ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
287 / 1,117
王都編

フォルクお嬢様

しおりを挟む
「もーフォルクお嬢様、一体何やらせるのですか…」

「うん?私は"彼の素が見てみたい"と言っただけだよ?
喜怒哀楽のどれで素を見せてくれるかと思ったらまさか求婚するとはね…」


先程ノアに求婚したハナは、馬車に揺られながら対面に座るフォルクと言う狐の少女に愚痴を漏らしていた。


「だ、だってだって、突然お嬢様が通りを歩く彼を見付けてそんな事言うんですもん!
私もバカな事したな、って思いましたよ。
10歳も下の子に求婚なんて…」

「あ、彼があの通りを歩く事は2日前の【占い】で大体分かってたよ。」

「でしたら2日前に言ってて下さい!何か他の手を考えましたのに…」

「ハナは知ってるでしょ?
私の【占い】は事前に相手に伝えると結果が変わり易い、って。」

「それはそうですけど…」


座席に座るハナは、しょんぼりしつつ尻尾をパタパタと揺らす。


「でもお陰で彼の素が見れたから良かった。
彼もそうだけど、彼女…クロラさんも私達獣人の事を毛嫌いしていない様で良かったわ。」

「であれば良かったのですか?
我々の本来の目的である"来るヒュマノ聖王国との戦争への協力要請"ですが、お話ししないままで…」


御者を担っていた狼獣人が中に居るフォルクに話し掛ける。


「流石に従者の求婚話の後で協力要請を出すのは憚れますわ。
それに彼と彼女は近い内に我が国『ヴァーリアスフェアレス』へとやって来ると出てますからその時にでもお願いしてみましょう。
それで、皆から見て彼はどう感じましたか?」

「御前試合の結果からも分かる通り、彼の武力は本物です。
一体どれ程の戦闘訓練を行ったのか分かりませんが、彼には妙に"安心感"を抱きました。
矢が飛び、剣擊が入り乱れる戦場と言う場に安息地が出現したかの様な…」


ハナは言葉で上手く説明出来ないのか、小首を傾げながら答えている。


「私としては、御前試合でも姿を現していましたが、あの得体の知れない存在、彼は"中"に何ぞ飼っておられる様子。
彼共々対応を誤れば敵に回るやも…
こちらの意図に薄ら気付いていた様ですし…」

「その様だね。
だから爺やは慌てて帰る様に仕向けたのよね?」

「はい…ですが今になってみると、却ってあちらに違和感を持たれたやも知れませぬな…」

「爺やにしては下手くそな」

「そうですな。」


それだけ話すと、狼獣人は御者の役目に戻っていった。








~王室~

コンコン

「王よ、諜報部の者達をお連れしました。」

「お、来たか。入ってくれ。」

ガチャッ

側近のシアロが王室の扉を開け、フードを目深に被った諜報部の5人が入室する。


「済まないな、1日に何度も呼び出して…」

「いえいえ…
我々が呼ばれたのは、先程来られていた『ヴァーリアスフェアレス』の方々に関する事ですか?」

「ふ、相変わらず話が早くて助かる。
その通り、先程『ヴァーリアスフェアレス』の第三王女フォルク殿下が参られ、"ヒュマノ聖王国との戦争"への協力要請を嘆願しに来たのだ。」

ギリリッ…

王の言葉を聞いた諜報部の1人、獣人の男は拳を強く握る。


「…お主は以前、今の職をかなぐり捨ててでも対ヒュマノ聖王国との戦争に参加すると申したな。」

「はい、あの国は生まれ故郷ではありますが、記憶から抹消したい国でもあります。
誰かの手で終わらせても私自身が納得出来ない。
自らの手で終わらせない限り、いつまでも私の心の中にあの国が居続ける。」


獣人の言葉を聞いた王は「ふむ」と一言呟いた後


「分かった。
その時は事前に申せ、お前の存在を抹消するのには多少時間が掛かるからな。」

「はい、その時には必ず。」


王と獣人との会話は短いものだったが、彼の境遇を知る王は。それなりに融通を利かせてくれる様だ。


「さて本題に戻るが、王としてはヒュマノ聖王国との戦争には全面的に協力する予定だ。
冒険者時代にあの国に訪れた事があるが、獣人に対する奴隷以下の扱いには未だに腹が立つ。
開戦が迫ってきた時は特殊依頼として冒険者ギルドに貼り出す事にする。
と、一行には伝えておいた。」


ヒュマノ聖王国の惨状を目撃している王は、加勢に意欲的な様だ。

すると諜報部のリーダー的存在の局長が王の前に進み出る。


「私の持つ情報では、ヒュマノ側も戦力確保に動いてる様子…
ヒュマノ聖王国の冒険者ギルドは冒険者に支払う報酬が少ない事で有名ですが、本当に支払うつもりがあるのか分かりませんが、戦争参加の報酬を通常相場の5倍程掛けてる様子。
ですが元々不信感が強いのか、戦争参加希望者は中々集まりが悪い様です。」

「日頃の行いが悪いとこういう時に足を引っ張る物だな。
…しかし少なからず参加者は居るのだな…
なるべく対冒険者という形は取りたくないものだが…」

「であれば王よ、これをヒュマノ周辺地域に配布したいのですが、許可を頂きたい。」


そう言って獣人の男性は目深に被ったフードの奥に手を突っ込み、王が座る席のテーブルに何かを置く。

カロン…

「…これは…義眼か?」

「はい、私の左目は5才の頃にはヒュマノの連中にくり抜かれています故…
この義眼には『記録』を付与しています。
今から映し出す映像は先日のフリアダビアでヒュマノの連中が冒険者や自国の王に向けて放った言葉が記録されております。
察しの悪い者でも嫌悪感を抱くには十分かと思います。」


獣人の男性は義眼に手を翳し、魔力を流すと映像と共に会話が聞こえ出す。



"冒険者等所詮替えの利く存在、奴隷と何ら変わりありません。"

"寧ろ私達の役に立って散るのを誇りに思って欲しい位ですな。"

"う、嘘だ!こんな物偽造したに違いない!
あの老いぼれは我等の傀儡も当然!この様な文章を…書く訳が…"



側近のシアロや王、フリアダビアに居なかった諜報部の面々は映像、会話を聞く度「うわぁ…」と言いたげな顔をする。

合計3分程の映像が流れ終わると王はニタッと笑い、直ぐ様指示を出す。


「ふ、これは中々冒険者だけで無く多方面に効果的な物を持っておるな。
良いだろう、局長、『調』と『探』を動員して王都、ヒュマノ聖王国周辺地域の領主や冒険者ギルド、関係者にコレを配布せよ。」

「了解しました。
『調』『探』、『動』から義眼の映像を複製し、直ぐ様行動に移せ。」

「「「は、畏まりました。」」」

シュバッ!

示し合わせたかの様に諜報部全員が姿を消す。


「コモン・スロアの件に国交に戦争…
私はいつ休めるのだろうな…」

「まぁ、当分は無理でしょうな…
さ、商人のジョー殿から何やら報告書が上がっておられますよ。」

「あぁ、読むとしよう。
何々…"海洋種の長からの情報提供"?」


王はその報告書に書かれていた文言に目を見張る事となった。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...