ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~国交式典・解放・擬似的大氾濫~

1番の苦痛は″孤独″

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ガラガラガラガラ…

『はぁ…はぁ…ぶはっ!!
くそっ、今日で一体何回腹に穴空いてんだろうな…』グッ…

(『止めろ!抜こうとするな!ヴァンディットが居ない今大量出血を起こしたら命は無いぞ!!』)

『…了解…』ポタポタ…


土砂から息も絶え絶えで這い出してきたノア。
腹には鋭い石2本が突き立っていた。
他にも肩には木片、足には枝が突き刺さっている。
頭からも流血を起こし、ずーっと口内が鉄の味がするので、中(内臓)も少しやっている様だ。

力の制御下にも関わらずそうなっていると言う事は、周囲に伝播した衝撃波の威力はかなりのものと言えるだろう。


『…グ、グリード…グリードは居るか…?
大丈夫か…?』

ズル…

〔…はい、ここに…〕ポタポタ…

『良かった…無事…うっ…あ…』

〔…?…あっ!〕

『『『ズズズズズ…』』』


ノアからの呼び掛けに応じて地面から<人化>形態のグリードが姿を現した。
だがグリードも大分ダメージを受けていた様で、龍鱗で象ったドレスの上からでも分かる位流血していた。

そんなグリードの姿を見て思わず動揺してしまうノア。

あまり話の中で言及していないが、グリードが<人化>する場合、ノアの好みであるクロラの顔を模している。

最初はそれに対して周りからやいやい言われてノア自身も少し悩んでいたが、現在はそのままクロラの顔をベースとしたモノに落ち着いていた。

頭では目の前に居るのはグリードである、と分かってはいても、好きな女性が流血している姿を見て思わず動揺してしまった様だ。

それを察知したグリードは、慌てて<人化>を解除して2.5メルサイズの形態に戻していた。


〔…申し訳ありません…〕ポタポタ…

『いや、気にしないで…
それよりも怪我は大丈夫かい…?』

〔見た目程のダメージは…
私よりも彼の方が深刻かと思われます…〕

『彼?『『『『ズドォンッ!』』』』おわっ!』


龍鱗の下から流血しているが、深刻と言えるダメージでは無い様でホッとするノア。
すると直下の地面が急激に盛り上がり、下から肩口と太腿に大穴が空いたエルダークラーケンが這い出てきた。


〔『ばはぁっ!『ダンッ!』一体何が起こったと言うのだ!』〕ビチャビチャッ!

『ちょ、大穴空いてるじゃないですか!?
大丈夫ですかっ!?』

〔『人の身であれば致命となるであろうが、我らの種族は伸縮性のある体組織故、こうすれば…『『ギギギギギ…』』…一先ず応急的に止血は可能だ…』〕

〔なかなか便利な体ね。〕ポタポタ…


傷口から止めどなく血が噴き出していたエルダークラーケンだが、大穴が空いた手足に力を籠めると、甲殻の下から伸縮性のある筋肉や表皮が盛り上がってきてあっという間に穴が塞がり、流血も止まってしまった。

別に再生した訳ではないので、追々相応の処置が必要になるらしい。


『…それよりも…『ブフッ!』…何があったのさ…?
気付いたら大爆発が発生したんだけど…?』

〔…私にもよく…″何か″が落下してきたのは分かったのですが…〕

〔『…我も気付いたら肩と太腿を″何か″に貫かれて直後に爆発よ…
てっきり隕石でも降って来たのかと思ったわい…』〕


【ほぅ、今のを食らって5体満足とはな。
まぁ、あくまで″擬似的″であるが故、高度不足で破壊力が抑えられた、と言った所だな。】


「「『っ!?』」」


未だ爆煙が立ち込める中、上空から巨大な気配と共に声が聞こえてきた。


『『『グヂュグヂュグヂュ…』』』

【今のは″P-AM6500(擬似的人工隕石)″と言う私が元居た世界で人間が我ら魔族に向けて放った戦略兵器を″真似た″物だ。
本来は衛星軌道上からタングステン棒を目標地点に落下させる、非常にクリーンな広域殲滅兵器である。
が、流石にこちらの世界で衛星を作り出す事は出来なかったので、巨大な金属棒を″転移″で高高度まで送り続けて落下させただけ、だがな。】


羽化が完了して飛翔したのか、先程の大爆発の衝撃で打ち上げられたのかは定かでは無いが、6割程吹き飛び、絶賛高速再生中のエボル・バトフライが滞空しており、その上にはイスケルダやセルトと同様の装甲を身に纏った謎の人物が佇んでいた。

人型ではあるが、腰から下は熊の様な体毛に覆われ、背中には背鰭の様な物を生やしていた。


〔『″元居た世界″…?
何だ貴様、召喚されて来たのか…?』〕

【理解が早くて助かる。
つい最近ぶっ潰れたヒュマノとか言う国の身勝手な行いによってな。
こちらとこの世界にとっては堪ったものでは無いがな。】

〔…通りでずっと技術のレベルがこの世界に合っていないと思ったわ…
無理だとは思うけど、戻る事は出来ないのかしら…?〕

【無理だな。】

『…同じく召喚されてこの世界にやって来て【勇者】となった人を知っている…
その人は、元の世界の恋人と共にこの世界で生きていく事を決めたと言う。
アンタは【魔王】を冠してはいるが、気持ちを切り替え【それは無理な相談だな。】…そりゃそうか…』


ミユキと動揺の境遇でこの世界に召喚された【魔王】に説得を試みたノアであったが、言い切る前に否定されてしまった。

既に大規模な行動を起こしている時点で説得等無意味である事は明白である。


【そうか、【勇者】としてこの世界にやって来た者には恋人が居るのか。ならば幾分マシだな。
俺は召喚直後に即封印、″仲間と呼べる者は″誰1人居なかった。
最初の4、5年は気が狂いそうだったな。】

『…″誰1人″…?
そのデカい蝶を防衛していた仲間が居たでしょう…
なん…だっけ、確か″セルト″とか言いましたっけ…?』


疑似″P-AM6500(擬似的人工隕石)″で仲間ごとノア達を屠ろうとした事から冷酷な思考の持ち主であると思われたが、意外な返答が返ってきた。


【あぁ、イスケルダ(左)とセルト(右)の事か。
″奴等は外界の情報収集を担わせる為に造り出した″俺″の分体″。
つまり″俺自身″だ。″俺自身をどうしようが俺の勝手″だろう?】

「「『は…?』」」


【魔王】アクロスは、この世界にたった1人召喚された。

本当の【魔王】配下は元の世界に残っており、生死は不明である。

意思疎通も取れず、召喚直後にツェドによって外の状況、自身が喚び出された世界の情報の一切を得る事の無いまま封印された。

当初は人類軍の策略に嵌まり、囚われの身となったと勘違いしていた。

その後【魔王】アクロスの存在を唯一知っていたツェドもヒュマノの連中に囚われ、異世界の病にも罹っていた為、今日に至るまで『廃都』の奥深くで孤独であった。

元の世界での使命に対する重圧や終わりの無い孤独に苛まれた【魔王】アクロスは、自身の骨肉に刻み込まれた夥しい量のスキルを駆使し、僅かばかりの知性を持たせて″3人の分体″を作った。

その内の2人が″イスケルダ(左と言う意味)″と″セルト(右と言う意味)″であった。

″分体″と言う入れ物を作成し、知性を持たせて会話が出来る頃には、この世界に来て4年の月日が過ぎていた。





※″P-AM6500(擬似的人工隕石)″の元ネタは、GI◯ョー2と言う映画に出て来た戦略兵器です。
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