

「あたしだって真面目に言ってんの!それにジェイル1人置いて逃げれる訳無いでしょ?」


そんな2人のやり取りを横目で見ていたポーラも加わる。


「ジェイル、そんなセリフ言う時位手の震え止めてから言いなさい。」

「な!?しまっ…あれ?」

「ふふ、嘘よ。
でもねジェイル、前みたいに『逃げろ』って言われて『分かった』って私やロゼが言うと思う?」

「うっ…」

「それに今回は皆でだってどうなるか分からない、勇敢と無謀は違うのよ?」

「…すまなかった、また1人で突っ走る所だったよ。」


「さてクロラ、私達はこれから殿を務めるつもりのジェイルにわがまま言ってあの熊を一緒に迎え撃つつもりなの。
これはあくまで内輪での話だからクロラはこのまま街に逃げても「残るよ。」」


予想していなかったクロラの言葉に黙る一同。


「あの熊を少し見ただけだけど、勝てないのは分かってる。
死ぬのは嫌だけど、だからと言って皆を残して逃げるのはもっと嫌なの。」

「でもあなた、少年の事…」

「うん…本当は今すぐ会いたい。
ノア君の事だから私だけ逃げて帰っても何も言わずにいつも通り迎えてくれると思う。
でもそれだと私が私を許さないの。
自分でもわがまま言ってるのは分かってるけどそれだけは譲れない。」


未だにおんぶされているポーラは真っ直ぐな目で見つめてくるクロラを見て


「クロラ、少年に似てるわね。」

「え?どう言う事?」

「何でも無い。ジェイル、私にちょっと作戦があるんだけど良い?」

「あぁ、今は時間が惜しい。何か手があるなら尽力するよ。」

「ロゼ、少し危険だけど良いかしら?」

「今現在の危険に比べたらなんて事無いよ。」

「ふ、その意気よ。まずは…







いる。

我が子を殺した奴よりかは強いが取るに足らないのが4つ。

板(?)を持った奴
2本の棒を持った奴
長い曲がった棒を持った奴
さっき冷たい壁を出した変な奴

さっきから逃げてばかりだったが観念したのか動きを止めた。

降伏したとしても奴らの同族なら許す道理は無いがな。

俺を前にして板(?)を持った奴が向かってくるか、そこはアイツらとは違うな。
だが何だコイツは?コイツの動き、出す音何もかもが更に俺をイラつかせる。

邪魔くさい、腕を軽く振っただけで乾いた音を立てて飛んで行った。
板(?)で何するつもりだったのだろう。


ん?今の奴から何かが体を伝って首に…この、ちょこまかと…


ゴリッ!        バキバキバキバキ!


ん?なんの音…



ズシャアアアアアアアアアア!ガラガラ!ズズン!





「どう?上手く行った!?」

「えぇ…バッチリ狙い通りよ…はぁー…しんど…」

「ジェイル!?だいじょーぶ!?」

「あぁ…アイツが腕振った時にわざと飛んで良かった…まともに受けたらこの盾の様になってただろうな…」


ジェイルは手に持っているぐしゃぐしゃにひしゃげたカイトシールドを見て、背中にじっとりとした冷や汗をかいていた。


ポーラが立てた作戦はこうだ。

ジェイルパーティにバーサークベアが到達するまでの僅かな時間でポーラが樹上に巨大な氷の塊を生成、それを同じく氷で生成した脚で支える。
バーサークベアからは見えない様に木の幹で隠す。

ジェイルが<挑発>を発動し、落下地点まで引き付ける役と、氷の脚を見ない様に視線を固定させる役を担う。

ジェイルのカイトシールドに隠れていたロゼがバーサークベアの体をよじ登り、首元で撹乱を行い視線を外す。
その間にクロラが弓を射て、氷の脚を壊す。

壊した直後、ロゼが離脱、轟音と共に超重量の氷の塊がバーサークベアに直撃。
流石のバーサークベアも重さに耐えきれず氷の下敷きになる。


ぐびっ


「ぷはっ、マナポーって何でこう苦いのかしら…
ジェイル、良いわ、行きましょう!」

「分かった、皆行くぞ!」


ジェイルの号令の後走り出す一同。
今のは討伐目的では無く街からの応援と遭遇するまでのあくまで足止めに過ぎない、こんな事で倒した何て誰も思っていない。


ドガァッ!


氷の瓦礫からバーサークベアが出現。
見た所ダメージらしいダメージは入っていない。


「やっぱり無傷か…ポーラ、いけるか?」

「まだ周りに氷が残っているから大丈夫。任せなさい!アイシクルジャベリン!」


ポーラがそう唱えるとバーサークベアの周囲の瓦礫から氷の槍が次々と発生、体に十数発当たるも接触した所から砕けて行く。


「くっ、硬過ぎる。あれじゃ足止めにもならない!」





これだ。

この生物の怖い所は。

自分より遥かに小さく、脆弱で、力も無いが知恵を使って恐ろしい攻撃を仕掛けてくる。
先程の奴らも火の玉や地面から木を生やしたりと奇妙な攻撃を繰り出してきた。
だからこそ徹底的に殺さねばならん。


ボゴォアッ!


瓦礫の山から飛び出したバーサークベアは僅か数秒でジェイル達の元へ辿り着く。

ジェイルが咄嗟にパーティの後方へ向かい立ちはだかる。

バーサークベアは近くに生えていた木に爪を刺し、根刮ぎ引き抜きジェイルにぶん投げる。

「ぐっ、<受け流し>!」


ごしゃっ!      「うぐぁっ!」


先程の攻撃でひしゃげたカイトシールドでは上手く受け流せない。
何とか体勢を戻しはしたが既にバーサークベアの巨腕が迫っていた。
受け止めようとせず敢えて飛んで威力を殺そうとするが


バギィン!        ミシッ!ビキッ!「ぐぁああっ!」


ひしゃげた上に更に衝撃が重なり盾が割れてしまった。
盾を持っていた左手は折れ、勢いそのままに少し離れた木に衝突する。

「ジェイル!」

「ロゼ!前!」


ロゼが視線を戻すとバーサークベアが右腕の振り下ろしを繰り出していた。
避けれる速度だったので後ろに跳躍した所左腕の振り払いが直撃する。

(ぐっ、やられた…)

後ろへの跳躍を誘われた事と脇腹に走る鋭い痛みに顔をしかめる。
吹き飛ばされたロゼは空中で体勢を変えようにも脇腹の激痛で思うように体が動かず、木への衝突は避けられなかった。


ドスッ!バキッ!


ロゼが何かにぶつかり、木に衝突。
ロゼは思いの外痛みが無い事に驚いていた。


「大丈夫か、ロゼ…」

「ジェイル!?血が…」

「木に当たると痛いんだよな…すまん、勝手に体が動い…」


ジェイルはそのまま気絶した。
ロゼも立ち上がろうとするが動くだけで激痛が走る。

「ロゼ!そのままジェイルと一緒にいて、こっちでどうにかする!アイシクルジャベリン!」

ポーラが継続的に氷の槍を撃ち続ける。
それを意に介さず突っ込んで来るバーサークベア。


「ぐぐぐぐぐぐっ!…うぐっ!?」


槍の放出が止まる、魔力が完全に尽きたのだ。
魔力が枯渇した事で強烈な脱力感がポーラを襲い、その場に座り込む。

そんなポーラにバーサークベアは大口を開けて噛み付きに掛かる。

「ちょっと…殺すならせめて原形留めておいてくれない?」


ガリリリリッ!       グォアアッ!?


バーサークベアの眼球に麻痺毒矢が当たる。
突き刺さりはしないものの、表面を幾ばくか削り、注意を向ける事は出来たハズだ。


グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!


バーサークベアはクロラに猛然と襲い掛かる。
クロラは口や手足の動きに注視してギリギリ回避する。

が、装備の一部に爪が引っ掛かり近くの木まで吹き飛ばされる。


「かはっ…!?」

近くの木に強かに背中を打ち付け、一瞬息が詰まる。

「けふっ、けふん!」

力無く崩れ、項垂れるクロラにバーサークベアは少し目を瞬かせ、何でも無い様に鼻を鳴らし、大口を開け襲い掛かる。


クロラは左手に嵌めたペアリングを撫で、目を瞑る。


「ノア君…」



バキバキバキッ!ガササッ!


突如として項垂れるクロラの樹上から枝葉を突き破り、ノアが阿羅亀噛を手にバーサークベアに斬り掛かる。
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