ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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取り敢えず南へ編

呪文詠唱(厄介事)

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ポッポッ!ポポッ!(木々のあちこちが点灯。)

「わっ!光った。(ミダレ)」

「お、良かった。
完全に夜になる前に街に到着出来そうです。」

「あの光りは…?」

「あれは『篝蟷螂(カガリトウロウ)』と言うカマキリのメスが発光しているのですよ。
夜が近付き自らが発光する事で、餌となる虫とオスを呼ぶ効果があります。(シンプソン)」

「なので沼地という立地の割に虫が少ないのですよ。」

「確かに蚊や羽虫が坂の上よりも少ないですなぁ。(クリストフ)」


空を見上げれば既に黒く染まり、森の中はほぼ真っ暗であった。
だが闇に目が慣れる前に、木々に点在していた『篝蟷螂(カガリトウロウ)』のメスが暖色に発光し、街灯代わりとなった為、暗さの恐怖に苛まれる事はなかった。




「こうして見ると幻想的な光景ですね…(ヴァンディット)」

「ホント…さっきまでビクビクしてたのが嘘みたいっちゃ…
あ、見て見てノア君、あそこの光だけ青白いよ。もしかして特別な個体なのかも。(ミダレ)」

「あぁ、あれは″幽霊″ですよ。(シンプソン)」





「……。(ヴァンディット)」スン…
「……え?(ミダレ)」

「″幽霊″です。まぁ厳密に言えば″人魂″ではありますが…
ただ、嫌な気配は感じませんから″悪霊″ではありませんのでご安心を。(シンプソン)」

「ヘ、ヘェェ…(ミダレ)」


シンプソンからの説明に生返事しか返せない様子のミダレ。
ヴァンディットに至ってはスン…としたままピクリとも動けなかった。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。
″あの人″は、この街に初めて来た僕達に手を振ってくれてるだけだから。」

「「「「「「え?」」」」」」


ミダレやヴァンディットを落ち着かせる様に説明しつつ、ボンヤリと宙を漂っている青白い光に手を振るノア。

心なしか青白い光もそれに呼応して左右に揺れている様に見える。


「えっ!?ノア君見えるっちゃが!?(ミダレ)」
「ノア様見えるのですか!?(ヴァンディット)」

「そうなんです。実は視えるんですよ。」


実は視えている事を初めて知った面々は驚いている様子。

そして何故か3人組も


「…少年よ、ちなみにどの程度″視える″か聞かせて貰っても…?(シンプソン)」

「かなりご年配の方ですね。
見た所外傷も無く、表情も柔和なのでもしかしたら老衰なのかも…
髪をお団子に纏めて簪(カンザシ)で留めています。」

「モウラ婆じゃないか…?ほら、先月亡くなった…」
「かもな…東の大陸で貰った簪(カンザシ)を大事に使ってたからなぁ…」


シンプソンから説明を求められた為、外見的特徴を伝えると、仲間と思われる2人に思い当たる節があった様子であった。





~『アンテイカー』前の門~


チリィン…

「っ、神父!
その者達が怪しき一行ですか!?」

「夜になっても戻って来なかったので心配しておりましたよ。
…って、あれ?ゾネス…?」

「ヤッホー、ソシエール~。(ゾネス)」


『アンテイカー』へと続く門は現在固く閉ざされ、門番らしき男女が立っていた。

門番と言えば鎧を着込んでいる、所謂兵士を想像するだろうが、2人の門番もシンプソン同様カソック姿で、腰の辺りにレイピアを帯刀し、『振鈴(ベル)』を装備していた。

門番の男性は、ノア達一行に厳しい目を向け、女性の方は反応を見るに顔見知りらしいゾネスが一行の中にいる事に驚いていた。


「この『報告忘れ(ゾネス)』が言う所によると、厳戒態勢は解除され、この者達…
特にこちらの少年とキノコ殿が【勇者】軍を制圧したらしい。(シンプソン)」

「えっ!?解除…ですか…?」

「しかもこの子と…キノ…コ…が…?(ソシエール)」

「やはりこの見た目ですと信憑性が無『そっ…』「気にしない、気にしない…」

「なので一先ず街に入って貰おうと連れてきたのだ。
済まないが皆々方、身分を証明出来る物を…」


入門にあたり、冒険者カード等の身分証明の提示を求められた。

なのでノアやクリストフは冒険者カードを。
ヴァンディットやラインハードは、生産職系ギルドから発行されている手形。
ミダレは試験街テスタで貰った証明書。
ミリアは商人見習い証を提示したのであった。


「これでもちゃんと冒険者であります。(クリストフ)」

「あなた本当に冒険者なのね…(ソシエール)」

「ほぅ…君は見た目的に新人冒険者かと思っていたが…
なっ!?き、君が…″あの″…?」

「どうだい?驚いただろう?(ゾネス)」ニヤニヤ

「む?どうしたんだ、ヒューガ。(シンプソン)」


門番の男女、女性はソシエールという名で、男性の方はヒューガと言うらしい。

ソシエールがクリストフの冒険者カードを確認し、ヒューガがノアの冒険者カードを確認。

するとヒューガの目がカッと見開かれ、ノアの正体に驚いていた。


「どうしたのヒュー…があっ!?
き、【鬼神】!?君があ、あの″【鬼神】のノア″なの!?(ソシエール)」

「何っ!?それは本当か!?(シンプソン)」
「「え!?マジ?マジ?」」


「えらい食い付き様ですな。(クリストフ)」
「…まぁよくある事だよ。
その後に一勝負持ち掛けられるまでがいつもの流れだけどね。」


ノアの冒険者カードを食い入る様に確認する門番とシンプソン達。
5人が落ち着きを取り戻すまで少し時間掛かるだろうな、と思っていると商人のマグワイトがやって来て


「き、君が【鬼神】だったのか…(マグワイト)」

「えぇ。あまり戦果を謳うのが好きでもなかったし、名乗ると8割方何かしらの厄介事に巻き込まれるのが常だったので敢えて言いませんでした。」

「つまり君が、″ヴァリエンテ・ルルイエ伯爵の息子さんであるヴァリエンテ・カルルを改心させた″【鬼神】のノアなんだね?(マグワイト)」

「″カルル″?あぁ、アルバラストで喧嘩吹っ掛けられたアレですね?
改心させたかどうかはルルイエさんのその後の指導の賜物でしょう。
そういえばマグワイトさんって西方の商人でしたね、だからルルイエさんの事を知っていたのですね。」

「あ、あぁ…(マグワイト)」


マグワイトはヴァリエンテ・ルルイエ伯爵とも何度か商談した事がある商人で、先月位から息子のカルルが徴兵された原因が、自身の身から出た錆である事と【鬼神】である事は知っていたが、まさか新人冒険者と見間違う少年だとは思っていなかった。


「あのー、そろそろ良いですか?
そんなマジマジと冒険者カードを見られるのは何かむず痒いのですが…」

「えっ!?あ、あぁ、済まない!(ヒューガ)」


マグワイトとの話を終えたノアは、未だ冒険者カードをマジマジと見続けている5人の下へ確認の終了を促しに向かうのだった。


(…彼が【鬼神】…
ヴァリエンテ伯の息子さんのカルル氏を改心させた彼なら、″あのお転婆お嬢様″も改心させてくれるかも…(後の厄介事))
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