お姉さまの幸せだけ約束された世界で私が幸せになる方法

DAKUNちょめ

文字の大きさ
2 / 4

姉を虐げると見せかけ、良い塩梅を吟味する妹。

しおりを挟む
私は姉から逃げるように走り去り、自室にこもった。
ちょっと頭が混乱している。

何なの…?何なの?何なの?初めてだわ、あんな展開。
姉が私に「幸せ?」と尋ねてくるなんて。


私は、今が不幸な姉に対して幸せでなければならない。
姉が幸せになる世界を望む者たちに、そう見せていなければならない。

より幸せな姉の姿が演出される為には、私が自分は幸せと思い込んでいたという高みから、不幸という奈落にみっともなく落ちていく行程が不可欠なのだ。

なのに今、「実は私は不幸です!だって未来を知ってますもの!」とか口に出来ないのよっ!



私は自室の長椅子に腰掛け、はぁーっと大きな溜め息をついた。

もし━━あの場で姉に本当の事を話していたら…何か変わっていたのかしら…
どうなっていたんだろう…と、思わなくも無いけれど…

急いては事を仕損じるという恐ろしいことわざもあるし、急いて本当に事を仕損じた事もあるから、やはり本来の行動を逸脱した真似は出来ない。



私は自室の本棚から鍵の掛かった日記帳を取り出した。
中に書かれているのは日記ではない。

この中に書かれているのは、私が毎回この世界の在り方を思い出した日に、忘れない内にと必ず遂行してきた、本来の物語の流れを書き綴ったものだ。


「…今日がお姉様の頭から花瓶の水ぶっ掛けられの日だから…約一ヶ月内に、お姉様に縁談の話が出るわね。
両親が、偏屈で変人と名高い辺境伯様から借りていたお金の返済が間に合わず、お金の代わりに姉様を差し出す。」


縁談とは言うけれど、両親は姉を厄介払いのつもりで辺境伯様に差し出す。


辺境伯様は世間では、人や動物を使って怪しくも恐ろしい実験をしている、見た目も醜く恐ろしく、残虐非道な呪われた辺境伯と呼ばれている。

そんな辺境伯様に姉を差し出すという事は、どのようなぞんざいな扱われ方をしようと、それこそ実験に使われて姉の生命が危ぶまれても構わないという事だ。

そんな非道い仕打ちを、両親と共に「いい気味だわ」と思っていた時が私にもありました。


でも幾度となく、この世界を経験してきた私は知っているのだ。

辺境伯様が美青年であり、人間性も立派な素晴らしく素敵な男性である事を。
知っているが為に、お姉様を差し置いて「私が辺境伯様の妻になります!」と言ってみた事があったが、なんか物凄く端折った感じで辺境伯様より直々に断罪されて私は投獄されてしまい、早々に処刑されてしまった。

「ハイハイ今のは無し、やり直し」的なやっつけ仕事みたいな流れ過ぎて、そう言えば私、何の罪で投獄されたんだっけ?とその時の人生の記憶があまり残っていない。

ただその人生では、事を急ぎ過ぎると色々と仕損じ過ぎてろくな事にならないとの教訓を得た。




不幸な結婚をした姉を「いい気味」とせせら笑う妹の私は、姉とは違い幸せな結婚をする。
姉の結婚から2年後に、私の婚約披露のパーティーが開かれ、美しくなった姉が夫である辺境伯様にエスコートされてパーティーに現れる。
幸せな姉の姿を目の当たりにした私がギリッと歯噛みする程悔しい思いをする。


恐らく、そこまでの流れを無闇に断ち切ってはいけないのだ。


「そして今からが正念場だわ…
お姉様が嫁ぐ日まで、やり過ぎない、やらな過ぎない、ちょうどいいあんばい、で姉を苛め抜かなければならないのだから。」




だから私は姉の縁談が告げられる日まで、私の綴った物語に沿って、姉イビりを遂行する━━


私の部屋の掃除をしに来た姉の頬をビンタ…はやり過ぎなので、ドンっと突き飛ばし


「勝手に私の物に触らないでちょうだい!
まさか…私の物を盗もうとしていたの?
なんて卑しい女名の!」


と言いながら、ほうきで何度も激しく姉をぶつ…
のはやめておき、とりあえず長椅子にあったクッションで姉を何度も激しくぶっといた。


また別の日には、調理場の片隅に用意された姉の夕食のスープに、庭に落ちていたネズミを入れて…

私は調理場の外に立ち、ほくそ笑みながら窓から姉の様子を覗った。


「きゃあッ!!」


テーブルに着いた姉が驚きの声を上げ、スープの皿を手で払いひっくり返した。

床に落ちて割れたスープ皿の欠片を拾いながら姉が震える声で呟く。


「なぜ…スープに汚れたネズミのオモチャが……。」


仕方ないのよ…

私は姉を苛めないワケにはいかない、でも、やり過ぎてはいけない。
本物のネズミの死体はひど過ぎるでしょう?
私の中の、ちょうどいいあんばいがソレだったのよ。

神さま見ている?
私、ちゃんと頑張って姉をイビってますわよ。


ってゆーかネズミの死体なんて気持ち悪いし触れるワケ無いじゃない。

姉を蔑むのがデフォの過去の私、そんなもんによく触れたな。 

ああ、飼い猫のオモチャを拝借したので新しい猫のオモチャを用意しなきゃだわ。




私は自室で毛糸を編んで小さなネズミの編みぐるみを作り、飼い猫に与えた。

私の足元で、テンション駄々上がりになった猫がネズミのオモチャと戯れている。

遥か過去の、お姉様イビりを生き甲斐にしていた私は編み物なんてまったく出来なかったけど、今の私って料理も裁縫も出来ちゃうのよね。


「今の私って…凄い努力の人だと思うわ。
お姉様を蔑んだり暴力を振るったりなんて、もうしたいとも思わないし…。
両親から微妙なあんばいでお姉様を守り、微妙なあんばいで私もお姉様を苛めなければならなくて…
その「ちょうどイイ感じ」を導き出すのに、あれこれ考えて試したり…試行錯誤を繰り返す内に家事のスキルが上がってしまって。

とにかく私、凄く頑張ってるわ…。」


なのに結末は必ず投獄された上での死が待ってる。
神さまは私が頑張ってるのを見ていても、幸せになるのを許してはくれない。



ただ……

今回は神さまだけではなく、お姉様が私を見ている時がある。
以前までは、私に怯えていたり、私の神経を逆撫でしないよう目を合わさなかったりと、私の方に視線を向ける事がほとんど無かったのに。


私は廊下にある明かり取りの小さな窓の前に立ち、庭の掃除を言いつけられた遠くに居る姉を何気なく覗くように見ていた。


「アンナ。」


気付かれた。なぜ小窓の端の私に気付くの。
かなり距離があったハズなのに。


姉が掃除の途中でほうきを手にしたまま私の方に歩いて来た。
多くの「今」を経験した私にもこれは初めてのシチュエーションで、どう行動すれば正しいかが分からなくて混乱する。

混乱し過ぎて、立ち去る事も出来ずに窓枠に手を掛けたままフリーズしてしまった。

窓の外側に、うす汚れた姿の姉が立つ。

顔には醜い大きな傷痕、うす汚れた惨めな格好をしているのに、お姉様の立ち姿は凛と咲く白百合の花のように美しく見える。


「アンナ、貴女は今、幸せ?」


またコレ?…どう行動するのが正しいのかしら…
変な事をして、また巻きで人生が終わるのは困る…
投獄も処刑も何度経験したって慣れるものじゃないし。

でも、こんなパターンは初めてだし…新しい分岐点?

もし私が今の本当の気持ちをお姉様に話したら、私の人生、何かが変わるのかしら。


「私…いま……幸せじゃ…」


言いかけてハッと口をつぐんだ。

いつものお姉様じゃない、お姉様は、もしかしたら私をより不幸にするための罠かも知れない。

第一、いつもお姉様に非道い仕打ちをしていた私を、お姉様が気に掛けてくれたりするハズが無いじゃない。


「アンナ?顔色が悪いわ…大丈夫?」


窓枠に掛けた私の手に、お姉様が手を重ねた。

心配するフリをして、私をより不幸にする為なにかを試しているのではないかと考えたら一気にゾゾッと背筋が寒くなった。

慌てて重ねられた手を引っ込め、窓から離れるように数歩後ずさる。


「なっ…!何よ!いらないお世話だわ!
あんたごときが私に、気安く話し掛けんじゃないわよ!
でも大丈夫だからっ!」


「でもアン…………」


絵画の額縁のような小窓の外に立つ姉の身体が、額縁から絵が抜き取られたかのように、窓枠からフッと消えた。
一瞬何が起こったか分からなくて、慌てて窓に駆け寄り窓の外を見る。


お父様がうずくまるお姉様の身体を、お姉様が手にしていたほうきで何度も何度も強く叩いていた。


「言いつけた掃除をサボって、アンナに何を吹き込もうとしていた!
この疫病神が!呪われた魔女め!」


━━━━キャー!やめて!やめて!お父様やめて!
ええい、やめんか!このアホオヤジ!!━━━━


パニックに陥った私は、もの凄い早さで首を回して辺りを見回し、花の活けられた大きな花瓶を見つけると、窓の外、正面に向かってその花瓶の水をぶち撒けた。


「姉だからって私に気安く話し掛けないでちょうだい。
…………あら、お父様…いらっしゃったの。」


窓の正面にいた父がずぶ濡れになり、正面からずれた位置にいた姉には水がほとんど掛からなかった。

濡れ鼠みたいな姿で恨めしそうな顔をする父に、私は甘えた猫なで声を出す。


「やぁん、大変だわ、お父様~
風邪をひく前に邸に入って早くお着替えになって?
お姉様は、サッサと庭掃除に戻りなさい。
ホント、愚図なんだから!」


とにかく、姉と父の距離を離さないと!

父がほうきで力任せに姉を叩くなんて、今まで無かった気がする…。
父と姉を近付けると、これまで以上に父の容赦無い暴力がお姉様に向かう。そんな気がする。

何かが変わりつつある、今の世界を私はどう判断し、乗り切れば良いのだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

婚約者が妹にフラついていたので相談してみた

crown
恋愛
本人に。

自分こそは妹だと言い張る、私の姉

ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。 本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。 誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。 そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。 しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。 レイラはもちろん 「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」 と駄々をこね、何年かぶりに 「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう! だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」 と言い放ったのである。 スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、 「実は求婚してくれている男性がいるの。 私も結婚するつもりでいるのよ」 と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。 しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。 カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。 これではとても幸せな結婚など望めそうにない。 しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。 カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

処理中です...