【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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愛娘の選んだ男。

━━コンコン


静寂な部屋の中に突然、ドアをノックする音が鳴り響く。



「ンがっ!?な、何だ!…うおぉ!イテェ!!」




音に反応して飛び起きたガインの身体がビクッと魚の様に跳ね、一瞬だけ足が攣り掛けた。

引き攣る様な一瞬の痛みに焦りながら、ガインがベッドからガバッと身体を起こす。



既に日が落ちて暗くなった自室のベッドで、いつの間にか一人で寝ていたガインはベッドサイドの小さなランプの灯りを頼りに、慌てるように自分の姿を確認した。



キリアンによって全裸にされていたガインは、ご丁寧に洗いたてのシャツに袖を通されており、トラウザーズも新しい物を履かされていた。

汚れたシーツも部屋から無くなっている。



「キリアンのしわざか……変な所に気を回しやがって。」



そう呟いてはみたものの、ネチャネチャドロドロな全裸のままで放置されていたならば、来訪者を招き入れる事は出来なかった。



ガインはベッドから立ち上がると、今まで部屋で寛いでいたかの様に着崩した羽織っただけのシャツと前を緩めたトラウザーズ姿で、『どうせまた、キリアンなんだろ』と、ドア向こうの人物が誰かを確認せぬままドアを開いた。



「誰だが知らんが、こんな時間に何の用で……

…ノーザン…。」



ドアを開いたガインは、前に立つノーザンの姿を目にして名前を口にした途端、その後の言葉を途切れさせてしまった。

名を呼ばれたノーザンが一度頭を下げた。



「先ほど陛下が兵舎の方までお見えになりまして。

隊長が大変お疲れのようで夕食に来れないだろうから、部屋まで食事を運んで欲しいと私に。」



━━誰のせいで、飯も食わずに寝落ちする程疲れてると思ってんだよ!

それをわざわざ兵舎に居るノーザンに伝えに行かんでも!━━



そんな言葉をグッと飲み込んで、ガインは食事の乗ったトレイを手にして廊下に立ったままのノーザンに、部屋に入る様に促した。



「わざわざ悪いな。テーブルに置いてくれ。」




食事をガインの部屋に運ばせるのが侍女や使用人ではなく、わざわざノーザンにさせるあたりにキリアンの意図を感じる。

それを仕組んだ上で、衣服を身に着けさせたのかと。




ノーザンは薄暗い部屋を明るくする為に大きめのランプに火を点け、食事と共にテーブルに置いた。



二人無言のまま、ガインの部屋に食事を並べる音だけがカチャカチャと鳴る。



近衛隊長のガインと副隊長を任されているノーザンは、互いを信頼し尊重しあう事の出来る大切な相手だと思っている。



特にガインは気に入った人物には身分や立場を越えて接する癖がついているために、日頃から何かにつけ自らノーザンに話し掛けていた。



そんな二人の間に沈黙が流れる事は珍しい。



ノーザンにどう接したら良いか分からず口数少なく会話が出来なくなったガインの態度は、その胸中を分かり易い程にノーザンに物語っていた。




━━陛下が私とミーシャ嬢の事を話したんだな━━




食事の皿をすべてテーブルに並べたノーザンは一礼し、ガインの前の床に片膝をつき、真剣な面持ちで話しかけてきた。




「……ガイン隊長、私はミーシャ嬢に惹かれています。

貴族の令嬢であるミーシャ嬢を平民の私が妻に迎える事が出来ないのは分かっております。

ですから今すぐ婚姻をとは言えません。

ですが私が貴族位を叙爵された暁には、ミーシャ嬢を妻に迎えたいのです。

どうか、ミーシャ嬢に求婚する事をお許し頂けませんでしょうか。」





「みっ!!みっ…!みィィ!

ミーシャは、色んな貴族のボンボンに求婚されてるって、本当なのか!?

ミーシャ、そんなモテてんのか!?」




混乱して焦ったガインが、死にかけのセミみたいになりながら、やっとやっと声を出す。

だが混乱し過ぎて会話の流れを断ち切り、ノーザンに変な質問をしてしまった。


求婚する相手の父親に、相当の覚悟を持って愛娘にプロポーズをする許しを得に来たであろう若者に対して、何と場違いな質問を投げ掛けてしまったのか。

しかも、この言い回しでは、ミーシャがモテるのが不思議だと貶して言っているみたいではないか。



自分で口に出した言葉に、ガインがズーンと落ち込んでしまう。



━━ああああ!俺は父親として人としても、何てヒドイ事をぉ!

『人の話しを聞いてんのかよオッサン』とか『人の惚れた女を馬鹿にすんな、しかも自分の娘だろ?』とか

思われてるかも知れん!!━━





冷静な面持ちを崩さないノーザンの心理を深読みし過ぎて一人パニックになったガインは、食事の並んだテーブルに、額をガン!とぶつける勢いで頭を抱えて突っ伏した。




「すまん!違う!俺は何も知らなかったんだ!

今日初めて、ミーシャに言い寄る男が多いとの話を聞いて…

ミーシャはそんな事、言ってくれなかったし!

ミーシャを馬鹿にしている訳でも、ノーザンを責めてる訳でも無いんだ!

ただ…俺のせいで、恋する事も諦めていたのではないかと!」





過保護なガインはミーシャに言い寄って来る者が現れたとして、その者に良い顔を出来なかったろう。

それを理解しているミーシャがガインに不快な思いをさせない為に、恋愛をしないよう自身の心を抑え込み、恋する事を諦めていた。

そんな事をさせていたのではないかと、ガインは自身を責めた。










2時間程前━━


『ガンガンいこうぜ』状態のキリアンにガインが攻められていたガインの私室の前を忍び足で通り抜けたミーシャとノーザンの二人は、城内デートを始めた。



その際、ノーザンは訊ねずには居られなかった。



「私の今の地位は平民と同じです。

今すぐにミーシャ嬢を妻に迎える事が出来ません。

私の準備が整う前に…貴女を妻に迎えたい貴族の方々の中に、隊長の秘密を共有出来るような者が現れたら…。

貴女は私を選んだ事を後悔しませんか?」





ノーザンの気持ちは、もうミーシャに向けて固まった。

愛しいにはまだ距離が在るが、もう既に『ミーシャを妻にする』そんなまばゆい未来を手放す事に恐怖を感じる。

グダグダと女々しいと自覚しつつも何度もミーシャの考えを尋ねてしまうのは、まだ不確かな将来を何とか確信に変えたい気持ちからだ。



誰かに奪われる未来など、無くしたい。

そんな思いから、尋ねずにはいられなかった。





「私が貴族の方々に求婚されていたのは……ただ

私が彼らにとって都合の良い女だったからですよ。」



並んで城内を歩いた二人は、ノーザンが令嬢達に詰め寄られていた兵舎脇にある屋外の休憩所に着いた。



二人は芝生に腰を下ろした。



ミーシャが芝生に腰を下ろす際にノーザンは布を取り出して敷こうとしたが、ミーシャは首を振りスカートをバフッと膨らませてそのまま芝生に腰を下ろした。

同じく腰を下ろした隣のノーザンに、ミーシャが指折り数えながら言った。



「ミーシャという娘は、伯爵である近衛隊長ガインの娘であり、陛下の覚えも良い。

何なら陛下の寵愛を受けていたかも知れない。

妻に出来れば箔が付くかも知れない。

貴族の娘の割には地味で装飾品にも興味無さそう。

無口で大人しそう。

金を使わないで済むし、黙って夫の言いなりになりそう。

他に女を作っても文句も言わず、邸に閉じ込めて侍女の様に扱える。

まぁ、都合良い部分を簡単に言うとそんな感じかしら?」





他人事の様に淡々と語るミーシャに反して、ノーザンがフルフルと震え出した。





「なっ…なっ…!何て無礼な考えを!!

女性蔑視も甚だしい…!貴女をそんな風に扱うなんて!」




「いや、いいんですよ。

そんな風に見せてるのは事実だし。

そんな風に見えている私の事なんて警戒してないから、本音を隠し切れない阿呆ばかり寄って来るし。

建前や偽りの影に見え隠れする浅ましい本音を見るのが楽しくて。

私は好きこのんで、こんな私でいるんです。

でも娘がそんな目で見られているなんてパパが知れば…

悲しむでしょう?」



「ミーシャ嬢………。」



みつあみされた黒髪が風に流され、困り顔で苦笑するミーシャが眼鏡の向こうで擽ったそうに目を細めた。

長い黒髪がミーシャの薄紅色の唇に触れるのを見たノーザンが頬を染めて目を逸した。





「ノーザン様…申し訳ありません。訂正いたしますわ。



私がそんな風に見られているとパパが知れば、悲しみ通り越して怒り心頭に発して怒鳴り込みに行くでしょう?

きっと暴れ回るでしょう?怪我人が出るでしょう?

パパの二つ名が武神や軍神から破壊神にまでなってしまいます。

だからパパには言えませんよね。

私、面倒事は嫌いなんで。」





「いや…あの……

私が言いたいのは……ミーシャ嬢の人と成りを理解し隊長の事も受け入れた上で、貴女を本気で想う…

そんな貴族の方が現れたら…貴女は私を選んだ事を後悔するのではないかと。

そう、貴女にとって私より都合の良い相手が現れたら…。」





━━そうなったら私は捨てられるのですか?

ああ…私は何と情けない事を幾度となく聞いているのだろうか。

まだ何の関係も築いてない間柄なのにミーシャ嬢に対して疑心の念を抱くなど…

何と嫉妬深く狭量な男なんだ私は……━━





「ノーザン様は臆病なのですわね。意外でしたわ。

ですが、その臆病さは私を手放したくないと思って下さってのお言葉だと思って良いのですね?

私、図に乗りますわよ?



私、ノーザン様の事を好きなんです。

だから私がノーザン様を手放したくないのです。





何度言わせんの。

もう私の気持ちをちゃんと分かってよ。」





ミーシャは眼鏡を外し赤くなった顔で唇を尖らせ、ノーザンに対して不満を口にした。

表情をあまり出さないミーシャが顔を赤くして口を尖らせる。

眼鏡を外した素顔で見せたそんな表情は、ノーザンの心を完全に射抜いた。





━━か、可愛い!!物凄く可愛い!!━━





ノーザンの心臓が早鐘を打つ様に激しく鼓動を刻む。

初めて知ったミーシャの新たな一面をもっと見ていたい。





「なぜ眼鏡を外したんです…?

まさか、私に眼鏡を外した素顔を見せてくれる為にですか…?」





「違います!

私が恥ずかしくて、ノーザン様の顔を見てらんないからです!!

眼鏡を外せば、ノーザン様の表情が見えないから…」





外した眼鏡を持つミーシャの右手がノーザンに包み込む様に掴まれる。

ノーザンはもう片方の手でミーシャの手から眼鏡を奪い、ミーシャに掛けさせた。



「ミーシャ嬢、狡いですよ。

私だって恥ずかしくて、こんなにも顔が赤い。

こんなにも情けない私の顔を、良く見てください。

私も貴女を…ずっと見詰めていますから。



ミーシャ嬢、貴女が好きです。」










「隊長、ミーシャ嬢は隊長の事を本当に大切に思っています。

だからと言って、隊長に気を遣って自身を抑え込む様な事をする方ではない。

そんな事をすれば、今の隊長の様に苦しませたり悩ませたりすると分かってらっしゃるからです。

だから隊長のそんな姿を見せたら、ミーシャ嬢が引け目を感じる様になる。

隊長は父親として、ミーシャ嬢を信じてあげて下さい。」




━━なんで父親の俺よりも、ミーシャを良く理解しているっポイんだよノーザンは!

……だが、そうか……ミーシャももう立派なレディだからな━━





自分に遠慮して恋心を抑えさせていたのでは?とミーシャが自分に対して負い目を感じたりせず素直に恋をするようになって欲しい反面

そんじょそこらの馬の骨だか何だか分からん奴らに、可愛いミーシャは渡せん!と強く思ってしまう。





そう考えたら、ガインが信頼し人と成りを良く知るノーザンにならば、ミーシャをゆだねても良いかも知れない。



「ノーザンは…ミーシャを気に入っているんだな。」



「気に入っているなんて、そんなおこがましい言い方は出来ません。

…私はミーシャ嬢の事が好きです…とても好きなんです。」




床に片膝をついてガインを見上げるノーザンの顔は心満たされた輝く笑顔だった。



その表情が嘘偽りではない事を、自分も良く見るから分かる。

愛する人と心が通じた喜びの表情、心が幸せに満ちた表情。

それは、キリアンがガインだけに見せる顔と同じだ。




「ノーザン、お前にならミーシャを任せられる…。

ミーシャを頼んだぞ。」




ガインは口元に笑みを浮かべ、目を伏せてノーザンの肩に手を置いた。

大事な愛娘を、信頼する大事な部下に嫁がせる。

このような表情を見せるノーザンならば、ミーシャを必ず幸せにしてくれるに違いない。




「はい、全身全霊をもって、必ずミーシャ嬢を幸せに致します。」




深く頭を下げたノーザンの目尻に、喜びの涙がうっすらと浮かんでいた。












「ノーザン様は、チョロうございました。」



ガインの自室の隣にあるキリアン皇帝の私室のテーブルにて、ミーシャが腕を組んでコクコクと頷いていた。





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