【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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復讐したい程に恨まれているのだと感じる熊さん。

キリアン皇帝の私室を後にしたガインは、逃げる様に皇帝の部屋を離れた。

まだ酒が身体に残っているかの様に、足下がおぼつかない。

皇帝の部屋から、まだそんなに離れてない廊下の壁にガインが手をついた。


「ああ…俺は陛下に何て事を…。」


何もしていないとキリアンは言った。

だが、何かをしようとしていた。

そう仮定するならば、ガインの頭に思い浮かぶのは自分が美しい青年に欲情してしまい、事に及ぼうとしたとしか考えられない。


キリアンは優しい青年だ。

父の様な立場で、師匠として、幼い頃からずっとキリアンを見て来たガインにはそれが良く分かっている。

だから酒に酔った勢いとは言え、こんな無礼を働いた自分を許してくれようとしているのだと思った。

自分の罪を許す決断を陛下にさせてしまった我が身に対し、ガインは深く自己嫌悪に陥りつつあった。


「…む?唇に何か付いて…」


唇に、違和感を感じて指先を当ててみる。

ガインの指先に、小さな干しブドウの皮が張り付いていた。


「っっ!!!」


ガインは干しフルーツを一切口にしない。

昨夜の酒の席で、フルーツを好んで口にする人物は一人。

そのフルーツの皮が唇に張り付いていた事が何を意味するのか、想像に難くない。


自分の唇が、陛下の唇に触れた。

触れただけ?押し付けた?もっと深く…?深く…。


ガインは自身の唇を押さえたまま、廊下の壁に片手を当てて肩を落とした様に俯き、大きくため息を吐いた。


「はぁぁぁぁ………マジか………何も無かったって……キリアンの唇だけは、しっかり奪ってやがる……」


「ガイン隊長殿、どうなさいました?何やらお疲れのご様子ですが。」


声を掛けられガインが顔を上げた。

ガインに声を掛けた宰相補佐の一人マンダンは、ガインにとって苦手意識の働く相手だった。

いつも薄ら笑いを浮かべて人の粗を探す。

そのくせ自らの事は誰にも話したがらない。

気味が悪く、この男の前に立っているのは居心地が悪い。


「陛下の祝杯にお付き合いさせて戴いていたら飲み過ぎただけだ。気にせんでいい。あっちへ行ってくれ。」


「ほぉ、そうですか。ワタシはガイン殿を、麗しの陛下が離してくれなかったのかと。」


マンダンの言い回しにより、ガインの脳裏には昨日頭に描いてしまったキリアンが女性の様に男をしとねに誘う姿が浮かぶ。

絡み付く様にベッドへいざなう……


「貴様!!陛下を愚弄する気か!!!」


「へ、へ?ワタシそんな変な事を言いました?酒の席から離れられなかったのだろうと…。」


へ?……思わずマンダンの胸ぐらを掴んで身体を持ち上げてしまったガインが、カッと顔を赤くしてからマンダンの胸元から手を離した。


「許してやれ、マンダン。ガインは、私が陰で女の様だの、女役をしてるのではないかだの、私を侮辱する声を聞き心を痛めてくれているのだ。」


「へ、陛下…。」「ご機嫌麗しゅうございます。陛下。」


袖のボタンを留めながら、動き易い衣装に身を包んで二人の前に現れたキリアンは、ガインの肩をポンポンと叩いた。


「朝食の用意が整ったそうだ。ガインも着替えて食堂に来い。私の護衛はガインしか居ないのだからな。」


「は…ハッ…。」


ガインは胸の前に手を当て頭を下げる。

皇帝直々に言われた言葉に対し、相応の理由もなく断る事は出来ない。

募る罪悪感を胸に、ガインは城内に用意された私室に向かった。




先代皇帝グレアムと幼馴染みであったガインは、先々代皇帝にも息子のように可愛がられていた。

ガインはガサツな若者の様に見えて、その実真面目で騎士としての腕も良く、実力のみで早々にグレアムの側近となった。

その為に自身の邸を持つようになっても城に常駐する事が多く、若い頃から城に私室を与えられていた。


私室に戻ったガインは服を着替え始める。

どうしたらいい、何をした?陛下は俺を許せないのではないのか?

頭の中を色んな考えが浮かぶが、どれもあやふやで形を成さない。


「はっ、いかん、陛下を待たせるなど!」


昨日から身に付けたままだった騎士の衣装を脱ぎ、シャツとベストの簡易的な衣装だけを身に付けたガインは食堂に急いだ。




「ガイン、やっと来たか。座れ。」


食堂に着いたガインに、近くの席を指差したキリアンが座る様に促す。


「陛下、陛下は皇帝になられたばかりで御座います。昨日までとは違うのです。…ですから…私の様な一兵士と食事など…。」


ガインは指された席に目を向けるが座らなかった。

私室に呼ばれて二人きりとは違い、ここは他の者達も多く居る。

このテーブルは皇帝、皇族のみが座る事を許される食卓だ。

自分が座るなど、皇帝として他の者に示しがつかない。


「舐められるとでも?ハハッ、言いたい奴には言わせておけ。配下ではあるがガインは私の剣の師であり、父の親友でもある。私が一緒に食事をすると言ったのだ。

私が下した命令を軽んじる者こそ、私を舐めている。」


キリアンはテーブルの上にある銀食器で作られたエッグスタンドに乗った茹で卵を、強くスプーンで叩いた。

殻や白身を飛び散らせて半壊した卵を前に、キリアンが口角を上げる。


「皇帝である私が、一配下だろうが一兵士であろうが、ガインと共に食事をしたいと言ったのだ。舐められる謂われはない。座れ、ガイン。」


「……は、ハッ…。」



食堂に居た、給仕の者や侍女、他の兵士までもが凍り付く。

ガイン自身、少しばかり驚いていた。

誰しもが、こんなキリアンを見るのが初めてだった。


美しい青年であり優しい青年であるキリアンは、良い意味でも悪い意味でも女性に喩えられる事が多かった。

いつも微笑んでいて謙虚で欲が無く、ああしたい、こうしたいと我を通す事が殆どなかった。


そのキリアンが………。


ガインはキリアンに言われた通り、席についた。

生きた心地がしない。キリアンの顔を見れない。

もう、頭の中にはキリアンの自分に対しての態度の理由がひとつしか浮かばない。


━━━目茶苦茶、怒ってるよな!!俺に対して!!茹で卵みたいにしてやろうか的に!━━━


冷や汗がタラリと流れ落ちる。

ガインはキリアンの方を見れずに、無意味にテーブルの上に置かれた食器をずっと眺めていた。


「………ああ、そうだガイン……ガインの義娘のミーシャだが……彼女を私専属の侍女とする事にした。」


「はぁぁぁぁ!!?何ですと!!!?ミーシャを!!?」


ずっと食器を見ていたガインが、キリアンがサラリと言った発言に驚き、バンッ!!とテーブルを両手で叩いて立ち上がり、キリアンの方をガン見した。


その剣幕に、しばし、時が止まった。



「フフッ…やっと私を見たな、ガイン。」


テーブルに片肘をついて手の平に顎を乗せたキリアンがガインを見て微笑む。


「へ、陛下!ミーシャはまだ、婚約者もおりませんが、私がちゃんと良い相手を見付けて!!」


「何だガイン、私が彼女に手を出すとでも思っているのか?そんな事、する筈ないだろう?私の幼馴染みでもあるのだぞ?」


焦った様に、何とか義娘のミーシャをキリアンの元に行かないで済むようにと理由を挙げるガインの頭の中には、キリアンが昨夜のガインの行為に腹を立てており、自分の代わりにミーシャを辱しめようとしているんじゃないかと、そんな考えが浮かんでしまっている。


「それに、ミーシャにはとっくに快諾の返事を貰っている。戴冠式の前にな。義父のガインと一緒に城に居られて嬉しいと言っていたぞ。」


キリアンはテーブルに肘をついたまま必死なガインを見て楽しそうに微笑んでいた。


「ですが!!陛下!!侍女でしたらミーシャでなくとも他に居るでしょう!!これは…!!ぐっ…!」


必死な様子を見て楽しげに微笑むキリアンに対してガインは、「これは嫌がらせですか」と尋ねそうになり口をつぐんだ。

そうだ、と返事をされてもされなくても、自分にはキリアンを責める事が出来ない。

それだけの事をしでかしたかも知れない立場にある。


一方、キリアンの方はガインの考えている事が手に取る様に分かってしまって楽しい。

顔に全部書いてあると。



もう、うろたえる熊さんが可愛いくて仕方がない。


抱こうとしたと思い込んでる昨日の勘違いも可愛い所なのだが、罪を詫びようと真面目なガインが城から去っては困る。

いや勘違いをしてなくとも、狙っている途中で逃げたりしたら困る。


キリアンは自身が皇帝になれるだろうと確信した時点、戦争の最中さなかに既にミーシャに繋ぎをつけていた。

なにしろ武神とも名高いガインがついてくれたのだから絶対勝つ!と。


ミーシャはある意味、人質だ。

ガインが城から離れられなくする為の。


ミーシャが城に居れば、なんやかんやと理屈をごねて退役して田舎に引っ込むだの言えなくなる。

ましてや、皇帝からのお手付きになるんじゃないかと疑われるならば尚更、一人で城には置いておけまい。


ガインが過保護な程に心配する、そんなミーシャは二十歳。

ガインの従姉妹の忘れ形見であり、引き取ったガインがよく城に連れて来ていたので、キリアンとは幼馴染みでもある。



そして彼女は、キリアンがガインにゾッコンだと知っている。

しかも応援してくれていたりする。

かなり協力的である。

今の時代になぞらえて言えば、かなりな腐女子である。


「キリお兄ちゃんが、皇帝になるって決まった瞬間から、パパ陥落プロジェクトは始まっていたのね!協力するわ!!」


「ありがとう!ミーちゃん!心強いよ!」


ガインの知らない所で、そんなやり取りが手紙でなされ、ミーシャは城に来る事になった。





「陛下!いや、キリアン!考え直せ!!ミーシャは幼馴染みだろ!あいつには、あいつの幸せってもんがある!城に閉じ込めたくねぇんだ!」


━━━うん、ミーちゃんではなく、城に閉じ込めときたいの師匠だし。その為の人質役だからね。━━━


「自由に外の世界を歩かせてやりたい!!」


━━━ミーちゃん、インドア派だったから師匠居ない間は邸から一歩も出なかったよ?つか、師匠…興奮し過ぎて大勢の前で皇帝の俺を呼び捨てにしてるわ。可愛い。━━━


「あの子を、ここに縛り付けないでくれ!!!」


━━━俺が師匠をここに…つか、俺に縛り付けたい。…つか、興奮した師匠、シャツから見える胸筋堪んなく色っぽい…舐め回したいし、ガチで縛りたい。あ、想像したらヤバい…━━━




「なぁ、ガイン……。そう、いきり立つな。」


キリアンは席を立ち、ガインの隣に立った。

興奮して立っているガインの頬に手を当て顔を向かせると、そのままそっと唇を重ねる。


チュッ


そんな一瞬の口付けだったが、ガインは石化したかの様に動かなくなった。


「城に居れば、一人邸に残しておくより目も届くし、礼儀作法や淑女教育も学べる。彼女の為にもなるのだ。分かるか?」


ガインだけではなく食堂に居る外の者達も固まっている中、キリアンはガインの唇を指先で撫で、ガインにだけ聞こえる声で囁いた。


「師匠。逃がしませんよ。」


ガインがビクッと石化した身体を更に強張らせ、離れて行ったキリアンの姿を目で追う。


━━━逃がさない……俺に復讐するまで逃がさないと言うのか!!そこまで恥をかかせた俺を憎んで…━━━


「ゆっくり食べてから仕事に行けばいい。ガイン。」


ガクッと脱力したガインが椅子に座る。

そんなガインの姿を見ながら、キリアンは食堂を出て行った。


ウキウキした表情で。


    
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