ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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取り敢えず南へ編

平和な世になった弊害

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「あふぁぁ…良く寝たぁ…
取り敢えず顔を洗ったら修道服(カソック)に着替えないと…
…ん?彼処に居るのは、街一番の頑固一徹爺ちゃん…
え?何で【鬼神】君と仲良さそうにしてるの!?(ソシエール)」


寝ぼけ眼、ボサボサ頭、寝巻き姿で通りを歩く教会関係者のソシエールは、ふと通りの奥に居るノアと、街で有名な頑固爺さんと話している姿を目撃。

妻であったお婆さんの死後、一層頑固さが増して話し掛け辛かったというのに、昨日街を訪れたノアに笑顔を向けている事に驚いていた。





『『メキメキメキ…』』ズコッ!ボコッ!(貼られていた板を掴み、釘ごと引っこ抜く。)

「……。」(毟り取られた板を見て固まるお爺さん。)

「よし良いぞクリストフ、補修してくれ。」

ぬりぬり。(傷んだ柱に指をなぞり付けるクリストフ。)

「この程度なら菌根菌を柱に塗り付けるだけで内部的に補強されますでしょう。
この街は年中湿気が多そうなので生育に問題は無さそうですしね。(クリストフ)」


店先に貼られていた板はノアによって即行で撤去された。
あまりに素早かった為、花壇に腰掛けていたお爺さんは何が起こったか分からない様子であった。

バールで柱をしこたま打って傷が付いた柱についても、相変わらずのクリストフによる補修で事なきを得た。


「…坊主、意外と力あるんだなぁ…」

「力は人一倍ありますよ。」

(『本当は人十倍位はあるがな。』)

「儂ぁ、ここで食事処を営んどる。
後で賄いを作っちゃるから食いに来ると良い。」

「あ、ありがとうございます。」

「勿論そこの着ぐるみ(?)のあんちゃんもな。」

「お、ご馳走になりますぞ。(クリストフ)」


頑固ではある様だが、打ち解ければ気さくに話してくれる良いお爺さんである。





「それで…だ、坊主。
まだ婆さんは近くに居るか?」

「えぇ…」チラッ。

〈シーッ。(お婆さん)〉

「″笑顔で近くに″居ますよ。」

「そうかい、それだけ聞ければええわい。」


「隣に居ますよ。」と言おうとしたが、花壇に腰掛け寄り添うお婆さんの霊に黙っている様に促されたノアは曖昧な表現で伝えるのであった。





〈こんな婆さんのお願い事を聞いてくれてありがとうねぇ、坊や。
まだ大分若いのに″視える″のだもの、驚いちゃったわ。〉

「いえいえ。大したお願いでは無かったのでこれ位の事なら大丈夫ですよ。」

〈それでもだよ、この街には″視える人が居ない″から、些細なお願い事も聞いて貰えないものさね。〉

「え?教会の人達は視えないのですか?」

〈そうさねぇ、今代の神父は視えてない様だ。精々が″人魂″が見えるか、″普通の幽霊″か″悪霊″かの判断が出来る位だね。
まぁそれだけ今の世の中が平和だ、って証になるから、本当は喜ばなきゃいけないのだけれど…〉

「???」


お爺さんへの御礼を言われるノア。
この街は外より幽霊が多いのに教会関係者ですら″視える人″は居ないらしい。

だが″視えない″=″平和″と言うお婆さんの発言が繋がらなかったノアは少し混乱していた。


〈坊や、″視える″様になる″条件″を知ってるだろう?〉

「えぇ、″臨死体験″を経験し″あちら側″に近付く事で死者の様な″視え難い存在″が見易くなるんですよね?」

〈そうだね。
片足とは言え、死の世界に踏み込んだ事で生者も死者も見る事が出来る。
後は信仰心を上げて神様の様な別次元の存在を感知出来る様に修行を積む、等があるね。〉

「あ、そんな方法もあるんですね。」

〈正しい方法ではあるが、それだとえらい時間が掛かってしまうでな、手っ取り早いのはやはり″死線を越える″事よ。
じゃか平和な世となった今ではその機会すら容易に得る事が出来んのじゃ。〉


お婆さんの話では、昔(お婆さんが若い頃)は今よりも殺伐としており、冒険者は死生観も極まった連中ばかりで、幾多の死線を潜り抜けている猛者が多かったと言い、教会関係者なんかも殆ど戦闘集団と変わりなかったらしい。


〈じゃからと言って今の教会の者が怠けてるとかそう言った事は無いんだよ?
ちゃーんと信仰心も持ってるし、職務もこなしておる。
″正″と″邪″を見分ける事は出来ても、私達の様な存在(幽霊)を″視る″事はまだ敵わん様じゃ。〉

「うーん、難しい問題ですね…」

〈…っと、済まないね坊や。
こんな婆さんの長話に付き合って貰って。〉

「いえいえ。」

〈ほれ、お願い事を聞いてくれた御礼じゃ。
『チャリ…』受け取ってくりゃれ。〉

「…え?″銀貨″ですよね…?何処の国の物ですか?」


話を切り上げたお婆さんは徐にノアへ″銀貨″の様な物を手渡す。
現在流通している銀貨とは大きさも柄も違う為、他国の物と思われたが


〈これは″『霊銀(スピリットシルバー)』″と言っての、霊からのお願い事を聞いてくれた者へ御礼として渡す物らしいのさ。
使い道は私じゃよく分からないから、ギルドや教会に持っていくと良いよ。〉

「あ、ありが…あれ?お婆さん…?」


『霊銀(スピリットシルバー)』と言う物を貰い、お礼を言おうとしたノアだが、いつの間にかお婆さんの姿は無かった。

もしかすると、お願い事を聞いた事で安心して成仏したのだろう。





〈ん?何だい?〉

「あ、居た。」


そんな事は無かった。





「ノア殿?いつの間にか手の中にある、その銀貨は何なのですか?(クリストフ)」

にゃぁ?

「あぁ、これはね…」


と、今まで黙って待機していたクリストフがノアの手の中を覗き込み、お婆さんから貰った『霊銀(スピリットシルバー)』について聞いてきた。

それに対して答えようとしたノアの下に


「ね、ねぇ?【鬼神】君?
さっき頑固爺ちゃんと仲良くしてたのもそうだけど、今さっきまで君の周りに人魂が浮遊して…
…ん?あれっ!?それ『霊銀(スピリットシルバー)』じゃない!
何で君が″希少素材″を持ってるのっ!?(ソシエール)」

「え?″希少素材″?
お婆さんからのお願い事を聞いたら貰ったんですが…?」


寝巻き姿のソシエールがひょっこりとやって来たかと思えば、ノアの手の中に握られていた『霊銀(スピリットシルバー)』を見て目を見開いて驚いていた。


「こここ、これは『霊銀(スピリットシルバー)』と言って、この金属と数種の金属・素材を配合した物が″『聖霊銀(ミスリル)』″となるのですがそれ自体が聖属性を持つので、教会関係者は勿論、それらに属する者達にとっては喉から手が出る程欲しい代物ですよぉっ!(ソシエール)」

「へー。」
「ほぅ。(クリストフ)」
にゃー。


捲し立てる様に言うソシエール。
勢いが凄くてイマイチ理解出来ていなかったが、取り敢えずソシエール含めた教会関係者にとっては貴重な代物らしい。


「ところであなたは誰ですか?」

ババッ!(手で頭飾りを表現。)

「ソシエールです!」
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