ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~全ての始まり~

10年前、全ての始まり。~地獄の釜の蓋~

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そもそも何故″一部の者達″は、得体の知れない召喚陣と、『廃都』方面へと続く長い通路を見付けただけでここまで話が飛躍してしまったのだろうか。

スパルティア人は元々出自不明の流れ者が獣人国とはまた別の地域に住んでいた獣人を吸収しながら勢力を伸ばしてきた歴史を持つ。

圧倒的な武力を持ち合わせていた事から、鬼人族の血が少し混じっているのでは?と思われているが、確固たる証拠は未だ見つかっていない。

だが″一部の者達″はスパルティア人の祖先が太古の昔に栄えていた古代都市、現在『廃都』と呼ばれている場所が起源だと言う考えを持っていた。

理由としては、近未来的な構造の遺物は、人間でなければ造り出せない代物だからと言う何ともざっくりとした決め付けと、獣人国側の滅びの森に生息しているモンスターよりも強い個体が今尚も生息している事、だそうだ。

そういった環境であれば圧倒的な武力を誇るのも当然だろう、との見解である。

文脈を見て察しただろうが、これについても明確な根拠は一切無く、『廃都』までの距離が近い事もあり、妄想的な意味合いの方が大きかった。

何せ一切証拠が無かったのである。

そんな中スパルティアの地下で『廃都』との繋がりを臭わせる代物が自国の下から発見されたのだからさぁ大変。

彼等の曲解、妄想、決め付け等を織り混ぜて作り上げられた都合の良すぎる作り話が現実味を帯びてきたのである。


″我等の様な存在は使われる側の人間ではない、使う側の人間なのだ。
幾年を経て武力は失われたが、先進的な真のスパルティア人の血を色濃く引き継いだ我等こそこの国を収めるのに相応しい。″


ここで誰かが否定派に回れば良かったのだが、全員ツェドの考えに不満を持つ者のみで構成されている為、異を唱える所か「この現状を打破出来るなら何でも良い」と言う安易な考えの者まで居た位だ。

そして安易な考えの最たるモノは、彼等の一派の中に″【召喚】を深く理解している者″が誰も居なかった事、である。

【召喚】とは自身と相手との間で契約した者、精霊等の存在か、特定の場所や地点に生息しているモンスターとの間に魔力によるポータルを接続する事によって顕現させる事が出来る【適正】である。
喚び出す存在が大きければ大きい程、遠ければ遠い程魔力の必要量に差も出る。

そして召喚を行う際は″召喚対象を頭の中に思い描く事が必要″なのである。

それを踏まえ彼等がこれから行おうとしている事は、契約者もおらず、特定の場所や座標を指定せず、どういった存在を顕現させるかも決めておらず、奴隷300人分(最終的に巻き添えとなった一派の連中含めて400人分)という膨大魔力量を使用し、ただ″この現状を打破出来る存在″という″その一点″のみを目的とした存在を喚ぼうとしていたのである。

つまり、その一点に絞った結果、召喚対象が″正″であろうが″邪″であろうが、それは運次第という事になるのだ。





~祭り当日の昼頃~


ガラガラガラガラ…

「いやぁ、淀みの無い説明により、予定よりも早く終える事が出来ましたな。」

「この分ですと祭の途中には顔を出せるのではないでしょうか。」

「老い耄れの爺が祭に顔を出したとて誰も喜ばんであろう?(ツェド)」


外遊先に選んでいた耕作技術の説明がとても滑らか且つ非常に分かり易いものであった為、予定の2/3以下の時間で終了となり、現在スパルティアへ向けて馬車を走らせている所であった。

祭は大体夕暮れ時から行われ、子供達も居るので月が頂点に達する前には終了となる。

祭と言っても城下の広場で行われるモノなので、火を焚いて踊ったり何か出し物をしてワイワイ騒ぐといった事はせず、近所の仲間と日頃の労を労う飲み会みたいなモノだ。

その後飲み足りない大人達は各々の持ち家で飲み直したり、翌日に影響が出ない範囲で騒いだりと、その辺りは自由である。

ツェドとしては、日頃厳格な教育に励んでくれている奴隷達に祭を楽しんで貰いたいので、なるべく自身が出るべきでは無いと考えている。

が、去年行われた祭ではそれを見兼ねた従者が奴隷達に呼び掛けて飲みの席に誘って貰う様に頼んでいた。

結果、ツェドはその日の晩、気持ちの良い酔い方をしたらしい。


「だが酒の1、2杯薦められたら付き合いはするだろうがな。(ツェド)」





~日が沈みかけてきた頃、城下・噴水広場~


キャッキャッ!キャハハ!
タッタッタッタッ!

「ディラ、皆、そんなにはしゃいでると転けるぞー。
子供って何で暗くなってくると妙にテンション上がるんだろうな…(バンデイラ)」

「うふふ、良いじゃない年に一度のお祭りなのだから。
皆ー、チャイさんの家の方にお菓子をたーくさん用意してあるから貰ってきなさーい。」

「「「「はーい。」」」」


日が傾いてくると共に城下には徐々に人々が現れ、子供達は普段歩き慣れているハズの通りをキャッキャッと楽しそうに駆け回っていた。

祭が間近になってくると通りの通行が規制される為、荷馬車が通る心配も無いので子供達にとっては良い遊び場となるのである。

バンデイラは息子と妻の3人家族で、普段は傭兵として殆ど国外で活動しているので、息子と妻に会うのは大体3ヶ月ぶりである。


「…ん?少し曇ってきたな。
降りはしないだろうが、篝火が必要になってくるだろう。
ちょっと用意してくる。(バンデイラ)」

「やっぱり昨日から城の人達(獣人を毛嫌いしている者達)の様子がおかしいから天気が崩れたのかしら。」

「かもな(笑)。(バンデイラ)」


噴水広場の灯りは、各所に取り付けられているランプと月明かりのみであり、完全に日が落ちると流石に暗いので、バンデイラは仲間を呼んで篝火を用意する事にした。





~王城・地下空間祭壇場(召喚陣)~


「…なぁ、普通に考えてこんな所で天幕張ってて良いと思うか…?
ここって遺跡だろ、一応…」

「城の人達は良いって言ってたけど、召喚陣の上で炊き出しって何かなぁ…」

「つーか調査にしても人多すぎじゃね?
まぁモンスター対策で冒険者も要請しているから仕方無いとは思うが…」


地下空間の調査に訪れた【学者】や炊き出し要員、対モンスターを想定した冒険者等の人員約300人がこの場に集結。

皆地下空間への突入前の準備や腹拵え、武器の手入れ等を行っていた。

すると続々と城の者達も続々と祭壇場に足を運び、召喚陣外周の壁際に立つ。
その中の1人が前に出てきたので、立ち上がって整列しようとしたのだが、それを制して座る様に促した。


「諸君、祭の日だというのに集まってくれてありがとう、これほど大規模な調査は後にも先にも今回限りだろう。
調査開始は大体1時間程後に″始めるとしよう″。」

『『『『ズアッ!』』』』

「「「「「「っ!?」」」」」」


″始めるとしよう″
男がそう発した直後、300人が集まっていた祭壇場(召喚陣)が光出した。

座り込んで話を聞いていた者達は為す術無く光の奔流に呑まれていった。





~同時刻・スパルティアまで500メル地点~


ガラガラガラガラ…

「む!?何じゃ?この反応は!(ツェド)」

「「え?どうなされました?」」



~一旦回想終了~


「待った。(レドリック)」

「あん?(ツェド)」

「その反応は俺も感じたが、その前に俺らが居た場所でも異変があったんだが、先に話しても良いかな?(レドリック)」

「あぁ、さっき話しとったヤツか。
まぁええぞ、何ぞ分かるかもしれんしの。(ツェド)」


遂に最悪な召喚が始まってしまったが、一旦レドリック達が居た滅びの森周辺に場面が移ります。
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