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国で待つ夫と、帰国した愛妻。
「陛下…お待たせ致しました。」
キリアンの部屋を再び訪れたミーシャは、手に大量の紙をわしづかみして持ってきた。
私室の扉を少し開いたまま白いガウン姿で待っていたキリアンは、ミーシャの慌てて乱れた姿に笑う。
「待っていたぞミーシャ。ふふっ……えらく無造作に紙の束を持って来たな。」
「急いでましたので!!机の上からガバっと!」
今にも落ちそうなワシャワシャな紙の束をキリアンがミーシャの手を握る様にして両手で受け取った。
「紙は私が持っててやろう。さぁ、入るが良い。」
ミーシャを部屋に招き入れ、キリアンは扉を締めた。
「ねぇミーちゃん、俺…ツラい。ガインを抱けないの、しんどい。」
「だから、パパの事を妄想しながらふけってるんでしょう?
独り遊びに。お兄ちゃんには十五年のキャリアがあるじゃない。」
「そうなんだけど!!……本当の味を知ったら……もう、ムリ。
もう、何もかもが俺の想像を上回って…ああ、もう…!
アノ声も、ヤラシイ匂いも、少し香ばしい味も…中も外も…。」
テーブルを挟んでミーシャの向かい側の椅子に座るキリアンが、テーブルに突っ伏した。
ミーシャはサカサカメモを取っていく。
「もうねぇ…会えなくて腹が立って腹が立って……
玉座の前に立たせたガインを玉座の背もたれを抱く様に縛り付けてさぁ。
上の鎧は身に着けさせたままで尻だけひん剥いて、お仕置きだって後ろから何度も突いてやった。」
「……妄想の中でね?」
テーブルに突っ伏したままキリアンの頭がコクリと頷く。
そりゃそうだ。
二人の関係は誰にもバレてはならない。
なのに、拘束したガインを玉座で犯すとか有り得ない。
でも、そんな妄想をするって事は、キリアンの中でガインは城内に留まらず、ありとあらゆる場所でナニを致されてるのだろうなと、ミーシャは推察する。
「……キリお兄ちゃんは、本当はパパとの事をバレてもいいと思ってるんでしょ」
突っ伏したままのキリアンの頭が、コクリと頷いた。
「俺はこんなにもガインを好きだって皆に言いたい。
…だから誰にも邪魔されたくないし、誰も入り込む余地なんか無いんだって…本当なら言ってしまいたい。
でも俺は皇帝で……皇帝の役割を全うする責任があり、そんな事を言える立場ではない。
それに……俺がそんな事を公言したら、ガインが苦しむ。」
ガインを手に入れる為に欲し続けた皇帝の座が、今度はキリアンを縛り付けてキリアンの自由を奪ってしまう。何と皮肉な…
「なんて顔をしてるんだ、ミーちゃん。
俺はガインとの幸せな未来を諦めてないし、今の立場を悲観してもないよ?」
テーブルから顔を上げたキリアンがミーシャの頭をナデナデと擦る。
「そう、諦めてないよ!ガインが俺の子を産んで、ミーちゃんがガインをお義母さん、俺の事をお義父さんと呼ぶ日が来るのを!」
「それは、諦めて下さい。パパは身ごもりませんし、二人が婚姻関係になっても、パパとキリお兄ちゃんとしか呼ばないから。」
ミーシャは冷静に受け答え、メモに『女体化妄想、出産妄想、年の差夫婦、変態脳内、』と思い付いた単語を書いていく。
アホな単語を並べとる…そう思いつつ。
ふ、と思い出した事を訊ねてみた。
「あ…キリお兄ちゃん今、城内にはパパとキリお兄ちゃんが出来てるって噂があるの知ってる?」
「以前から、それっぽい噂はあったから、今更って感じだが。
俺が女役で、ガイン含めて数多の男を部屋に連れ込んでるとかな。好き勝手に思ってればいいと、気にもしなかった。」
否定も肯定もせず、噂なんて気にもしなかったと。
意外にぶっとい神経をしてらっしゃる。
「今は、パパがキリお兄ちゃんの旦那様役みたいに言われてるみたい。」
「へー。別に、都合良くも悪くも無いが。噂は噂でしかないと割り切って貰ってガインさえ、困らなければ。」
今の噂がガインの耳に入っても、驚きはするし多少キョドりはするだろうけど、立場を逆に言われているのであれば、「所詮、ただの噂だな」と笑って誤魔化しきれるだろう…ミーシャはそう思う。
「ノーザンさんて、パパとお兄ちゃんの本当の関係に、気付いてるかも知れない。……信頼している部下のノーザンさんに知られてるなんてパパが知ったら…パニックどころじゃないわよ」
失神して倒れた後、書き置き残して1人田舎に隠居するとか、世捨て人になるとかしそうだ。
「ノーザンが?……確かに彼は優秀だし、いつもガインの側に居るし……だが、なぜそうと気付く?
俺はいつも、美しく守られる姫君の様な俺でいたつもりなのに」
「大嘘つきですね、キリお兄ちゃん。新兵相手に暴れたって聞いたわよ。
それに、ノーザンさんはキリお兄ちゃんがパパを見る目を見て二人の関係に気付いたって言ってたわ。
普段からどんな、エロい目でパパを見ていたのかしら。」
あはーと笑い、誤魔化すキリアンに仕方ないワネ、とため息を漏らすミーシャ。
「現場を見られたワケでもなく何か証拠があるでもない。
ノーザンの推測にしか過ぎないのだから、放っておけば良い。今後、何かしらの不都合が起きれば、その時に対処しよう。」
「そうね。」
ミーシャがキリアンの部屋を出る。
自室に向かう際に、人の視線を感じたが、気の所為だろうとそのまま部屋に戻った。
▼
▼
▼
▼
次の日、ガイン達が向かった国とは違う国へ行っていた者達が城に戻って来た。
此度の各国への訪問は、戦争での報奨などについての話し合いが主なのだが、中々折り合いがつかず難航しているとの事。
「それで、ガイン達も中々戻れないのか……大変な役を押し付けてしまったな。…だが、だからこそ、ガイン以外に適任者など居ない…」
ガイン達が城を出て12日後。
やっとガイン一行が帰国した。
ガイン並びに交渉の席についた者達が玉座の間に向かい、皇帝陛下の前に膝をついて報告をする。
報告の限りでは、こちらの提示した報奨がそのまま通っており、上乗せされた部分は軍用馬の頭数位だろうか。
そんな難航した様にも見えないが……
キリアンは玉座に座ったまま、膝をつくガインをジイッと見る。
久しぶりに見る愛しい豊満ボディの我が妻は、心無しかやつれて見える。
「大義であった。湯に入り汗を流してから、休むが良い。
食事も用意して、それぞれの部屋に運ばせよう。」
ガイン達の後ろに控えていた兵士達も皆、疲れた顔をしている。
一刻も早く帰らねばと寝る間を惜しんで戻ったらしい。
ガインもフラフラと立ち上がり、キリアンに一礼して玉座の間を出て行った。
━━は?人の目があるからイチャつけないのは分かっているけど、皇帝陛下の俺に声も掛けずペコリって何なんだ?はぁ!?━━
玉座からユラリと立ち上がったキリアンは、最後に部屋を出ようとした今回の報奨報告をした交渉人の肩を掴んだ。
「ガインには、私の姿が見えておらんのか?今回の隣国との交渉において、私の代理として行ったガインが私に声も掛けずに無言で退室するとは……どうなっている?」
にっこり微笑むキリアンの目は笑って無い。
「あ、あの…!!ガイン殿はですね!!あちらの国王に、大層気に入られまして…姪御殿の婿に欲しいとずっと口説かれていたのです……」
「……はぁ?……国王はジジイだったよな。その姪御って確か、未亡人のババァじゃないか。
何で、そんなババァの婿になるんだよ。ガインが。」
玉座の間に居る者達が、キリアンが普段口にはしない様な口汚い言葉遣いで話している事にざわつく。
そんな言葉遣いをする事にも驚くが、人目をはばからずにそんな言葉を口にする事から、その怒りや苛立ちが本気であると分かる。
「そ、それでガイン殿はずっと断り続けていたのですよ。
何しろ軍事国家の国王です。ガイン殿を気に入ってしまい、是非身内に迎えたいと、傍から見ている我々が辟易する程の誘惑を…ずっと受けておいででしたよ。」
━━……はぁ?ジジイ…殺す。俺のガインを誘惑したババァも━━
「ガイン隊長は、我が身は魂ごと陛下に捧げた身ですからと、強い意思でずっと跳ね除けておいででした。
ガイン殿は、誠に忠義に篤い陛下の片腕でありますな。」
ペコリと頭を下げ部屋を出て行く姿を見送り、キリアンが玉座に深く腰を下ろす。
冷静さを欠いて思わずババァと言ってしまったが、隣国の国王の姪である未亡人の彼女は、四十路前ではあるが美しい女性であると聞く。
そんな彼女のアプローチを断ったのかと、思わず嬉しくなる。
「やはり、あの計画を実行して良かった。」
▼
▼
▼
城にある大きな浴場は普段は皇帝や城に常駐する貴族等にしか使用を許されていないが、時折褒美のひとつとして使用人や兵士に振る舞われる事がある。
普段は沸かした湯を桶に入れ、布を浸して身体を拭いている若い兵士達は大はしゃぎだ。
「ガイン隊長、お疲れでした。……その…大丈夫ですか?」
湯槽に浸かってグッタリしているガインの隣に、遅れて浴場に来た交渉人を任された男が並んだ。
「何がだ…?身体の調子はと聞くのなら、一眠りしたら大丈夫だ。最近、眠れなかったからな…。」
共に隣国に出向いた部下の兵士達は城の外の安い宿を借りていたが、ガインや交渉人、文官など今回の訪問にあたり貴族籍を持ち重要な役割を持った者は来賓扱いで城内に部屋をあてがわれた。
ガインの部屋には、国王自らや、姪の未亡人、国王の側近等が毎晩の様に「我が国に来ませんか?」と夜這いスカウトしに来ていた。
さすがは軍事国、即戦力の強者がお好きらしい。
「武神とも呼ばれたガイン隊長ですからね。分かります。が、私が言ってるのはそうでなくて……
ガイン隊長、先程陛下を無視しましたよ?あれ、かなり不敬な行為だと思います…。」
「へ……?」
「私、先程陛下に呼び止められまして…。なぜガイン殿が挨拶も無しに退室したのだと、大変ご立腹で…。大丈夫でしょうか?」
確かに、そりゃ不敬だよな!!
寝不足過ぎて、ボーッとしていたわ!!
ガインは湯から上がり、急いで身体を拭いて真新しいシャツとトラウザーズを身に着ける。
「皇帝陛下の忠実な配下である近衛隊長の俺が、陛下をないがしろにするなど…!無礼きわまりない!」
ガインは濡れた髪のまま玉座の間に向かったが、そこにキリアンはおらず、私室にお戻りになられたと聞いた。
すぐキリアンの私室へと向かったガインだったが、部屋が近付くにつれ足取りが重くなる。
「ま、またいきなり…とか、無いよな…今アレが始まったら、俺は死ぬぞ…。」
とは言え、不敬を働いたのは自分。
不敬を働いた自分が皇帝陛下に命を差し出すのは当然。
当然なのだが……性行為が原因で死ぬのは避けたい……。
いや、死なないだろうけど!!動けなくなるし!!
あああっ!!もう、知らん!!なるようになれ!
「陛下、私です!」
ガインは皇帝陛下の私室のドアを叩いた。
キリアンの部屋を再び訪れたミーシャは、手に大量の紙をわしづかみして持ってきた。
私室の扉を少し開いたまま白いガウン姿で待っていたキリアンは、ミーシャの慌てて乱れた姿に笑う。
「待っていたぞミーシャ。ふふっ……えらく無造作に紙の束を持って来たな。」
「急いでましたので!!机の上からガバっと!」
今にも落ちそうなワシャワシャな紙の束をキリアンがミーシャの手を握る様にして両手で受け取った。
「紙は私が持っててやろう。さぁ、入るが良い。」
ミーシャを部屋に招き入れ、キリアンは扉を締めた。
「ねぇミーちゃん、俺…ツラい。ガインを抱けないの、しんどい。」
「だから、パパの事を妄想しながらふけってるんでしょう?
独り遊びに。お兄ちゃんには十五年のキャリアがあるじゃない。」
「そうなんだけど!!……本当の味を知ったら……もう、ムリ。
もう、何もかもが俺の想像を上回って…ああ、もう…!
アノ声も、ヤラシイ匂いも、少し香ばしい味も…中も外も…。」
テーブルを挟んでミーシャの向かい側の椅子に座るキリアンが、テーブルに突っ伏した。
ミーシャはサカサカメモを取っていく。
「もうねぇ…会えなくて腹が立って腹が立って……
玉座の前に立たせたガインを玉座の背もたれを抱く様に縛り付けてさぁ。
上の鎧は身に着けさせたままで尻だけひん剥いて、お仕置きだって後ろから何度も突いてやった。」
「……妄想の中でね?」
テーブルに突っ伏したままキリアンの頭がコクリと頷く。
そりゃそうだ。
二人の関係は誰にもバレてはならない。
なのに、拘束したガインを玉座で犯すとか有り得ない。
でも、そんな妄想をするって事は、キリアンの中でガインは城内に留まらず、ありとあらゆる場所でナニを致されてるのだろうなと、ミーシャは推察する。
「……キリお兄ちゃんは、本当はパパとの事をバレてもいいと思ってるんでしょ」
突っ伏したままのキリアンの頭が、コクリと頷いた。
「俺はこんなにもガインを好きだって皆に言いたい。
…だから誰にも邪魔されたくないし、誰も入り込む余地なんか無いんだって…本当なら言ってしまいたい。
でも俺は皇帝で……皇帝の役割を全うする責任があり、そんな事を言える立場ではない。
それに……俺がそんな事を公言したら、ガインが苦しむ。」
ガインを手に入れる為に欲し続けた皇帝の座が、今度はキリアンを縛り付けてキリアンの自由を奪ってしまう。何と皮肉な…
「なんて顔をしてるんだ、ミーちゃん。
俺はガインとの幸せな未来を諦めてないし、今の立場を悲観してもないよ?」
テーブルから顔を上げたキリアンがミーシャの頭をナデナデと擦る。
「そう、諦めてないよ!ガインが俺の子を産んで、ミーちゃんがガインをお義母さん、俺の事をお義父さんと呼ぶ日が来るのを!」
「それは、諦めて下さい。パパは身ごもりませんし、二人が婚姻関係になっても、パパとキリお兄ちゃんとしか呼ばないから。」
ミーシャは冷静に受け答え、メモに『女体化妄想、出産妄想、年の差夫婦、変態脳内、』と思い付いた単語を書いていく。
アホな単語を並べとる…そう思いつつ。
ふ、と思い出した事を訊ねてみた。
「あ…キリお兄ちゃん今、城内にはパパとキリお兄ちゃんが出来てるって噂があるの知ってる?」
「以前から、それっぽい噂はあったから、今更って感じだが。
俺が女役で、ガイン含めて数多の男を部屋に連れ込んでるとかな。好き勝手に思ってればいいと、気にもしなかった。」
否定も肯定もせず、噂なんて気にもしなかったと。
意外にぶっとい神経をしてらっしゃる。
「今は、パパがキリお兄ちゃんの旦那様役みたいに言われてるみたい。」
「へー。別に、都合良くも悪くも無いが。噂は噂でしかないと割り切って貰ってガインさえ、困らなければ。」
今の噂がガインの耳に入っても、驚きはするし多少キョドりはするだろうけど、立場を逆に言われているのであれば、「所詮、ただの噂だな」と笑って誤魔化しきれるだろう…ミーシャはそう思う。
「ノーザンさんて、パパとお兄ちゃんの本当の関係に、気付いてるかも知れない。……信頼している部下のノーザンさんに知られてるなんてパパが知ったら…パニックどころじゃないわよ」
失神して倒れた後、書き置き残して1人田舎に隠居するとか、世捨て人になるとかしそうだ。
「ノーザンが?……確かに彼は優秀だし、いつもガインの側に居るし……だが、なぜそうと気付く?
俺はいつも、美しく守られる姫君の様な俺でいたつもりなのに」
「大嘘つきですね、キリお兄ちゃん。新兵相手に暴れたって聞いたわよ。
それに、ノーザンさんはキリお兄ちゃんがパパを見る目を見て二人の関係に気付いたって言ってたわ。
普段からどんな、エロい目でパパを見ていたのかしら。」
あはーと笑い、誤魔化すキリアンに仕方ないワネ、とため息を漏らすミーシャ。
「現場を見られたワケでもなく何か証拠があるでもない。
ノーザンの推測にしか過ぎないのだから、放っておけば良い。今後、何かしらの不都合が起きれば、その時に対処しよう。」
「そうね。」
ミーシャがキリアンの部屋を出る。
自室に向かう際に、人の視線を感じたが、気の所為だろうとそのまま部屋に戻った。
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次の日、ガイン達が向かった国とは違う国へ行っていた者達が城に戻って来た。
此度の各国への訪問は、戦争での報奨などについての話し合いが主なのだが、中々折り合いがつかず難航しているとの事。
「それで、ガイン達も中々戻れないのか……大変な役を押し付けてしまったな。…だが、だからこそ、ガイン以外に適任者など居ない…」
ガイン達が城を出て12日後。
やっとガイン一行が帰国した。
ガイン並びに交渉の席についた者達が玉座の間に向かい、皇帝陛下の前に膝をついて報告をする。
報告の限りでは、こちらの提示した報奨がそのまま通っており、上乗せされた部分は軍用馬の頭数位だろうか。
そんな難航した様にも見えないが……
キリアンは玉座に座ったまま、膝をつくガインをジイッと見る。
久しぶりに見る愛しい豊満ボディの我が妻は、心無しかやつれて見える。
「大義であった。湯に入り汗を流してから、休むが良い。
食事も用意して、それぞれの部屋に運ばせよう。」
ガイン達の後ろに控えていた兵士達も皆、疲れた顔をしている。
一刻も早く帰らねばと寝る間を惜しんで戻ったらしい。
ガインもフラフラと立ち上がり、キリアンに一礼して玉座の間を出て行った。
━━は?人の目があるからイチャつけないのは分かっているけど、皇帝陛下の俺に声も掛けずペコリって何なんだ?はぁ!?━━
玉座からユラリと立ち上がったキリアンは、最後に部屋を出ようとした今回の報奨報告をした交渉人の肩を掴んだ。
「ガインには、私の姿が見えておらんのか?今回の隣国との交渉において、私の代理として行ったガインが私に声も掛けずに無言で退室するとは……どうなっている?」
にっこり微笑むキリアンの目は笑って無い。
「あ、あの…!!ガイン殿はですね!!あちらの国王に、大層気に入られまして…姪御殿の婿に欲しいとずっと口説かれていたのです……」
「……はぁ?……国王はジジイだったよな。その姪御って確か、未亡人のババァじゃないか。
何で、そんなババァの婿になるんだよ。ガインが。」
玉座の間に居る者達が、キリアンが普段口にはしない様な口汚い言葉遣いで話している事にざわつく。
そんな言葉遣いをする事にも驚くが、人目をはばからずにそんな言葉を口にする事から、その怒りや苛立ちが本気であると分かる。
「そ、それでガイン殿はずっと断り続けていたのですよ。
何しろ軍事国家の国王です。ガイン殿を気に入ってしまい、是非身内に迎えたいと、傍から見ている我々が辟易する程の誘惑を…ずっと受けておいででしたよ。」
━━……はぁ?ジジイ…殺す。俺のガインを誘惑したババァも━━
「ガイン隊長は、我が身は魂ごと陛下に捧げた身ですからと、強い意思でずっと跳ね除けておいででした。
ガイン殿は、誠に忠義に篤い陛下の片腕でありますな。」
ペコリと頭を下げ部屋を出て行く姿を見送り、キリアンが玉座に深く腰を下ろす。
冷静さを欠いて思わずババァと言ってしまったが、隣国の国王の姪である未亡人の彼女は、四十路前ではあるが美しい女性であると聞く。
そんな彼女のアプローチを断ったのかと、思わず嬉しくなる。
「やはり、あの計画を実行して良かった。」
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城にある大きな浴場は普段は皇帝や城に常駐する貴族等にしか使用を許されていないが、時折褒美のひとつとして使用人や兵士に振る舞われる事がある。
普段は沸かした湯を桶に入れ、布を浸して身体を拭いている若い兵士達は大はしゃぎだ。
「ガイン隊長、お疲れでした。……その…大丈夫ですか?」
湯槽に浸かってグッタリしているガインの隣に、遅れて浴場に来た交渉人を任された男が並んだ。
「何がだ…?身体の調子はと聞くのなら、一眠りしたら大丈夫だ。最近、眠れなかったからな…。」
共に隣国に出向いた部下の兵士達は城の外の安い宿を借りていたが、ガインや交渉人、文官など今回の訪問にあたり貴族籍を持ち重要な役割を持った者は来賓扱いで城内に部屋をあてがわれた。
ガインの部屋には、国王自らや、姪の未亡人、国王の側近等が毎晩の様に「我が国に来ませんか?」と夜這いスカウトしに来ていた。
さすがは軍事国、即戦力の強者がお好きらしい。
「武神とも呼ばれたガイン隊長ですからね。分かります。が、私が言ってるのはそうでなくて……
ガイン隊長、先程陛下を無視しましたよ?あれ、かなり不敬な行為だと思います…。」
「へ……?」
「私、先程陛下に呼び止められまして…。なぜガイン殿が挨拶も無しに退室したのだと、大変ご立腹で…。大丈夫でしょうか?」
確かに、そりゃ不敬だよな!!
寝不足過ぎて、ボーッとしていたわ!!
ガインは湯から上がり、急いで身体を拭いて真新しいシャツとトラウザーズを身に着ける。
「皇帝陛下の忠実な配下である近衛隊長の俺が、陛下をないがしろにするなど…!無礼きわまりない!」
ガインは濡れた髪のまま玉座の間に向かったが、そこにキリアンはおらず、私室にお戻りになられたと聞いた。
すぐキリアンの私室へと向かったガインだったが、部屋が近付くにつれ足取りが重くなる。
「ま、またいきなり…とか、無いよな…今アレが始まったら、俺は死ぬぞ…。」
とは言え、不敬を働いたのは自分。
不敬を働いた自分が皇帝陛下に命を差し出すのは当然。
当然なのだが……性行為が原因で死ぬのは避けたい……。
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