ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

閑話 レント・レアナ戦終結直後

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ゴンゴンッ!

「頼もー。」


ガゴォ…ン…ギギィイッ…

「何者だ?」

「素材換金を頼まれたでしょう?
それを請け負って来た商隊の者です。」

「ふむ、ちょっと待っててくれ。」


ヒュマノ聖王国に訪れたジョー率いる商隊は、城門の中から出て来た元奴隷の獣人達の指示で暫し門の外で待つ事に。

すると、ジョーの後方で待機していた商隊約100名の中から1人の商人が歩み寄り、心配そうに聞いてきた。


「どうでしょうジョー殿、中に通して貰えるでしょうか…?」

「大丈夫さ。
その為に"子供獣人救出作戦"の前の週に商隊に混じってウチの従業員である【変装】のカサグリアを忍び込ませたんですからね。」

「なる程、抜かり無しと言う事ですな。」


ノアが立案、王都と獣人国が協力して実行まで漕ぎ着けた大規模作戦の前週、ジョーはヒュマノに間者として【変装】のカサグリアを忍び込ませていた。

大規模作戦の周知と、首輪の外し方、ヒュマノ聖王国の今後等を報せる為の侵入であった。




ガゴォ…ン…

「バンデイラからの許可が下りた。
念の為簡単に身体検査等は行わせて貰うがな。」

「えぇどうぞ。」


城門が再び開き、中から数人の獣人が出て来た。
商隊の商人や付き人等の人員それぞれに対して目視での検査をし、中へと入場する事に。

すると中では







「お前ら貴族連中は私達非戦闘員である市民よりも戦闘に長けている!
ならば市民の安寧の為に行動を起こすべきだ!」

「「「「そうだ!そうだ!」」」」



「何を言う!貴様ら市民こそ、我ら貴族を敬い!従い!我らの指揮の下、行動を起こすべきであろう!」

「「「そうだ!我らに下れ!」」」

「うるせぇ!従い続けた結果今こうして不自由な暮らしを強いられているんじゃねぇか!」

「何だとっ!?」

「何だ!やんのか?」


ヒュマノ聖王国城下、北側の区画のあちこちでは、市民と貴族との間で怒号混じりの罵りあいが発生していた。


「これは何とまぁ…」
「いやはや…」    


この光景に、入場してきた商人達は呆気に取られていた。
すると門を開けてくれた獣人がジョーの下へ歩み寄ってきた。


「正直商人さん達が来てくれて助かったぜ。」

「…と言うと?」

「いやね、アイツらが今騒いでるのは、食糧が尽き掛かっているから外に出てモンスターを狩って来ようとしているんだが、"貴族連中だけで行くべき派"と"市民も力を合わせるべきだ派"で別れて言い合いになって全く先に進んでないんだ。」

「え?食糧が尽き掛けてる?
この間購入したばかりですから、あと最低でも10日分は残っているハズですよ?」

「まぁウチらの方で1度食糧を盗っていった事もあるが、そこからは滅びの森に出向いて自活しているぞ?
だがアイツらは"直ぐに何処かから助けが来る"とか"反乱を起こしたが直ぐに心変わりするハズ"とか、どこからそんな余裕が生まれるのか分からんが、後先考えずにバカスカ飲み食いしていた。
まぁ生活態度を改めるなんて考え、アイツらには毛頭無いんだろうな。」

「ほぅ…」


と、獣人達から状況説明を受けていると、言い争いを続けていた貴族や市民達が商隊の存在に気付いた様だ。


「あ、おい!誰か来たぞ!」
「救援か!?」
「違う、商隊だ!」
「「やった!これで外で狩りに行かなくて済む!」」


商隊の姿を見付け貴族、市民関係無く顔が綻んだ。
やはりどちらも滅びの森に出向いて狩りをしたくなかった様だ。

タタタタタタ…

すると、貴族・市民双方から代表の人物だろうか、現在市街地を占領している元奴隷の獣人達に目もくれず、ジョー率いる商隊に向けて駆け出して来た。


「お、おい!商隊であろう?
見ての通りの状況だ!食糧を、食糧を寄越せ!」

「なぁアンタ、説明しなくても今の状況は分かるな?
金なら後で払うから俺らに食糧をくれないか?」


と、"占領されているから取り敢えずタダで寄越せ"と言わんばかりに詰め寄ってきた。


「まぁまぁ。
その話は私共の用事が済んでからにしましょう。」


落ち着き払った様子のジョーがそう言うも、2人は納得しなかった様で


「おい貴様!四の五の言わずにその荷台にある食糧を『ドズッ!』おぶぇっ!?」


ジョーの胸ぐらに掴み掛かろうとしていた貴族の腹に、刀の鞘が深々とめり込む。

貴族は悲鳴を上げて踞る。

この一撃を放ったのはラーベであった。


「こちらの用事が済んだら、と言ったのが聞こえなかったのですか?」

「黙って大人しくしていれば怪我せずに済みますよ?」

「わ、分かった、分かった!」


ジョーの護衛を担っているラーベ、ラベルタがずいっと前に出て貴族に圧を掛ける。
その迫力に、貴族も市民も先程までの勢いは鳴りを潜めてしまった。






「今回我々が来たのは他でも無い。
ここ10年で溜まりに溜まったツケを徴収しに来ました。
額は今の所分かっているだけで"55億ガル"。
まぁ今後捜査を続ければドンドン増えていくと思いますが、先ずはその額をお支払下さい。
それから食糧云々の話と参りましょう。」

「「ご、55億っ!?」一体何の話だっ!?」


目が飛び出すのでは、と心配になる程の驚愕の表情を見せる貴族と市民。

だが効果音で表せば『ギクリ』と発しそうな表情を2人が浮かべているのを、ジョーは見逃さなかった。





チャキ…

「これは貴国で使われている独自通貨ですね?」

「あ、あぁ…」

「ですが以前からこの通貨にある疑惑が掛けられていたのですよ。
"金の含有量が少ないのではないか"とね。」

「ま、待て!つまり貴様らはそれを調べたのかっ!?
わ、我々に断りも無く"貨幣改鋳"を行ったとあらば重罪と言うのを知っての行いか!?」


貴族の代表は凄い剣幕でジョーに詰め寄る。
だがジョーは一切戦く事無く話を続ける。


「まぁまぁお待ち下さい、まだ何も言っていないでしょう?
流石の私でも確証も無く命の危険を脅かしてまで鋳潰す事等しませんよ。」



貨幣改鋳…市場に出回っている貨幣を改鋳し、鋳潰した上で金や銀の含有率を弄り、新たな貨幣を造り出す事。(間違ってたらゴメン)



「先日この国に"謎の大風"が吹いたでしょう?
その時の余波で他方に色々と飛散して来ましてね、その内の1つがこの破損した金貨です。」

「な…あ、い、いや…」


ジョーが貴族の代表に見せた金貨の一部が破損し、黒い塊と、その表面を薄く覆う金の膜が姿を現した。


「おかしいですなぁ。
貴国の公式発表では、"厚みを出す為に銀を用い、その表面を金で覆っているので他国で出回っている金貨と同価値の1万ガルである"としていますよね?」

「こ、この1枚が紛い物であったのだ!
そうに違いない!」


貴族の代表は額に汗を浮かべて喚き散らす。




「そう言うだろうと思いましてこちらをご用意しました。」ギシッ…

「な、何だそれは…」


ジョーは重々しい鞄を持ち出し、貴族の代表の前で開く。

バカッ!

「こ、これは…」

「過去10年に渡り使用されてきたヒュマノ製の金貨、毎月10の地点で無作為に抜き出して保管していた物です。
ちなみに、有志の方が各月1枚抜き出して鋳潰して見た所、どの月も公式に仰っていた1万ガルに遠く及ばない、約3000ガルの値しか御座いませんでしたよ?」
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