ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~事後処理・決意・旅立ち~

閑話:【魔王】に関する出来事 その1

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ノア達が防衛戦を終結させてから4日、方々に散っていたモンスターが再襲来し、街に居た兵士、騎士、新人・中級・上級冒険者達が力を合わせて何とか撃退してから2日が経った。

未だいつ再びモンスターが襲来して来るかも分からず、街の者達は不安な日々を過ごしていた。

兵士は防壁上に煌々と篝火を焚いて街の外を睨み付け、騎士は常に完全武装で街の中に点在し、冒険者は何時でも出られる様に武具の点検を怠らなかった。

片や海洋種絡みの利潤を求めて獣人国に訪れていた一部の貴族連中は、数日に渡る半軟禁状態に疲れ、高価安価問わず酒をあおって現実逃避する者も居たと言う。

そんな不安と緊張に包まれる獣人国のとある一画で、最悪のシナリオがジワリと動き始めていた。





~深夜、獣人国・西門側内防壁~


「帰還命令!?
突然やって来て一体何を言い出すんだ!(【勇者】アーク)」

「【勇者】アーク、我々は貴方の父であるアーグラント殿直々の命でやって来たのです。」

「父さんが!?一体何故…!?(アーク)」

「直に、″【魔王】出現″の報せが全世界に発令されるでしょう。
今こそ【勇者】としての役割を果たす時、だそうです。」

「な…ま、【魔王】!?(アーク)」


現在アークは、獣人国内にある人気の少ない通りの更に裏路地に呼び出された。
そこには黒装束を纏った数人の人物が居た。

そんな見た目ではあるが、アークにはそれが何処の国の者かが直ぐに分かった。

【勇者】アークの故郷『イグレージャ・オシデンタル』である。



~【勇者】アークの故郷イグレージャ・オシデンタルとは~

イグレージャ・オシデンタルは元々小規模の村であった。
農家を営む家系の息子として生まれたのがアークで、母親含めて家族3人仲良く暮らしていた。

だが適正の儀で【勇者】アーク・【聖女】ミミシラとなるや否や状況は一変。

【聖女】側には村外から支援を申し出る宗教団体とその信者等が。

【勇者】側には村外から是非【勇者】パーティのメンバーにと、貴族達が多数到来。

御機嫌取りの一環で村→街へと変化し徐々に肥大化していった。

恐らく貴族連中はこの頃から【勇者】や【聖女】の求心力で集まった者達と権力、領地を我が物にせんと画策し、【勇者】アークに″洗脳″魔法を仕込んで悪者に仕立て上げたのだろう。

その結果【勇者】アークは中々旅立たず、旅立ったかと思えば実績も積まずに遊び呆けて散財し、悪評まみれとなっていた。

自国内でも【勇者】、【聖女】の名で集まった信者等は国を離れたものの、最初期の7割程度で落ち着いていた。

数年後、その目論見をノアとノアの知り合いによって明るみに出るまで、貴族連中の思惑通りに動いていたのである。



「あぁ、そういえば貴方様は知らないのでしたね。碌に実績も無く、戦力としても乏しい為、防衛戦には参加されず、一般市民同様街に引き籠って息を潜めてらしたとか…」

「…洗脳を掛けられて自発的な行動がまともに取れなかったんだ、仕か

「″仕方無いだろう″、ですか?
【勇者】のクセに没落貴族程度の洗脳魔法に掛かるとは何と情けない。」

「洗脳解除後の世間の評価は依然として右肩下がりなのも頷けますな。」

「く…(アーク)」

「ですが御安心をアーク。
【勇者】として【魔王】を討ち滅ぼすのです。
そうすれば今までの行い、数年分の悪評など、一度の【魔王】討伐で全て帳消しに出来るのです。」

「む、無理に決まってるだろ!
噂では彼…【鬼神】ですら何も出来ずに圧倒されたと言うじゃないか!(アーク)」

「それはそうです。
【鬼神】の適正が何か知りませんが、【魔王】にトドメを刺せるのは【勇者】のみ。
多少腕の立つ冒険者風情が【魔王】を討伐するなぞなんと烏滸がましい。」

「既に貴方様の父であるアーグラント殿は周辺諸国に呼び掛けて挙兵の準備を進めています。」

「何だと!?
そんな…直ぐに止めさせ『ズムンッ!』…っぶぇ…(アーク)」

ドシャッ!


父親の企てに異議を唱えるアークであったが、彼の腹部に突然強烈な衝撃が走る。
そのままアークは意識を手離して崩れ落ちてしまった。


「…おいおい、たった1発で伸されちまったぞコイツ…本当に中級冒険者程度の戦力しか無いんじゃないか?」

「だろうな。
だが腐っても【勇者】だ、耐久力はそこそこあるからもう20発位ぶん殴って完全に意識を落としておけ。」

「分かった。」

ゴッ!「うっ!?」ゴギッ!「がっ!?」ガッ!「…ぉっ…」ドカッ!「……」

「後は【聖女】ミミシラと他のパーティメンバーも連れて来い。
気付かれずにな。抵抗するなら殴って大人しくさせろ。」

「了解。」

「あぁそれと、″コレ″持っていけ。」ジャラ…

「おお、そうだったそうだった。」


黒装束の人物は、鎖の付いた″何か″を手渡した。


「″ヒュマノ聖王国製の『隷属の首輪』″だ。
【勇者】と【聖女】には念の為両手足にも付けておけ。」

「了解。…にしても″【魔王】″ねぇ…
勝てんのか?コイツで。」

「勝つ負ける、は関係無いんだろ、アーグラントにとっては。
奴の頭ん中にあるのは″儲かる″か″儲からないか″だ。
″洗脳騒ぎ″で再び取り戻しつつある求心力に加えて此度の″【魔王】出現″で信者は再び増え″献金″も増える。」

「後は″広告塔である【勇者】と【聖女】″を用意してやりゃアーグラントが勝手に進める事になるだろう。
俺らに課せられた命は″コイツらを連れてくる事″だ。
イグレージャ・オシデンタルに戻ってコイツらを引渡し、報告を済ませたら俺は暫く国を空けるぜ?」

「俺もだ。」
「俺も。」
「同じく。」

「何だ、皆同じ考えだったか。」

「当たり前だ。
【魔王】に関する情報も出揃っていない内に事を仕掛けようなんて愚策も愚策よ。」

「【鬼神】をも圧倒した相手に弾丸戦略なんざ死にに行く様なものだ。
正直ゴメンだね。」

「そんじゃ、時間も惜しい。
さっさと【聖女】と他の仲間を捕らえて来よう。
気取られるなよ。」

「「「「おぅ。」」」」


黒装束の者達は、その後音も無く各地へと散って行った。

獣人国は現在常時警戒中であった為、兵士は防壁上、騎士は防壁の外で警戒、感知系スキルカンストの上級冒険者レドリックとその妻アミスティアは共に滅びの森方面へと偵察。

影の者達は王城にて警戒、諜報員のナサケは王城にて【魔王】出現の報を告げていた為、彼らの存在には一切気付いていなかった。

つまり誰にも知られる事無く【勇者】パーティは忽然と姿を消した事になる。

次に彼等が目覚めた時、そこには望まぬ形で懐かしき故郷の街並みが広がっていた事だろう。
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