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国境を越えた先、そして思わぬ訪問者。
一行が国境に到着すると、まずギャリー達がリスクィート側の国境門に駐在する兵士たちを沈黙させた。
刃向かう者は容赦なく斬り捨て、敵わないと降伏した者は縛って、その辺に転がしておく。
「やれやれ…降伏すべき相手だと知る事も無く最初に斬り捨てられた数人が気の毒だな。」
マンダンが溜め息混じりにボソッと声を出す。
連行という体でベルゼルトから連れ出されてからギャリーと行動を共にしてきたマンダンには、この血生臭い光景も既に見慣れたものだ。
斬り捨てられたのが自身と同じ生国の者であろうが、そこにはもう憐憫の情など湧く事もない。
フェインとドナは、何人もの兵士達が斬り倒されてゆくのを目の当たりにし、改めて国外逃亡の難しさを知った。
国境に着く前に騎士達に襲われる事も無く、ギャリー達に会う事も無く国境に辿り着いていたとしても、2人は国境を守る兵士達に直ぐに捕らえられていただろう。
いや抵抗すれば、その場で斬り捨てられていた可能性が高い。
フェインは我が身の幸運を知り、冷や汗をタラリと垂らした。
ふと国境の兵士達を制圧したギャリーとその仲間であろう黒い装束姿の者たちに目を向けたフェインは、居るべき友人の姿がこの場に無いことに気が付いた。
「…あれクータは?
あの…クータの姿が見当たらないのですが…。」
フェインがドナを連れギャリーのもとへ行き、運動後の汗を拭く様に爽やかな笑顔で返り血を拭うギャリーに恐る恐る尋ねた。
ギャリーはクータが居ない理由を自ら説明する手間が省けた事で、パァっと表情を明るくする。
「お友達は、二つに分けて森の中に転がしといたよ。
今頃は獣の餌にでもなってるんじゃない?」
「え………」
フェインは驚きを隠せなかったが、それ以上何も言えなかった。
理由など聞かなくても分かっている。
クータ本人が言っていた通り、クータの中では王命は絶対だったのだろう。
そして、にこやかに微笑んで目の前に立つ男は、寝返ったフリをしてもリスクィートの騎士であり続ける者を見逃さない。
「そんな…!クータさんがなぜ、そんな目に?
ひどい、ひどいわ!」
妻のドナは、騎士であるフェインの様には理解が及ばず、夫の親友が無惨に殺された━━と目の前の事実だけにショックを受けていた。
連日の逃避行と、今夜あった様々な事がドナの肉体も精神をも疲弊させたのだろう。
ドナは感情を押し留める事が出来ず、堰を切ったようにヒステリックな声をあげ始めた。
フェインはドナをなだめる様に強く抱き寄せ、ドナの口を自分の胸に押し付けて声を塞ぐ。
「ドナ落ち着いて!クータは俺たちを騙したんだよ。
だから殺されて…当然だったんだ。」
「殺されて当然なんて、そんな言い方無いでしょう!
貴方の親友だったのよ!」
「俺たちを助けてくれた、あの人たちにとっては殺して当然の敵だったんだよ!クータは!」
国境の門が開き隣国の兵士が現れると、マンダンを含めたギャリー達の一行は隣国の兵士のもとへ行き、国境を越える為の交渉をし始めた。
ギャリーはそちらには行かずにフェイン達夫婦の前に残り、二人に向けて微笑んだ。
「あのね、俺を優しい人だと思っているなら大間違いだからね。
俺が殺した君たちの親友と俺は、同じ種類の人間だよ。
自分の国が一番大事で、国王陛下の命令は絶対。
国の為なら自分の親友だって裏切れるし笑って殺せる。
そんな俺だから、それらを脅かす者には容赦はしない。
それが女だろうと子どもだろうと…妊婦だろうと何だろうと。
だから君たちが俺を敵だと騒ぐのならば、今すぐ死んで貰う。」
笑顔のギャリーの目は全く笑ってなかった。
ギャリーの言っている事が本気なのだと、フェインはドナを抑え込むように強く抱いたまま固唾をのむ。
「いえ…助けて戴いた事に感謝こそすれ、敵などとは思ってません…」
「ならいいんだけど。
まぁ、俺の国への忠誠心とは違い、親友くんの忠誠心は植え付けられた恐怖心が忠誠心に変わったもんだから、気の毒と言えば、まぁ気の毒なんだけど。
俺の国への忠誠心はね、彼と違って愛から来てるんだ。
陛下は国民を愛して下さっている。
だから俺も陛下と国を愛してる。
その愛の強さは、おっぱい愛のちょい上あたりに……」
「愛国心と乳房を同列で語るな。
しかも愛国心が乳房と僅差とは不敬であろう。」
マンダンが溜め息をつきながらギャリーとフェインのもとに来た。
「えー?」と納得いかない返事をしつつ微笑んでいるギャリーを無視したマンダンはフェインの前に立つと1枚の証書を渡した。
「亡命者として、二人が国境を越える許可を取ってきた。これがその証書となる。
これでそなたらは、ワタシと同じく「元」リスクィート国民だ。」
「…私とドナは、今日よりこの国の民になる…
そういう事でしょうか…。」
正直な所リスクィートを出られたとは言え、隣国は壁一枚隔てた向こうがリスクィートなのだから不安は尽きない。
たかが脱走兵一人とその妻に国が執着するとも思えないが、リスクィート国王は裏切りを許さない執念深さもあり個人的な感情を優先する性格でもある。
隣国の住人になったとして、隣人や町を行き交う人々に紛れて自分を狙うリスクィートの刺客が居る可能性だって無くはない。
そう思うと、安心して妻の出産を迎えられるとは思えない。
フェインは心情を思い切り顔に出してしまう。
夫の不安気な顔を見た妻のドナも、不安が伝染したかのように表情を暗くした。
「違うよ、この国は通過させて貰うだけ。
おっぱい夫婦にはマンダンのオッサン同様しばらく俺たちに同行して貰う。
迎えを寄越すから一緒に俺たちの国に行き、そこで赤ちゃん生めばいいよ。」
少なからずギャリーに恐怖心を抱くドナは顔を青くしたが、フェインは安堵した。
ギャリーは容赦の無い恐ろしい男ではあるが、敵意さえ持たなければ、これほど力強い同行者は居ない。
だが国を出た事が無いドナは祖国から遠ざかる事に不安を覚えるようで、怯えるような声を出した。
「そんな…リスクィートから離れて何処の国へ…」
「この国に残りたければ、それでも良いけど…ここリスクィートの隣国だよ?
どれほどリスクィートの人間が入り込んでると思う?
おっぱい夫婦、赤ちゃんと対面するよりも早く、あの世の誰かに会う事になると思うけど。」
「悪い事は言わん。この馬鹿の言う事を聞いておけ。」
マンダンはフェインとドナに忠告をし、通り過ぎた国境門を見た。
マンダンは、リスクィートを出たとは言え二人の身がが安全ではないだろう事を、ギャリーと同行している間に嫌と言うほど思い知らされた。
そもそもがマンダン自身、ベルゼルトに居て命を狙われていたのだ。
ベルゼルトを出てからの道中も、何度か命を狙われた。
正直に言うと、途中からリスクィートの刺客なのか、リスクィートには関係ないただの追い剥ぎなのかも分からなくなった。
法の目が行き届かない場所というのが、こんなにも物騒だとはマンダンは知らなかった。
そしてギャリーの強さと、享楽的でもある嗜虐性。
それが愛国心からなる事の恐ろしさ。
それらを知った。
「この馬鹿は、リスクィートを心の底から嫌悪している。
だから国を捨てたそなたらには甘いし協力は惜しまないだろう。
だが、その信用を無くせば…どうなるか…。」
どうなるかなど言われなくとも想像に難くない。
見放されればギャリーに殺されなくともリスクィートの者に殺される、「死」が待つ未来しか無いのだろう。
「ぜひ、貴方がたの旅に同行させて下さい。」
「ああ、それが良い。
だがな…二人とも、この旅路は大変だぞ。
心しておくがよい。」
マンダンが言った通り、このギャリーに同行しての旅は大変だった。
「リスクィートの国王は民を自分の所有物だと思っている、だから気に入らないってだけで殺せたりする。
その点、うちの国王様は民を自分の一部だと思って下さっている。
だから大切に思ってくれている。
その慈悲深き高潔なる魂は、おっぱいに例えると巨乳と言うよりは美乳で…。」
「自国の国王陛下を乳房に例えるな。
不敬にもほどがあるわ。」
数日間の旅の間、ギャリー達の働きによってフェイン達が危険な目に遭うことは無かった。
が、移動中の馬車の中では、ギャリーのお国自慢と胸の話を耳にタコが出来るほど聞かされ続けるという大変な目に遭い、フェインとドナは精神的に疲れ果てげんなりしていた。
国を二つ程またいだ場所で、フェインとドナは二人を保護する為に待っていたギャリーの仲間だと言う行商人の馬車の様な幌馬車に乗り換えた。
ギャリーとマンダンは、やらなければならない事があり、再びリスクィートに戻るのだと言う。
「俺の国に居たら変なヤツは寄って来れないから、おっぱいちゃんは立派な赤ちゃん生んでね。
旦那さんも、いいパパになってね。」
ギャリーの変な励ましを受け、フェインは今まで聞くに聞けなかったギャリーの国が気になった。
今まではリスクィート側に知られたくなく意図的に隠されていた国の名前、恐らくクータも同行し、それを探ろうとしたのだろう。
「ギャリーさん、貴方の愛国心を聞き続けたので、貴方の国を警戒したりはしませんが…
ギャリーさんの国の名をまだ、お聞きしてなくて…」
聞いても良いでしょうかとのニュアンスを含み、自身が絶対に敵には回らないと信用されていると信じた上で訊ねてみる。
ギャリーは少し考える仕草を見せ、間を置いてからニコリと微笑んだ。
「竜の乙女が記された旗を掲げる国だよ。」
▼
▼
▼
「ああッ!あっあっ!ンあっ!ああああッ!!!」
うつ伏せで臀部だけを高く上げたガインの大きな体躯が、両手に強くシーツを握り締めビクビクとわななく。
白いシーツの海にビュルッと白濁を吐き出したガインは、その身に楔を挿し込んだままで脱力するようにドッとベッドに身体を倒れ込ませた。
「ガイン、今日も素敵だったよ。」
キリアンはガインの中に自分の一部を埋め込んだままでガインの上に身を重ね、汗ばむ背中に何度も柔らかく唇を押し当てた。
「あのな…繋がりっぱなしで穴が塞がる暇がネェって何なんだよ…。
お前なぁヤリ過ぎなんだわ。少し自重しろ。」
とりあえず抜けよと言わんばかりに、ガインが張り付く背後のキリアンを押し退けようと肘で背後を払うが、スイっと肘を避け上体を反らしたキリアンは仕返しとばかりに挿し込んだ楔を抜き挿しし、ズップズップと抽挿を始める。
「ンおおおッ!!ば、バカ…!あ!あ!ふぁ…」
絶頂を迎えて間もない身体は快楽に馴染んだ余韻を忘れておらず、キリアンの抽挿を発端にすぐさま甘くトロリとした蜜の海に思考も身体も沈めてしまう。
「ガインが本気で嫌がれば自重もするけど、毎回ちゃんと心地良く受け止めてくれるんだもの。
自重する必要無いと思うよ?」
「あぁッ…!キリアンの硬いのがっ…!当たるっ…!
奥に当たるっ!」
「うん、ガインの柔らかく熟れた蜜園がやらしくて最高に心地良いよ。
だからもっと、奥を突いてあげるね。」
「あああああッ…って馬鹿!
もう朝じゃねぇか!朝の支度もしなきゃだし、朝メシも食わなきゃだし!仕事しなきゃならんだろうが!
お前がなっ!!!」
ガインは快感に流されつつあった所を何とか自制して耐え、背後のキリアンを再び払うように押し退けた。
クプンと音を立てガインから抜かれた雄茎は、しっかり臨戦態勢のまま外気に触れ、心なしか寂し気にも見える。
「ええ…ガインは今日、非番なんだから、ゆっくり寝て過ごせばいいじゃない。
だから、ギリギリまでガインを味わわせてよ。」
「駄目に決まってんだろ!お前は今から仕事だろうが!
これ以上体力を消耗すんな!
つか夜通しあんなに激しく動いていて、何で平然としてられるんだ…マジで化け物か。」
キリアンを残してベッドから降りたガインは、桶に入った水で布を濡らし、全身を拭ってから衣服を身に付け始めた。
その姿を物欲しげに見ていたキリアンが残念そうにベッドから降りた。
「仕方ないな…今夜までお預けか…。」
「これだけヤっといて、今晩またヤるつもりかよ…化け物か。
今夜は相手をしないからな!ちゃんと寝ろ!」
衣服を身に付けたガインがキリアンの自室のドアを開くと、外には既に侍女が数人待機中であり、ガインを見て朝の挨拶を交わす。
「おはようございます。
陛下のお召し替えに参りました。」
「ああ、毎日ご苦労さん。」
もう慣れたとガインはまだ言えないが、双方にとってはこれが日常となりつつある。
キリアンとの仲を隠す事が逆に滑稽に思われるほど、城に住む者には既に、ガインがキリアンの最愛の人であると周知されている。
(納得いかん、と認めたがらない者も若干居る)
毎朝、侍女達は皇帝陛下の私室に入り皇帝の身支度を整え、皇帝が朝食に向かい部屋を留守にする間に掃除など部屋を整え、ベッタベタなシーツを回収して新しい物と取り換える。
ガインは、侍女達が汚れたシーツやキリアンの衣服を抱えている光景を目の当たりにする度に「すまん…」と心の中で謝ってしまう。
「……くぁ…ねむ…」
侍女達がキリアンの部屋に入ったのを見届けた瞬間、キリアンの激しい情慾をひと晩受け止め続けていたガインを強い眠気が襲った。
大きな欠伸を噛み殺し、ふらふらと隣にある自分の部屋に戻る。
ベッドにドサッとうつ伏せに倒れた瞬間、ガインはスゥッと眠りについた。
どれくらい寝ていたのだろう。
日がかなり高く、昼辺りである事は間違い無い。
ガインが目を覚まし、窓の外の太陽を確認したタイミングでドアがコツコツとノックされた。
「…んん…なんだ…?非番の俺に何の用………」
ぼんやりしたままドアに向かったガインは、ドアの向こう側の人物を確認する事無くバン、と勢い良くドアを開いた。
そこにはガインの父であるヴィルムバッハ将軍が立っていたのだが………
ガインは、自身の目に映った人物が誰かを認識するまでに十数秒の時間を要した。
「……………おや…親父?…は?なんで王都に…?
領地に居るんじゃなかったのかよ。」
一瞬、夢か?とも思える意外な訪問者に、ガインが焦りを見せた。
「ちょっと旅行に出ていてな。
陛下にもご挨拶をと、ヴィルムバッハに帰るついでに城に寄ったんだ。
それより……お前には聞きたい事が山ほどある!
詳しく聞かせて貰うからな!」
ギロッと将軍の鋭い眼光がガインを睨みつける。
「げっ!」と怯んだガインに対し、大きな将軍の背後に密かに立っていたキリアンはニコニコと楽しげに微笑んでいた。
刃向かう者は容赦なく斬り捨て、敵わないと降伏した者は縛って、その辺に転がしておく。
「やれやれ…降伏すべき相手だと知る事も無く最初に斬り捨てられた数人が気の毒だな。」
マンダンが溜め息混じりにボソッと声を出す。
連行という体でベルゼルトから連れ出されてからギャリーと行動を共にしてきたマンダンには、この血生臭い光景も既に見慣れたものだ。
斬り捨てられたのが自身と同じ生国の者であろうが、そこにはもう憐憫の情など湧く事もない。
フェインとドナは、何人もの兵士達が斬り倒されてゆくのを目の当たりにし、改めて国外逃亡の難しさを知った。
国境に着く前に騎士達に襲われる事も無く、ギャリー達に会う事も無く国境に辿り着いていたとしても、2人は国境を守る兵士達に直ぐに捕らえられていただろう。
いや抵抗すれば、その場で斬り捨てられていた可能性が高い。
フェインは我が身の幸運を知り、冷や汗をタラリと垂らした。
ふと国境の兵士達を制圧したギャリーとその仲間であろう黒い装束姿の者たちに目を向けたフェインは、居るべき友人の姿がこの場に無いことに気が付いた。
「…あれクータは?
あの…クータの姿が見当たらないのですが…。」
フェインがドナを連れギャリーのもとへ行き、運動後の汗を拭く様に爽やかな笑顔で返り血を拭うギャリーに恐る恐る尋ねた。
ギャリーはクータが居ない理由を自ら説明する手間が省けた事で、パァっと表情を明るくする。
「お友達は、二つに分けて森の中に転がしといたよ。
今頃は獣の餌にでもなってるんじゃない?」
「え………」
フェインは驚きを隠せなかったが、それ以上何も言えなかった。
理由など聞かなくても分かっている。
クータ本人が言っていた通り、クータの中では王命は絶対だったのだろう。
そして、にこやかに微笑んで目の前に立つ男は、寝返ったフリをしてもリスクィートの騎士であり続ける者を見逃さない。
「そんな…!クータさんがなぜ、そんな目に?
ひどい、ひどいわ!」
妻のドナは、騎士であるフェインの様には理解が及ばず、夫の親友が無惨に殺された━━と目の前の事実だけにショックを受けていた。
連日の逃避行と、今夜あった様々な事がドナの肉体も精神をも疲弊させたのだろう。
ドナは感情を押し留める事が出来ず、堰を切ったようにヒステリックな声をあげ始めた。
フェインはドナをなだめる様に強く抱き寄せ、ドナの口を自分の胸に押し付けて声を塞ぐ。
「ドナ落ち着いて!クータは俺たちを騙したんだよ。
だから殺されて…当然だったんだ。」
「殺されて当然なんて、そんな言い方無いでしょう!
貴方の親友だったのよ!」
「俺たちを助けてくれた、あの人たちにとっては殺して当然の敵だったんだよ!クータは!」
国境の門が開き隣国の兵士が現れると、マンダンを含めたギャリー達の一行は隣国の兵士のもとへ行き、国境を越える為の交渉をし始めた。
ギャリーはそちらには行かずにフェイン達夫婦の前に残り、二人に向けて微笑んだ。
「あのね、俺を優しい人だと思っているなら大間違いだからね。
俺が殺した君たちの親友と俺は、同じ種類の人間だよ。
自分の国が一番大事で、国王陛下の命令は絶対。
国の為なら自分の親友だって裏切れるし笑って殺せる。
そんな俺だから、それらを脅かす者には容赦はしない。
それが女だろうと子どもだろうと…妊婦だろうと何だろうと。
だから君たちが俺を敵だと騒ぐのならば、今すぐ死んで貰う。」
笑顔のギャリーの目は全く笑ってなかった。
ギャリーの言っている事が本気なのだと、フェインはドナを抑え込むように強く抱いたまま固唾をのむ。
「いえ…助けて戴いた事に感謝こそすれ、敵などとは思ってません…」
「ならいいんだけど。
まぁ、俺の国への忠誠心とは違い、親友くんの忠誠心は植え付けられた恐怖心が忠誠心に変わったもんだから、気の毒と言えば、まぁ気の毒なんだけど。
俺の国への忠誠心はね、彼と違って愛から来てるんだ。
陛下は国民を愛して下さっている。
だから俺も陛下と国を愛してる。
その愛の強さは、おっぱい愛のちょい上あたりに……」
「愛国心と乳房を同列で語るな。
しかも愛国心が乳房と僅差とは不敬であろう。」
マンダンが溜め息をつきながらギャリーとフェインのもとに来た。
「えー?」と納得いかない返事をしつつ微笑んでいるギャリーを無視したマンダンはフェインの前に立つと1枚の証書を渡した。
「亡命者として、二人が国境を越える許可を取ってきた。これがその証書となる。
これでそなたらは、ワタシと同じく「元」リスクィート国民だ。」
「…私とドナは、今日よりこの国の民になる…
そういう事でしょうか…。」
正直な所リスクィートを出られたとは言え、隣国は壁一枚隔てた向こうがリスクィートなのだから不安は尽きない。
たかが脱走兵一人とその妻に国が執着するとも思えないが、リスクィート国王は裏切りを許さない執念深さもあり個人的な感情を優先する性格でもある。
隣国の住人になったとして、隣人や町を行き交う人々に紛れて自分を狙うリスクィートの刺客が居る可能性だって無くはない。
そう思うと、安心して妻の出産を迎えられるとは思えない。
フェインは心情を思い切り顔に出してしまう。
夫の不安気な顔を見た妻のドナも、不安が伝染したかのように表情を暗くした。
「違うよ、この国は通過させて貰うだけ。
おっぱい夫婦にはマンダンのオッサン同様しばらく俺たちに同行して貰う。
迎えを寄越すから一緒に俺たちの国に行き、そこで赤ちゃん生めばいいよ。」
少なからずギャリーに恐怖心を抱くドナは顔を青くしたが、フェインは安堵した。
ギャリーは容赦の無い恐ろしい男ではあるが、敵意さえ持たなければ、これほど力強い同行者は居ない。
だが国を出た事が無いドナは祖国から遠ざかる事に不安を覚えるようで、怯えるような声を出した。
「そんな…リスクィートから離れて何処の国へ…」
「この国に残りたければ、それでも良いけど…ここリスクィートの隣国だよ?
どれほどリスクィートの人間が入り込んでると思う?
おっぱい夫婦、赤ちゃんと対面するよりも早く、あの世の誰かに会う事になると思うけど。」
「悪い事は言わん。この馬鹿の言う事を聞いておけ。」
マンダンはフェインとドナに忠告をし、通り過ぎた国境門を見た。
マンダンは、リスクィートを出たとは言え二人の身がが安全ではないだろう事を、ギャリーと同行している間に嫌と言うほど思い知らされた。
そもそもがマンダン自身、ベルゼルトに居て命を狙われていたのだ。
ベルゼルトを出てからの道中も、何度か命を狙われた。
正直に言うと、途中からリスクィートの刺客なのか、リスクィートには関係ないただの追い剥ぎなのかも分からなくなった。
法の目が行き届かない場所というのが、こんなにも物騒だとはマンダンは知らなかった。
そしてギャリーの強さと、享楽的でもある嗜虐性。
それが愛国心からなる事の恐ろしさ。
それらを知った。
「この馬鹿は、リスクィートを心の底から嫌悪している。
だから国を捨てたそなたらには甘いし協力は惜しまないだろう。
だが、その信用を無くせば…どうなるか…。」
どうなるかなど言われなくとも想像に難くない。
見放されればギャリーに殺されなくともリスクィートの者に殺される、「死」が待つ未来しか無いのだろう。
「ぜひ、貴方がたの旅に同行させて下さい。」
「ああ、それが良い。
だがな…二人とも、この旅路は大変だぞ。
心しておくがよい。」
マンダンが言った通り、このギャリーに同行しての旅は大変だった。
「リスクィートの国王は民を自分の所有物だと思っている、だから気に入らないってだけで殺せたりする。
その点、うちの国王様は民を自分の一部だと思って下さっている。
だから大切に思ってくれている。
その慈悲深き高潔なる魂は、おっぱいに例えると巨乳と言うよりは美乳で…。」
「自国の国王陛下を乳房に例えるな。
不敬にもほどがあるわ。」
数日間の旅の間、ギャリー達の働きによってフェイン達が危険な目に遭うことは無かった。
が、移動中の馬車の中では、ギャリーのお国自慢と胸の話を耳にタコが出来るほど聞かされ続けるという大変な目に遭い、フェインとドナは精神的に疲れ果てげんなりしていた。
国を二つ程またいだ場所で、フェインとドナは二人を保護する為に待っていたギャリーの仲間だと言う行商人の馬車の様な幌馬車に乗り換えた。
ギャリーとマンダンは、やらなければならない事があり、再びリスクィートに戻るのだと言う。
「俺の国に居たら変なヤツは寄って来れないから、おっぱいちゃんは立派な赤ちゃん生んでね。
旦那さんも、いいパパになってね。」
ギャリーの変な励ましを受け、フェインは今まで聞くに聞けなかったギャリーの国が気になった。
今まではリスクィート側に知られたくなく意図的に隠されていた国の名前、恐らくクータも同行し、それを探ろうとしたのだろう。
「ギャリーさん、貴方の愛国心を聞き続けたので、貴方の国を警戒したりはしませんが…
ギャリーさんの国の名をまだ、お聞きしてなくて…」
聞いても良いでしょうかとのニュアンスを含み、自身が絶対に敵には回らないと信用されていると信じた上で訊ねてみる。
ギャリーは少し考える仕草を見せ、間を置いてからニコリと微笑んだ。
「竜の乙女が記された旗を掲げる国だよ。」
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「ああッ!あっあっ!ンあっ!ああああッ!!!」
うつ伏せで臀部だけを高く上げたガインの大きな体躯が、両手に強くシーツを握り締めビクビクとわななく。
白いシーツの海にビュルッと白濁を吐き出したガインは、その身に楔を挿し込んだままで脱力するようにドッとベッドに身体を倒れ込ませた。
「ガイン、今日も素敵だったよ。」
キリアンはガインの中に自分の一部を埋め込んだままでガインの上に身を重ね、汗ばむ背中に何度も柔らかく唇を押し当てた。
「あのな…繋がりっぱなしで穴が塞がる暇がネェって何なんだよ…。
お前なぁヤリ過ぎなんだわ。少し自重しろ。」
とりあえず抜けよと言わんばかりに、ガインが張り付く背後のキリアンを押し退けようと肘で背後を払うが、スイっと肘を避け上体を反らしたキリアンは仕返しとばかりに挿し込んだ楔を抜き挿しし、ズップズップと抽挿を始める。
「ンおおおッ!!ば、バカ…!あ!あ!ふぁ…」
絶頂を迎えて間もない身体は快楽に馴染んだ余韻を忘れておらず、キリアンの抽挿を発端にすぐさま甘くトロリとした蜜の海に思考も身体も沈めてしまう。
「ガインが本気で嫌がれば自重もするけど、毎回ちゃんと心地良く受け止めてくれるんだもの。
自重する必要無いと思うよ?」
「あぁッ…!キリアンの硬いのがっ…!当たるっ…!
奥に当たるっ!」
「うん、ガインの柔らかく熟れた蜜園がやらしくて最高に心地良いよ。
だからもっと、奥を突いてあげるね。」
「あああああッ…って馬鹿!
もう朝じゃねぇか!朝の支度もしなきゃだし、朝メシも食わなきゃだし!仕事しなきゃならんだろうが!
お前がなっ!!!」
ガインは快感に流されつつあった所を何とか自制して耐え、背後のキリアンを再び払うように押し退けた。
クプンと音を立てガインから抜かれた雄茎は、しっかり臨戦態勢のまま外気に触れ、心なしか寂し気にも見える。
「ええ…ガインは今日、非番なんだから、ゆっくり寝て過ごせばいいじゃない。
だから、ギリギリまでガインを味わわせてよ。」
「駄目に決まってんだろ!お前は今から仕事だろうが!
これ以上体力を消耗すんな!
つか夜通しあんなに激しく動いていて、何で平然としてられるんだ…マジで化け物か。」
キリアンを残してベッドから降りたガインは、桶に入った水で布を濡らし、全身を拭ってから衣服を身に付け始めた。
その姿を物欲しげに見ていたキリアンが残念そうにベッドから降りた。
「仕方ないな…今夜までお預けか…。」
「これだけヤっといて、今晩またヤるつもりかよ…化け物か。
今夜は相手をしないからな!ちゃんと寝ろ!」
衣服を身に付けたガインがキリアンの自室のドアを開くと、外には既に侍女が数人待機中であり、ガインを見て朝の挨拶を交わす。
「おはようございます。
陛下のお召し替えに参りました。」
「ああ、毎日ご苦労さん。」
もう慣れたとガインはまだ言えないが、双方にとってはこれが日常となりつつある。
キリアンとの仲を隠す事が逆に滑稽に思われるほど、城に住む者には既に、ガインがキリアンの最愛の人であると周知されている。
(納得いかん、と認めたがらない者も若干居る)
毎朝、侍女達は皇帝陛下の私室に入り皇帝の身支度を整え、皇帝が朝食に向かい部屋を留守にする間に掃除など部屋を整え、ベッタベタなシーツを回収して新しい物と取り換える。
ガインは、侍女達が汚れたシーツやキリアンの衣服を抱えている光景を目の当たりにする度に「すまん…」と心の中で謝ってしまう。
「……くぁ…ねむ…」
侍女達がキリアンの部屋に入ったのを見届けた瞬間、キリアンの激しい情慾をひと晩受け止め続けていたガインを強い眠気が襲った。
大きな欠伸を噛み殺し、ふらふらと隣にある自分の部屋に戻る。
ベッドにドサッとうつ伏せに倒れた瞬間、ガインはスゥッと眠りについた。
どれくらい寝ていたのだろう。
日がかなり高く、昼辺りである事は間違い無い。
ガインが目を覚まし、窓の外の太陽を確認したタイミングでドアがコツコツとノックされた。
「…んん…なんだ…?非番の俺に何の用………」
ぼんやりしたままドアに向かったガインは、ドアの向こう側の人物を確認する事無くバン、と勢い良くドアを開いた。
そこにはガインの父であるヴィルムバッハ将軍が立っていたのだが………
ガインは、自身の目に映った人物が誰かを認識するまでに十数秒の時間を要した。
「……………おや…親父?…は?なんで王都に…?
領地に居るんじゃなかったのかよ。」
一瞬、夢か?とも思える意外な訪問者に、ガインが焦りを見せた。
「ちょっと旅行に出ていてな。
陛下にもご挨拶をと、ヴィルムバッハに帰るついでに城に寄ったんだ。
それより……お前には聞きたい事が山ほどある!
詳しく聞かせて貰うからな!」
ギロッと将軍の鋭い眼光がガインを睨みつける。
「げっ!」と怯んだガインに対し、大きな将軍の背後に密かに立っていたキリアンはニコニコと楽しげに微笑んでいた。
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※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。