ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~中級冒険者試験~

強制的に試合終了

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『『『『『バシュゥッ!』』』』』

ドサッ!

「ゴ、ゴザルッ!」

ガンッ!ガランカランッ!

『安心しろ、意識を失っただけだ。
まぁ、何ヵ所か骨折してるだろうがな。』


ゴザルが意識を失い、<実体分身の術>が強制的に解除された事で分身が消え、ゴザルは地面に倒れ伏し、そのままピクリとも動かなくなった。

そのゴザルの体を跨ぎ、悠々とゴワスへ向けて歩を進めるノアは、全くの無傷であった。


「…姿もそうでごわすが、ゴザルの猛攻を受けても平然としているとは末恐ろしい…
君が人外と言われても納得出来るでごわす…」

『…人外…か…』

「あ、いや、気を悪くなされるな。
ただ『今思えば、あの場…フリアダビアには俺みたいな人外じみた戦力こそ必要だったのかも知れませんね。』

「…え?」

『1匹1匹が魔獣の様な強さを持ち、途切れる事無く押し寄せる蜥蜴の軍勢、防壁を易々と登り、超長距離攻撃を繰り出すギョロ目の大蜥蜴、それらを束ねる【魔王】の幹部…
そいつらを相手取るとなれば人の範疇に収まった″ただの上級冒険者程度″じゃ、幾ら投入した所で奪還なんざ夢のまた夢。
それはゴワスさんもあの場に居たから分かるハズです。』

「…それは分かる…分かっているさ…
この程度の武力では″あの地″では通用しない事は自分が一番良く知っている。
だが、ただ指を咥えているだけと言うのはもどかしいのでごわす。
君の様に大抵の事は解決出来る程の圧倒的武力を持った者には分からんだろう。
寝ても覚めても故郷が失われるかも知れない恐怖に苛まれるのは…」

『…故郷が失われる恐怖…と言うのは確かに僕には分かりませんね。』

「そうであろう。
なら<ただ、″失った″恐怖なら分かりますよ。僕の場合は寿命ですがね…>…は…?」


ゴワス1人に聞こえる声量で話すノア。
それを聞いたゴワスは動きを止めた。


<ゴワスさんなら知ってると思いますが、数年前まで各地で猛威を振るっていた不治の病、『インクラーベル』に僕も罹ってました。
奇跡的に完治はしましたが、僕の寿命はかなり短くなってしまいました。
今の所ゴワスさんの年齢までは生きれないでしょう。>

「そ、<その様な事を何故平然と話せるでごわすか!?>


ゴワスも何かを察し、ノアにしか聞こえない声量で話し出す。


<そりゃ最初は絶望しましたよ。
ですが、選択肢が無いのですからあーだこーだ言っても仕方無いじゃないですか。>

<そ、それはそうでごわすが…>

<勿論あなたの境遇と僕の境遇を同じに捉えるつもりはありませんよ。
あくまでこれは僕1人の問題ですしね。>

<……っ。>

<でもあなたの場合は選択肢がある。>

<…選択肢?>

<あなたの理想した奪還は成されなかったと思いますが、形式上は奪還が成された。
うじうじとしている暇があるのならさっさと行動しろ、って思いますがね。>

<……。>


ノアの言葉を受けたゴワスは、遂に押し黙ってしまった。
すると声量を戻したノアは


『さっきも言いましたが、あなたの境遇と僕の境遇を混同するつもりはありません。
僕の言葉に何かを掴んで貰えると有難いですが、何も得るものが無く、まだ足踏みを続けるかどうかはあなたの判断に任せます。
1人1人の心の問題まで付き合うつもりはありませんので。』

「…であれば少年よ、最後に…最後に私がフリアダビア奪還に向けて授かった策を受けて貰いたい。
さすれば心の中の蟠り(わだかまり)も晴れるやも知れん。」

『良いですよ。
僕に出来る事と言えば戦う事位ですし。』くるっ。


そう言って踵を返して後方に下がるノア。


「…ミゼラ(職員の名前)、すまないが気を失ってるゴザルを連れて試合場から出て貰いたい。
これから放つモノは加減が利かないかも知れないでごわすからな。」

「は、はい!」


審判としてこの場に居た職員に、地面に倒れ伏しているゴザルを連れていく様指示を出すゴワス。
結界に守られているから安全、とは言えない状況が予想される為である。


「皆も済まない、もし危うくなったら全力で結界に魔力を流して強化して欲しい。」

『『『『『『『コクッ。』』』』』』』


観客席に座る現職員の元住人達にそう願うと、一同首肯して応じた。








「始めるでごわすぞ!」

『いつでもどうぞ。』

『『『『チャリ…ビギッ!』』』』


徐にゴワスは懐から大小様々な大きさの魔石を取り出し、その巨拳でもって握り潰した。


「…これから繰り出すモノは膨大な魔力と多少の時間を要す。
実践向きでないのは百も承知!故に今この場限りの策でごわす!
ぐっ…しかと…受けるが良いでごわす!
出でよ!『召喚獣サラマンダー』!」

『!』

ゴボッ!ゴボボボボボボッ!

ズバァッ!ズンッ!ズズンッ!


ゴワスが名を喚ぶと、試合場の石畳が急激に赤熱し煮え滾った岩石の様な巨腕が現れた。


オォオオオオオオオオオオオオオッ!


頭から赤熱した角を生やし、体の所々から炎を噴き出す巨大な蜥蜴が姿を現す。


(『召喚獣か…
しかもこの熱量だ、確かにこれならフリアダビアでも通用しただろうな。』)


と、ノアが心の中で感想を述べていると


「…ん?何だこの魔力の猛りは…
…いや、寧ろ好都合でごわす、【神■ノ纏】っ!」

『ん?今何て…?』


ゴワスが気になる事を言いつつ何かを唱え出した直後、観客席の方に居た1人の男性が大声を上げた。


「ま、まさか今言ったのは【神憑ノ纏(カミガカリノマトイ)】では!?
駄目です!それは危険過ぎます!」

『あ、あなたは【神官】の…』


声を上げたのは鬼人の兄妹と共に居た【神官】のセルトであった。


「その人は【召喚】したサラマンダーを自身に憑依させるつもりです!
サラマンダーは高位の精霊!
そんな存在を憑依させようとすれば最悪自我を失うかもしれません!」

「な、何!?おいゴワス止めろ!(職員1)」
「何つー事やらかそうとしてんだ!(職員2)」
「もう良いだろ!終いにしろ!(職員3)」

「じ、自我を…?
い、いや、″あの者″はそんな事『ガシッ!』うごっ!?」


言い切る前に顔面を鷲掴みにされるゴワス。
勿論それはノアによるものである為、簡単に引き剥がせるモノでは無い。


『所々に気になる発言があったが、取り敢えずそれは後に回しておこう。
悪いけどあなたにはここでご退場して貰いますよ。』

ザッザッザッ…

「ぐっ…ま、待…」

バギンッ!ポイっ。

「おがっ!?」


抵抗するゴワスを掴んだまま、ノアは試合場に張られていた結界を力だけで破り、外へと放った。


「ま、待つでごわす!
中途半端に事を終わらせてしまってはサラマンダーが暴走してしまうでごわす!」

オォオオオオオオオオオオオオオッ!


ゴワスの言う通り、召喚直後にゴワスに憑依しようとしていたサラマンダーが野放し状態となっている。

そしてその矛先は一番近くに居たノアへと向き


『大丈夫、任せて下さい。
話しは聞いていたねグリード?
そういう事だから残さず食べちゃいなさい。』

《はーい。》


後の展開は大体想像出来ると思うが、ノアに迫るサラマンダーの直下から25メルサイズのグリードが出現し、捕食。

何とか逃れようと炎を吐いたりしたサラマンダーであったが、成す術無く踊り食いされていった。

衝撃的な光景に、誰も声が出せず会場内にはサラマンダーの捕食音が響き渡ったと言う。

ちなみに本来の目的であったノアの実戦試験の合否だが、試験官1名が気絶、1名が心神喪失扱いとなった為、再び保留となった。







~試合場から少し離れた高台にて~

「ふ、ふざけんな!あれは″フリアダビア奪還の立役者【鬼神】のノア″じゃねぇか!」

「アイツに目を付けられたら敵わん!
俺は降りるぜ!」

「俺もだ!
取り敢えず当初の目的である″禁術をゴワスって奴に伝える″のは達成したんだし良いだろ…?」

「ええ構いませんよ。不発に終わりましたがね…
それと、″主様″からそれなりの金銭を受け取っているハズでしょう?
この事は他言無用に願います。」

「こ、こんな事、おいそれと公言出来るか!
おい行くぞお前ら!」

「「「おう!」」」ササッ!


黒いフードを被った男達は、誰にも気付かれない様に、だが静かにその場を去っていった。
 

「ふむ…珍しい蛇も飼ってるとは聞きましたが、あれは竜でしょうかね。
ふふ、これまた主様が欲しがりそうなモノを…」


これまた黒いフードを被った老齢の男性は、試合場内で蠢いているグリードを見てほくそ笑んでいた。
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