ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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取り敢えず南へ編

お願い事

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~宿屋『ポルターガイスト』・早朝~


ヒヒィ~ン、ヒヒン!(沼馬の嘶き)

パチッ。

「うーん、馬の鳴き声が目覚まし代わりなんて村でも無かったなぁ…」

(『案外良いモノだな。』)


アンテイカーに訪れて2日目の朝、鶏の鳴き声ではなく沼馬の嘶きで目を覚ますノア。


チラッ…

「うみゅ…(ミダレ)」
「すー…すー…(ミリア)」

チラッ…

「すぅすぅ…(ヴァンディット)」
「……。(セーブ中のラインハード)」

(皆まだぐっすり眠っているな…)
(『まぁ昨日あれだけ驚いてりゃぁな。』)


ノアが泊った部屋は大部屋で、6人組パーティでも十分寝付けるモノであった。

前日、ギルドを出た一行は街を散策しつつ宿を探そうとしたが、通りに出てみるとそこら辺に″人魂″が浮かび、女性陣がおっかなびっくり状態となった。

『視えてる』ノアからすれば何て事無いのだが、女性陣は足早に宿を見付けて即行で部屋に突入、散策は明るくなってからという事になった。

やれやれ、といった様子のノアだったが、改めて宿屋の名前を見てみると『ポルターガイスト』となっていた。

どういう意味だろう?





スッ…スッ…ィ…スッ…


ノアは皆を起こさない様に<忍び足>を使ってベッドを避け、扉を開けて廊下に出る。

早朝というのと、カーテンが閉められているので廊下は非常に薄暗い。
他の宿泊客は居なかったので音すら聞こえなかった。




ズル…トンッ。

にゃーご。

「お、ニャーゴ、お早う。」

にゃんご。


ノアの足元の影から半透明の猫、ニャーゴが姿を現しノアの肩に飛び乗ってきた。

海洋系ダンジョン″龍遇城″で出会い、猫なのかスライムなのかクラゲなのか分からないが、愛嬌があり、人懐っこく、最近ノアのペットとなったモンスターであり、プルプルでヒンヤリした体が頬に触れて何とも心地良い感触であった。

日がな1日日向ぼっこをして過ごす事もある為か、ノアが外に出るのを察知して姿を見せた様だ。

ノアはニャーゴと挨拶を交わし、ニャーゴがそれに応えていると


シャッ!(ノアの近くのカーテンが開く。)

ニッ!?


独りでにカーテンが開いた事で、ノアの肩に乗っていたニャーゴが驚く。

対してノアは


「お早う御座います。
すいませんが、連れが中でまだぐっすり眠っているので、もう少し閉めてても良いですかお姉さん?」

〈……え?
もしかして…視えてるの…?〉

「えぇ、金髪の長い髪、エプロン姿の女性で、背は僕より頭1つ分高いですよね?」

〈凄い…本当に視えてるのね…
…畏まりました、後1時間程はこのままにしておきます。
という事は、中のカーテンも開けない方が良いですよね?〉

「そうですね…
それやったら多分全員飛び上がっちゃうと思うので…」


カーテンが開いたのはこの宿に居る幽霊の女性で、習慣的に行われているものだった。

その後視えてるノアからのお願いを受けた女性はカーテンを閉め、街へと繰り出すノアへお辞儀をしていた。


〈そっか…″彼は″視えるのね…〉





~通り~


「流石にまだ朝早いからか人通りは少ないね…」

にゃーご。


街の外、具体的に言うと坂の頂上には既に陽光が差し、暖かな光が満ちているが、アンテイカーは窪地の底にある為非常に暗い。

更に周囲が沼地である為か霧が立ち込めているので視界も悪い。




ヌゥ…

「いやー、ここは良い所ですなぁ。
見てく出されノア殿、程好い日陰と立ち込める霧のお陰で肌がモッチモチですぞ。(クリストフ)」

「やぁクリストフお早う。
宿に居なかったけど、何処で寝てたの?」

「宿横の路地ですぞ。
人通りも少なく、程好く湿気もあり「そういう所だぞクリストフ。」


「オバケじゃないよ。」とノアが取り繕っても、クリストフ自身の行動が誤解を招く恐れがある。
といってもキノコと人間では生態が違うので、あまり強制させるのも好ましくない。

どうしたものかと頭を悩ませるノアであった。

するとそこに


〈…ねぇ坊や、ちょっとお願い事を聞いて貰えないかしら…?〉

「ん?はい、何でしょう?」

「む?どうされましたノア殿?(クリストフ)」

んにゃ?


ノアの下に腰の曲がった老婆の霊が訪れた。
どうやらお願い事があったらしく、ノアは内容を聞かないまま了承していた。

突然独り言の様に喋りだしたノアに、クリストフとニャーゴは少し驚いていたが


「あ、もしや霊の方が参ったのですね?(クリストフ)」

「そうそう。」

にゃ~お?クイックイッ。(見えないながら触れようとしている。)


持ち前の察しの良さで、ノアが霊に会ったのだと理解した様だ。





〈この通りの先で、口がへの字の堅物爺さんが居るんじゃけど、手伝ってくれんじゃろうか…?〉

「ん?お婆さん自身のお願い事じゃなく、そのお爺さんの手伝いですか?」

〈えぇ、ほら昨日【勇者】軍が制圧されたとかで厳戒態勢が解除されたじゃろ?
ほんで今日から商いを再開しようとしてる様なんじゃが、補強用の板を店先に張りまくってしまって剥がせなくなっとるんじゃ。
普段無口で頑固じゃから隣近所のモンにお願いする事すら出来んでな、それを手伝って欲しいんじゃ。〉

「あー、なる程そういう事ですね。
分かりました。手伝ってきましょう。」

〈もし『手伝いなぞ不要じゃ!』等と言ったらこう言ってくれんか。〉

「何でしょう?」





~食事処『爺婆の台所』~


ガッ!「ふんっ!」ガッ!「ふんっ!」ゴッ!

「そこのお爺さん、補強の板を剥がすのに苦戦している様なのでお手伝いしますよ。」

「うん?…冒険者の坊主と…何だそりゃ、着ぐるみか…?
気遣いは有り難いが、もうちょいで剥がせるから構わんよ。」

ゴッゴッ!


黙々と店先の板を剥がしに掛かる老人が居た。
だが板は釘でガッチリと固定されており、力の無い老人だけでは取り外すのにかなりの時間を擁すだろう。


「そのままでは柱が傷んでしまいますぞ?(クリストフ)」

「ここは今じゃ儂1人だけの店じゃ。
傷付いたら後で直しゃええ、手伝いは要らんぞ。」

「そう言われても、とある方からお願いされたので手伝わない訳にはいかないんですよねぇ…」

「あん?お願い?」

「えぇ、断られたら″私とアンタの店を今以上にボロボロにする気かい?
左肘の古傷が原因で碌に力入んないんだから素直に助けを求めな!″って言えと言われました。」

「…な、何で古傷の事を…婆さんしか知らないハズ…
…まさかアンタ…」

「板の撤去、僕が代わりにやっておきますね?」

「…婆さんから頼んできたのなら素直に聞き入れるしかないのぅ…坊主、悪いが頼むわい。」

「了解です。
クリストフ、傷んだ柱を補修する事は出来るか?」

「勿論ですとも。(クリストフ)」
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