ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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王都編

来るのが早過ぎた

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「うーん…来るのが早過ぎたかなぁ…」

(『そりゃあそうだろ、まだ空が白んでもいないんだぜ?』)


王都の城門前にある植込みに座り込むノアは、幾つものギルドと合同で行う素材採取依頼の為、集合場所である城門前に来ていたのだが、予定よりも1時間以上前に到着してしまった。

クロラと神出鬼没のポーラと別れた後、宿に戻ったノアは、依頼に備えてベッドに寝に入ったのだが約1時間後、部屋の扉を叩く者が現れ、あるお願い事をされたのだった。


「まさかにゃんこさんが来て、"獣人の子供2人を預かってくれ"って言うとはね…」


そう言ってノアが視線を下げると、膝を枕にすやすやと眠る見た目が10才位の2人の獣人が居た。

にゃんこさんの話だと、王城で目を覚ました2人は周りにいるにゃんこさんや隊員に怯え、部屋の隅で縮こまってしまったらしい。

どうやらノアと一緒に居たいらしく、土下座までして懇願されたので仕方無くノアの元に連れてきたとの事だ。


(『普通こういうのは同種族と一緒に居た方が安心すると思うんだがなぁ…』)

(うん、僕もそう思ったんだけどねぇ…
ま、この子らがそうしたいって言ったのならそうしますか。)


そうして宿に連れて来られた獣人2人は泥だらけだったので取り敢えずクリーンを掛けてやる事に。

その時分かったのだが、獣人の1人は毛並みが白っぽい狼の男の子で、もう1人は黄色と黒色の縞模様の毛並みを持った虎の女の子であった。

ただ2人とも栄養失調である為毛は細く、ボロボロで見るに耐えない。

その後、かなり衰弱している様子だったので、何かお腹に入れようと、キッチンを展開してパン粥を作ってあげた。

猫とか犬にそのまま牛乳を与えるのは良くない、と誰かが言っていたので水で作り、少量ずつ与えていった。

食事を与えてる最中、ヴァンディットに何処か悪い所が無いか診て貰い、一先ず安静にしようという結論に至った。

正直獣人2人を連れて素材採取依頼を行くのはどうかとも思った。
何せこの獣人2人は寝ているハズなのに、ノアが5メル以上離れると目を覚ましトテトテと歩いてノアの元までやって来るのだ。

ちなみにヴァンディットに預けてみると、大人しくしてはいるが、ずっと不安そうにノアの方を見てくるので居たたまれなくなったノアが結局預かる事になった。

これでは行動範囲が狭まる事が懸念されたが、これは意外な打開策で解決する事になった。


「街の外に出たら2人の事頼んだぞ、グリード。」

グルル。

理由は分からないが、何故か獣人2人はノア以外にグリードに対しても心を許している様で、グリードが傍に居ればノアが離れても何ら反応は無かったのだ。


リョー、ガイ。(了解。)

「それにしても、昨日の今日で話すのが上手くなったなぁ…」

デショ。(でしょ。)


前日にグリードが話し始めた直後は、どもったり、濁点が多かったりと多少聞き取り辛かったのだが、それが大分改善されていた。

人間の口の形状とは明らかに違うハズなのにどうやって喋っているのだろう、と改めて龍種等の高位存在に驚かされる。

もしかすると明日には流暢に喋っているかもしれないな、等と考えていると


「わふ…」

「んみゅ…」


ノアの膝で眠っていた獣人2人が可愛らしい声を上げて起き上がってきた。


「あ!ごめんなさい!人間様の膝で寝てしまって…」

「罪は償いますのでどうか罰は…」


そう言ってノアの膝から飛び下りた2人の獣人は、地面に土下座の体勢に入ろうとしたので

ヒョイ

「気にしてないからそんな事しなくて大丈夫。
それと僕を"人間様"って言わなくて良い、僕はノアって言うから宜しくね。」


下から掬い上げる様に拾い上げて抱き抱える。


「君達の名前は何て言うのかな?」

「「なまえ?」」

「そう、名前。何て呼ばれてるのかな?」

「僕は"オイ"。こっちの子は"クズ「あ、待った待った、その呼び名はもう止めよう。」

(ああいった思考の奴等がマトモな名前を付ける訳無いか…
こうなったら…)

ノアは2人の獣人を見て一緒にいる間の名前を考える事にした。


「よし、白っぼい毛並みの狼のボクは元気に育って欲しいから"ヴァモス"。
虎の女の子、キミは毛並みも綺麗だし将来美人さんになる様"ベレーザ"と言う名前はどうかな?」

「ヴァモス…?」

「ベレーザ…?」

「うん。一緒に居る間だけだから、気に入らなければ後で変えても良いからね。」


 2人は、ノアから提案された名前を何度か小さく繰り返し呟き


「うん!ボク、ヴァモス!」
「わたし、ベレーザ!」


と、2人が元気一杯に叫ぶと、ノアの頭の中に色々と情報が流れ込んできた。



特殊契約の手順を踏んで『ヴァモス』『ベレーザ』2人の"名付け親"となりました。
"名付け親"である契約者と『ヴァモス』『ベレーザ』とは異種族である為、あくまで仮契約となります。

称号【悪夢からの救い手】を獲得しました。

尚、 契約者のステータスの一部を『ヴァモス』『ベレーザ』のステータスに適用します。

ですがあくまで"仮契約"ですので適用されるステータスは最大の2割程度になります。



この情報が頭の中に流れた直後、『ヴァモス』と『ベレーザ』2人の体が淡く光だす。


「えぇ…」

(『ほへぇ…』)


目の前で起こった変化にノアも『俺』呆然としていると

スタッ

「お、ノア君じゃないか、ここで何を…」

「あ、にゃんこさん。」

「にゃんこさん言うな。
それよりこれは…あ!?ノア君もしや"名前"付けたのか?」

「え?ええ…
それ以外の呼び名が酷かったので、一緒に居る間だけでも、と思って…何かマズかったですか?」

「いや、悪い事では無い。
だが、人間以外の種族にとって名前を与えられると言うのは少し特別な事ではある。
頭の中に"契約"とか流れなかったか?」

「あ、はい、仮契約と…」

「うむ。どの種族もそうだが、産まれて直ぐは皆弱いものだな?
親から"名前"を授かる事で体力等の一部ステータスを貰い受ける事が出来る。
それによって生存率を上げているのだ。」

「へぇ…それだけ聞くと良い事しかありませんね。」

「うむ…悪い事では無い…
ただ、ノア君の様な強者から名前を授かると"強化個体"になりやすいんだ…」

「強く育ってくれるのは良い事じゃないですか。」

「うむ…そうなんだが、まぁ良いか…」


などと話していると2人の体から発していた光が収まり、変化が終わった様で、自身の体を見回している。


「うわぁ…うわぁ~…」
「な、何これ~…」


当の本人達が一番驚いている様だ。
無理も無いだろう、先程まで全身ガリガリで、腕や足が枯れ枝同然であったのが年相応か、それ以上の筋量を備え、全身引き締まった良い体をしている。

過度の栄養失調でボロボロだった毛並みも、狼の『ヴァモス』は真っ白で艶やかで光沢のある毛並みに。

虎の『ベレーザ』は黄色の毛に少し朱が入り、美麗で気品のある毛並みとなった。

何よりも驚いたのは、先程まで10才位だと思っていたのだが健康体になった事で体格が変わり、13~15才位の見た目に変化した事だった。


「体調は大丈夫かい?」


ノアが『ヴァモス』と『ベレーザ』に歩み寄っていくと、それに気付いた2人が再び土下座の体勢になろうとしたので、しゃがみ込みつつ2人の肩を押さえて制する。


「そういうのは良いですって。」

「…ですがボク達に立派な名前を…」

「そうです!貴方様のお陰でこの様な…」

「名前付けたけど、こうなるとは想定していなかったから気にしないで。
それよりも2人は今後どうするのかな?」


中々引き下がってくれなさそうだったので、ノアは無理矢理話題を変える事にした。

すると、ヴァモスが少し逡巡した後


「も、勿論、命を助けて頂いた貴方様の為、身を粉に「本音は?」

「「え…?」」


話の途中で本心を聞かれたヴァモスは目を泳がせながらも返答する。


「い、今言った通り貴方「力が漲って、驚く程体が軽く感じているハズだ。
さっきまで僕から離れるのを拒んでいたのも、何か僕に頼みたい事があったんじゃないのかい?
大方、ヒュマノにいる同胞も助けて欲しい、とかかな?」

「…はい…その通りです。
拒まれた時は助けて頂いた恩を仇で返してでも1人で向かうつもりでした…」
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