ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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アルバラスト編

腰まで伸ばした銀髪を

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地下への階段を上がって来たのは、腰まで伸ばした銀髪を靡かせた20代位の女性であった。
女性は痩せこけてはいないものの血色が悪く、普段からも外にはあまり出ていないのだろう。

女性は目を伏せたままノアの前までやって来るとチラリと一瞥。

したかと思うと直ぐ様目をカッと見開き、ノアを凝視。
体をわなわなと震わせ、慌てふためき姿勢を正した女性はノアに最敬礼をしだした。


「「「「「「え?」」」」」」


ノアどころかゴルダや従業員、子供達まで女性の行動に驚いている様で、
ノアにへばり付いていた子供達がスルスルと下りると、とてとてと女性に近付いていき、心配そうに声を掛ける。


「ヴァーちゃん、だいじょーぶ?おなかいたいの?」

「お腹は痛くないから大丈夫よ。気にしないでね?」

「ねぇヴァーちゃん、いつもどーりおじょうさまていすとでいくんじゃないの?」

「ル、ルミナ!?ど、どこでそんな言葉覚えて来たのかしらねぇ…オホホ…」

「ねぇヴァーちゃん、このおにーちゃんってろくでもないの?」

「な!?何を言ってるのかしらねーこの子ったら…」


「ヴァーちゃんいつも"わたしのところにくるおとこはろくでもないやつば「だーっ!この御方の前でそれ以上言わないでぇっ!?」


最敬礼していた女性は余計な事をこれ以上言われない様に姿勢を戻し、子供達の口を塞ぎに掛かる。


ここまでの一連の流れを見ていたゴルダは女性に近付く。


「…ディット、どうしたんだい?いつもと態度が違うようだが…」

「こ、この方には普段の様には振る舞えません…」


平身低頭としている女性は普段はこうでは無いらしい。
ノアはこの違和感に覚えがあるのでゴルダに聞いてみる事に。


「すいませんゴルダさん、この方って鬼人族ですか?」

「いえいえ、この者は…」


そこまで言った所で女性はハッとして自己紹介をしだした。


「す、すみません、名乗りもせずに…
私の名はヴァンディット、種族は吸血鬼に御座います。
本日は私ごときの為にご足労頂きありがたく思います。」


ヴァンディットと名乗った女性はドレスの裾を摘まんでお辞儀をする。
自然な動作で行っていた為何処ぞのお嬢様と言われても信じるだろう。


「そうですか、吸血鬼で…ん?吸血『鬼』?」

(まさか…)

(『多分…そのまさか、だろうなぁ…』)


ノアが何か言い掛けた所で考え込んだ為、ヴァンディットは不安そうにしている。


「あ、あの…何かお気に触りましたでしょうか…?」

「あ、いえいえ。吸血鬼の方と会うのは始めてなもので…少しびっくりしただけです。」

「そうでしたか、私も貴方様の様な高名な御方に出会えて驚きました。」

(ねぇ、本当に『俺』って何なの?)

(『俺は俺だ。それ以上でも以下でも無い。』)


相変わらず詳しい事を教えてくれない『俺』に対して思う所はあるが、ここでジョーさんが話に加わる。


「どうもお久し振りですヴァンディットさん。」

「あら、ジョーさん、貴方がこの御方を?」

「ええ、この少年、ノア君に貴女を紹介したんです。
確かヴァンディットさんは錬金術と医療にも精通していらっしゃったハズですが…」

「ええ、それに加えて最近空間魔法も習得致しましたの。」

「ほぅ、それは重畳ですね。
実はこのノア君、かなり体を酷使した戦い方をしているもので錬金術と医療に精通した者と一緒に行動した方が良いと思い、今回この場を設けさせて頂きました。」


ジョーが掻い摘まんで説明をしてくれた。
ヴァンディットは一通り説明を受けた後、吸血鬼ならではの発言をする。


「なる程…ノア様、少し血を頂いても良いですか?」

「血を?」

「はい、私の特性でして、血を頂く事でその者の健康度合いや状態、今回はやりませんが多少記憶を探る事が可能です。」

「へぇ~。」


そういう特性もあるんだな、と思っているとゴルダが補足を入れる。


「彼女はこうやって彼女を買いに来たお客様の血を飲み、気に入った者を主にするとしているのです。
が、なかなか条件に見合う者が現れず、今もこうして残って居られるのですよ。」


(なる程…変わり者と言うのはそういう所の事を言っていたのか…)


ノアは太ももからカランビットナイフを抜き、刃の部分をぎゅっと握る。
すると掌の端から鮮血が溢れてくる。


「これで良いですか?」

「けーっこうザックリいきましたね…本当に少しで良かったのですが…」


そうは言いつつもノアの掌に溜まった鮮血をコクリと飲み干すヴァンディット。
ペロリと舌嘗めずりをして口の端しに付いた血を嘗め取る。


「ふむ、非常にサッパリとした喉越し…ですが野性味溢れる力強く、濃厚な味…
以前頂いた事のある『こんそめすーぷ』を彷彿とさせます。」

「は、はぁ…」

「ですが疲労の蓄積が凄いですね。
平然としてる様ですが常人であれば立ってられない程ですよ?」

「うっ…」

「あと血の中から薬品の臭いを感じます。
大方状態異常を薬品で強制的に解毒したのでしょう。
頻繁に飲んでいるのか、別の毒が蓄積されつつあります。」

「うぐっ…」

「ノア様?何日間寝てないのですか?
<痩せ我慢>使って強制的に体を動かしてる様に思われますが…」

「うぐぐっ…」

「言いたい事は山程ありますが、遅かれ早かれ倒れる事は目に見えています。
言ってしまえば最低の血ですね。」

「うぅっ…弁明のしようも御座いません…」


地面に手と膝を付けガックリと項垂れるノア。
言われている事は全て当たっている為何も言い返せない。


「ですが…
とても頑張り屋さんで働き者の血です。
それに先陣切って戦う兵の血でもあります。
人が傷付く事を嫌い、身を粉にして戦う者の血です。
ここに来るお客様は皆美酒を煽り、美食を好み、贅沢を尽くした者ばかりです。
確かにその者達に買われれば何不自由無く暮らしていけるでしょう。
ですがそうなると私は『者』ではなく『物』として悠久を過ごす事になります。
私にそれは耐えられません。」


ヴァンディットは自分の胸の内を話始める。


「以前借金奴隷としてここにいた虎型獣人のラストリアが言ったの『私、ここを出たら冒険者になりたい。』って。
数年後に完済して本当に冒険者になってここを出て行ったわ。
その後の彼女がどうなったか何てここにいる私には知るよしも無い。
例え誰かに買われてここから出たとしても『物』となった私には探す手立ては無いでしょうしね。
私が主とする御方は私を『者』として扱い、彼女と同じ冒険者を志し、微力ながら献身的に仕えたくなる様な、そんな御方に御座います。
ノア様が宜しければ私をお側に置いて貰えないでしょうか?」
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