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アルバラスト編
奴隷
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「うーん…奴隷…奴隷か…」
闘技場を出たノアやジョー達は休憩がてら街の広場に来ていた。
既に野盗達は奴隷専門馬車に乗せられ各街に散って行った様で、残り僅かとなっていた。
ノアは先程の話を割と引っ張ってうんうん唸っていた。
そこにラーベが話に入って来た。
「ノア様は、その、奴隷は嫌ですか…?」
「奴隷が、とかでは無くて奴隷を持つ人に抵抗感があると言うか…
昔両親と街に行った時に1度奴隷商を見た事あって、そこの人が酷い扱い方をしてたんです。
当時は体が弱くて何も出来なくて恐くなってその場から逃げちゃったんです。
その日から奴隷を連れてる人に嫌悪感を抱いてしまって…」
「そう、ですか…」
「で、あれば私にも強い嫌悪感を抱くかな?」
ジョーが話に入って来る、ノアは「あれ?どういう事」と言った顔をする。
「私達も元は奴隷なんです。
借金奴隷として奴隷商に売られ、何処ぞの金持ちに買われそうになった所をジョー様に引き取られました。」
「ジョー様には生きる術を教えて貰い、私も姉さんも強くなる為に必死に頑張って護衛を任される迄になりました。
ジョー様には感謝しかありません。」
「まぁ私も仕事柄仕方ないとは思いつつも奴隷商、特に借金奴隷商にはあまり良い顔が出来なくてね。
彼女らを引き取ったのも、買取り先の金持ちが中々えげつない人だったので黙っていられなかったんだ。」
「そうでしたか…言われるまで気付きませんでしたし、ジョーさんに対して嫌悪感はありませんよ。
あくまで虐げてる奴隷商に嫌悪感を抱いてるだけです。」
「それは良かった。
ちなみに僕は誰彼構わず奴隷を勧めてる訳では無いよ?
人柄等、普段の行いを見た上で勧めるかどうかを判断している。ノア君なら安心だろう。」
「そうですかねぇ…」
「そうですよ、ノア様なら大丈夫です。
ノア様が主人ならその…私も嬉しいですし。」
「そ、そうですか…」
急にグイグイ来たラーベに押されるノア。
このラーベの行動を見た妹のラベルタとジョーは色々と察した様だ。
「で、あればこの話は前向きに考えてみます。
後は予算がどれ位掛かるかが心配ですが…」
「恐らくだけど今のノア君でも予算的には大丈夫だと思うよ?」
「そうなんですか?」
「うん、相当の変わり者だからねぇ。
当人からの『条件』に見合う人が今の所いないらしいよ。」
「それ、僕も見合わないのでは…?」
「それなら1度会うだけ会ってみるかい?」
「え?そんな近場にあるんですか?」
「いや、詳しい場所は言えないけど"飛んで"行けるよ。」
ジョーはアイテムボックスから手帳を取り出すと、パラパラとページを捲り、魔法陣が描かれた1枚の紙を出す。
すると隣にいたラーベが手を差し出して来た。
「ノア様、お手を。」
ラーベの手を握ると足元に直径3メル程の魔法陣が展開。
視界がグニャリと歪み、景色が変わる。
あっという間にアルバラストと違う何処かの街へと移動した。
「うおぉ…気持ち悪い…」
「空間転移は多少魔力使うし慣れが必要だからねぇ…
さて、取り敢えず目的の場所に着いたよ。」
ノアが顔を上げるとそこには豪華な平屋の建物があり、看板には『ゴルダ奴隷商』と書かれていた。
「おや、ジョーさんではないですか、本日はどういった御用件で?」
「どうもゴルダさん、例の彼女はどうですか?」
「ははっ、相変わらず見合う者は居られませんよ…
と言う事は…そちらの少年に?」
「話が早くて助かります。
そうですね、この少年を彼女に紹介してみようと思いまして。」
「そうですか、畏まりました。
さぁノア様、皆様方もどうぞこちらへ。」
ゴルダの応対に「あれ?」と思うノアだったが一先ず後ろに続く事に。
商会の中は調度品や高そうな絵画が飾られており、『如何にも商人』といった感じの内装をしている。
(この建屋には従業員らしき人物が…3人…
裏手の建物には大人が3人、子供(?)が8人位いるな…恐らくそこが奴隷達がいる所か…
その建物の地下に、1人誰かがいる…隠しているのか?)
ノアは無意識の内に<気配感知>で周囲の人数を把握。
(換気はしっかりしている。
澱んだ空気等は感じられないし、臭いも無い。地下は多少澱むのは仕方無いとは言え、清潔に保たれている様だ。)
<気流感知>で不衛生な環境で無いかを確認し
(泣き声や怒号等は聞こえない。
壁の裏や天井裏等からこちらを見ている者も居ない様だ。)
<聞き耳>で虐待やこちらを監視する者が居ないかを確認していた。
「ノ、ノア君…?」
ジョーに言われてハッとなったノアが顔を上げると全員がこちらを見ていた。
「な、何か御不満な事でも御座いましたでしょうか…?」
「ノア君…凄く恐い顔してたし…殺気も漏れてたよ…?」
「「ノア様…」」
「あ!いえ、すいません。先程名乗っていなかったのに僕の名前を知っていたのでつい…」
無意識とは言え失礼な事をしてしまったので素直に謝る事に。
「それは申し訳ありませんでした。
ノア様は商人の間では割と有名になってきていますのでお名前は既に窺っておりました。」
「何かやったっけ?」みたいな顔をするノアにラーベが答える。
「女鏖蜂の討伐、バーサークベアの討伐。
ゴブリン200体の殲滅に野盗200人の無力化、その上ヒュドラ討伐とあれば有名になるには十分ですよ。」
「自分の事ながら結構やらかしてるなぁ…」
「いえいえ、私もアルバラストで何度か野盗に襲われた事がありますので今回は非常に感謝しております。
さぁどうぞこちらへ。」
再びゴルダに促されて建屋の裏手にある建物へ。
建屋に比べれば質素な造りではあるが、中から子供達の笑い声等が聞こえてくる。
ガチャッ「あ、ゴルダさん、こんにちわー。」
「はい、こんにちは。今日はお客様が来ていらっしゃってるので少し静かにしてるんだよ?」
「お客様が」の部分で既に腰、肩、頭に子供の狐型獣人がへばり付いてきていた。
「ああ!こ、こら、離れなさい!お客様に御迷惑だろう!」
「いえいえ、子供はこれ位元気な方が良いですよ。」
顔の正面に尻尾が垂れている状態だが特に気にする様子は無い。
「なんかこのおにーちゃんあったかいかんじがするの。」
肩にへばり付いている子狐が首筋に顔を擦り付けてくる。何ともモフい。
「子供ながら何か感じる物があるのでしょうな。」
そう話している内に両足にも子供の兎型獣人がしがみ付き、背中には見た目ほぼ子猫の獣人2人が軽く爪を立ててしがみ付く。
子供の犬型獣人は登れそうな所が無いのか、この状況をじーっと指を咥えて見ていたので、両手で迎えて胸に抱える事にした。
「ここまで懐かれる方は今まで見た事ありません。
ですが、このままでは下に下りられませんな。少々お待ちを、直ぐに呼んできましょう。
おい、彼女をこちらに。」
ゴルダが近くにいた従業員兼保育士の女性に声を掛け、ノア達へ一礼した後に地下へ。
「それにしても、もっこもこだねぇ。」
「こうなるのなら今度獣人が多く住む街にでも行ってみようかな…」
本当であれば竜種ダンジョンの『ドラガオ』にでも行こうかと考えていたノアだが、もっこもこになれるのであれば獣人の街に行ってのんびりするのもアリだな、と考え始めている。
そうしていると地下の話し声が聞こえてきた。
<…さん、お客様がいらっしゃいましたので上に来て頂けませんか?>
<…またですか?>
<ゴルダ様のお得意様からの推薦ですのでどうか…>
<…畏まりました。直ぐに向かいます。>
(ジョーさんにして変わり者と言うからな…一体どんな人が来るのやら…)
少しすると漆黒で細身のドレスを着た女性が地下から上がって来た。
闘技場を出たノアやジョー達は休憩がてら街の広場に来ていた。
既に野盗達は奴隷専門馬車に乗せられ各街に散って行った様で、残り僅かとなっていた。
ノアは先程の話を割と引っ張ってうんうん唸っていた。
そこにラーベが話に入って来た。
「ノア様は、その、奴隷は嫌ですか…?」
「奴隷が、とかでは無くて奴隷を持つ人に抵抗感があると言うか…
昔両親と街に行った時に1度奴隷商を見た事あって、そこの人が酷い扱い方をしてたんです。
当時は体が弱くて何も出来なくて恐くなってその場から逃げちゃったんです。
その日から奴隷を連れてる人に嫌悪感を抱いてしまって…」
「そう、ですか…」
「で、あれば私にも強い嫌悪感を抱くかな?」
ジョーが話に入って来る、ノアは「あれ?どういう事」と言った顔をする。
「私達も元は奴隷なんです。
借金奴隷として奴隷商に売られ、何処ぞの金持ちに買われそうになった所をジョー様に引き取られました。」
「ジョー様には生きる術を教えて貰い、私も姉さんも強くなる為に必死に頑張って護衛を任される迄になりました。
ジョー様には感謝しかありません。」
「まぁ私も仕事柄仕方ないとは思いつつも奴隷商、特に借金奴隷商にはあまり良い顔が出来なくてね。
彼女らを引き取ったのも、買取り先の金持ちが中々えげつない人だったので黙っていられなかったんだ。」
「そうでしたか…言われるまで気付きませんでしたし、ジョーさんに対して嫌悪感はありませんよ。
あくまで虐げてる奴隷商に嫌悪感を抱いてるだけです。」
「それは良かった。
ちなみに僕は誰彼構わず奴隷を勧めてる訳では無いよ?
人柄等、普段の行いを見た上で勧めるかどうかを判断している。ノア君なら安心だろう。」
「そうですかねぇ…」
「そうですよ、ノア様なら大丈夫です。
ノア様が主人ならその…私も嬉しいですし。」
「そ、そうですか…」
急にグイグイ来たラーベに押されるノア。
このラーベの行動を見た妹のラベルタとジョーは色々と察した様だ。
「で、あればこの話は前向きに考えてみます。
後は予算がどれ位掛かるかが心配ですが…」
「恐らくだけど今のノア君でも予算的には大丈夫だと思うよ?」
「そうなんですか?」
「うん、相当の変わり者だからねぇ。
当人からの『条件』に見合う人が今の所いないらしいよ。」
「それ、僕も見合わないのでは…?」
「それなら1度会うだけ会ってみるかい?」
「え?そんな近場にあるんですか?」
「いや、詳しい場所は言えないけど"飛んで"行けるよ。」
ジョーはアイテムボックスから手帳を取り出すと、パラパラとページを捲り、魔法陣が描かれた1枚の紙を出す。
すると隣にいたラーベが手を差し出して来た。
「ノア様、お手を。」
ラーベの手を握ると足元に直径3メル程の魔法陣が展開。
視界がグニャリと歪み、景色が変わる。
あっという間にアルバラストと違う何処かの街へと移動した。
「うおぉ…気持ち悪い…」
「空間転移は多少魔力使うし慣れが必要だからねぇ…
さて、取り敢えず目的の場所に着いたよ。」
ノアが顔を上げるとそこには豪華な平屋の建物があり、看板には『ゴルダ奴隷商』と書かれていた。
「おや、ジョーさんではないですか、本日はどういった御用件で?」
「どうもゴルダさん、例の彼女はどうですか?」
「ははっ、相変わらず見合う者は居られませんよ…
と言う事は…そちらの少年に?」
「話が早くて助かります。
そうですね、この少年を彼女に紹介してみようと思いまして。」
「そうですか、畏まりました。
さぁノア様、皆様方もどうぞこちらへ。」
ゴルダの応対に「あれ?」と思うノアだったが一先ず後ろに続く事に。
商会の中は調度品や高そうな絵画が飾られており、『如何にも商人』といった感じの内装をしている。
(この建屋には従業員らしき人物が…3人…
裏手の建物には大人が3人、子供(?)が8人位いるな…恐らくそこが奴隷達がいる所か…
その建物の地下に、1人誰かがいる…隠しているのか?)
ノアは無意識の内に<気配感知>で周囲の人数を把握。
(換気はしっかりしている。
澱んだ空気等は感じられないし、臭いも無い。地下は多少澱むのは仕方無いとは言え、清潔に保たれている様だ。)
<気流感知>で不衛生な環境で無いかを確認し
(泣き声や怒号等は聞こえない。
壁の裏や天井裏等からこちらを見ている者も居ない様だ。)
<聞き耳>で虐待やこちらを監視する者が居ないかを確認していた。
「ノ、ノア君…?」
ジョーに言われてハッとなったノアが顔を上げると全員がこちらを見ていた。
「な、何か御不満な事でも御座いましたでしょうか…?」
「ノア君…凄く恐い顔してたし…殺気も漏れてたよ…?」
「「ノア様…」」
「あ!いえ、すいません。先程名乗っていなかったのに僕の名前を知っていたのでつい…」
無意識とは言え失礼な事をしてしまったので素直に謝る事に。
「それは申し訳ありませんでした。
ノア様は商人の間では割と有名になってきていますのでお名前は既に窺っておりました。」
「何かやったっけ?」みたいな顔をするノアにラーベが答える。
「女鏖蜂の討伐、バーサークベアの討伐。
ゴブリン200体の殲滅に野盗200人の無力化、その上ヒュドラ討伐とあれば有名になるには十分ですよ。」
「自分の事ながら結構やらかしてるなぁ…」
「いえいえ、私もアルバラストで何度か野盗に襲われた事がありますので今回は非常に感謝しております。
さぁどうぞこちらへ。」
再びゴルダに促されて建屋の裏手にある建物へ。
建屋に比べれば質素な造りではあるが、中から子供達の笑い声等が聞こえてくる。
ガチャッ「あ、ゴルダさん、こんにちわー。」
「はい、こんにちは。今日はお客様が来ていらっしゃってるので少し静かにしてるんだよ?」
「お客様が」の部分で既に腰、肩、頭に子供の狐型獣人がへばり付いてきていた。
「ああ!こ、こら、離れなさい!お客様に御迷惑だろう!」
「いえいえ、子供はこれ位元気な方が良いですよ。」
顔の正面に尻尾が垂れている状態だが特に気にする様子は無い。
「なんかこのおにーちゃんあったかいかんじがするの。」
肩にへばり付いている子狐が首筋に顔を擦り付けてくる。何ともモフい。
「子供ながら何か感じる物があるのでしょうな。」
そう話している内に両足にも子供の兎型獣人がしがみ付き、背中には見た目ほぼ子猫の獣人2人が軽く爪を立ててしがみ付く。
子供の犬型獣人は登れそうな所が無いのか、この状況をじーっと指を咥えて見ていたので、両手で迎えて胸に抱える事にした。
「ここまで懐かれる方は今まで見た事ありません。
ですが、このままでは下に下りられませんな。少々お待ちを、直ぐに呼んできましょう。
おい、彼女をこちらに。」
ゴルダが近くにいた従業員兼保育士の女性に声を掛け、ノア達へ一礼した後に地下へ。
「それにしても、もっこもこだねぇ。」
「こうなるのなら今度獣人が多く住む街にでも行ってみようかな…」
本当であれば竜種ダンジョンの『ドラガオ』にでも行こうかと考えていたノアだが、もっこもこになれるのであれば獣人の街に行ってのんびりするのもアリだな、と考え始めている。
そうしていると地下の話し声が聞こえてきた。
<…さん、お客様がいらっしゃいましたので上に来て頂けませんか?>
<…またですか?>
<ゴルダ様のお得意様からの推薦ですのでどうか…>
<…畏まりました。直ぐに向かいます。>
(ジョーさんにして変わり者と言うからな…一体どんな人が来るのやら…)
少しすると漆黒で細身のドレスを着た女性が地下から上がって来た。
応援ありがとうございます!
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