ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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王都編

例のアイツを食べてみませんか?

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「例のアイツを食べてみませんか?」


デカピパラが北の村の子供達と仲良くなった所で時刻は夕食時、各々の家庭で料理の準備が行われ始めた時にノアから発した言葉がコレである。

村長であるダンが快く了承した為、他の住人もノアの厚意に甘える事になったのだが、いざノアがアイテムボックスから『ランペイジ・クロコダイル』の巨大な胴体を村の一角に取り出すと、その場には子供達を背中に乗せたデカピパラと、村長のダン以外離れてしまった。


「そりゃこんな巨大なモンスターが現れたら皆逃げちゃうわよ。」


【料理人】のレイルもランペイジ・クロコダイルにおっかなびっくりになりながらもノアにそう伝えてきた。

外は薄暗く、焚き火に照らされた巨体からは死して尚も発せられる威圧感が感じられ、巨大な眼を見ると今にも動き出しそうな錯覚さえ覚える程だ。だが


「うにゃ~、すごい大きいのにゃ。」
「"パピラちゃん"よりも大きいのにゃ。」
「恐いのにゃ。(笑)」


子供達は恐がる事無く、逆に興味津々の様子。
そしていつの間にかデカピパラの名前が"パピラちゃん"になっていた。
村への溶け込み具合が早過ぎる。
数日後には村の一員になっているだろう。


「…お前さんがコイツを倒したのか…?
実物がここにあるから信じる他無いんだがな…」


村長のダンが冷や汗を流しつつランペイジ・クロコダイルを見やる。

すると【洋裁】のファルもまじまじとランペイジ・クロコダイルを見詰めていたのだが、致命傷である首元を見てピタリと動きが止まった。


「なぁノア君…コイツの首の部分、内側から斬り裂かれている様に見えるんだが、どうやって倒したんだい…?」

「あ、俺も気になってたんだ!聞かせてくれないか?」

「私も私も!」

「…トドメを刺した現場に俺達も居たが、多分信じられないと思うよ。」

「うん…凄まじかったもんね…」


その場に居なかった『アレアトリア』のバドロ、ストラが興味津々に聞いてきた。

当時その場に居たディオとマールは、その時の事を思い出し未だに信じられないと言った表情で半笑いになっていた。





ザッザッ、ザシュッ。

「…よし、っと…
それで尻尾をぶった斬った後に噛み付き攻撃が来たので、わざと体の中に入って内側から破壊してやったんですよ。」

「「「おおー。」」」


ランペイジ・クロコダイルから肉を取り出しつつ討伐方法を説明していると、村の男衆が次々とやって来ていた。

ノアの戦闘方法は話を聞いただけでは中々信じられないものだが、皆の目の前には証拠が置いてあるので皆食い入る様に聞き入っていた。


「あの時のノア君の姿、ヤバかったな…」

「うん…ワニの中から赤黒いオーラを纏った血塗れの人間が出て来るんだもの…
"私は魔王です"って言われても信じるわ…」

「必死に戦ってたのにそんな事を考えてたとは…」


ディオとマールは当時の事をそう語る。
声に出してはいないが、ヴァモスとベレーザもウンウンと頷いていた。





ジジジ…ジュゥウ…

切り出した塊肉を食べやすい大きさに切り、クサミトリクサ等の野草や香草を入れたノア特製のタレに漬け込み、住人から借りた串に刺して少し遠火で炙っていくと、辺りには香ばしい香りが漂って来ていた。

ランペイジ・クロコダイルの見た目に驚いて離れていた住人達も次第に香りにつられて戻って来ていた。


「あの見た目でしょ?恐かったから逃げちゃったけど美味しそうな匂いがしたら…ねぇ。」

「そうそう、それにワニって泥臭いと思ってたけどそんな事無さそうね。」

「ねぇ坊や、そのタレに入ってる香草はどこで売ってるのかしら?」

「買ったものではなくてここら辺で採取した物ばかりですよ。
えーっと…あ、マロイさん、こちらの主婦の方に教えて頂いても良いですか?」

「あいよ、まっかせなさーい。」


別にノアの方で説明しても良かったのだが、詳しい知識等は持ち合わせていない為、ここは本職の人に説明して貰う方が良いだろう、との考えだ。


「そういやぁ坊主よぉ、さっきそこな冒険者が言っとった"赤黒いオーラ"っちゃ何じゃね?」


住人の1人が調理中のノアに質問してきた。


「ああ、それは僕の力の一部…力の根源みたいな物ですね。」


と、ノアが大分端折って説明すると、マロイと一緒に居る奥さん方から何故か生温かい目を向けられ


「まぁ坊やもお年頃だからね…」
「ウチの息子もそうだったわ~"内なる何とかが~"とかって。」
「この間ここに来た新人冒険者の子もそうだったわね、ほら腕に包帯巻いてた子。」


などと話していた。
近くには話の中に出て来た息子さんらしき人物が居たので軽く会釈すると、何故か目を反らされた。


(へー、割と僕と似た能力の人が居るのか。)

(『いや、いやいや、あれは別の物と勘違いされてる目だぞ!
恐らく…アレだ、思春期特有の"ヤツ"と思われてるぞ!』)


『俺』が何やら言ってくるが、ノアの思春期の大半は特訓漬けの毎日だったので思い当たる節が一切無い。


(『やれ主、オーラを出して間違いを払拭するんだ!』)

(分かったからそうヤイヤイ言うなっての。)


やたら『俺』から催促されたのでノアは渋々オーラを出す事にした。


ズズズッ…

『…と、こんな感じです。』


ノアは赤黒いオーラを立ち昇らせ、眼を赤黒く染めると、忽ち周囲の住人達がざわつく。


「うおっ!?こりゃ凄ぇ、妄想とかそういった類じゃなかったんか。」
「本当…気配が違うわ…」
「うわぁ凄っ…ごめんなさいね、勘違いしてたわ…」

「「「うわーカッコいいー!」」」

(あ、『俺』の言う通り本当に何かと勘違いしてたみたいだね。
…でも"カッコいい"か…初めて言われたな…)


住人達から誤解(?)も解けた様なので、オーラを霧散させたノアは調理を続ける事に。

ちなみに先程ノアから目を反らした息子さんからは「良いなぁ…」と呟いていた。

内心では"良いもんじゃないよ"と叫んだノアだが『俺』からは『違う、そう言う意味じゃない。』と一蹴されてしまった。





(『…にしても大分慣れてきた様じゃないか。
以前は『俺』が前に出たり、オーラを出そうものなら10秒も経たずに潰れちまったのになぁ…』)

(最近色々あって使う機会が増えたからね…
そう言えば最近僕の事"主"って言う様になったけど、何でなの?)

(『鉱山の時の事覚えてるか?
死にかけた時に『俺』が"力を貸す"と言ったが、お前さんは"寄越せ"と言ってきた。
それまでは対等な付き合いだったが、あの時に主従関係が成り立った様なもんだ。
だから『俺』はお前さんの事を"主"と呼ぶ事にしたんだ。』)

(何だ、そう言う事か。
別にそんなつもり無いから今まで通りの呼び方で良かったのに…)

(『いや、必要なんだ。
今後発現する新たな【固有スキル】を取得した時に、"主従関係と言う一種の強制力"みたいな物が無いと暴走しちまう恐れがあるからな。』)

(おいおい…今度はどんな【固有スキル】を授かる事になんのよ…)

(『まぁそれはお楽しみに、という事で。』)

(何だよ~『俺』がそんな事言うの恐すぎるぞ…)


中に居る『俺』は笑ってばかりで【固有スキル】に関する事は話さなくなった。

ノアもそれ以上聞く事を止め、焼き上がった肉を皆に配膳する事にした。


(『ふふ、漸く肩を並べて共に戦える様になるな。』)
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