ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】

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ミシッ…

「ほいじゃあ坊、覚悟はええか?(バド)」

「うっ…えぇ、お願いします…」

「んじゃあ、ちんまい嬢ちゃん、ちゃんと坊を抑えとけよぅ?
んで、吸血鬼の嬢ちゃんは骨がピッタリ嵌まったら教えちょくれな。(バド)」

「はい。(ラインハード)」
「はい。(ヴァンディット)」

「むん!(バド)」

ミシミシミシッ!

「っぐぁあああうっ…『ミシッ…ミシミシ…』ふっ…ぐぅ…」


グリードによって村に連れて来られたノアは、早速治療に入ろうとしていたのだが、ヴァンディットの見立てでは、右腕の骨が折れ、しかもズレていたのだとか。

骨がズレた状態で治療した場合、後に支障が出たり、再び折れ易くなってしまうらしい。

なので元の位置に戻した上で治療を行うのだが、通常は麻酔か睡眠系の魔法を掛けるかのどちらかを選ぶ。

だが、現在森の奥では、ノアの力の根源でもある鬼神が戦闘を繰り広げている為、眠る訳にはいかない、とのノアの意見を受け、覚醒状態での荒療治となった訳である。

そこでノアの健康状態を常日頃見ているヴァンディットと、機兵製作の為人体の構造等に造詣の深いラインハード、【技士】でありながら医療関係も齧っているドワーフのバドが名乗りを上げた。

と言ってもやる事は至極単純で、一行の中でノアの次に力があるラインハードがノアを羽交い締めにし、バドが折れた腕を引っ張り、ヴァンディットが骨を元の位置に誘うのであった。

だがこのやり方はご想像通り、滅茶苦茶痛いのである。


ミシッ…グチッ…

「は、填まりました!もう大丈夫です!(ヴァンディット)」

「よぅ耐えたのぅ、坊。
普通じゃったら意識飛んどったぞ。(バド)」

「…っ、はぁっ、意識飛んだ方が…マシだったかも…<激痛耐性>持ってても痛いもんは痛い…」

「あ、あ、ノア君動かないで、まだ肩に木が刺さったままだよ…!(クロラ)」

「あ、ごめんなさい…」


痛みを我慢する為、身を捩ったり前屈みになったりしていると、優しくその行動を制してくる手が伸びる。

骨を元の位置に戻しただけで、それ以外は全く手を付けていない為、木が肩に刺さった傷口から痛々しく血が噴き出していた。

クロラは当初、数分でボロボロになって村に戻ってきたノアに対してボロボロ涙を流して説教していたが、直ぐに気持ちを切り替えて治療の為に動き始めた。

そんなクロラに対し、ノアはまだ少しおっかなびっくりであった。





ドォン…ズズン…ア″ア″ア″…


と、ノア達から少し離れた場所に居るハクアとユカリは、遠くから聞こえる轟音と呻き声を聞きつつ、疑問をポーラ達に投げ掛けていた。


「あ、あのさ…ノア君はここに居るけど、それだと奥で戦ってるのは誰なのかな…?(ハクア)」

「うーん…説明が難しいですけど、少年の″中の人″、だったり″力の根源″だったり…うーん…(ポーラ)」

「「″中の人″?(ハクア、ユカリ)」」


と、2人の頭が更に混乱した所で森の奥で異変が発生した。


〔ゴォオオオオオオオッ!〕


「「え!?」」
「な、何じゃこの声は!?」
「「新手か!?」」
「それと何この光…まるで太陽の様…」


轟音の様な鳴き声と共に、森の奥から目映い光が立ち昇っていた。


「団長!奥から高濃度の魔力の反応を感知!
何かが出現したと言うよりか、召喚された模様!(騎士1)」

「先遣隊を向かわせ、状況を確認しましょう!(騎士2)」

「う、うん、そうで「待った。」

「「「「え?(騎士団一行)」」」」


森の奥で発生した異変に、直ぐ様行動を開始しようとした騎士達は、ノアの制止する声を受け、足を止めた。


「安心して下さい。これは恐らく…」







~森の奥~

『…こりゃまた凄ぇモンが出て来たなぁ…』


刻印から光が消えた荒鬼神ノ化身を手にした鬼神が上空を見詰めている。
そこには太陽の様に輝く直径20メルはあろう火球が宙に浮いていた。


ズズズ…ボワァッ!

ボッ!ボフッ!


その火球から溶けた鉄の様に光輝く鱗を持った龍の顔が姿を現し、肩口から炎を噴き上げ、まるで翼の様な形を取っていた。


ズズズ…


続いて龍鱗を纏った腕や足が姿を現すが、造りは完全に龍その物である。
鋭利な爪、どっしりとした足、強固な外殻、そのどれもが光輝き、思わず目が眩みそうであった。


ズロン…シュルルッ!


体高5メルを越す体躯の龍神だが、尾はその倍位長い。
火球から垂れてきた溶鉱の様な尻尾が地面を擦っただけで地面が赤熱していた。


『『ズシュゥウウウッ!』』ズンッ!ズンッ!


高温による光を放ちながら【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】が地面に降り立つと、瞬間的に蒸気が立ち上ったが直ぐに赤熱化してグズグズに溶け始めた。


〔ゴォオ…汝が召喚主か…?〕ボッ!ボフッ!

『いや、召喚主はこの先の村で治療中で、俺は代理だ。不服か?』

ボフッ!〔いや、初めての顔合わせ故会ってみたいと思ったまで…また何れ相見えた時の楽しみに取っておこう。〕ボフフッ!


【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】が言葉を発するだけで口の端々から炎が噴き上がる。
まるで鍛冶場の様だ。


ボワッ!〔おっと済まぬ、私を召喚したと言う事は倒すべき相手が居るのだったな…
して、その相手は何処に居られるのかな…?〕ボファッ!

『あー…悪い、アンタの足下で既に燃えているヤツだ。』

〔え?あぁ…〕ボッ!


鬼神と【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】が話していた直ぐ横では、既にボルボレートは火達磨と化しており、声にならない声を上げて苦しんでいた。


…ア″…ゥア″ア″…ア″…  ボァアアアアッ!

〔…あの、コレですか…?
申し訳ありませんが、貴方でも倒すのは容易では…?〕ボフフッ!

『まぁな、だがこの剣が出来てからお前さんを召喚するのが初だったからな。
言ってしまえば、性能チェックだ。』

ブワッフォッ!〔なる程。
であれば、私の焼却能力を遺憾無く発揮してこの者を周辺地域諸とも消し飛ばして『ゴスッ。』『待て待て、遺憾無く発揮すんな、コイツだけ屠ってくれりゃ良い。』


妙にやる気になった様子の【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】の足を荒鬼神ノ化身で小突いて制止する鬼神。

小突かれた【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】は、足を擦りながら理由を尋ねる事にした。


『良いか?主は自分の両腕の骨をぶち壊してまでこの先にある村を守ったんだ。
お前さんの焼却能力がどの程度あるか知らんが、これ以上ここら辺を燃やすのは止めて貰おうか。』


こうやって2人(?)で話してる間にも【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】の発する熱で周囲が灼熱地獄と化していた。

幸い更地となっていた為、延焼していく心配は無いだろうが、時間の問題である。


〔なる程、私の主様は随分お優しい方なのですな。〕

『昔病気だった時のトラウマで、人が傷付いてる姿を見るのを異様に恐れてるんだ。
自分が傷付く事は何も思わないのが悩みの種だがな。』

〔分かりました。
私は本来広域殲滅型ですが、今回は小規模に止めておきましょう。〕ボワッ!

『宜しく頼むわ。
それと気になってたんだが、今の今まで眼を瞑っているのは何か訳があるのか?』


実は【龍神邪火(リュウジンジャッカ)】が火球から出て来てから今の今までずーっと眼を瞑ったままなのである。


〔私は対象を直視してしまうと消し飛ばしてしまいますので、こうやって話す際は眼を瞑らせて頂いています。
あ、でも御心配無く、ちゃーんと貴方様の姿は見えておりますぞ。〕ボッ!

『そ、そうか…』
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