ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~森の番人~

特効薬

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「遅くなってしまって申し訳ありません。
ダンジョンを改修していたらどこに仕舞ったか忘れてました。
はいノア君、あらゆる毒を解毒してくれる特効薬『錬金石ディジントキシ』よ。」

「あ~…そういえばそんなアイテムがありましたね。」


ラインハードが持ってきたのは、自身が管理するダンジョン『宝物庫』にて出現する希少なアイテム『錬金石ディジントキシ』であった。

ラインハードが人間であった時代に国の【錬金術】達が結集して造り出した物だ。
宝石としての価値もあり、装飾品として身に付ける事も出来るし、薬として飲む事も出来る。

ここ最近色々あり過ぎた為、言われるまでその存在をすっかり忘れていたノアであった。


「い、良いんですか?コレを使っても…」

「良いんですよ。
ダンジョンは改修したので使う機会ももうありませんし、私にとってもノア君は命の恩人です。
今度は私がノア君を助ける番です。」


満面の笑みを浮かべてノアに『錬金石ディジントキシ』を差し出すラインハード。

はしっ。スゥウウ…

「「「「おおお…」」」」


その厚意を無下にする訳にもいかないので、ノアは差し出された『錬金石ディジントキシ』を受け取ると、直ぐにその効果が現れ始めた。

スゥウウ…

受け取った直後、ノアの体から紫色の靄の様な物が立ち昇り、次々に霧散していく。
それと同時に先程まで血色の悪かったノアの顔に徐々に生気が満ちていき、ドドメ色だった肌も元の肌色に戻っていく。

約1分程で全身から紫色の靄が全て抜け切ったのだった。




「失礼します。」カプッ。ちゅー…


全身から毒が抜けた様なので、ヴァンディットがノアの指から血を吸い、血中成分を確認している所である。


「ふーむ…種族を聞いた時にも驚いたが、本当に吸血鬼なのだな…」

「ヴァンディットさん、ノア君の状態は大丈夫でしょうか…?」ハラハラ…


ドドメ色だった肌が血色の良い色に戻りはしたが、所々に痣の様な痕が残っている為、まだ他にも悪い所があるのでは、と心配そうにしているクロラ。

ヴァンディットは、まるでワインの味を確かめるかの様に口を動かした後、判断を下した。


「ノア様の血中に毒の成分は御座いません。
体に残っている痣の様な物も、一時的な物で、時間経過と共に抜けていくでしょう。」

「「おお!」」
「良かった~。」
「良かったのにゃ。」

「…ですが、疲労物質や酸化物が多量に含まれている上、水分量や栄養素、鉄分等がとても足りていません。
果物や野菜、肉等もしっかり摂ってぐっすり眠って下さいね。」

「は、はい…」


そうヴァンディット先生から診断を受けたノアは、再びベッドに横になる。


「ふむ、栄養か。
それなら近くの露店で色々と見繕ってくるか。
えーっと、クロラとやら、ノアの好みを知ってるだろう?
一緒に着いてきてくれるかな?」

「え!?あ、はい!」

「それにゃら私も行くにゃ。
お店に良い果物を卸してくれてる問屋さん知ってるのにゃ。」

「鉄分…魚かな?
確か給仕のドラネコさんに美味しい焼き魚を売ってる屋台教えて貰ったな…
という訳でボクも行きます。」

「おぅ、行こう行こう。
この際手当たり次第に買ってこよう。
という訳でノアよ、ちょっくら買い出しに行ってくるから安静にしとけよ。」

「は~い。」


そう言ってマドリックは、クロラとベレーザ、ヴァモスを連れ立って宿を出ていった。






ガヤガヤ…ざわざわ…

一行が大通りに出てみると、数日前まで森の番人レント・レアナ出現により閑散としていたのが嘘の様に冒険者で溢れ返っていた。

ある者は一狩り終えて屋台で腹を満たしたり、これから『滅びの森』へと向かう為に露店で売っているポーション等の薬品類を購入したりとで慌ただしく動き回っていた。


『滅びの森』の頂点に君臨していたレント・レアナが討伐され、4日掛けて以前の約7割程の量のモンスターが戻ってきていた。

現在『滅びの森』には、レント・レアナよりも上位の者が君臨しているが、恐怖で統治していたレント・レアナと比べ、新しい統治者は上位種特有の威厳で統治してると言える。

まぁその統治者も、更に上の存在から「やれ」と言われ、間髪入れずに「はい」と了承したのであるが、そんな事森に棲むモンスター達は知るハズも無い。


何はともあれ、森にモンスターが戻ってきた事で獣人国は以前と変わらぬ活気を取り戻したのであった。





「おっちゃーん、新鮮果実の盛り合わせ3カゴくーださい。」

「お、ベレーザちゃんじゃないか。
はい果実盛り合わせ3カゴね。 
そういえば、ノアと言う少年の様子はどうだい。」

「さっき目を覚ましたのにゃ。
解毒も上手くいって、直ぐに良くなるのにゃ。」

「ほぉっ!それは良かった!
それなら活きの良い『ピチピーチ』が手に入ったんだ!
盛り合わせと一緒に持っていってくんな!お代はタダで良いぞ!」

ビチッ!ビチチッ!

「にゃ!?にゃにゃにゃっ!?」


ベレーザは果物の卸し問屋の店主から『ピチピーチ』と言う掌サイズのビチビチと跳ねる桃(?)を受け取る。

すると後ろから着いてきていたマドリックが口を挟む。


「快気祝いとしちゃ嬉しい限りだが…良いのかい?『ピチピーチ』と言えば希少性からそれなりの値が張るハズだが…?」


すると問屋の店主がマドリックに近付いていき、周りには聞こえない様にヒソヒソと話し始める。


「いや、実はですね、一昨日獣人国のお偉いさん経由で大手との契約を結んだのですがね…」

「うむ。」

「実は契約に至った過程の中でその少年が絡んでいる様なのですよ。」

「え?」

「どう行った経緯でそうなったのか、契約先の国等の情報は今の段階では明かせないとの事ですが、少年のお陰で今ウチは大盛況なのですよ。
それに比べたらこの程度、お礼にもなりませんのでどうぞお持ちになって下さい。」

「あ、あぁ…そうですか…」

「ちょっ!?カヌレさん!こんなに頂けませんって!」

「んお?」


店主からサラリと言われた話に、マドリックが困惑する中、屋台で焼き魚を購入しに向かっていたヴァモスの方も何やら騒がしくなっていた。


「良いんだよぉヴァモスちゃん。
あの少年には返したくても返せない位の恩があってだね…」

「ちょ…「失礼、ご婦人。一体どうなされたのだ?」


ヴァモスにすがり付くかの様に頭を下げ、焼き魚50尾を包んで持って行かせようとした屋台の女主人の元にマドリックが割って入る。

すると屋台の女主人がマドリックに近付いていき、周りには聞こえない様にヒソヒソと話し始める。(2回目)


「いや、実はねぇ、一昨日獣人国のお偉いさん方が海に面したとある国と契約を結んだ、と報告があったのですがね…」

「…何か似た流れだな…」

「品質も味も一級品。
でも税はヒュマノとは比較にならない程軽いモノをウチに卸してくれる事になったのですが、この話にはその少年が大きく関わっている様なのよ。」

「…うむ…」

「お偉いさんもあまり情報を公開しないモノだから真偽の程はまだ分からないのだけど、快気祝いだと思って受け取って頂戴。」

「あ、あぁ…どうもありがとうございます…」


その後焼き魚50尾をアイテムボックスへ仕舞ったマドリックは1人ごちる。


「ノアよ…お前さんは商人も兼任しているのか…?」

「は、はは…色々ありましたからね…」


事の顛末を知っているクロラは、マドリックの隣で苦笑いを浮かべていた。


「…君は、ノアとは最初期に出会っていたのだったな。」

「え?あ、はい!」

「なに、別に畏まらなくて良い。
少し話を聞きたいだけだ。
ノアとどんな風に旅をしていたか、とかな…」


その後約30分程掛けてマドリックと話をしたクロラは、買い物を終えたヴァモスとベレーザと共に宿へと戻った。

他の屋台からも"持ってけ持ってけ"状態となり、中々大規模な快気祝いとなった。

そのお陰かどうかは定かでは無いが、翌日にはノアは立てるまでに回復した。
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