ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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王都編

グシャッ

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グシャッ!「「……ッ!…ッ」」


凄まじい力でナイフごと握り潰されたミミとララは声にならない声を上げ、苦悶の表情で手を押さえ、その場に崩れ落ちる。

と、同時に2人の足元の影からショートソードの剣先が凄まじい速さで出現し、ノアに迫る。

ガッ!ビキンッ!!

即座に反応したノアが<刃断ち>を発動し、ショートソードを破壊。
破壊されたショートソードを手離し、影の中から盾を構えたデミが飛び出す。

ガゴッ!バヂィィイッ!「ぶっ!?」

ノアの顔側面を盾で殴りつけたデミだが、その数倍以上の威力があるビンタを食らわせられ、デミの体は地面を跳ねながら転がっていった。

ズザッ!ズザザザッ!

「うっ!?げほっ…」

(な、何故影移動に対応出来る…完全に不意を突いた一撃だぞ!?
そもそも妨害魔法食らってるハズなのに何だその動きは!何故見えてるかの様に動ける!?)


盾の縁をガリガリと地面に押し当て、無理矢理急停止し膝立ちの体勢になったデミは、全く魔法の影響を受けてないノアに対して恨み節を言う。

そんな事を思いつつも手を潰されたミミとララに向かって手を翳し、影移動を利用して自身の元まで移動させるデミ。

 
「ガドラ!ミミララの治療を!俺とリナで足止め、ノンは強力な奴を出せ!
リナ!威力重視の大振りでは無く、手数で翻弄して機を窺うんだ!」

「わ、分かったわ!」


先程凄惨な体験をしたリナは、少し体を震わせていたが、デミの言葉で我を取り戻した様だ。

「へぇ。」


デミはリーダーと言うだけあってしっかりメンバーに指示を飛ばしている。
普段の行いがアレなだけに、妙な違和感を覚えるノアだった。


「お、戻った。」パチクリ


と、ここでノアに掛けられていた妨害魔法の<ヘヴィ><鈍重><闇視>が解除される。

ノアは周囲を眺めたり、手をにぎにぎして具合を確かめる。


『さーて、試合開始1分で早くも『新鋭の翼』が窮地に立たされたか?
妨害魔法、速攻攻撃、影からの奇襲攻撃を物ともせずに撃退!
アルバラストで野盗200人を屠ったと言うのも伊達じゃないのう。』

「屠ってないよー(ノア)」

『あ、ごめん。』

『どうやら【鬼神】君からはまだ仕掛けないみたいだねー。
さっきの口上聞いた感じだと『新鋭の翼』から仕掛けさせて、全て受け止めた上で潰しに掛かるって感じかなぁ?』


実況のヤンのこの言葉で『新鋭の翼』達に向け、「【鬼神】に目に物見せてやれ」的な声援が数多く上がる。

この間ノアは『新鋭の翼』メンバーを真正面に捉えたままピタリと動きを止め、腕を組んでじっと佇んでいた。


「くそっ、余裕綽々って顔してやがる…
ノン、俺とリナが駆け出したら先制頼むぞ!」

「了解、任された。」

「ミミとララは手が治り次第直ぐ応援に来てくれ、殺す気で行くぞ。」

「「了解。」」

「ガドラはいつも通り任せる。」

「了解した。」

「それじゃあ、行くぞ!」

「ええ!」


デミとリナがノアへ向け駆け出す。

と、同時にノンが何やら唱えると、ノアの頭上10メル程の高さに魔法陣が展開。

ウボォァアアアアアアアアアアアアッ!
ブモォォオオオオオオオオオオオオッ!

魔法陣から2.5メル程の大きさで筋骨隆々、頭に特徴的な2本の角、荒々しい体毛を纏い、自身の身の丈はあろう長さの斧を担いだミノタウロス2頭が召喚される。

巨斧を振り被ったミノタウロスは、ノアへ向けて落下し着地と同時に振り下ろす。

ウボァアッ!ブモァアッ!

ズドォンッ!

2頭のミノタウロスが巨斧を振り下ろすと、爆音と共に高さ20メルにも及ぶ砂煙が上がる。
地面も幾らか砕いているのか、辺りに拳大の瓦礫が散乱している。

ボトッ。  ドズン!

爆音が止むと同時に地面にミノタウロスの頭部が落下。
続けて地面に巨斧が突き刺さり、最後に切断された隆々な手首2本が落下してきた。

ズドンッ!ブモァアッ!?

一拍置いてミノタウロスの悲鳴が聞こえたかと思うと、砂煙の中からミノタウロスが転がり出て来た。

バシュッ!バシュッ!ドシュッ!バシュッ!

ドッ!ドッ!ドチュッ!ドドッ!ドチュッ!

ブモッ!…ォァアアッ!…ブモ…ッ!………ォ…


転がり出て来たミノタウロスの頭部に30本を越える矢が次々と突き立ち、針山の様な状態となったミノタウロスは抵抗するも、次第に動かなくなり事切れる。

砂煙が晴れると、接近して来るデミとリナに向け、弓を構えたノアが矢を放つ所であった。


「まずいっ!デミ、避けて!!」

「避けてみろ。」ドシュッ!ドシュッ!


そう言い放ったノアは、<洗練された手業><集中><偏差撃ち><渾身>を発動。

踏み出したデミの爪先に矢が突き立ち、その一撃でデミの体勢が崩れる。

ドッ!「うぎっ!?」

咄嗟に体の正面に盾を構えようとするデミだが、盾の縁に矢が当たり弾かれる。
すると腹部に3本の矢が突き刺さり、前屈みになった所で右肩、左鎖骨に次々と突き立つ。


「がっ!?…ああっ!」


デミは次々と襲い掛かる激痛に耐えきれず、しゃがみ込んでノアに背を向ける。

ドドドドドドドッ!「うががっ!!」

が、そんな事お構い無しにその背中に追加で7本の矢を突き立て、頭が上がった所を狙い後頭部の首の付け根に矢を射ると、デミは動かなくなった。


「が…っ」


再び緊急措置が反応し、デミの体から矢が次々と抜け落ち、蘇生魔法が発動される。

回復したデミにリナが駆け寄る。

弓を背中に仕舞ったノアはと言うと、再びその場で腕組みをして待機する事にした様だ。




『…さて、試合開始まだ5分も経ってないが早くも一方的な試合展開になってきたのぉ…
近距離ダメ、遠距離もダメ、時間稼ぎのミノタウロスも瞬殺…あのモンスターそんな簡単に倒せる奴じゃ無いんじゃがのぅ…』

『いやー…範囲内に近付いた敵を迎撃するボスモンスターみたいだねー…
どうしますエルニストラ王?…時間無制限だとただの殺戮ショーになっちゃうけど…
【鬼神】君、明らかに手抜いてるっぽいし…』


実況のヤンから話を振られたエルニストラ王は顎に手をやり、思案していた。


「ううむ…流石にここまで一方的になるとは私も予想しとらんかった。
どうする?『新鋭の翼』の皆々方、棄権するなら今だが?」


王からのこの問いにデミは慌てて否定する。


「や、やれます!まだ戦えます!」

ォオオ…

この発言に観客が僅かに沸き上がるが…


「そうでなくっちゃね。
こちとら出たくもない御前試合に引っ張り出され、1対6というハンデにも何も言わずに来てみれば、「このままじゃ勝てる見込みが無いから棄権します」じゃ、どっかの誰かさんが仕向けた爆破事故から生還してきた甲斐が無い。
そうでしょ?」


ノアは色々言った後、観客席に居るコモン・スロアに向かって視線を送る。

視線を受けたコモンは、露骨に慌て、冷や汗をドバッと噴き出すのを感じる。

(バ、バレている!確実に私が指示した事だという事が…)

この段階で既にコモンの計画は破綻し掛かっていた。

予定では『新鋭の翼』の活躍により、勝ちはしないものの【鬼神】のノアを疲労困憊にさせ、計画の障害から取り除く予定であった。

しかし予想に反し、1対6という絶対的不利な状況でも【鬼神】は圧倒的力を見せ、一切疲れを見せず、逆に『新鋭の翼』が窮地に立たされていた。
その上棄権等されれば堪った物ではない。

その上、宴の後から姿が見えなくなり、他へ移ったと思われていた『槍サーの姫君』も突如実況として試合場にいる。

更には予想以上の人の入り様で、貴族、商人は兎も角、新人~上級冒険者が数多くこの街に集結してしまっている。

かといってここまでの間に莫大な私財をつぎ込み、多くの私兵を動員してこの日の為にやって来たコモンにとって、中止は出来るハズが無い。

こんな時に限ってエルベストの姿は無い。
先程自分で離れる様に言ってしまったのが悔やまれる。


「お、おい!デミよ!
何を呆けておる!戦えるなら果敢に攻めぃ!
それでも上級冒険者であり、貴族であるスロア家の跡取りか!」


何やら顔を真っ赤にしたコモンが『新鋭の翼』らに吠え掛ける。

皆一様に気持ちを切り替えたのか、キッと表情が険しい物に変わる。

すると


「戦闘継続って事で良いんですよね?」


先程からずぅっと佇んでいただけだったノアは、だらりと腕を垂らしながら『新鋭の翼』の元へ歩き始めていた。
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